【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析は、以下のとおりであります。なお、本文中の将来に関する事項は、当四半期連結会計期間の末日現在において、当社グループが判断したものであります。
(1) 経営成績の状況当社グループは米国Massachusetts Institute of Technology(マサチューセッツ工科大学)の研究者の発明による自己組織化ペプチド技術を基にした医療製品の開発・製造・販売に引き続き注力しております。自己組織化ペプチド技術は幅広い応用が可能なプラットフォーム技術です。既に安全性が確認されており人への使用も広く認められていること、また、医療機器の適応拡大としての開発が可能なこと等から、当社においては幅広い領域での事業展開を可能にしております。現時点では主に、外科領域、組織再生領域、ドラッグ・デリバリー・システム(以下、「DDS」という。)領域で事業を展開しております。外科領域においては、日米欧3極においてそれぞれ複数の承認済製品を獲得しており、規模の経済を獲得するための製造のスケールアップ等にも取り組んでおります。今後は自己組織化ペプチドの技術優位を活用し、将来的にさらに大きなニーズが見込める組織再生領域やDDS領域において、3極展開の強みを活かしグローバル最適の開発・販売方針を採用してまいります。
[研究開発の状況]
外科領域:
止血材(TDM-621)日本においては、2020年に消化器内視鏡治療における漏出性出血に対する止血を対象として吸収性局所止血材「ピュアスタット」の製造販売承認を取得しており、2021年12月からは本製品の保険適用が開始されております。これにより、病院側の費用負担なくピュアスタットを使用できることになり、今後の販売加速が見込まれます。欧州では2014年にCEマークを取得しており、現在欧州全域において販売中です。今後は中枢神経分野等領域の拡大や創傷治癒等機能の拡大等、継続して複数の分野で適応拡大を進め、オンリーワンの製品となれるよう価値を一層高めていく方針です。米国では2021年1月に消化器内視鏡治療領域において、米国食品医薬品局(以下、「FDA」という。)に市販前届510(k)によるプロセスにて2021年6月に販売承認を取得しておりましたが、2022年7月より販売を開始しております。また、2022年8月に手術等の処置に伴うものではない病変等から起こる自然出血(以下「Primary Bleeding」という。)への適応拡大を目的とした市販前届510(k)を申請いたしましたが、2023年3月に販売承認を取得いたしました。Primary Bleedingの日米欧での市場規模は100億円程度と推計され、本適応拡大によってより一層製品力を高め、米国における消化器内視鏡治療の広まりや安全性の向上に貢献していきたいと考えております。
粘膜隆起材(TDM-644)当社が独自に開発した新規ペプチド配列を用いた製品「ピュアリフト」です。自己組織化によりゲルを形成するため隆起維持性能に優れており、また、生物由来成分ではないためウイルス等の混入リスクがない安全性の高さにより、既存製品と差別化されております。ポリープ、腫瘍等を切除する内視鏡手術時に幅広く使用される可能性があります。日本において、本製品は2021年5月に製造販売承認を取得しており、2021年12月には販売用製品の製造を開始いたしました。また、2022年8月には販売開始に向けた更なるデータ拡充のため臨床研究を開始しております。さらに2022年12月1日より保険適用が開始され、医療機関が使用した「ピュアリフト」の特定保健医療材料費については、医療機関は保険償還価格にて保険請求が可能となります。これにより、病院側の負担なく「ピュアリフト」を使用できることとなります。止血材「ピュアスタット」販売時のフックとして「ピュアスタット」販売拡大にも貢献すべくクロスセルでの販売を予定しております。
後出血予防材欧州において消化器内視鏡治療時に生じる後出血予防効果に関して、2018年12月に適応追加が承認されました。また、オーストラリアにおいても後出血予防効果に関して、2019年9月に適応追加が承認されました。さらに、米国においては2021年6月に止血材の承認と合わせて後出血予防の適応も同時に承認を受けております。治療後に起こる後出血は、再手術が必要となることから患者及び医療機関双方の負担が大きく、強いニーズがあります。消化器内視鏡治療における出血はおおよそ5%程度であるのに対し、治療後に後出血が懸念されるリスクの高い患者・手技はおおよそ30%あるとされており、本適応の追加により当社製品が獲得可能な市場は数倍に拡大する可能性があります。
