【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
文中の将来に関する事項は、当第3四半期連結会計期間の末日現在において判断したものであります。
(1)財政状態及び経営成績の状況
当第3四半期におけるわが国経済は、新型コロナウイルス(以下「コロナ」という。)感染防止における行動制限の緩和に加え、全国旅行支援策・水際対策の一層の緩和を受け、サービス消費の増加が継続しました。また、堅調な企業業績を背景に、これまで見送られてきた設備投資も再開され、投資意欲が高まっております。一方、資源価格の高騰や日米金利差拡大を受けた円安による物価上昇がリスクとなり、引き続き、注視が必要な状況ではあります。
当社が属する不動産業界でも、ホテル需要の力強い改善により、ホテルの売上が伸びております。インバウンド需要はコロナ前には戻っていないことから、今後も一層の回復が期待されます。オフィスビルにおいては、東京都心部の空室率、賃料ともにほぼ横ばいで推移しております。当社が保有する中規模オフィスにおいては、引き続き底堅い需要が継続しておりますが、働き方の変化に併せ、選ばれるオフィスビルの提供に向けて、引き続き、テナント様のニーズを捉えてまいります。安定性が高い賃貸住宅や物流施設の需要は引き続き堅調さを維持しており、投資需要も底堅い状況が続いております。
また、世界的に環境課題への取り組みが急務であるなか、わが国でもカーボンニュートラルに向けたエネルギー政策の整備が進んでおり、さらなる政策の強化が期待されます。こうした環境下において、クリーンエネルギー事業の重要性は増しておりますが、当社では、地域および地球に優しい再生可能エネルギーのさらなる創出に注力しております。
主な取り組み
当社では急激な環境の変化に対応し、より信頼性の高い財務基盤の確保と徹底的なキャッシュ・フロー経営を実行しております。創出した資金は、将来の成長投資として、不動産の取得、新規事業への投資に加え、長期VISIONで掲げた「機動的な自社株買い」のとおり、当期は総額45億円の自社株買いを行いました。
当社は、長期VISION「いちご2030」に沿い、サステナブル(持続可能)な社会を実現するための「サステナブルインフラ企業」として、将来を見据えた戦略的な事業展開を通じて、事業優位性のさらなる強化を図っております。具体的には、不動産の保有・運営や心築(しんちく)(注)ノウハウといった強みを軸とし、ノンアセット事業によるストック収益の獲得機会を拡大しております。既存事業の進化とともに、こうした新規事業の創出と成長により、今後とも、株主価値の最大化に向け、株主重視経営をさらに向上し具現化すべく、全力を尽くしてまいります。
(注)心築(しんちく)について
心築とは、いちごの不動産技術とノウハウを活用し、一つ一つの不動産に心を込めた丁寧な価値向上を図り、現存不動産に新しい価値を創造することをいい、日本における「100年不動産」の実現を目指しております。
「既存事業の成長と深化」
・ 「心築事業」
長年培ってきた当社の不動産運用力や心築ノウハウを基盤に、個人および事業主の方でもプロの目利きと簡素な手続きで優良なレジデンス(住宅)へ小口投資いただける「いちごオーナーズビルシェア」およびデジタル不動産事業の「いちご・レジデンス・トークン」を開始いたしました。投資商品の拡充により顧客層の拡大を図るとともに、不動産の売却先が拡充したことで、取得の活性化にも繋がり、不動産の取得と売却の好循環に繋がります。さらに、アセットマネジメントの受託にも繋がり、ストック収益にも貢献いたします。また、PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)事業への取り組みも進めており、神奈川県横須賀市に所在する「よこすかポートマーケット」の運営・管理について、当社を代表者とする共同事業者が選定され、リニューアルオープンを果たしました。本件においては、既存の建物を活かし新たな観光施設としてリニューアルする当社の心築をご評価いただきました。リニューアルオープン後は、各種メディアからの取材依頼も多く、お客様で賑わっております。ホテル事業においても、保有・賃貸の枠を超え、オペレーション事業およびAIレベニューマネジメント(売上管理)システム「PROPERA」の開発・販売を進めており、観光ニーズの高いわが国の宿泊需要の回復に備え、事業領域の拡大を図っております。
