【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
(1) 経営成績等の状況の概要 ①当期の経営成績の状況当連結会計年度における当社グループの経営成績の状況の概要は次のとおりであります。当連結会計年度におけるわが国経済は、コロナ禍を抜けて第3次産業や個人消費を中心に経済活動正常化に向けた動きがみられたものの、資源・エネルギー価格の高騰に追い打ちをかけるウクライナ情勢の長期化、アメリカの政策金利の利上げ等の影響を受けた円安の進行など、依然として先行き不透明な状況が続いております。海外においては、当社グループの事業領域である欧州や東南アジアでは新型コロナウイルス感染症の鎮静化に伴う活動規制の緩和や各国における経済の持ち直しが続く一方で、世界情勢の不透明さを背景としたインフレーションが続いております。このような状況の中、当社グループは、引き続き国内養殖量の拡大および海外卸売事業の成長に向けて取り組んでまいりました。国内養殖量の拡大に関しましては、ボトルネックである中間養殖場不足の解消に向けて青森県今別町に循環型中間養殖場の増設を進めているほか、その後に続く養殖場建設も順次計画を進めております。また、給餌用のバージ船を取得し、遠隔での自動給餌を可能とする体制を構築いたしました。これにより給餌効率の向上が期待される他、労働環境の改善や多様な人材の参画にも繋がることを企図しております。成長を続けるアジアの日本食需要に対応するため、海外卸売事業としてはシンガポール、マレーシア、台湾に続く4社目の現地法人をタイに設立いたしました。また、シンガポール子会社においては、あらたな需要に応えるべく、サーモン加工工場の新設を進めております。その他の各現地法人においても、配送エリアの拡大、人財投資を先行的に進めております。以上の結果、当連結会計年度の売上高は前連結会計年度に比べ4,838百万円増の28,939百万円(前期比120.1%)、営業利益は前連結会計年度に比べ225百万円増の3,187百万円(前期比107.6%)、経常利益は前連結会計年度に比べ203百万円増の3,544百万円(前期比106.1%)、親会社株主に帰属する当期純利益は前連結会計年度に比べ140百万円増の2,389百万円(前期比106.2%)となりました。各セグメントの事業概況は次のとおりであります。(単位:百万円/%)
売上高
前期増減
前期比
セグメント利益
前期増減
前期比
養殖事業
5,680
669
113.4
813
△241
77.1
国内加工事業
8,715
12
100.1
1,462
△172
89.5
海外加工事業
12,623
3,274
135.0
1,085
320
141.9
海外卸売事業
7,068
2,079
141.7
518
120
130.2
調整額※
△5,148
△1,197
130.3
△692
198
77.7
合計
28,939
4,838
120.1
3,187
225
107.6
※調整額はセグメント間取引及び全社費用等であります。
(養殖事業)国内での養殖事業においては、2022年8月9日に青森県深浦町周辺で発生した大雨土砂災害により、当社の連結子会社である日本サーモンファーム株式会社の深浦大峰中間養殖場において飼育する中間魚、養殖設備等に被害がありましたが、バージ船等を利用した給餌安定化等が奏功し、残存した中間魚の生育状況がよく、結果として、昨年並みの1,606トンの水揚げを確保いたしました。また、海外養殖事業においては、2022年11月12日にデンマーク子会社であるMusholm A/Sの養殖生簀に漁船が衝突する事故が発生し、飼育する養殖魚、養殖設備等に被害があったことから販売数量は減少しました。一方で、高騰したサーモン相場の影響を受け、販売価格は上昇しました。国内、海外養殖ともに、インフレーションにより餌代や燃料費の高騰が続いている状況にあり、原価率が上昇傾向となっております。上記の結果として、売上高は前連結会計年度と比べ669百万円増の5,680百万円(前期比113.4%)、セグメント利益は241百万円減の813百万円(前期比77.1%)となりました。なお、デンマーク子会社であるMusholm A/Sは国際財務報告基準(IFRS)を採用しており、養殖事業の損益には、IAS第41号「農業」に従った売却コスト控除後の公正価値により評価した結果(売上原価△72百万円)が含まれております。(単位:百万円)
売上高
5,680
営業費用
材料費、人件費、販管費等
4,940
小計(公正価値評価を除いたセグメント損益)
740
営業費用
公正価値評価による影響額
72
合計(セグメント損益)
813