次世代止血材(TDM-623)当社が独自に開発した新規ペプチド配列を用いた開発品です。現在の止血材より止血効果に優れ、原価を大幅に削減できる等の優位性があることから、将来的に主力製品として市場に供給すべく開発を進めてまいります。欧州においては、2021年5月に治験計画届の承認がなされ、2021年7月より脳神経外科を対象とした治験を開始しております。本試験開始前の探索的臨床試験については、2021年12月に全ての患者への投与が完了し、安全性が確認されたことから、本試験への移行が開始されました。
癒着防止材(TDM-651)米国では2019年4月に耳鼻咽喉科領域において、FDAより癒着防止材兼止血材「PuraSinus」の販売承認を受けております。本製品は、癒着防止、止血、創傷治癒を同時に行える現状唯一の製品であることから、鼻甲介切除術や鼻中隔形成術等において高い臨床的価値を提供でき得るものと期待しております。特に術後のパッキング(鼻に詰め物をする処置)は患者のQOLを著しく悪化させているといわれておりますが、当社製品によってパッキングを極力減らすことが可能となり、患者のQOLを重視する米国市場では強いニーズが期待できます。今後は、はるかに大きな市場が存在する産婦人科等の領域に適応拡大をすべく、日本と欧州双方で医師主導治験の準備を進めております。
組織再生領域:直腸における粘膜炎の創傷治癒米国において、2022年4月に粘膜炎の創傷治癒に対する承認を取得いたしました。これは直腸の粘膜炎等の治癒に幅広く使える可能性がある承認であり、止血材よりさらに付加価値の高い製品としての販売が可能となります。例えば一つの適応事例としての放射線性直腸炎は、前立腺がんや子宮がん等への放射線療法に起因する副作用で、大腸粘膜の炎症を高頻度で引き起こします。また、2割程度の患者は慢性的な下血、頻繁な排便、激しい腹痛等の晩期障害に悩まされており、有効な治療法の確立が望まれております。この領域で早急に成長を蓄積し、さらに巨大な市場である炎症性腸疾患(IBD)への適応拡大を進めてまいります。IBDは消化管の難治性炎症で、原因不明で一度発症すると再燃と寛解を繰り返す特定疾患であり、グローバルに数兆円の顕在市場が存在します。現在日米欧にて複数の医師主導治験を計画し、早期にPOC(Proof Of Concept)を取得したい考えであります。
創傷治癒材(TDM-511)米国では2015年2月にFDAより承認を受け販売の許認可を取得しております。より高い臨床的価値が求められる重度の熱傷や皮膚がんの分野への進出を目指して、他薬剤とのコンビネーション(抗生物質、抗がん剤等)も視野に入れて研究を進めております。また、巨大市場である美容整形分野にもアクセスすべく、2020年5月に適応を拡大しております。欧米において複数の臨床研究を進め、有望な結果が観察され始めており、論文発表も行われております。
歯槽骨再建材(TDM-711)米国での臨床試験で15症例の施術・経過観察が完了し、骨形成に良好な結果やデータを得ております。一方で、プロトコルに改善の余地があったため、2018年4月期に臨床試験を12症例追加で継続する等、臨床試験を継続しており、今後も引き続き製品化に向けた開発を進めてまいります。現在の試験完了後のステップについてはFDAと協議中です。
DDS領域:国立がん研究センターとの「RPN2標的核酸医薬によるトリプルネガティブ乳がん治療」共同プロジェクトにおいて、界面活性剤様ペプチドA6Kを核酸医薬のDDSとして提供しておりました。当社は、国立がん研究センターと共同でがん幹細胞に対する治療薬や診断方法の特許を取得しており、同分野や関連分野の共同研究/共同開発に向けた取り組みを進めております。広島大学との共同プロジェクトにおいても、悪性胸膜中皮腫を対象疾患とする革新的抗腫瘍核酸医薬にA6Kを提供し共同開発を進めておりましたが、広島大学の田原栄俊教授により新たに設立された株式会社PURMX Therapeuticsが今後の製品開発を主導することとなりました。当社も同社株式の一部を取得し、今後も引き続き共同で製品開発を進めてまいります。2022年1月には、医師主導治験(第I相)において第一症例の組み入れが実施され、臨床試験が開始されております。核酸医薬へのDDSとして当社製品がヒト臨床で使用されるのはこれで2件目となります。今後の核酸医薬の広まりとともに、当社の技術が核酸のデリバリーのオプションとして更なる広がりをみせる可能性が出てきております。また、当社技術をCOVID-19を含めた各種ワクチンのDDSに応用する検討も進めております。各種ワクチンによる防御免疫反応を高め、強力なアジュバント(主剤の効果向上並びに補助を目的として併用される物質)の反応性を排除することで、効率的かつ安全なワクチンデリバリーシステムを開発することを目的とし、米国Tulane Universityと共同研究を開始いたしました。本共同研究により、同レベルの免疫を獲得するために必要なワクチンの接種回数を減らすことができる可能性や患者の負担を軽減できる可能性あるいは各種ワクチンの経鼻投与ができるようになる可能性が期待されます。
