【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
当事業年度における当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の概要並びに経営者の視点による当社の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は、以下のとおりであります。 なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものです。
(1) 経営成績の状況当期におけるわが国経済は、新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行し、経済活動の正常化が進み、景気の回復が見られました。一方で、ウクライナ情勢の長期化や、円安進行による物価上昇の加速は国内の個人消費に影響を与えており、先行きは依然として不透明な状態が続いています。このような状況下、国内では従来型の振り込め詐欺に加えて、パソコンのウイルス感染を装った偽の警告画面で不安を煽り、虚偽のサポート窓口へ連絡させて金銭を盗む「サポート詐欺」や、国際電話番号を使用した特殊詐欺の急増等、手口は常に変化しており、対策が急務となっています。スマートフォンや携帯電話のショートメッセージサービス(SMS)を悪用しクレジットカードや金融機関の口座情報を盗み取るフィッシング詐欺、いわゆる「スミッシング」の被害も増加しており、国内金融機関では、ATMやネットバンキングの取引限度額を下げる動きが広がりました。また、犯行前にターゲットの資産情報を聞き出す「アポ電」や、SNSで特殊詐欺の実行役を募る「闇バイト」、海外に拠点を置く大型特殊詐欺グループの存在、福島第一原発でのALPS処理水の海洋放出開始後の海外から国内へ着信する迷惑電話の急増等は、社会問題として大きな注目を集めました。当社は、こうした多数かつ多額の被害をもたらす特殊詐欺や社会問題等の抑止に効果的な迷惑情報フィルタ事業に注力しています。主力である「モバイル向けフィルタサービス」では、2023年2月からKDDI株式会社及び沖縄セルラー電話株式会社の提供するUQ mobileのオプションサービス「安心セキュリティセット」に、当社の迷惑情報データベースを提供しており、対象ユーザーを拡大いたしました。オフィス電話に必要な便利機能を搭載したビジネスフォン向け製品「トビラフォンBiz」は、東日本電信電話株式会社(NTT東日本)、西日本電信電話株式会社(NTT西日本)のセレクトアイテムとして順調に受注件数を伸ばすとともに、お客様の電話業務の効率化や品質向上を目的とした新機能の開発に努め、IVR(自動音声応答)や、独自開発した医療向け音声認識エンジンによるテキスト化等の新機能を追加し、よりビジネスに便利な機能を提供いたしました。中でも、ALPS処理水の海洋放出に伴う迷惑電話の急増に対しては、海外からの迷惑電話を国別に一括でブロックする新機能を緊急提供し、当社事業の社会的価値が注目されることとなりました。従来から注力しているクラウド型ビジネスフォンサービス「トビラフォン Cloud」は、回線敷設や機器を設置することなく、内線・外線・転送・グループ着信・IVR(自動音声応答)等の機能が利用できる利便性の高いサービスです。当期においては、営業活動を促進する機能として、CRM(顧客管理)サービス「HubSpot」や営業DXサービス「Sansan」との連携が可能となりました。本サービスはユーザーから高く評価されており、製品利用者の評価(レビュー)をもとに顧客満足度の高い製品を選定する「ITreview Grid Award 2023 Fall」のクラウドPBX部門、IVR(自動音声応答)部門、IP電話アプリ部門の3部門で、最高位の「Leader」を受賞し、7期連続での「Leader」受賞となりました。2023年3月には、本サービスの更なる品質向上を目指し、クラウドPBX等のユニファイド通信事業者の団体である、一般社団法人日本ユニファイド通信事業者協会(JUSA)に加入いたしました。また、JUSA・総務省・警察庁が連携して特殊詐欺等に利用された電話番号を利用停止する取り組み「番号停止スキーム」にも参加し、2023年8月より運用を開始いたしました。番号停止スキーム参加により、特殊詐欺の撲滅に向けた活動を一層推進いたします。迷惑広告コンテンツをブロックするアプリ「280blocker」は、認知拡大に努めるとともに、今までサービス提供を行っていたiOS版だけでなく、Android版の提供を開始いたしました。また、2023年3月からは株式会社オプテージの携帯電話サービス「mineo(マイネオ)」の新機能として提供される「広告フリー」で、280blockerのデータベースが活用されることとなりました。
