【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
(1) 経営成績等の状況の概要当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。また、当社は、細胞製品等の研究開発及び製造販売並びにこれらの付随業務の単一セグメントのため、セグメントごとの記載はしておりません。
① 経営成績の状況当事業年度(2022年1月1日から2022年12月31日まで)におけるわが国経済は、新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大が続く中、段階的に経済活動が再開され株式市場は徐々に回復に向かいましたが、新たな変異株の出現により、感染者数が増大し、依然予断を許さない状況が続き、工場の稼働率低下による部品不足や、原材料の調達、輸送費用等の高騰等、先行き不透明な状況が続きました。国内における再生医療・細胞治療分野においては、厚生労働省 薬事・食品衛生審議会 再生医療等製品・生物由来技術部会において、新たに再生医療等製品の製造販売承認が了承されたものを含め、累計で17製品が国内上市するなど、新たな再生医療等製品の上市への期待感は引き続き高まっている状況です。このような状況の下、当社は独自のプラットフォーム技術を用いた革新的な再生医療等製品や3D細胞製品の創出を通じて、新たな再生医療・細胞医療の実用化・産業化に貢献するべく、研究・技術開発を中核とする事業活動を推進してまいりました。また、細胞製品開発と並行して、デバイス販売や共同研究活動等により、当社の基盤技術を国内外に普及させる事業活動にも取り組んでまいりました。具体的には、①再生医療領域において、再生医療等製品の承認取得へ向けたパイプライン開発及び研究用細胞製品の受託、②創薬支援領域において、製薬企業・非臨床試験受託企業等を相手方とした創薬支援用のツールとしての細胞製品の開発、③デバイス領域において、基盤技術を搭載したバイオ3Dプリンタ等の三次元細胞積層システム機器の開発・販売等を多面的に展開いたしました。各領域における開発及び経営成績の概況は、以下のとおりです。
a.再生医療領域当社では、主要な再生医療パイプライン(末梢神経再生、骨軟骨再生、血管再生等の革新的な3D細胞製品)について、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(以下、「AMED」といいます。)等の公的機関の支援のもと、再生医療等製品の承認取得・実用化を目指し、各大学・研究機関及び連携企業等の共同開発パートナーとともに臨床開発及び研究開発を進めております。
(ⅰ) 末梢神経再生末梢神経再生については、これまでに国立大学法人京都大学とともにAMED委託事業「革新的医療シーズ実用化研究事業/バイオ3Dプリンタにより作製した三次元神経導管(Bio 3D Conduit)を用いた革新的末梢神経再生法の臨床開発」において、末梢神経損傷を受けた患者さまへ移植するための「細胞製神経導管」の開発に取り組んでまいりました。また、当事業年度においては、AMED委託事業「末梢神経損傷を対象とした三次元神経導管移植による安全性と有効性を検討する医師主導治験」において、京都大学とともに臨床試験を実施いたしました。なお、本細胞性神経導管の開発背景や開発状況の進捗については、「第21回日本再生医療学会総会」をはじめとする学会や文部科学省の特別展示「情報ひろば」等の展示会等で発表いたしました。今後は、本医師主導治験に関するデータを集積し、次相臨床試験開始に向けた準備を進めてまいります。
(ⅱ) 骨軟骨再生骨軟骨再生については、軟骨だけでなく軟骨下骨まで損傷が進行している患者さまへ軟骨と軟骨下骨とを同時に再生させることが可能な「細胞製骨軟骨」の開発に取り組んでおります。これまでに九州大学病院において、変形性膝関節症をはじめとする患者さまへ細胞製骨軟骨を移植する臨床試験(プロジェクト名:「高密度スキャフォールドフリー脂肪由来幹細胞構造体(HDMAC)を用いた骨軟骨組織再生の臨床研究」)を、AMED委託事業「再生医療実用化研究事業/高密度スキャフォールドフリー脂肪由来幹細胞構造体を用いた骨軟骨組織再生の実用化推進臨床研究」による支援を受け実施してまいりました。
当事業年度においては、AMED橋渡し研究プログラム「バイオ3Dプリンタ技術を用いた膝関節特発性骨壊死に対する骨軟骨再生治療」に事業採択される等、次相臨床試験開始に向けて、慶應義塾大学病院とともに開発を進めました。