なお、不動産の取得・売却は順調に進捗しており、当第3四半期累計期間においては、売却額486億円、取得額373億円となりました。
・ 「アセットマネジメント事業」
いちごオフィスリート投資法人(証券コード8975、以下「いちごオフィス」という。)、いちごホテルリート投資法人(証券コード3463、以下「いちごホテル」という。)、いちごグリーンインフラ投資法人(証券コード9282)および、私募ファンド事業への業務支援に注力いたしました。
当期は、当社が運用するJリートにおいても、優良不動産の取得を進めるとともに、いちごオフィスでは、保有不動産の入れ替えを進めております。前期にも、保有不動産を簿価の2.3倍、鑑定評価額の1.9倍の価格で売却しておりますが、当期も第4四半期に同様の投資主価値向上に資する売却を完了しており、より価値向上余地のある物件への入れ替えとともに、投資主価値の最大化を図っております。なお、当社が運用するいちごオフィス、いちごホテルでは、Jリート唯一の完全成果報酬制度を採用しており、投資主様と当社の利益は完全に一致しております。投資主目線による運用を行うことで、当社も成果報酬を収受することとなります。
・ 「クリーンエネルギー事業」
当期は、3発電所(発電出力5MW/前期末比+3.7%)が新たに発電を開始いたしました。当社が開発・運用する発電開始済み発電所の合計は、63発電所(発電出力174.2MW)まで成長しており、今後さらなる太陽光発電所への投資を行うとともに、電力供給の安定性向上に寄与する第3のエネルギーとして、森林の高齢化等の課題に対応し、治山対策、地域経済の活性化に貢献するグリーンバイオマス発電を計画しております。世界的にコロナの影響を受けるなか、市況の変化に左右されず、より安定性の高い当事業は、継続的に成長しております。
「急激な環境変化に対応した成長戦略」
・ 信頼性の高い財務基盤の確保
当社は、リーマン・ショック以降、借入期間の長期化と借入コスト削減、包括的な金利ヘッジによる金利上昇リスクの低減、無担保資金の調達等の幅広い財務施策の推進により、収益基盤と財務基盤を強化してまいりました。今後もこの方針を継続し、当社の心築をよりサステナブルな事業へ進展させてまいります。
・ 徹底的なキャッシュ・フロー経営
当社は、これまでも高いキャッシュの創出力を維持してまいりましたが、この急激な環境の変化に対応し、さらなるキャッシュの創出を図っております。具体的には、当社の心築事業に属する不動産を固定資産化することで、減価償却の税効果によりキャッシュを創出し、将来の成長投資に備えております。なお、当第3四半期末における固定資産比率は85.3%(注)です。
(注)当社の心築事業に属する不動産のうち、いちごオーナーズ、セントロ、ストレージプラスの資産を除く不動産を対象としております。
「サステナビリティへの取り組み」
当社は、企業の存在意義は社会貢献であると考えており、サステナブルな社会を実現するための「サステナブルインフラ企業」として大きな成長を図るとともに、事業活動を通じて社会的責任を果たすことを最大の目標としております。
具体的な取り組みとして、現存不動産に新たな価値を創造する「心築(しんちく)」を軸とした事業モデルをさらに進化させ「100年不動産」にチャレンジするとともに、クライメイト(気候)・ポジティブに向けて、事業活動で消費する電力を100%再生可能エネルギーとすることを目指す国際的なイニシアティブである「RE100」の目標達成年限を2025年とし、当社に加え、当社グループが運用するいちごオフィス(8975)、いちごホテル(3463)が保有する不動産も対象とし、環境循環型社会に向けた取り組みを加速しております。当第3四半期末時点において、60%まで再生可能エネルギーへの切り替えが進んでおります。
加えて、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言にも賛同し、気候変動におけるリスクの認識とそのリスクの適切な管理を行うとともに、環境課題への取り組みを事業機会と捉え、豊かさと環境が共存する未来のために取り組んでおります。
