【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
文中の将来に関する事項は、当四半期連結会計期間の末日現在において判断したものであります。
(1)経営成績の状況
新型コロナウイルス感染症は、年明け以降感染者数が減少を続け、5月8日からは感染症法上の位置づけが季節性インフルエンザと同等の5類に見直されました。社会・経済活動は、感染症流行前の状況へと戻りつつあります。製薬業界においては、新型コロナウイルス感染症の状況変化による影響は少ないものの、後発医薬品製造メーカーの生産停止に伴う供給不足等の問題がある一方、多様化する医薬品開発やその中でのバイオ医薬品の需要の高まりを見越し、CDMO事業への参入や投資拡大の動き等が見られます。
再生医療分野では、心不全等に対する複数の臨床研究での患者への投与が開始され、また急性期脳梗塞においてもグローバル治験が開始されました。
このような状況のもと、当社グループは体性幹細胞再生医薬品分野及びiPSC再生医薬品分野において研究開発を推進いたしました。
体性幹細胞再生医薬品分野においては、脳梗塞急性期及び急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療薬の承認取得に向け、それぞれの治験結果に基づき、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)と治験データの補強等に向けた協議を継続しています。
iPSC再生医薬品分野においては、遺伝子編集技術により特定機能を強化した他家iPS細胞由来のナチュラルキラー細胞(以下、eNK®細胞と言います。)を用いた次世代がん免疫に関する研究を進めております。また、遺伝子編集技術を用いた免疫拒絶のリスクの少ない次世代iPS細胞、ユニバーサルドナーセル(Universal Donor Cell:以下、UDCと言います。)を用いた新たな治療薬の研究や細胞置換を必要とする疾患に対する治療法の研究を進めており、海外企業とのライセンス契約の締結をはじめ、国内外の企業・研究機関にUDCやiPS細胞を提供し様々な疾患への適応可能性について評価を進めています。
今後の研究活動の継続に向けた事業体制の適正化に向け、経営資源の再配分、固定費削減を中心とした合理化施策の実施、財務基盤の強化を目指した資金調達等に取り組んでおり、その一環として2023年1月からは、本社を移転・縮小しました。
以上の結果、当第1四半期連結累計期間の経営成績は、売上収益は7百万円(前年同期比33.9%減)、営業損失は888百万円(前年同期は1,429百万円の営業損失)、税引前四半期損失は735百万円(前年同期は1,415百万円の税引前四半期損失)、親会社の所有者に帰属する四半期損失は732百万円(前年同期は1,460百万円の親会社の所有者に帰属する四半期損失)となりました。
(2)財政状態の状況
① 資産、負債及び資本の状況
(資産)
当第1四半期連結会計期間末の資産合計は、前連結会計年度末に比べ157百万円増加し、15,190百万円となりました。流動資産は154百万円減少し、8,308百万円となりました。主な要因は、現金及び現金同等物の減少98百万円であります。非流動資産は311百万円増加し、6,882百万円となりました。主な要因は、持分法で会計処理されている投資の減少150百万円、その他の金融資産の増加605百万円であります。
(負債)
当第1四半期連結会計期間末の負債合計は、前連結会計年度末に比べ675百万円増加し、11,326百万円となりました。流動負債は135百万円減少し、3,674百万円となりました。主な要因は、営業債務及びその他の債務の減少52百万円、その他の流動負債の減少34百万円であります。非流動負債は810百万円増加し、7,652百万円となりました。主な要因は、Saiseiファンドにおける外部投資家持分の増加840百万円であります。
(資本)
当第1四半期連結会計期間末の資本合計は、前連結会計年度末に比べて518百万円減少し、3,864百万円となりました。主な要因は、四半期損失728百万円の計上であります。
② キャッシュ・フローの状況
当第1四半期連結会計期間末における現金及び現金同等物(以下、資金と言います。)は、前連結会計年度末と比べて98百万円減少し、7,148百万円となりました。当第1四半期連結累計期間における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は以下のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動により使用した資金は678百万円(前年同期は1,365百万円の資金の使用)となりました。これは主に、税引前四半期損失735百万円、金融収益190百万円及び金融費用37百万円の計上等によるものであります。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動により使用した資金は483百万円(前年同期は276百万円の資金の使用)となりました。これは主に、投資有価証券の取得による支出530百万円等によるものであります。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動により獲得した資金は1,060百万円(前年同期は4百万円の資金の使用)となりました。これは主に、Saiseiファンドにおける外部投資家からの払込による収入841百万円及び外部投資家へのSaiseiファンドに対する持分売却による収入133百万円等によるものであります。