製品原価率を大幅に低減するための製造方法の変更検討:当社グループは、当社製品群の製品原価率を大幅に低減すべく、滅菌方法の変更及び製造スケールアップを進めております。2020年10月に欧州の第三者認証機関に新たな製造方法への変更申請を提出しておりましたが、2021年5月にその承認を取得しております。本製法による製造は順調に開始されグローバルに出荷が開始されており、新しい原価は移動平均法によって順次低減しております。これらの施策により製品原価率は大幅に低減すると見込んでおります。この原価低減施策により、早期黒字化に向けてのボトルネックが解消されたと考えております。
製造所の拡充:当社グループは、扶桑薬品工業株式会社との間で、2011年5月に自己組織化ペプチドを用いた吸収性局所止血材の製造委受託契約を締結し、2020年7月に製造委受託契約の解除通知を受領しておりましたが、その後の協議の結果、一時的な製造に関する合意を経て、2022年6月に改めて継続的な製造に関する合意書を締結いたしました。また、当社グループは2021年12月にドイツのPharmpur GmbH(以下、「Pharmpur社」という。)との製造・サービス委託契約を締結しております。同社において既に米国向け製品の製造を開始しており、欧州に関しては2022年1月に製造所追加の承認申請を第三者認証機関に提出しております。現状審査は順当に推移しているものの、審査機関の内部プロセスの関係で若干の承認遅れが想定されます。同社においては、当期中にさらなるスケールアップによる製造原価低減を目的としたプロジェクトを開始する予定であり、欧州における承認審査の進捗を見ながら並行して準備も進めてまいります。本プロジェクトは中期計画に含めていないため、更なる製造原価低減が得られた場合には計画に対するアップサイド要因となります。これらにより、複数の製造拠点をもって、安定した製品供給による更なる事業の拡大を図ります。
[販売進捗の状況]欧州における製品販売は、770,464千円となり前年同期比で36.8%増となりました。主要製品である消化器内視鏡領域の止血材は、既に顧客となっているKOL(Key Opinion Leader)と同じ病院に属する新規ユーザーをターゲットとすることで、販売スピードを飛躍的に拡大させる計画としておりましたが、当第3四半期においては大きく計画を下回りました。特に欧州で最大規模の売上計画としていたドイツにおいて、2022年5月頃に想定していた既存代理店からのFUJIFILM EUROPE B.V.(以下、「FUJIFILM」)への販売代理店切替手続きが、想定以上時間がかかり2022年11月まで遅れました。協議中は既存代理店のコミットメントが大幅に下がったため、売上計画を大きく割り込むこととなり、欧州の計画未達の最大の原因事象となりました。ドイツでのFUJIFILM体制は2023年3月から本格稼働する予定であり、2024年4月期に向けて挽回を狙ってまいります。イギリスにおいては、既に顧客となっているKOLと同じ病院に属する新規ユーザーをターゲットとする打ち手が奏功し、第2四半期時点の前年同期比で成長率が大幅に増加しておりました。しかし、当第3四半期に入り、かかる打ち手についての二次代理店との協働が十分に浸透しきれず、徐々に計画との乖離が拡大し、直近1年間での計画との差をみると、約半年程度の遅れとなっております。今後は、原因を究明し、代理店との情報共有、進捗管理の粒度をさらに上げ、より精緻な協力関係を構築することで挽回してまいります。心臓血管外科領域及び耳鼻咽喉科領域における直販体制については、当期立ち上げの計画で若干の予算を見込んでおりましたが、採用した人員が期待した営業力を発揮できなかったため、早期に利益貢献できる体制を構築できず、全面的な人員の入れ替えを行っております。日本における製品販売は、300,194千円となり前年同期比で829.6%増となりました。当第3四半期は、COVID-19第8波の影響を若干受けたものの高い成長率を維持しており、オーストラリアの売上高を超え地域別第2位の規模まで成長いたしました。また、営業一人当たりの貢献利益は黒字化に転じており、2024年4月期以降のキャパシティ拡大の準備が整いつつあります。オーストラリアにおける製品販売は、306,267千円となり前年同期比で9.8%減となりました。前期から続く政府による選択的手術(命にかかわらない手術)の規制の緩和が大幅に遅れ、規制の影響による一時的な病院のスタッフ不足により手術件数の回復も遅れました。