また、当社は、社会の良き一員として行動し、持続可能な成長を実現するための世界的な枠組みである「国連グローバル・コンパクト」に署名しております。署名する企業および団体は、10の原則に賛同し、企業トップ自らのコミットメントのもと、その実現に向けて努力を継続することが求められます。
当社は、社会をより良い状態で次世代へ継承するための一員として、独自の心築技術を軸とした新しい価値創造・社会課題の解決と環境保全活動によって、社会に貢献してまいります。
業績の詳細
当第3四半期の業績は、売上高52,797百万円(前年同四半期比79.7%増)、営業利益9,111百万円(同80.9%増)、ALL-IN営業利益(注)13,527百万円(同167.1%増)、経常利益8,000百万円(同164.0%増)、親会社株主に帰属する四半期純利益8,470百万円(同330.1%増)となりました。
(注)ALL-IN営業利益=営業利益+特別損益に計上される心築事業に属する不動産の売却損益
セグメントごとの内容および業績は、次のとおりであります。
なお、当期より、心築事業の事業実態を表すため、「営業利益」に特別損益に計上される心築事業に属する不動産の売却損益を加算した「ALL-IN営業利益」を経営指標(KPI)として設定しております。これは、さらなる開示の可視化にも繋がることから、第1四半期連結会計期間の期首より、報告セグメントの「セグメント利益」を「営業利益」から「ALL-IN営業利益」に変更しております。
①アセットマネジメント
当該セグメントの業績につきましては、いちごオフィスにおいて、物件の入れ替え施策を推進する中で売却が先行したこと等に伴い、前年同四半期比でベース運用フィーが減少し、セグメント売上高1,876百万円(前年同四半期比2.2%減)、セグメント利益1,055百万円(同6.1%減)となりました。
②心築(しんちく)
大規模オフィスの一時的な空室発生に伴う不動産賃貸収入の減少をホテル業績の力強い回復が補いました。また、レジデンス24物件や商業施設、オフィス等の販売用不動産の売却により、当該セグメントの売上高は46,785百万円(前年同四半期比98.2%増)となりました。また、心築セグメントに属する固定資産を売却したことにより、セグメント利益は10,729百万円(同406.0%増)となりました。
③クリーンエネルギー
当該セグメントの業績につきましては、前期に竣工した発電所の売電収入が通期で寄与したことに加え、当期は第3四半期までに新たに3つの発電所が売電を開始したこと等により、セグメント売上高は4,520百万円(前年同四半期比6.7%増)となりました。一方で、組織変更に伴い当該セグメントに係る経営指導料が増加したことにより、セグメント利益は1,772百万円(同2.4%減)となりました。
(2)キャッシュ・フローの状況
当第3四半期における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、46,751百万円となり、前連結会計年度末の46,214百万円と比較して537百万円の増加となりました。各キャッシュ・フローとそれらの要因は以下のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
当第3四半期において、税金等調整前四半期純利益12,416百万円、減価償却費4,002百万円等により15,501百万円の資金の増加があった一方、物件の仕入れ等の先行投資にかかる販売用不動産等の増加額が3,279百万円、利息の支払額1,500百万円、法人税等の支払額5,679百万円があったこと等により、営業活動によるキャッシュ・フローは5,041百万円(前年同四半期は△10,993百万円)となりました。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
当第3四半期において、投資活動によるキャッシュ・フローは5,601百万円(前年同四半期は△3,217百万円)となりました。これは主に、有形固定資産の売却による収入14,065百万円があった一方、有形固定資産の取得による支出8,158百万円、投資有価証券の取得による支出256百万円があったことによるものです。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