(3)会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
前事業年度の有価証券報告書に記載した「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」中の会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定の記載について重要な変更はありません。
(4)経営方針・経営戦略等
当第1四半期連結累計期間において、当社が定めている経営方針・経営戦略等について重要な変更はありません。
(5)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当第1四半期連結累計期間において当社グループが優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題について重要な変更はありません。なお、前連結会計年度に掲げた課題のうち資金調達・管理に関する課題については、引き続き体性幹細胞再生医薬品分野、iPSC医薬品分野における固形がんを対象としたeNK®細胞、CAR-eNK®細胞のパイプラインにおいて特に経営資源を集中して研究開発を進める方針を継続しており、2023年3月末に保有している資金から2023年4月以降12月末までの当社の事業資金への充当額は約20億円となる見込みです。2024年度以降も上記の方針を継続し、研究開発を進めていく予定です。
(6)研究開発活動
当第1四半期連結累計期間においては、体性幹細胞再生医薬品、iPSC再生医薬品の各分野において、以下のとおり研究開発を推進いたしました。
当第1四半期連結累計期間における研究開発費の総額は、544百万円(前年同期は1,087百万円)であります。
① 体性幹細胞再生医薬品分野
当第1四半期連結累計期間において、体性幹細胞再生医薬品を用いて、日本国内における脳梗塞急性期及びARDSに対する治療薬(開発コード:HLCM051)の開発を進めました。
<炎症>
脳梗塞急性期に対する治療薬の開発においては、有効性及び安全性を検討するプラセボ対照二重盲検第Ⅱ/Ⅲ相試験(治験名称:TREASURE試験)を実施しました。2022年3月末にすべての治験登録患者の投与後365日後データの収集が完了し、同年5月に試験データの一部を解析し速報値を公表しました。その結果、主要評価項目は未達となりました。一方で、脳梗塞患者の日常生活における臨床的な改善を示す複数の指標を通じて、全般的に1年後の患者の日常生活自立の向上が示唆されました。この結果を受け、当社がライセンス契約を締結しているアサシス社は、米国・欧州で同じ薬剤を使用している脳梗塞急性期の治験(治験名称:MASTERS-2試験)の主要評価項目を投与後90日から365日に変更する等について米国FDA(Food and Drug Administration)と協議し、2023年3月に要請が受理されました。この合意を受け、当社はTREASURE試験の今後の方針について、米国での治験データの活用も含めPMDAと更に相談を進めております。
ARDSに対する治療薬の開発においては、肺炎を原因疾患としたARDS患者を対象に、有効性及び安全性を検討する第Ⅱ相試験(治験名称:ONE-BRIDGE試験)を実施しました。2021年8月と11月に、ONE-BRIDGE試験におけるHLCM051投与後90日と180日の評価項目のデータの一部を発表し、有効性並びに安全性について良好な結果が示されましたが、2022年3月末にPMDAと実施した再生医療等製品申請前相談の中で、本製品の有効性及び安全性に関する一定の合意は得られたものの、承認申請にあたってはデータ補強が必要との助言を受けました。2023年2月末にPMDAと追加試験に関する相談を実施し、データ補強に必要な臨床試験の概要について一定の合意が得られました。なお、2022年12月に三菱UFJキャピタル株式会社との間で、将来的にARDSに対する治療薬の開発に対する助言と開発費の拠出を目的とする新会社設立、及び当社と新会社間の共同開発契約締結に向けた基本合意書を締結しました。
② iPSC再生医薬品分野