(ⅲ) 血管再生血管再生については、人工透析患者さまへ移植可能な細胞製の血管構造体「小口径細胞製人工血管」の開発に取り組んでおります。当事業年度においては、国立大学法人佐賀大学と共同で進めるAMED委託事業「バイオ3Dプリンタを用いて造形した小口径Scaffold free細胞人工血管の臨床研究」において、株式会社ジャパン・ティッシュエンジニアリングとともに臨床試験を継続実施してまいりました。引き続き、国立大学法人佐賀大学との連携を図りながら、臨床試験の完了に向けて今後も開発を続けてまいります。
(ⅳ) 次世代パイプライン現在、臨床開発段階にある再生・細胞医療分野における主要パイプラインに加え、次世代のパイプライン(研究開発シーズ)の育成及び探索開発が進捗しております。引き続き、共同研究パートナーとの研究開発を進めるとともに、新たなシーズ探索・基礎研究を進めてまいります。
(ⅴ) その他当社が実用化を目指す細胞製品の開発においては、基盤技術を用いて細胞のみで立体的な構造体を作製するコアプロセス(スフェロイドの作製~三次元細胞積層による立体化~立体構造体の組織化)が極めて重要です。当社では、細胞製品の実用化・産業化に向け、このコアプロセスの機械化及び生産設備開発に取り組んでおり製造設備及び製造設備等のインフラに関する技術・ノウハウ等を有する企業とのパートナーシップ強化を加速し、必要となる培養技術やプロセス開発等、商業化に必要となる技術開発を進めております。当事業年度においては、当社と細胞製品の製造に関する包括的パートナーシップ契約を締結している太陽ホールディングス株式会社の子会社である太陽ファルマテック株式会社の高槻工場内の「次世代モジュール型CPC」(細胞加工施設)において、製造体制を整備いたしました。本「次世代モジュール型CPC」は当社の業務提携先である日立グローバルライフソリューションズ株式会社と共同で構築した、コンパクトかつシームレスな製造設備であり、3社共同体制に基づき製造施設構築の実現にいたっております。そのほか、藤森工業株式会社との間では、細胞の大量培養に関する共同技術開発を、また、岩谷産業株式会社との間では、凍結保管技術の開発を進めてまいりました。以上のように当社では、今後もパートナー企業との間で戦略的パートナーシップの強化を進め、当社の革新的な再生医療等製品の早期の実用化に向け開発を進めてまいります。
b.創薬支援領域当社では、創薬支援領域における独自の基盤技術により、スキャフォールドを使用せずにヒト肝細胞等の細胞のみから、高い肝機能が長期間にわたり発現する3D肝臓構造体を開発し、製薬企業や非臨床試験受託会社等の創薬研究のニーズに応える創薬支援用途でのツール開発を進めております。当事業年度においては、これまで国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、「NEDO」といいます。)による「研究開発型ベンチャー支援事業/企業間連携スタートアップに対する事業化支援」の支援を受け開発した「3D肝臓構造体による毒性評価モデル」について、業務提携パートナーである積水化学工業株式会社、大阪サニタリー株式会社及び株式会社SCREENホールディングスとともに、3D肝臓構造体の事業化に向けた共同開発を進めてまいりました。
c.デバイス領域当社では、デバイス領域において、基盤技術を搭載したバイオ3Dプリンタ等の三次元細胞積層システム機器の開発・販売等の事業活動を進めております。また、バイオ3Dプリンタによる基盤技術普及を進めることにより、再生・細胞医療領域におけるポジション確立及び技術普及・シーズ探索等を目指すとともに、細胞製品の実用化に必要となる技術応用及び新技術開発を進めております。今後は再生医療等製品の実用化及び臨床開発に向けたデバイス類の開発及びサポートにも注力してまいります。
以上のような活動の結果、当事業年度における売上高は、細胞製品の製造支援及びデバイスの販売、その関連部品の販売等により、374,477千円(前年同期比47.1%減)となりました。一方、販売費及び一般管理費は、合計で666,585千円(前年同期比33.3%増)となりました。これらの結果、当事業年度の営業損失は425,089千円(前事業年度は営業利益70,569千円)となりました。また、設備投資に係る助成金受領等により、営業外収益47,645千円(前年同期比46.7%減)を計上した一方、借入金の利息等の支払により営業外費用55,721千円(前年同期比269.5%増)を計上したことから、経常損失は433,165千円(前事業年度は経常利益144,914千円)、加えて、本社移転費用の発生により特別損失38,787千円を計上し、当期純損失は473,962千円(前事業年度は当期純利益142,905千円)となりました。なお、当社の事業は細胞製品等の研究開発及び製造販売並びにこれらに関連する事業の単一セグメントであるため、セグメント別の記載を省略しています。
