【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
(1)経営成績等の状況の概要
当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。
なお、当社グループでは電子書籍市場の流通拡大に貢献する効率的な取次運営と、自社運営電子書店「コミなび」をリニューアルした「まんがセゾン」による「電子書籍流通事業」と、第二の収益軸の確立に向けて、インプリント事業/IP・ソリューション事業/国際事業/FanTop事業の4事業を「戦略投資事業」としてセグメントを区分しております。
① 財政状態及び経営成績の状況
当連結会計年度におけるわが国の経済は、国内外各所における移動規制やマスク着用の緩和等、新型コロナウイルス感染症の影響が徐々に薄まり、経済活動正常化に向けた動きがみられました。一方で、ウクライナ情勢の長期化によるエネルギー・原材料価格の高止まりや各国の金融政策動向の変化等による円安の加速、物価上昇や金利の変動等、消費者マインドに影響を与える状況が依然として継続しております。
他方、電子書籍市場においては、在宅勤務や外出自粛による可処分時間の増加を背景としたいわゆる「巣ごもり消費」はピークアウトし、市場の拡大ペースはコロナ禍以前の水準へと回帰したものとみております。
なお、2022年における電子出版市場規模は5,013億円となり、前年の4,662億円から351億円増加(7.5%増)いたしました。うち、電子コミックは8.9%増の4,479億円、電子書籍(文字もの)が0.7%減の446億円、電子雑誌が11.1%減の88億円となりました。(出所:公益社団法人全国出版協会・出版科学研究所)
このような状況の下、当社グループの当連結会計年度の経営成績及び財政状態は以下のとおりとなりました。
a)経営成績
中期経営計画の初年度にあたる当連結会計年度においては、一部書店による大型キャンペーンの反動減と、主要取引先のバックエンド業務の移管による一過性の影響を受けており、その他の各電子書店向け売上は順調に成長したものの、減収影響がその他の各書店向け売上高を上回ったこと、また、本中期経営計画期間での第二の収益軸の確立に向け、引き続き戦略投資事業を中心に成長先行投資を実施したこと等から、減収減益となりました。
なお、海賊版サイトについては新型コロナウイルス感染症の感染拡大が本格化した2020年以降、アクセス数は増加傾向にありましたが、政府や出版各社、及びインターネットサービスプロバイダー等、関係各所との連携により大型海賊版サイトのいくつかが閉鎖されたことによりアクセス数はピークとなった2021年年末頃から足もと2023年2月時点では半減しております。
当連結会計年度の主な取り組みとしては、引き続き電子書籍流通を支えるインフラとしての役割を務め、著作者、出版社、電子書店やユーザーといったデジタルコンテンツに関わる全てのステークホルダーの皆様からの要望、課題に真正面から取り組むことで、社会課題の解決と持続的な成長の両立に挑戦しております。
特に成長先行投資を実施している戦略投資事業においては、現在の主力事業である電子書籍流通事業に比肩する新たな収益軸を構築することを目指し、期待の成長分野として、NFTテクノロジーを用いたNFTコンテンツプラットフォーム「FanTop」を展開するFanTop事業や、IP・ソリューション事業に含まれる縦スクロールコミック事業への投資及び事業基盤の確立を推し進めました。また、これらの事業成長に注力すべく全社視点で経営資源の配分を見直し、一部サービスの終了やグループ会社の株式譲渡等を実施し、事業ポートフォリオの最適化を図っております。
以上の結果、当連結会計年度の業績については、次のとおりとなりました。
売上高 101,667百万円(前年同期比2.9%減)
営業利益 2,393百万円(前年同期比14.9%減)
経常利益 2,291百万円(前年同期比17.6%減)
親会社株主に帰属する当期純利益 1,057百万円(前年同期比33.0%減)
EBITDA 3,868百万円(前年同期比1.5%減)
1株当たり当期純利益
68.35円(前年同期は99.75円)
なお、営業利益の主な増減要因は下記のとおりです。
売上高の減少 △3,055百万円
著作料等の売上原価の減少
4,142百万円
販売費及び一般管理費の増加 △1,505百万円
(電子書籍流通事業)
電子書籍流通事業においては、「Amazon Kindle」「コミックシーモア」等の電子書店への取次業務や電子書籍配信ソリューションの提供を引き続き行いました。また、中期経営計画で掲げた目標の実現に向けて、業務効率化の推進や次世代基幹システムの構築といったオペレーショナルエクセレンスを追求し、流通カロリーを一層抑制するための諸活動に取り組んでおります。2023年2月末時点で、取引先としての出版社は2,200社以上、電子書店は150店以上、取扱稼働コンテンツ数は200万点以上、出版社や電子書店とのキャンペーンは年間1.6万件以上展開しており、当社グループは国内最大の電子書籍取次事業者として出版業界の発展に貢献しております。