(国内加工事業)上期においては、魚卵製品の原料価格上昇に伴う販売価格転嫁後においても引き続き魚卵製品に対する需要は堅調であり、年末商戦を含め好調に推移しました。しかし、2022年9~12月の北海道の秋鮭が豊漁であったことを契機に魚卵製品の市中供給量が増加し、下期途中から数量は減少傾向、価格帯の低い筋子を中心に販売価格も低下傾向となりました。上記の結果として、売上高は前連結会計年度と比べ12百万円増の8,715百万円(前期比100.1%)、セグメント利益は172百万円減の1,462百万円(前期比89.5%)となりました。
(海外加工事業)東南アジア諸国での新型コロナウイルス感染症に関する行動制限が緩和され外注加工委託先の生産能力が回復したことや、サーモンの市場供給量の不足等を背景に、海外加工事業では加工量、販売量ともに堅調に推移しています。また、サーモン相場の高騰によりサーモン仕入価格は全般的には上昇傾向でしたが、比較的低価格で仕入れられた商品の販売が進んだこと、販売価格への転嫁が順調に行えたことにより利益を確保いたしました。上記の結果として、売上高は前連結会計年度と比べ3,274百万円増の12,623百万円(前期比135.0%)、セグメント利益は320百万円増の1,085百万円(前期比141.9%)となりました。
(海外卸売事業)東南アジア諸国での新型コロナウイルス感染症に関する行動制限・外食制限の緩和・撤廃などにより、主に、日本食チェーン店向けの商品販売が急回復し、新型コロナウイルス感染症流行時に成長したスーパー等における持ち帰り向け商品の販売の減少分を上回った結果、海外卸売事業全体としては、堅調に推移いたしました。上記の結果として、売上高は前連結会計年度と比べ2,079百万円増の7,068百万円(前期比141.7%)、セグメント利益は120百万円増の518百万円(前期比130.2%)となりました。
②当期の財政状態の状況当社グループの財政状態は次のとおりであります。(資産)当連結会計年度末における流動資産は22,581百万円となり、前連結会計年度末に比べ4,124百万円増加しました。これは主に養殖事業や海外加工事業の事業規模拡大や原料相場上昇による在庫単価自体の上昇、国内加工事業で昨秋の秋鮭豊漁以降、下期後半に販売数量が減少したことにより棚卸資産が3,820百万円増加したこと等によるものであります。固定資産は7,529百万円となり、前連結会計年度末に比べ1,653百万円増加しました。これは主に養殖用施設への投資等で建設仮勘定が369百万円増加したこと、バージ船(※)等の取得により、有形固定資産におけるその他が336百万円増加したこと等によるものであります。この結果、総資産は30,111百万円となり、前連結会計年度末に比べ5,777百万円増加しました。(※)バージ船とは、船底が平らになっている船舶のことであり、当社の連結子会社である日本サーモンファーム株式会社ではこのバージ船タンクに養殖用の餌を保管し、船外から自動で給餌できるシステムを構築しております。(負債)当連結会計年度末における流動負債は15,439百万円となり、前連結会計年度末に比べ3,146百万円増加しました。これは主に原料仕入などの運転資金として短期借入金が3,300百万円増加したこと等によるものであります。固定負債は4,703百万円となり、前連結会計年度末に比べ110百万円増加しました。この結果、負債合計は20,143百万円となり、前連結会計年度末に比べ3,257百万円増加しました。(純資産)当連結会計年度末における純資産合計は9,968百万円となり、前連結会計年度末に比べ2,520百万円増加しました。これは主に親会社株主に帰属する当期純利益を2,389百万円計上したこと等により利益剰余金が2,332百万円増加したこと等によるものであります。
③当期のキャッシュ・フローの状況営業活動によるキャッシュ・フローは、1,141百万円の支出(前期比277百万円の支出増加)となりました。税金等調整前当期純利益が3,424百万円となった一方で、当社主要事業がそれぞれ事業拡大傾向であることに加え、円安の進行や、インフレーションの継続を受けて、原材料調達コストや、輸送コスト及び養殖事業の餌代の高騰等を背景に棚卸資産残高の増加が3,807百万円生じたこと等が主な要因となり、マイナスの営業キャッシュ・フローとなりました。投資活動によるキャッシュ・フローは、2,126百万円の支出(前期比493百万円の支出増加)となりました。国内養殖事業拡大のためのバージ船購入取得費用や、養殖場にかかる建設仮勘定の増加にかかる投資など有形固定資産の取得による支出が2,125百万円(前期比459百万円の支出増加)となったためです。財務活動によるキャッシュ・フローは、3,301百万円の収入(前期比844百万円の収入増加)となりました。過年度設備投資目的での借入資金であった長期借入金の返済が847百万円あったものの、原材料仕入等の運転資金目的での短期借入金の純増減額3,291百万円があったためです。以上に加え、現金及び現金同等物に係る換算差額65百万円を調整した結果、現金及び現金同等物の当連結会計年度末残高は、前連結会計年度末に比べ99百万円増加し、2,061百万円となりました。