② 財政状態の状況(資産)当事業年度末における総資産は、前事業年度末に比べて2,169,105千円増加し、4,815,337千円となりました。主な増加要因は、新規上場に伴う公募増資等による現金及び預金の増加2,024,267千円であります。(負債)当事業年度末における負債については、前事業年度末に比べて299,419千円増加し、1,045,536千円となりました。主な増加要因は、短期借入金の増加338,520千円であり、主な減少要因は、前受金の減少60,301千円及び未払消費税等の減少30,668千円であります。(純資産)当事業年度末における純資産については、前事業年度末に比べて1,869,686千円増加し、3,769,801千円となりました。主な増加要因は、東京証券取引所グロース市場への新規上場に伴う公募増資等による資本金及び資本準備金の増加2,344,010千円であり、主な減少要因は、当期純損失473,962千円の計上によるものであります。この結果、自己資本比率は78.3%と前事業年度末に比べて6.5ポイント増加しました。
③ キャッシュ・フローの状況当事業年度末における現金及び現金同等物の残高は、前事業年度末に比べ1,824,267千円増加し、3,437,307千円となりました。当事業年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は、次のとおりであります。(営業活動によるキャッシュ・フロー)営業活動により支出した資金は403,596千円(前事業年度は161,537千円の収入)となりました。これは主に、助成金・補助金による収入が49,447千円あった一方で、税引前当期純損失471,953千円を計上したことなどによるものです。(投資活動によるキャッシュ・フロー)投資活動により支出した資金は430,674千円(前事業年度は50,583千円の支出)となりました。この支出は主に、定期預金の預入れによる支出が200,000千円及び本店・ラボの移転に伴う有形固定資産の取得による支出が228,276千円あったことなどによるものです。(財務活動によるキャッシュ・フロー)財務活動により得られた資金は2,658,538千円(前事業年度は229,206千円の収入)となりました。この収入は主に、株式上場に伴う公募増資等による株式の発行が2,328,247千円あったことなどによるものです。
④ 生産、受注及び販売の実績
a.生産実績当社が提供するサービスの性格上、生産実績の記載になじまないため、記載を省略しております。
b.受注実績当社が提供するサービスの性格上、受注実績の記載になじまないため、記載を省略しております。
c.販売実績当社は、細胞製品等の研究開発及び製造販売並びにこれらの付随業務の単一セグメントであることから、当事業年度における販売実績を領域分野ごとに示すと、次のとおりであります。
事業分野の名称
販売高(千円)
前年同期比(%)
再生医療領域
119,901
△76.8
創薬支援領域
20,000
△33.3
デバイス領域
234,576
44.7
合計
374,477
△47.1
(注) 最近2事業年度の主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりであります。
相手先
前事業年度(自 2021年1月1日至 2021年12月31日)
当事業年度(自 2022年1月1日至 2022年12月31日)
金額(千円)
割合(%)
金額(千円)
割合(%)
株式会社メディパルホールディングス
300,000
42.4
-
-
太陽ファルマテック株式会社
257,869
36.4
127,109
33.9
国立大学法人京都大学
53,510
7.6
56,519
15.1
岩谷産業株式会社
-
-
68,736
18.4
フランス国立衛生医学研究所
-
-
40,463
10.8
(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容経営者の視点による当社の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において判断したものであります。