当第3四半期において、財務活動によるキャッシュ・フローは△8,146百万円(前年同四半期は1,068百万円)となりました。これは主に、長期借入れによる収入32,888百万円、長期ノンリコースローンの借入れによる収入3,000百万円があった一方、短期借入金の減少額457百万円、長期借入金の返済による支出34,787百万円、長期ノンリコースローンの返済による支出910百万円、自己株式の取得による支出4,499百万円、配当金の支払額3,197百万円があったことによるものです。
(3)財政状態及び経営成績の分析
①財政状態の分析
(資産)
資産合計は336,055百万円となり、前連結会計年度末と比較して1,831百万円減少(前連結会計年度末比0.5%減少)いたしました。
レジデンスを中心とした物件取得により販売用不動産が3,468百万円増加した一方で、不動産の売却や減価償却等により有形固定資産が5,232百万円減少したことが主な要因であります。
(負債)
負債合計は222,521百万円となり、前連結会計年度末と比較して3,174百万円減少(前連結会計年度末比1.4%減少)いたしました。
これは主に、前受金等その他の流動負債の減少1,814百万円、不動産の売却に伴う借入金の減少829百万円、未払法人税等の減少439百万円があったことによるものであります。
(純資産)
純資産合計は113,534百万円となり、前連結会計年度末と比較して1,342百万円増加(前連結会計年度末比1.2%増加)いたしました。
これは主に、親会社株主に帰属する四半期純利益の計上8,470百万円等に対し、剰余金の配当3,275百万円、自己株式の取得4,499百万円があったことによるものであります。なお、自己資本比率は30.3%(前連結会計年度末比0.5ポイント増加)となりました。
②経営成績の分析
(売上高)
連結売上高は、商業施設、オフィス、レジデンス等の販売用不動産の売却収入、新たに竣工した発電所の稼働による売電収入等があったことから、52,797百万円(前年同四半期比79.7%増)となりました。
売上高の主な内訳は、不動産販売収入34,608百万円、不動産賃貸収入11,865百万円、不動産フィー収入1,429百万円、売電収入4,509百万円であります。
(営業利益)
営業利益は、大規模オフィスの一時的な空室発生に伴う不動産賃貸収入の減少をホテル業績の力強い回復が補いました。また、レジデンスや商業施設等の販売用不動産の売却益が前期より大きく増えたこと等により、9,111百万円(前年同四半期比80.9%増)となりました。
(営業外損益)
営業外収益は、前年同四半期と比較してデリバティブ評価益が増加したことから、796百万円(前年同四半期比264.1%増)となりました。
主な内訳は、デリバティブ評価益642百万円、受取配当金36百万円であります。
なお、当社では将来の金利上昇リスクに備え、金利スワップ取引(デリバティブ取引)を行っております。
営業外費用は、前年同四半期と比較して借入金が減少したことに伴い、支払利息も減少したことから、1,907百万円(前年同四半期比14.3%減)となりました。
主な内訳は、支払利息1,629百万円、融資関連費用97百万円であります。
(特別損益)
特別利益は、心築事業に属する不動産の固定資産売却益により4,416百万円(前年同四半期は33百万円)となりました。
(親会社株主に帰属する四半期純利益)
法人税等は3,781百万円、非支配株主に帰属する四半期純利益は164百万円となりました。
これらの結果、親会社株主に帰属する四半期純利益は8,470百万円(前年同四半期比330.1%増)となりました。
(4)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当第3四半期連結累計期間において、当社が優先的に対処すべき課題について重要な変更はありません。
(5)研究開発活動
当社グループは、新規事業の創出として、植物性シリカ SiO2 の生成・応用・提供に向けた研究開発を進めております。
当第3四半期連結累計期間の研究開発費の総額は41百万円であります。 なお、当第3四半期連結累計期間において当社グループの研究開発活動の状況に重要な変更はありません。
(6)資本の財源及び資金の流動性についての分析
上記「(2)キャッシュ・フローの状況」に記載しております。
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