さらに、2022年7月に実施された民間保険価格の見直しによる製品販売価格の低下の影響を受け、前期比でも下回る見込みです。それでも主要病院を中心に需要を取り込み、当第3四半期には月次で過去最高の販売本数を達成しております。また、オーストラリア単体では黒字化を維持しており、第4四半期以降は回復しつつある需要を更に取り込み、収益の最大化を狙ってまいります。米国における製品販売は、168,385千円となり前年同期比で405.1%増となりました。2022年7月から販売を開始した消化器内視鏡領域において順調な成長を達成しており、計画をほぼ達成できる見込みです。耳鼻咽喉領域においては、ターゲット施設の戦略変更の結果、アカウント獲得はでき始めているものの、変更後のターゲット施設の購入行動の特性が想定と異なり、獲得に至るまでに想定以上の時間がかかっているため、当期初に計画していた大きな売上増にはまだ時間を要する見込みです。これらを受けて下期以降は、営業リソースを消化器内視鏡領域に振り分け、同領域での成長を極大化する方針です。このような結果、当第3四半期連結累計期間の業績については、止血材の製品販売は欧州で770,464千円、日本では300,194千円、オーストラリアで306,267千円及び米国では168,385千円を計上し、その他地域等売上13,154千円を含めますと、事業収益1,558,465千円(前年同期比558,082千円増加)と前年同期の55.7%増となりました。費用面に関しては、外貨ベースのコストに対し、営業体制の刷新に伴う費用増に加え、期中は一貫して円安傾向で為替相場が推移したことにより、円ベースでのコストが相当程度膨らんでおります。しかしながら、上期に比較して当第3四半期は営業赤字額が縮小傾向にあり、営業赤字トレンドの転換点を迎えていると考えております。大きな先行投資はほぼ終了しており、今後増加させる計画はないため、今後の利益水準は改善傾向がより顕著になってくると見込んでおります。なお、当第3四半期においては臨時的な損失として、ブラジル子会社清算決了に伴う連結貸借対照表の純資産の部に計上していた同社に係る為替換算調整勘定の取崩しにより、在外子会社清算に伴う為替換算調整勘定取崩損38,675千円を特別損失として計上しております。この結果、経常損失2,002,332千円(前年同期は経常損失2,019,536千円)、親会社株主に帰属する四半期純損失2,082,689千円(前年同期は親会社株主に帰属する四半期純損失2,070,323千円)となりました。
(2) 財政状態の分析当第3四半期連結会計期間における総資産は5,471,286千円(前連結会計年度末比139,437千円の減少)となりました。流動資産につきましては、5,354,078千円(同223,441千円の減少)となりました。これは主に、売掛金の増加79,762千円、棚卸資産の増加1,023,563千円及び前渡金の増加351,515千円がある一方、現金及び預金の減少1,740,488千円があることによるものです。固定資産につきましては、117,207千円(同84,004千円の増加)となりました。これは、投資その他の資産の増加によるものです。流動負債につきましては、947,913千円(同80,816千円の増加)となりました。これは主に、未払法人税等の増加29,248千円及びその他流動負債の増加45,663千円があることによるものです。固定負債につきましては3,520,017千円(同234,109千円の増加)となりました。これは主に、転換社債型新株予約権付社債の増加108,726千円及びその他固定負債の増加126,196千円によるものです。純資産につきましては、1,003,355千円(同454,363千円の減少)となりました。これは主に、資本金及び資本剰余金のそれぞれ970,636千円の増加がある一方、親会社株主に帰属する四半期純損失による利益剰余金の減少2,082,689千円及び為替換算調整勘定の減少337,078千円があることによるものです。
(3) 経営方針・経営戦略等当第3四半期連結累計期間において、当社が定めている経営方針・経営戦略等について重要な変更はありません。
(4) 事業上及び財務上の対処すべき課題当第3四半期連結累計期間において、新たに発生した事業上及び財務上の対処すべき課題はありません。
(5) 研究開発活動当第3四半期連結累計期間における当社グループの研究開発費の総額は301,837千円であります。当社グループの研究開発活動の状況に重要な変更はありませんが、当四半期連結会計期間の末日現在における研究開発活動の進捗状況については、(1)経営成績の状況 の [研究開発の状況] に記載してあります。
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