また、当連結会計年度においては、主要取引先のバックエンド業務の移管や前連結会計年度の一部書店における大型キャンペーンの反動影響を受けたものの、そういった特殊要因を除いた売上高前期比では+11.2%(+89億円)となり、引き続き堅調に推移しております。加えて、2022年7月から株式会社クレディセゾンと資本業務提携によって刷新した「まんがセゾン」は、自社運営から他社との協業による大胆な新規顧客層開拓策として、2022年10月末から「永久不滅ポイント」とのポイント連携を開始する等、更なるサービス拡充・利便性向上を図っております。
その結果、売上高は94,331百万円(前年同期比4.5%減)、セグメント利益は5,248百万円(前年同期比9.8%増)となりました。
(戦略投資事業)
戦略投資事業については、引き続き収益拡大に向けて積極的な成長先行投資と事業推進を行いました。
インプリント事業については、特に当社子会社であり出版社の株式会社日本文芸社と、小説投稿サイト“エブリスタ”を運営する株式会社エブリスタから創出される原作のメディアミックス化が奏功しました。日本文芸社については週刊雑誌等の紙書籍の出版も行っており、紙の値上げの影響を一部受けつつも、週刊漫画ゴラクに掲載されていた「ガンニバル」がDisney+にて映像化されるなど着実に事業を推進しております。エブリスタについてもサイトに投稿された作品から映像化が進み、「liar」「にぶんのいち夫婦」「私の夫は冷凍庫に眠っている」等複数のヒット作を生みましたが、特に「カラダ探し」については映画化されたのち、興行収入は11.8億円に至りました。今後も原作創出エンジンとしての地位を強固にし、コンテンツ市場の更なる発展に貢献してまいります。
IP・ソリューション事業については、特に縦スクロールコミックの事業拡大に注力しています。縦スクロールコミック市場は、世界的にも2021年から2028年までの7年間で約7倍の市場成長が見込まれ、2023年においても約8,600億円の市場規模を有していると予測されています。市場成長に伴って増加していくであろう制作需要を見越して国内外の有力制作スタジオとの連携等を進めることで、オリジナル作品の制作体制構築や海外作品の調達や配信といった機能の高度化を図りました。2022年9月には、「YUZU comics」として縦スクロールコミック専用の新レーベルを設立したほか、当連結会計年度において韓国の制作スタジオ2社(StorySoop Inc./Contents Lab. Blue Co., Ltd.)への投資を実施いたしました。
国際事業については、Firebrandグループを中心に北米でのBtoB基盤を活用して海外出版業界のDXに努めました。海外においては人件費の高騰等の影響を受けつつも、適切なコストコントロールを行うことで引き続き着実な利益貢献を図ってまいります。
FanTop事業については2021年10月のサービスローンチ以降、当社が筆頭株主である紙書籍取次大手の株式会社トーハンとの連携を強化し、NFTデジタル特典付き出版物を全国の書店に流通しています。その結果、NFTデジタル特典付き出版物の販売価格・実売率は、通常版と比較して共に30%を超える上昇率となる等、着実な実績を蓄積することができました。また、この1年間での取り組みを経て、更なるユーザー体験のリッチ化とNFTデジタル特典の企画拡充を目指し、FanTopサービスの高度化を進めております。紙書籍に付与するデジタル特典として、これまでの画像や写真等だけでなく、今後は映像や音楽といったコンテンツも対象としてサービスを拡張することで、出版業界のみならず、コンテンツ業界全体に対するFanTopの提供価値向上に努めております。
今後も、戦略投資事業の収益拡大や成長促進に向け成長先行投資を含む様々な取り組みを進めてまいります。
その結果、売上高は7,331百万円(前年同期比22.4%増)、セグメント損失は1,462百万円(前年同期はセグメント損失832百万円)となりました。
b)財政状態
(資産の部)
当連結会計年度末における資産合計は、50,882百万円(前年同期比3.1%減)となり、前連結会計年度末に比べ1,626百万円減少しました。
当連結会計年度末における流動資産は、前連結会計年度末に比べ2,535百万円減少し、33,825百万円(前年同期比7.0%減)となりました。
主な要因は、売上債権(受取手形、売掛金及び契約資産)が1,584百万円、現金及び預金が1,272百万円、それぞれ減少したことによるものであります。