④生産、受注及び販売の実績
a 生産実績当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
セグメントの名称
生産高(百万円)
前期比(%)
養殖事業
5,680
113.4
国内加工事業
8,715
100.1
海外加工事業
1,946
355.5
海外卸売事業
–
–
合計
16,343
114.6
(注) 1.セグメント間取引については、相殺消去しておりません。2.金額は、販売価格によっております。3.海外卸売事業については、自社生産設備を保有していないため、記載を省略しております。
b 受注実績当社グループは、需要予測に基づく見込生産を行っているため、該当事項はありません。
c 販売実績当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
セグメントの名称
販売高(百万円)
前期比(%)
養殖事業
4,166
112.4
国内加工事業
8,122
96.7
海外加工事業
9,582
136.8
海外卸売事業
7,068
141.7
合計
28,939
120.1
(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は、次のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は提出日現在において判断したものであります。
① 財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容a. 経営成績の状況に関する分析
世界経済はコロナ禍を抜けたものの、長引くロシア・ウクライナ問題、欧米の利上げや物価高が消費に与える影響など、外部環境が依然として不安定な中、当社グループは増収増益を果たすことができました。業績を牽引したのは、海外加工事業と海外卸売事業です。 海外加工事業が好調だった最大の要因は、販売数量の増加です。東南アジア諸国での新型コロナウイルス感染症に関する行動制限が緩和され外注加工委託先の生産能力が回復したことや、サーモンの市場供給量の不足等を背景に、海外加工事業では加工量、販売量ともに堅調に推移しました。一方で価格面に関しては、サーモン相場は高騰しましたが、当社は比較的低価格での仕入を行うことができたことや販売価格への転嫁により利益を確保いたしました。ただし、海外加工事業の売上の7割以上を占める国内向け販売においては、顧客である回転寿司業界や小売業界において水産品価格の上昇を受けて消費者向けの値上げが行われたものの、消費者の価格弾力性の高さなどから十分な価格転嫁が難しい状況が見られました。このため、今後のサーモン相場の推移と十分な価格転嫁の可否については慎重な判断が必要と考えております。 海外卸売事業においては、東南アジア諸国での新型コロナウイルス感染症に関する行動制限・外食制限の緩和・撤廃などにより外食産業における消費が活発になり、コロナ前から伸びを継続していた日本食外食産業においては商品販売が拡大しました。また、海外卸売事業においては日本の食材を日本から輸入して東南アジアで販売しているため、円安による為替メリットが生じて利益率が改善しました。
b. 財政状態に関する分析棚卸資産の増加と有形固定資産の増加を主要因として総資産額が増加しています。負債側では借入金の増加を主要因として負債が増加しています。・棚卸資産の増加当社グループではどの事業も拡大基調にあるため、恒常在庫水準が上昇傾向にあります。特に海外卸売事業を除く3事業は在庫回転期間が長いため、事業拡大に伴う在庫金額の増加も大きく出やすい傾向があります。このうち養殖事業は水揚げ時期の関係で期末在庫は大きくはなりませんが、国内加工事業と海外加工事業の在庫金額の増加が貸借対照表残高に大きく影響しています。特に国内加工事業においては、2022年9~12月の北海道の秋鮭が豊漁であったことを契機に魚卵製品の市中供給量が増加し、下期途中から販売数量が減少傾向となったことから、在庫が増加傾向となりました。また、当期においてはサーモン、魚卵の相場高騰により、原材料や商品の価格が上昇しているため、それも在庫金額増加の要因になっています。・有形固定資産の増加有形固定資産の増加については養殖設備への増加が主な内容になります。特に国内養殖の規模拡大は当社の成長戦略の最重要課題となっていますので、今後も引き続き、積極的な設備投資を行っていく方針です。・借入金の増加 上記の在庫投資と設備投資の要する資金は主に借入金で賄っており、その結果として負債が増加しています。
② キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に関する情報a. キャッシュ・フローの状況の分析 営業活動によるキャッシュ・フローは、1,141百万円の支出(前期比277百万円の支出増加)となりました。 税金等調整前当期純利益を3,424百万円計上しましたが、一方で棚卸資産残高の増加3,807百万円によるキャッシュ・アウトが大きく影響した結果、マイナスの営業キャッシュ・フローとなっています。 当社グループは事業の性質上、元々在庫回転期間が比較的長くなる傾向がありますが、そういったなかで事業規模拡大に伴い恒常在庫水準は年々上がっているため、大きなトレンドとして在庫投資に資金を要する傾向が継続しています。加えて、当期に関しては①b.財政状態に関する分析に記載したとおり、国内加工事業や海外加工事業における在庫の増加や相場高騰に伴う単価上昇による影響もあり、棚卸資産残高が大きく増加することとなりました。これまで高騰していた魚卵やサーモンの相場が一旦調整期に入ると見込んでおりますが、その局面で一時的に在庫水準が膨らんだものと捉えております。今後相場の落ち着きに伴って棚卸資産残高も落ち着いてくるものと見込んでおります。 投資活動によるキャッシュ・フローは、2,126百万円の支出(前期比493百万円の支出増加)となりました。支出のほとんどは設備投資によるものです。当社グループの成長に向けた主要課題として、国内の中間養殖場のキャパシティ拡大、成長するアジアの日本食需要への対応力強化があります。特に国内中間養殖場の拡大は重要課題ですが、建設期間や養殖期間を考慮すると相当程度前もって投資を行う必要があります。国内養殖量は2023年6月期は1,606トンですが、1年後には2,910トン、その後も堅調な増加を計画しており、中期計画に沿った養殖量を達成するために必要な設備を順次計画的に建設しています。 以上のように在庫投資や設備投資に多くの資金を投入していますが、その資金は自己資金及び外部借入で調達しています。その結果、財務活動によるキャッシュ・フローは3,301百万円の収入となっています。金融機関とは良好な関係を維持しており、現状において資金調達環境に特段の懸念はありません。
また、現金及び現金同等物の期末残高は、翌月以降の資金繰り見込みを踏まえて期末時点の必要水準を確保した残高となるよう、借入金返済とのバランスを考慮しております。 株主還元については経営における重要課題の一つと考えており、連結株主資本配当率(DOE)に基づく安定配当を行う方針です。当社の配当政策については、「第4 提出会社の状況 3 配当政策」をご確認ください。
b. 資本の財源及び資金の流動性に関する情報当社グループの資本の財源は、自己資金及び金融機関からの借入であります。借入に関しましては、運転資金は主に短期借入金で、設備資金は主に長期借入金で調達しております。運転資金需要のうち主なものは、養殖事業における飼料代金、国内加工事業及び海外加工事業における原料仕入代金、海外卸売事業における商品仕入代金であります。設備資金需要のうち主なものは、養殖施設(冷凍設備や船等含む)や、国内加工工場(裁断機や浄化設備等)の設備投資代金であります。 当社グループでは、事業活動を円滑に行うため、金融機関との当座貸越契約等を利用し、実需に応じた資金調達を実施し、流動性を確保しております。当面の資金繰りのための資金は十分に確保していると判断しております。
③
重要な会計上の見積及び当該見積りに用いた仮定当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められる会計基準に基づき作成されております。連結財務諸表を作成するにあたって、棚卸資産の評価、固定資産の減損、繰延税金資産の回収可能性等の資産、負債、収益及び費用に影響を及ぼす見積り及び仮定を用いております。これらは、過去の実績や将来の事業計画等に基づき合理的に算出しておりますが、見積りの不確実性から実際の結果と異なる可能性があります。また、海外子会社における生物資産評価については、生物資産を公正価値で測定し、取得価額との差額を損益(売上原価の繰入または戻入)として認識しており、その測定には生物資産の正味売却価額や生存率等を見積もる必要があることから、市場の動向等により結果が大きく変動する可能性があります。当該海外子会社における生物資産評価については、「第5 経理の状況 1連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載しております。