当第1四半期連結累計期間において、がん免疫療法(開発コード:HLCN061)、細胞置換療法に関する研究開発を進めました。
<がん免疫>
eNK®細胞を用いて、固形がんを対象にしたがん免疫療法の研究を進めています。これまで当社グループが培ってきたiPS細胞を取り扱う技術と遺伝子編集技術を用いることで、殺傷能力を高めたeNK®細胞の作製に成功しており、更に大量かつ安定的に作製する製造工程を開発するなど、次世代がん免疫療法を創出すべく自社研究を進めています。神戸医療イノベーションセンター内に、2022年7月、当社の自社管理による細胞加工製造用施設が本稼働し、eNK®細胞の治験製品の製造に向けた試作製造に着手しております。
現在までの研究の成果としては、国立研究開発法人国立がん研究センターとの共同研究において、複数種類のがん腫に由来するPDX(Patient-Derived Xenograft:患者腫瘍組織移植片)サンプルにより、eNK®細胞が認識する特定の分子候補の発現をRNAシーケンシングと免疫染色で確認しています。次のステップとして、PDXを用いてeNK®細胞の抗腫瘍効果などの評価を実施しています。更に、国立大学法人広島大学大学院とeNK®細胞を用いた肝細胞がんに対するがん免疫細胞療法に関する共同研究を、兵庫医科大学とeNK®細胞を用いた中皮腫に対するがん免疫細胞療法に関する共同研究を進めています。また、自社研究において、eNK®細胞が肺がんモデルマウスやヒト肝がんモデルマウスに対して抗腫瘍効果を有すること、生体におけるがんと同様の環境を有している肺がん患者由来のがんオルガノイド*1においても、同様に抗腫瘍効果があることを確認しております。現在、eNK®細胞を用いた治験の開始を目指し、PMDAとの相談を進めています。なお、当社は、2023年3月に開催されました第22回日本再生医療学会総会にて、eNK®細胞の研究成果について6演題のポスター発表を致しました。
*1 生体内の組織・器官に極めて似た特徴を有している3次元的な構造をもつ組織・細胞
<細胞置換>
iPSCプラットフォームとして、遺伝子編集技術を用いた、HLA型に関わりなく免疫拒絶のリスクを低減する次世代iPS細胞、UDCに関する研究を進めております。患者の免疫細胞に認識されにくいiPS細胞を作製することで拒絶反応を抑制し、有効性と安全性を高めた再生医療等製品を開発するための次世代技術プラットフォームの確立を目指しております。現在、UDCの臨床株及びマスターセルバンクが完成し、様々な細胞に分化できる能力を有することの確認など具体的な臨床応用に向けた研究を進めております。細胞治療への応用としては、網膜を構成する細胞の1つで特に光に反応する視細胞に関し、UDCからの分化誘導が可能なことをカナダのバイオベンチャー企業であるSTEMAXONとの共同研究を通じて確認し、疾患動物モデルを用いた評価を進めています。また、国立研究開発法人国立国際医療研究センターと、血糖値に応じてインスリンを生産・分泌し血液中の糖の調整を担う膵臓β細胞に関し、UDCからの作製に成功しています。
眼科領域において、iPS細胞由来網膜色素上皮(RPE)細胞(開発コード:HLCR011)を用いた治療法開発に向けて、現在、住友ファーマ株式会社(以下、住友ファーマと言います。)と共同で治験開始に向けた準備を進めています。
肝疾患領域において、機能的なヒト臓器をつくり出す3次元臓器(開発コード:HLCL041)を用いた治療法開発に向けた研究を進めており、2022年4月より、国立大学法人東京大学医科学研究所再生医学分野と、肝疾患に対する肝臓原基*2を用いた治療法の実用化に向け、UDCを用いた肝臓原基の製造法確立を目的とした共同研究を進めてまいりました。2023年2月には、開発のさらなる加速のため、当社からカーブアウトした上でベンチャーキャピタル等の外部パートナーと共同で研究開発を推進する方針を決定いたしました。
新たな治療薬の研究や細胞置換を必要とする疾患に対するさらなる治療法の研究を目的に、国内外の企業・研究機関10社以上にUDCやiPS細胞を提供し様々な疾患への適応可能性について評価を実施しています。また、2023年3月に開催されました第22回日本再生医療学会総会にて、UDCの研究成果に関するポスター発表を致しました。
*2 肝臓の基となる立体的な肝臓の原基。肝細胞に分化する前の肝前駆細胞を、細胞同士をつなぐ働きを持つ間葉系細胞と、血管をつくり出す血管内皮細胞に混合して培養することで形成されます。
なお、当社グループは医薬品事業のみの単一セグメントであるため、セグメント別の記載を省略しております。
以下の表は、本四半期報告書提出日現在の当社グループの開発品並びにその適応症、市場、開発段階及び進捗状況を示しております。
<体性幹細胞再生医薬品分野>
<iPSC再生医薬品分野>
(*)Retinal Pigment Epithelium:網膜色素上皮細胞