これらの他、当社では、メディアを通じ特殊詐欺・フィッシング詐欺の対策について解説することや、研修会を開催し、被害防止のための啓発活動を行いました。また、NTT東日本と共同で海外からの迷惑電話によって著しい影響を受けている自治体を対象に「トビラフォンBiz」の期間限定での無償提供を実施いたしました。このような各種施策により、月間利用者数(※)の増加を図り、1,500万人を超える多くのユーザーにご利用いただいております。経営効率向上の戦略としては、2023年9月に、当社その他の事業のうち、ホームページ制作運営支援事業「HP4U」を株式会社アイデアプラスに譲渡し、主力事業である迷惑情報フィルタ事業に経営資源を集中することといたしました。その他、2023年3月に、経済産業省が実施する「健康経営優良法人認定制度」において、優良な健康経営を実施している法人として「健康経営優良法人2023(中小規模法人部門)」に認定されました。また、2023年5月には業務効率化や顧客へのDX支援などの活動が評価され、経済産業省が選定する「DX認定事業者」に認定されました。今後も、従業員が心身ともに健康で働ける職場環境を目指して、健康経営に取り組むと共に、DX推進を全社的に進めてまいります。なお、当社は2023年10月20日に、当社株式の上場市場を東京証券取引所プライム市場からスタンダード市場へ移行いたしました。当社は、東京証券取引所の市場区分見直しに関して、2021年12月10日に「新市場区分の上場維持基準の適合に向けた計画書」を提出し、2022年4月4日にプライム市場へ移行し、その後もプライム市場の上場維持基準への適合に向け鋭意取り組んでまいりましたが、2023年4月1日施行の株式会社東京証券取引所の規則改正に伴い、上場維持基準への適合状況や当該基準達成の不確実性等を総合的に評価した結果、限られた経営資源を当社の事業成長に投資に集中させることが、企業価値の向上に資すると判断し、スタンダード市場への移行を選択いたしました。以上の結果、当事業年度における売上高は2,061,211千円(前期比22.6%増)、営業利益は682,863千円(前期比26.3%増)、経常利益は679,248千円(前期比27.6%増)、当期純利益は517,733千円(前期比60.8%増)となりました。
※ 月間利用者数は、当社製品・サービスを利用しているユーザーのうち、電話番号リストの自動更新またはアプリの起動等により、当月に1回以上、当社サーバへアクセスが行われたユーザー数です。なお、1ユーザーが複数の携帯端末を所有しそれぞれで当社サービスの利用契約を行い、各端末等から当社サーバへのアクセスがなされた場合には、複数ユーザーとして重複カウントしております。 また、月間利用者数は、当社が事業を通じて特殊詐欺被害の撲滅に貢献するうえで重要なKPIの1つとしておりますが、主要な取引先である通信キャリアとの契約条件は様々であり、必ずしも月間利用者数の増減が直接的に収益に影響を与えるものではありません。
セグメントの業績を示すと、次のとおりであります。
(迷惑情報フィルタ事業)迷惑情報フィルタ事業におきましては、主力サービスであるモバイル向けフィルタサービス、固定電話向けフィルタサービス及び「トビラフォン Cloud」を含むビジネスフォン向けフィルタサービスにおいて、引き続きサービス基盤の強化・拡大に注力してまいりました。その結果、当事業年度における迷惑情報フィルタ事業の売上高は2,014,641千円(前期比24.3%増)となり、セグメント利益は1,175,544千円(前期比26.9%増)となりました。
(その他)ホームページの制作運営支援事業や受託開発事業等を「その他」に含めております。これらの事業については、積極的には展開しない方針であり、ホームページ制作運営支援事業については2023年9月30日付で事業譲渡いたしました。その結果、当事業年度におけるその他の売上高は46,570千円(前期比23.2%減)となり、セグメント利益は29,296千円(前期比27.3%減)となりました。
なお、全社営業利益は、各セグメント利益の合計から、報告セグメントに配賦していない全社費用を差し引いた数値となっております。全社費用は、主に報告セグメントに帰属しない販売費及び一般管理費であり、企業規模の拡大に伴う管理コストの増加等により、521,976千円(前期比22.6%増)となりました。
(2) 財政状態の状況(資産)当事業年度末における総資産は3,646,902千円となり、前事業年度末に比べ979,724千円増加いたしました。これは主に、現金及び預金が968,842千円増加したこと、売掛金が19,845千円増加したこと、工具、器具及び備品が38,714千円増加したこと、のれんが65,904千円減少したこと、長期前払費用が11,799千円増加したこと及び繰延税金資産が7,339千円増加したこと等によるものであります。
(負債)当事業年度末における負債合計は1,510,064千円となり、前事業年度末に比べ553,679千円増加いたしました。これは主に、契約負債が485,483千円増加したこと、未払金が33,553千円増加したこと、未払法人税等が49,974千円増加したこと、未払消費税等が32,268千円増加したこと及び長期借入金(1年以内返済予定含む)が50,040千円減少したこと等によるものであります。
(純資産)当事業年度末における純資産は2,136,837千円となり、前事業年度末に比べ426,044千円増加いたしました。これは主に、当期純利益を517,733千円計上したこと及び自己株式を43,920千円処分したことに対し、利益剰余金が配当金の支払いにより111,570千円、譲渡制限付株式の処理により24,920千円減少したこと等によるものであります。なお、自己資本比率は58.6%(前事業年度末は64.1%)となりました。