当連結会計年度末における固定資産は、前連結会計年度末に比べ908百万円増加し、17,056百万円(前年同期比5.6%増)となりました。
主な要因は、投資その他の資産が543百万円増加したことに加え、建物等の有形固定資産が285百万円増加したことによるものであります。
(負債の部)
当連結会計年度末における負債合計は、34,109百万円(前年同期比4.2%減)となり、前連結会計年度末に比べ1,487百万円減少しました。
当連結会計年度末における流動負債は、前連結会計年度末に比べ1,649百万円減少し、28,789百万円(前年同期比5.4%減)となりました。
主な要因は、短期借入金が803百万円増加した一方、支払手形及び買掛金が2,028百万円、未払法人税等が696百万円、それぞれ減少したことによるものであります。
当連結会計年度末における固定負債は、前連結会計年度末に比べ162百万円増加し、5,319百万円(前年同期比3.1%増)となりました。
主な要因は、繰延税金負債が83百万円増加したことによるものであります。
(純資産の部)
当連結会計年度末における純資産合計は、16,772百万円(前年同期比0.8%減)となり、前連結会計年度末に比べ139百万円減少しました。
主な要因は、利益剰余金が678百万円、その他の包括利益累計額が347百万円、それぞれ増加した一方、2022年5月に実施した自己株式の消却等により資本剰余金が1,125百万円減少したことによるものであります。
② キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度末における現金及び現金同等物(以下、「資金」という。)の期末残高は、10,127百万円となりました。
当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況は、次のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度において、営業活動の結果得られた資金は1,916百万円(前年同期比58.6%減)となりました。
主な要因は、資金の増加要因としては、税金等調整前当期純利益1,529百万円、減価償却費691百万円、のれん償却額783百万円、売上債権の減少額1,598百万円によるものであり、減少要因としては、仕入債務の減少額2,033百万円、法人税等の支払額1,272百万円によるものであります。
(投資活動によるキャッシュ・フロー) 当連結会計年度において、投資活動の結果使用した資金は3,070百万円(前年同期は7,835百万円の支出)となりました。
主な要因は、無形固定資産の取得による支出835百万円、投資有価証券の取得による支出817百万円、連結の範囲の変更を伴う子会社株式の取得による支出862百万円によるものであります。
(財務活動によるキャッシュ・フロー) 当連結会計年度において、財務活動の結果使用した資金は276百万円(前年同期は2,089百万円の収入)となりました。
主な要因は、資金の増加要因としては、短期借入金の純増額796百万円、長期借入れによる収入1,580百万円によるものであり、減少要因としては、長期借入金の返済による支出1,273百万円、自己株式の取得による支出999百万円、連結の範囲の変更を伴わない子会社株式の取得による支出431百万円によるものであります。
③ 生産、受注及び販売の実績
a)生産実績
当社グループで行う事業は、提供するサービスの性格上、生産実績の記載に馴染まないため、当該記載を省略しております。
b)受注実績
当社グループは受注生産を行っておりませんので、受注実績に関する該当事項はありません。
c)販売実績
当連結会計年度の販売実績を事業のセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
セグメントの名称
当連結会計年度
(自 2022年3月1日
至 2023年2月28日)
金額(百万円)
前年同期比(%)
電子書籍流通事業
94,331
95.5
戦略投資事業
7,331
122.4
調整額
3
91.2
合計
101,667
97.1
(注)1.セグメント間取引については、相殺消去しております。
2.最近2連結会計年度の主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりであります。
相手先
前連結会計年度
(自 2021年3月1日
至 2022年2月28日)
当連結会計年度
(自 2022年3月1日
至 2023年2月28日)
金額(百万円)
割合(%)
金額(百万円)
割合(%)
エヌ・ティ・ティ・ソルマーレ㈱
15,539
14.8
21,079
20.7
Amazon Services International Inc.
