【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
(1)経営成績等の状況の概要
当事業年度における当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。
① 財政状態の状況
(資産)
当事業年度末における流動資産は3,792,734千円となり、前事業年度末に比べ382,451千円減少いたしました。これは、仕掛品が143,398千円、売掛金が42,348千円増加した一方で、現金及び預金が565,899千円減少したことが主な要因であります。
固定資産は536,318千円となり、前事業年度末に比べ7,144千円減少いたしました。これは、有形固定資産が10,850千円増加した一方で、投資その他の資産が11,213千円、無形固定資産が6,781千円減少したことが要因であります。
この結果、総資産は、4,329,053千円となり、前事業年度末に比べ389,596千円減少いたしました。
(負債)
当事業年度末における流動負債は421,585千円となり、前事業年度末に比べ113,499千円増加いたしました。これは、未払金が131,852千円、未払費用が2,916千円増加した一方で、未払法人税等が21,799千円減少したことが主な要因であります。
固定負債は1,154,965千円となり、前事業年度末に比べ175,974千円減少いたしました。これは、長期借入金が160,008千円、長期未払金が12,500千円、退職給付引当金が3,466千円減少したことが要因であります。
この結果、負債合計は、1,576,550千円となり、前事業年度末に比べ62,475千円減少いたしました。
(純資産)
当事業年度末における純資産は2,752,502千円となり、前事業年度末に比べ327,120千円減少いたしました。これは、減資による欠損填補として繰越利益剰余金が2,636,930千円、新株予約権の行使による新株の発行により資本金と資本準備金がそれぞれ220,794千円増加した一方で、減資による欠損填補として資本金が728,653千円、資本準備金が1,908,276千円減少し、当期純損失778,824千円を計上したことが主な要因であります。
この結果、自己資本比率は63.3%(前事業年度末は65.3%)となりました。
② 経営成績の状況
当事業年度における国内の医薬品業界は、新薬創出の難易度が高まる中、医療費を含む社会保障費の適正化政策の方針継続や薬価制度の改正の影響等により、厳しい事業環境の中で推移いたしました。
このような環境のもと、当社は新たに海外事業展開を図るべく、住友重機械工業株式会社と同社のBNCT用加速器の海外導入に向けてパートナーシップ契約を締結し、2022年6月には同社とともに中国・海南博鰲(ボアオ)楽城国際医療旅遊先行区へのBNCTの導入に向けて、中国生物科技服務控股有限公司及び同社傘下の鵬博(海南)硼中子医療科技有限公司と、当社製品である「ステボロニン®」の供給に関する基本契約を締結いたしました。当該契約の締結により、日本発の治療を初めて海外に展開することになりました。また、同年12月には欧米市場を対象とした当社製品の安定供給体制の確立のため、米国の医薬品受託製造会社であるBryllan LLCとの間で医薬品開発製造に関する基本契約を締結し、海外での生産体制構築に着手いたしました。
また、開発パイプラインの一つである悪性黒色腫及び血管肉腫を対象とした第Ⅰ相臨床試験の主要評価に関する観察期間が完了し、血管肉腫を対象とした国内第Ⅱ相臨床試験を開始するとともに、国内では再発悪性神経膠腫の治療に対するBNCTの有効性を、PET(陽電子放出断層撮影)検査を用いた新しい評価方法で、より正確に評価することを目的とした研究者主導の特定臨床研究への協力に関する契約を締結したほか、国内におけるBNCTの拡大への取り組みとして、国立大学法人岡山大学と悪性黒色腫を対象にBNCTの応用に向けた共同研究に関する契約を締結いたしました。
BNCT治療の認知度向上に向けた取り組みとしましては、IAEA(International Atomic Energy Agency, 国際原子力機関)総会サイドイベントにて、BNCT用薬剤に関する発表を行いました。同機関が掲げる原子力の平和利用や医療貢献の観点から、日本で治療が開始されたBNCTはIAEA内でも注目されており、当該サイドイベントには製薬企業としては当社が唯一参加し、BNCT及び当社の認知度向上につなげることができました。
これら海外事業展開の加速化や開発パイプラインのより一層の充実、BNCTの認知度向上に向けた様々な施策の実
行のため、行使価額修正条項付新株予約権を用いた追加的な資金調達も同時に実施しております。
国内のBNCTの症例数については、新型コロナウイルス感染症による医療機関への受診控えが落ち着きを示すとと