① 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社の財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されております。その作成には、経営者による会計方針の選択・適用、資産・負債及び収益・費用の報告金額並びに開示に影響を与える見積りを必要としております。経営者は、これらの見積りを行うにあたり、過去の実績等を勘案し合理的に判断しておりますが、実際の結果は、見積りによる不確実性のため、これらの見積りと異なる結果をもたらす場合があります。当社の財務諸表の作成にあたって採用している重要な会計方針は、「第5 経理の状況 1 財務諸表等 (1)財務諸表 注記事項 重要な会計方針」に記載しております。なお、特に以下の事項は、経営者の会計上の見積りの判断が財政状態及び経営成績に重要な影響を及ぼすと考えております。
(固定資産の減損処理)固定資産の減損については、資産のグルーピングを行ったうえで、減損の兆候あり、かつ資産グループから得られる割引前将来キャッシュ・フローの総額が帳簿価額を下回る場合に、減損損失を認識するものとしております。当社は、固定資産の金額的重要性が乏しいため、重要な会計上の見積りには該当しないと判断しております。
(繰延税金資産)期末に税務上の繰越欠損金を有する場合の繰延税金資産の回収可能性の判断については、税務上の繰越欠損金が将来の一時差異等加減算前課税所得の見積額及び将来加算一時差異の解消見込額と相殺され、税金負担額を軽減することができると認められる範囲内で計上するものとされています。当社は、税務上の欠損金が継続しており、繰延税金資産の回収可能性を合理的に見積もることは困難と判断し、繰延税金資産を計上しておりません。また、新型コロナウイルス感染症による今後の影響等を含む仮定に関する情報は、「第5 経理の状況 1 財務諸表等 (1)財務諸表 注記事項 (追加情報)」に記載しております。
② 経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
a.財政状態の分析当事業年度における財政状態の分析については、「第2 事業の状況 3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1) 経営成績等の状況の概要 ②財政状態の状況」に記載のとおりであります。
b.経営成績の分析当事業年度における経営成績の分析については、「第2 事業の状況 3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1) 経営成績等の状況の概要 ①経営成績の状況」に記載のとおりであります。
c.経営成績に重要な影響を与える要因について経営成績に重要な影響を与える要因については、「第2 事業の状況 2 事業等のリスク」に記載のとおりであります。
d.経営者の問題認識と今後の方針について経営者の問題認識と今後の方針については、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載のとおりであります。
③ キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性についての分析キャッシュ・フローの状況の分析につきましては、「第2 事業の状況 3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1) 経営成績等の状況の概要 ③キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりであります。当社の運転資金需要の主なものは、パイプライン開発に係る研究開発費及び人材の獲得、維持にかかるシステム費等の営業費用であります。当社では、今後、経済・金融環境の変化に備えて十分な手元流動性を確保し、中長期的な財務基盤の拡充を図り、再生医療等製品の事業化(上市)に向けた開発を一切止めることなく達成するため、安定した資金力(キャッシュポジション)」を重視し、多様な資金確保手段を講じることとしております。具体的には、十分な資金を自己資金で確保しながらも、不測の事態を想定し、必要に応じてコミットメントライン等の与信枠を活用し銀行借入等による調達を行うことで現預金残高を維持していく方針であります。
④ 経営成績に重要な影響を与える要因について経営成績に重要な影響を与える要因については、「第2 事業の状況 2 事業等のリスク」に記載のとおり、様々なリスク要因が当社の経営成績に影響を与えるおそれがあることを認識しております。これらリスク要因の発生を回避するためにも、運営する事業の強化、人員増強、財務基盤の安定化等、継続的な経営基盤の強化が必要であるものと認識し、実行に努めております。
⑤ 経営者の問題意識と今後の方針について経営者の問題意識と今後の方針については、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき 課題等」をご参照ください。