【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
文中の将来に関する事項は、当四半期会計期間の末日現在において判断したものであります。
(1)財政状態の状況
(資産)
当第3四半期会計期間末における流動資産は3,515,049千円となり、前事業年度末に比べ660,137千円減少いたしました。これは、売掛金が74,110千円、原材料及び貯蔵品が124,252千円増加した一方で、現金及び預金が803,505千円、その他の流動資産が51,372千円減少したことが主な要因であります。
固定資産は538,102千円となり、前事業年度末に比べ5,360千円減少いたしました。これは、有形固定資産が7,028千円増加した一方で、無形固定資産が4,072千円及び投資その他の資産が8,317千円減少したことが要因であります。
この結果、総資産は4,053,152千円となり、前事業年度末に比べ665,497千円減少いたしました。
(負債)
当第3四半期会計期間末における流動負債は241,358千円となり、前事業年度末に比べ66,728千円減少いたしました。これは、未払費用が13,096千円、預り金が16,533千円増加した一方で、買掛金が48,595千円、未払金が22,698千円、未払法人税等が25,064千円減少したことが要因であります。
固定負債は1,202,012千円となり、前事業年度末に比べ128,927千円減少いたしました。これは、長期借入金が120,006千円減少したことが主な要因であります。
この結果、負債合計は、1,443,370千円となり、前事業年度末に比べ195,655千円減少いたしました。
(純資産)
当第3四半期会計期間末における純資産は2,609,781千円となり、前事業年度末に比べ469,842千円減少いたしました。これは、新株予約権の払込により13,409千円増加した一方で、四半期純損失483,220千円を計上したことが主な要因であります。
この結果、自己資本比率は64.1%(前事業年度末は65.3%)となりました。
(2)経営成績の状況
当第3四半期累計期間における国内の医薬品業界は、新薬創出の難易度が高まる中、医療費を含む社会保障費の適正化政策の方針継続や薬価制度の改正の影響等により、厳しい事業環境の中で推移いたしました。
このような環境のもと、当社は、開発パイプラインの一つである悪性黒色腫※1及び血管肉腫※2を対象とした第Ⅰ相臨床試験の主要評価に関する90日間の観察期間が完了し、11月には血管肉腫を対象とした国内第Ⅱ相臨床試験を開始いたしました。
国内におけるBNCT※3市場の拡大への取り組みとして、国立大学法人岡山大学と悪性黒色腫を対象にBNCTの応用に向けた共同研究に関する契約を締結したほか、BNCTの認知度向上に向けた各種セミナーや当社が主催するWebセミナーを積極的に開催する等、より一層普及活動を推進いたしました。
また、海外展開においては、BNCTの導入が決定した中国・海南博鰲(ボアオ)楽城国際医療旅遊先行区へ2025年度から薬剤販売(輸出)を開始すべく準備を進めています。さらに欧米市場を対象とした「ステボロニン®」の安定供給体制の確立に向けて、当社製品の製造、梱包、保管等を委託する目的のもと、12月7日に米国の医薬品受託製造会社であるBryllan LLCとの間で医薬品開発製造に関する基本契約を締結いたしました。今後各国及び地域規制に合致した当社製品を当該会社で製造させることで、米国市場への供給及び欧州市場への輸出を進めていき、グローバル展開のための事業基盤を確立してまいります。
BNCTの認知度向上に向けた上記取り組みを進めた結果、医療機関への集患力が向上したことから、 当第3四半期累計期間の売上高は175,169千円(前年同期比106.8%増)、営業損失は503,005千円(前年同期の営業損失は517,958千円)、経常損失は480,498千円(前年同期の経常損失は557,393千円)、四半期純損失は483,220千円(前年同期の四半期純損失は560,116千円)となりました。
なお、当社は医薬品開発事業のみの単一セグメントであるため、セグメント別の記載は省略しております。
<創薬パイプラインの状況>
①SPM-011[対象疾患:再発悪性神経膠腫※4]
日本国内において、2015年12月に第Ⅱ相臨床試験の治験届を提出し、2017年4月には厚生労働省の「先駆け審
査指定制度」※5の対象品目に指定され、2020年7月に治験終了届を提出いたしました。
当該治験の主要評価項目は、BNCT施術後1年後における生存割合とし、安全性及び有効性について評価してお
ります。その結果、再発膠芽腫24例の1年生存率が79.2%となり、試験開始前の設定期待値60%を超える結果と
なりました。当該試験結果をもって、先駆け審査指定制度の枠組みにおいて独立行政法人医薬品医療機器総合機
構と一部変更申請に向けた協議を行っておりましたが、当該試験の主要評価項目である生存率は、年齢やがんの
組織型(grade)、術前の全身状態等の患者背景因子が影響することから、同機構からは、当該因子の相違を排除
した上で有効性を示す追加的な臨床データの必要性について指摘されました。
当該指摘に対して当社は、レトロスペクティブ調査※6により、追加的に要求された臨床データの取得を計画し、同機構と協議を継続してまいりましたが、同調査は中止し、今後の方向性については再検討することとして
おります。
②SPM-011[対象疾患:再発高悪性度髄膜腫※7]
大阪医科薬科大学病院において、医師主導治験※8として第Ⅱ相臨床試験を実施しており、2021年9月には当該
試験の被験者登録が終了しました。今後は被験者の経過観察期間(最長3年間)を経て、評価、データ解析等が実施される予定です。