もに、各種学会や当社が主催するWebセミナーを積極的に開催し、BNCTの普及活動を全社一丸となって推進することで症例数は増加いたしました。その影響により売上高は伸長した一方、海外事業の展開に向けた先行投資等が発生することで販売費及び一般管理費は増加いたしました。
以上の結果、 当事業年度の売上高は229,067千円(前年同期比128.8%増)、営業損失は806,775千円(前事業年度は営業損失741,902千円)、経常損失は775,974千円(前事業年度は経常損失764,088千円)、当期純損失は778,824千円(前事業年度は当期純損失767,719千円)となりました。
なお、当社は医薬品開発事業のみの単一セグメントであるため、セグメント別の記載は省略しております。
<創薬パイプラインの状況>
(ⅰ)SPM-011[対象疾患:再発悪性神経膠腫]
日本国内において、2015年12月に第Ⅱ相臨床試験の治験届を提出し、2017年4月には厚生労働省の「先駆け審査指定制度」の対象品目に指定され、2020年7月に治験終了届を提出いたしました。
当該治験の主要評価項目は、BNCT施術後1年後における生存割合とし、安全性及び有効性について評価しております。その結果、再発膠芽腫24例の1年生存率が79.2%となり、試験開始前の設定期待値60%を超える結果となりました。当該試験結果をもって、先駆け審査指定制度の枠組みにおいて独立行政法人医薬品医療機器総合機構と一部変更申請に向けた協議を行っておりましたが、当該試験の主要評価項目である生存率は、年齢やがんの組織型(grade)、術前の全身状態等の患者背景因子が影響することから、同機構からは、当該因子の相違を排除した上で有効性を示す追加的な臨床データの必要性について指摘されました。
当該指摘に対して当社は、レトロスペクティブ調査により、追加的に要求された臨床データの取得を計画し、同機構と協議を継続してまいりましたが、同調査は中止し、今後の方向性については再検討することとしております 。
(ⅱ)SPM-011[対象疾患:再発高悪性度髄膜腫]
大阪医科薬科大学病院において、医師主導治験として第Ⅱ相臨床試験を実施しており、2021年9月には当該試験の被験者登録が終了しました。今後は被験者の経過観察期間(最長3年間)を経て、評価、データ解析等の試験が実施される予定であり、当該試験の終了後はPMDAと申請に向けた協議を開始いたします。
なお、当該試験で使用された治験薬は当社が提供しております。
(ⅲ)SPM-011[対象疾患:悪性黒色腫及び血管肉腫]
日本国内において、2019年9月に治験届を提出し、2022年9月には第Ⅰ相臨床試験の主要評価に関する90日間の観察期間が完了いたしました。その結果、患者の組み入れ数において血管肉腫が多数を占めたため、より早く医療現場にBNCTを届ける可能性が高いと判断し、2022年11月には、血管肉腫を対象とした国内第Ⅱ相臨床試験を開始し、2023年1月には最初の被験者への照射も実施されました。なお、血管肉腫に関しては、希少疾病医薬品の指定に向けて、厚生労働省と協議しております。
今後、血管肉腫を優先的に開発することとしながら、悪性黒色腫の開発は第Ⅰ相臨床試験で対象とした疾患から適応を広げることも含めて引き続き検討していく予定です。
なお、本試験は株式会社CICSが開発した加速器中性子捕捉療法装置「CICS-1」を用い、国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院において実施しております。
③ キャッシュ・フローの状況
当事業年度末における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、2,669,727千円(前事業年度末は3,235,502千円)となり、前事業年度末に比べ565,775千円減少いたしました。
当事業年度末における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
当事業年度において営業活動の結果使用した資金は827,669千円(前年同期は1,081,129千円の支出)となりました。これは主に、税引前当期純損失775,974千円を計上するとともに、棚卸資産が166,972千円増加、売上債権が42,348千円増加した一方で、未払金が108,584千円増加、減価償却費を35,049千円計上したことによるものであります。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
当事業年度において投資活動の結果使用した資金は29,925千円(前年同期は350,562千円の支出)となりました。これは主に、有形固定資産の取得による支出25,404千円によるものであります。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