13,349
12.7
14,070
13.8
LINE Digital Frontier㈱
19,093
18.2
12,779
12.6
㈱デジタルコマース
12,139
11.6
-
-
(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容等
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりです。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
① 当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
a)経営成績等に関する分析
当該事項につきましては、「第2 事業の状況 3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要」をご参照ください。
b)経営成績に重要な影響を与える要因について
「第2 事業の状況 2 事業等のリスク」をご参照ください。
c)資本の財源及び資金の流動性
(資金需要)
当社グループでは、中長期にわたり持続的な成長を図るべく、運転資金においてコンテンツ制作費のほか、優秀な人材確保のための採用費用及び人件費等の販売費及び一般管理費等への資金需要があります。加えて、M&Aや資本業務提携、新規事業開発といった戦略投資に係る資金需要があります。
また、設備資金需要といたしましては、新規基幹システムの開発及び新規サービスのためのソフトウエアへの投資等があります。
(財務政策)
当社グループの事業活動の中長期的な拡大と高度化に必要な資金を安定的に確保するとともに、財務・財政状態の健全性及び機動性に配慮しながら資本コストの最適化を図るべく、運転資金については内部資金の活用及び金融機関からの借入を中心として賄い、戦略投資に係る資金については、内部資金に加えて、金融機関からの借入やエクイティファイナンスといった多様な資金調達手段から調達時の状況に応じた最適な手段を選択し、資金調達を行ってまいります。
d)経営方針、経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社グループは、2022年4月に、当連結会計年度を初年度とする5カ年(2023年2月期~2027年2月期)の新中期経営計画を策定いたしました。
当連結会計年度につきましては、引き続き電子書籍流通を支えるインフラとしての役割を務め、著作者、出版社、電子書店やユーザーといったデジタルコンテンツに関わる全てのステークホルダーの皆様からの要望、課題に真正面から取り組むことで、社会課題の解決と持続的な成長の両立に挑戦しております。
また、戦略投資事業においては、現在の主力事業に比肩する第二の収益軸の確立に向け、特にFanTop事業やIP・ソリューション事業に含まれる縦スクロールコミック事業への投資及び事業基盤の確立を推進するとともに、これらの事業成長に注力すべく全社視点で経営資源の配分を見直し、一部サービスの終了やグループ会社の株式譲渡等を実施し、事業ポートフォリオの最適化を図っております。その結果、一部減損や除却が発生したものの、売上高、EBITDAをはじめとしたいずれの目標についても達成することができました。
当社が定める経営方針、経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等、及び各々の指標等に関する業績予想の達成状況については下表のとおりです。
2023年2月期
計画
2023年2月期
実績
計画比
売上高
1,000億円
1,016億円
101.6%
営業利益
20.0億円
23.9億円
119.7%
EBITDA
35.9億円
38.6億円
107.7%
親会社株主に帰属する当期純利益
8.5億円
10.5億円
124.4%
ROE
5.2%
6.3%
+1.1pt
e)セグメントごとの財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容
(電子書籍流通事業)
「3.経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績等の状況お概要」に記載した要因により、売上高は94,331百万円(前年同期比4.5%減)、セグメント利益は5,248百万円(前年同期比9.8%増)となりました。
(戦略投資事業)
「3.経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績等の状況お概要」に記載した要因により、売上高は7,331百万円(前年同期比22.4%増)、セグメント損失は1,462百万円(前年同期はセグメント損失832百万円)となりました。
② 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められる会計基準に基づき作成されておりますが、この連結財務諸表の作成に当たっては、経営者により、会計基準の範囲内で一定の見積りが行われている部分があり、資産・負債や収益・費用の数値に反映されております。これらの会計上の見積りについては、継続して評価し、必要に応じて見直しを行っておりますが、見積りには不確実性が伴うため、実際の結果はこれらとは異なる場合があります。
連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5 経理の状況 1.連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載のとおりであります。
なお、これらの会計上の見積りに際しては、今後の社会・経済状況などの経営環境に関する仮定が伴うこととなりますが、新型コロナウイルス感染症による影響については、これまでの国民的な感染拡大防止の取組みを契機とした生活様式の不可逆的な変化も進むなか、その社会的影響を個別に評価していくことが困難になりつつあると思われます。
そのうえで、当社グループの連結財務諸表の作成に当たっては、新型コロナウイルス感染症による重要な影響は認められず、翌年度の連結財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクも識別しておりません。
#C3678JP #メディアドゥ #情報通信業セクター