(3) キャッシュ・フローの状況当事業年度における現金及び現金同等物(以下、「資金」という。)は、前事業年度末に比べて968,842千円増加し、2,404,607千円となりました。各キャッシュ・フローの主な状況は以下のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)営業活動の結果増加した資金は1,220,958千円(前年同期は641,680千円の増加)となりました。これは主に、法人税等の支払額が189,987千円、事業譲渡益の計上が70,000千円あったものの、税引前当期純利益を749,248千円、減価償却費を121,984千円、のれん償却額を65,904千円計上したこと及び契約負債の増加が485,483千円、未払消費税等の増加が32,268千円あったこと等によるものであります。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)投資活動の結果減少した資金は91,470千円(前年同期は188,738千円の減少)となりました。これは主に、事業譲渡による収入70,000千円、有形固定資産の取得による支出80,705千円、無形固定資産の取得による支出67,317千円、敷金及び保証金の差入による支出11,100千円等によるものであります。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)財務活動の結果減少した資金は160,645千円(前年同期は162,910千円の減少)となりました。これは主に、長期借入金の返済50,040千円及び配当金の支払111,370千円によるものであります。
(4) 生産、受注及び販売の実績
① 生産実績当社で行う事業は、提供するサービスの性格上、生産実績の記載に馴染まないため、記載を省略しております。
② 受注実績当社で行う事業は、提供するサービスの性格上、受注実績の記載に馴染まないため、記載を省略しております。
③ 販売実績当事業年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
セグメントの名称
販売高(千円)
前期比(%)
迷惑情報フィルタ事業
2,014,641
124.3
その他
46,570
76.8
合計
2,061,211
122.6
(注) 1.主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりであります。
相手先
前事業年度(自 2021年11月1日
至 2022年10月31日)
当事業年度(自 2022年11月1日
至 2023年10月31日)
販売高(千円)
割合(%)
販売高(千円)
割合(%)
KDDI株式会社
550,813
32.8
584,322
28.3
ソフトバンク株式会社
428,668
25.5
484,718
23.5
株式会社NTTドコモ
278,069
16.5
415,405
20.2
(5) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
① 重要な会計方針及び見積り当社の財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されております。この財務諸表の作成にあたりまして、経営者による会計方針の選択・適用、資産・負債及び収益・費用の報告金額及び開示に影響を与える見積りを必要としております。経営者はこれらの見積りについて、過去の実績や現状等を勘案し合理的に見積り、計上しておりますが、実際の結果は、見積り特有の不確実性があるため、これらの見積りと異なる場合があります。財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び仮定のうち、重要なものは「第5 経理の状況 1 財務諸表等 (1)財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載しております。
② 資本の財源及び資金の流動性についての分析当社の運転資金需要のうち主なものは、人件費、通信費等の費用であります。投資を目的とした資金需要はサーバ等インフラ設備、機器や本社移転に伴う敷金の差入等によるものであります。運転資金は自己資金を基本としており、投資資金は自己資金及び金融機関からの長期借入を基本としております。なお、当事業年度末における借入金残高は245,750千円となっております。また、当事業年度末の現金及び現金同等物は2,404,607千円であり、流動性を確保しております。
③ 経営者の問題認識と今後の方針について「第2 事業の状況 1(経営方針、経営環境及び対処すべき課題等)」をご参照ください。
④ 経営成績に重要な影響を与える要因について「第2 事業の状況 3(事業等のリスク)」をご参照ください。
⑤ 経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容当事業年度の経営成績については、「(1) 経営成績の状況」に記載の通りであり、売上高は2,061,211千円(前期比22.6%増)、営業利益は682,863千円(前期比26.3%増)、経常利益は679,248千円(前期比27.6%増)、当期純利益は517,733千円(前期比60.8%増)となりました。当社が対処すべきと認識している課題は、「第2 事業の状況 1(経営方針、経営環境及び対処すべき課題等)」に記載のとおりです。その中でも、当社の迷惑情報フィルタ事業は、通信キャリアのオプション契約に組み込まれるサービス運営を中心とするビジネスモデルに依存している状況にあることから、新規・周辺ビジネスの立ち上げが課題であると認識しております。そのため、中長期的な経営戦略においては、複数のビジネスモデルを持ち、より頑強な組織へと成長していくことが今後の発展において重要であると考えております。迷惑情報フィルタ事業で培ったデータベースのノウハウを活用し、新たな事業領域への拡張のみならず、新しいビジネスモデルの展開も積極的に検討してまいります。
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