当事業年度において財務活動の結果獲得した資金は291,819千円(前年同期は3,829,240千円の収入)となりました。これは主に、新株予約権の行使による株式発行による収入438,324千円、新株予約権の発行による収入13,409千円があった一方で、長期借入金の返済による支出160,008千円があったことによるものであります。
④ 生産、受注及び販売の実績
a.生産実績
事業部門の名称
当事業年度
(自 2022年4月1日
至 2023年3月31日)
金額(千円)
前年同期比(%)
医薬品事業
373,437
74.0
(注)金額は販売価格によっております。
b.受注実績
当社は、市場動向の予測に基づく見込み生産を行っており、受注生産は行っておりません。
c.販売実績
当社は、医薬品事業の単一セグメントであるため、セグメント別の記載を行っておりません。
当事業年度の販売実績は以下のとおりであります。
事業部門の名称
当事業年度
(自 2022年4月1日
至 2023年3月31日)
金額(千円)
前年同期比(%)
医薬品事業
229,067
228.8
(注)主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合
相手先
前事業年度
(自 2021年4月1日
至 2022年3月31日)
当事業年度
(自 2022年4月1日
至 2023年3月31日)
金額(千円)
割合(%)
金額(千円)
割合(%)
株式会社エス・ディ・コラボ
100,096
100.0
229,067
100.0
(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
経営者の視点による当社の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は、次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当事業年度末現在において判断したものであります。
① 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社の財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して作成されております。この財務諸表の作成には、経営者による会計方針の選択・適用、資産・負債及び収益・費用の報告金額及び開示に影響を与える見積りを必要としております。これらの見積りについては、過去の実績等を勘案し合理的に判断しておりますが、実際の結果は、見積りによる不確実性のため、これらの見積りと異なる場合があります。
② 当事業年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容につきましては、「4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要」に含めて記載しております。
③ 資本の財源及び資金の流動性
当社の運転資金は、新株式の発行と金融機関からの借入であります。当事業年度末における現金及び現金同等物は2,669,727千円であり、充分な流動性を確保しております。当社は、研究開発投資が資金需要の大部分を占めており、今後も継続して研究開発投資を実施する方針であります。必要な資金につきましては、自己資金のほか、新株式の発行や金融機関からの借入等により、資金調達を行う方針であります。
④ 経営戦略の現状と見通し
当社の経営上の目標は、BNCTの認知度の向上と上市後の安定的な収益の獲得及びそれに伴う事業基盤の確立であります。そこでBNCTの実施症例数の伸長に基づく月次売上高(ステボロニン®の受注数量)を上記目標の達成状況を判断するための主要な経営指標としております。
当事業年度の月次売上高の推移は次のとおりとなっております。
(単位:千円)
売上高
4月
5月
6月
7月
8月
9月
年間累計
7,699
7,699
30,799
15,399
7,699
23,099
229,067
10月
11月
12月
1月
2月
3月
13,474
15,399
53,898
15,399
7,699
30,799
今後もBNCTの認知度の向上と上市後の安定的な収益獲得が実現できるよう経営資源を重点的に配分してまいります。
⑤ 経営成績に重要な影響を与える要因について
経営成績に重要な影響を与える要因につきましては、「3 事業等のリスク」をご参照下さい。
⑥ 経営者の問題意識と今後の方針
経営者の問題意識と今後の方針につきましては、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」をご参照下さい。