なお、当該試験で使用された治験薬は当社が提供しております。
③SPM-011[対象疾患:悪性黒色腫及び血管肉腫]
日本国内において、2019年9月に治験届を提出し、2022年9月には第Ⅰ相臨床試験の主要評価に関する90日間
の観察期間が完了いたしました。その結果、患者の組み入れ数において血管肉腫が多数を占めたため、より早く医療現場にBNCTを届ける可能性が高いと判断し、2022年11月には、血管肉腫を対象とした国内第Ⅱ相臨床試験を開始いたしました。
今後、血管肉腫を優先的に開発することとしながら、悪性黒色腫の開発は第Ⅰ相臨床試験で対象とした疾患から適応を広げることも含めて引き続き検討していく予定です。
なお、本試験は株式会社CICSが開発した加速器中性子捕捉療法装置「CICS-1」を用い、国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院において実施しております。
<語句説明>
※1「悪性黒色腫」
悪性黒色腫は皮膚がんの一つで、単に黒色腫又はメラノーマと呼ばれることもあります。皮膚の色と関係するメ
ラニン色素を産生する皮膚の細胞で、表皮の基底層に分布しているメラノサイト又は母斑細胞が悪性化した腫瘍と
考えられています。
※2「血管肉腫」
血管肉腫とは、血管の内皮細胞から発生するがんのことです。体のいたるところにできる可能性があり、皮膚に
生じることが多いがんです。
※3「BNCT」
BNCT(Boron Neutron Capture Therapy)とは、放射線治療の一種であり、新しいがんの治療法です。ホウ素の
安定同位体であるB-10(天然ホウ素に約20%含まれる)の原子核はエネルギーの低い低速の中性子(熱中性子)
をよく吸収し、直ちにヘリウム原子核(4He核(α粒子))とリチウム原子核(7Li核)に分裂します。これら原
子核は細胞を破壊する能力が非常に大きい一方で、影響を及ぼす範囲が4~9ミクロン(μm)と極めて短いこと
が特徴です。また、熱中性子自体の細胞破壊能力は小さいため、B-10を含む物質ががん細胞に選択的に集積し、そ
こに熱中性子が照射されると、そのがん細胞は選択的に破壊されます。この原理に基づいて考案された医療技術が
BNCTです。
※4「悪性神経膠腫」
神経膠腫とは、脳に発生する悪性腫瘍で原発性脳腫瘍の約30%を占めます。神経膠腫は、その悪性度によって4
段階(グレードⅠ~Ⅳ)に分類され、中でもグレードⅢ~Ⅳに分類される悪性度が高い神経膠腫を悪性神経膠腫と
呼び、さらにグレードⅣの神経膠腫を膠芽腫と呼びます。膠芽腫を含む悪性神経膠腫は、現在なお治療が困難な疾
患とされています。
※5「先駆け審査指定制度」
一定の要件を満たす新薬等について、厚生労働省が、開発の比較的早期の段階から薬事承認に係る相談・審査等
において優先的な取扱いを行う制度です。具体的には、「①治療薬の画期性、②対象疾患の重篤性、③対象疾患に
かかる極めて高い有効性、④世界に先駆けて日本で早期開発・申請する意思」の4つの要件を満たす画期的な新薬
等を開発段階で対象品目に指定し、新たに整備された相談の枠組みを優先的に適用し、かつ優先審査を適用するこ
とにより、審査期間を6ヶ月(通常は12ヶ月)まで短縮することを目指すものとされています。
なお、先駆け審査指定制度においては、対象品目の指定時に予定される効能又は効果も指定されることから、製
造販売承認取得後に適応疾患を拡大する際には同制度の対象外となります。当社は、現在、再発悪性神経膠腫と切
除不能な局所再発頭頸部癌並びに局所進行頭頸部癌(非扁平上皮癌)について、対象品目の指定を受けています。
※6「レトロスペクティブ調査」
レトロスペクティブ調査とは、疫学調査で用いられる方法の一つで、調査を開始した時点から過去に遡って対象
者の情報を集めることから、後ろ向き研究とも呼ばれます。
当該調査では、BNCT以外の治療を受けられた患者群のデータを収集し、第Ⅱ相臨床試験の結果と患者背景因子の
相違を排除した比較を行うことを目的として検討しておりました。
※7「高悪性度髄膜腫」
髄膜とは、脳と脊髄を保護している薄い組織層で、髄膜腫とはその内側の層の一つにできるがんのことです。髄
膜腫は良性であることが多く、高悪性度髄膜腫は希少疾患である一方で、再発や転移を起こしやすい、治りにくい
腫瘍の一つです。
※8「医師主導治験」
医師主導治験とは、製薬企業等と同様に医師自ら治験を企画・立案し、治験計画届を提出して実施する治験を指
します。大阪医科薬科大学において実施している再発高悪性度髄膜腫の臨床試験に使用されたホウ素薬剤は、当社
から提供しています。
(3)会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
有価証券報告書に記載した「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」中の会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定の記載について重要な変更はありません。
(4)経営方針・経営戦略等
当第3四半期累計期間において、当社が定めている経営方針・経営戦略等について重要な変更はありません。
(5)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当第3四半期累計期間において、当社が優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題について重要な変更はありません。
(6)研究開発活動
当第3四半期累計期間における研究開発活動の金額は、185,789千円であります。
なお、当第3四半期累計期間において、当社の研究開発活動の状況に重要な変更はありません。