【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
文中の将来に関する事項は、当四半期連結会計期間の末日現在において判断したものであります。
(1)経営成績の状況
8月に国内での新規陽性者数が26万人を超えた新型コロナウイルスの流行は、その後急速に収束し、9月には政府の「新型コロナウイルスの基本的対処法」が見直され、感染者数の全数把握の簡略化、10月には海外からの入国制限も緩和されました。新たな変異株への対応や、ワクチン接種率の向上などの課題はありますが、経済活動はコロナ前の状況へと戻ってきています。一方で経済全体では、急速な円安の進展により国内の物価が高騰しており、広く国民生活を圧迫する事態となっています。製薬業界においては、新型コロナウイルス治療薬の緊急承認制度の適用を求めた申請が注目されました。
再生医療分野では、8月に順天堂大学の研究チームが、iPS細胞から作製された心筋シートを大阪府の施設から輸送し、重症の心不全患者に移植する臨床試験を実施しました。心筋シートを遠隔地に輸送して移植できることが確認されました。
このような状況のもと、当社グループは体性幹細胞再生医薬品分野及びiPSC再生医薬品分野において研究開発を推進しました。
体性幹細胞再生医薬品分野においては、脳梗塞急性期及び急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療薬の承認取得に向け、それぞれの治験結果に基づき、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)と承認申請に向けた協議を継続しています。
iPSC再生医薬品分野においては、遺伝子編集技術により特定機能を強化した他家iPS細胞由来のナチュラルキラー細胞(以下、eNK®細胞と言います。)を用いた次世代がん免疫に関する研究を進めており、治験開始を目指してPMDAとの相談を進めています。また、遺伝子編集技術を用いた免疫拒絶のリスクの少ない次世代iPS細胞、ユニバーサルドナーセル(Universal Donor Cell:以下、UDCと言います。)を用いた新たな治療薬の研究や細胞置換を必要とする疾患に対する治療法の研究を進めています。その一環として、9月には、米国のバイオテクノロジー企業、RxCell Inc.と、当社のGMPグレードの商業用iPS細胞株を非独占的に提供するライセンス契約を締結しました。
しかしながら、体性幹細胞再生医薬品分野においては当初見込んでいた申請スケジュールに遅延が発生し、今後の研究活動の継続に向けた事業体制の適正化に向け、経営資源の再配分、固定費削減を中心とした合理化施策の実施、財務基盤の強化を目指した資金調達等に取り組んでいます。2022年8月には、eNK®細胞を用いたパイプラインの研究開発に関わる費用を調達するため、第三者割当による新株予約権を発行しました。
以上の結果、当第3四半期連結累計期間の経営成績は、売上収益は30百万円(前年同期比0.3%増)、営業損失は4,105百万円(前年同期は3,872百万円の営業損失)、税引前四半期損失は4,269百万円(前年同期は3,675百万円の税引前四半期損失)、親会社の所有者に帰属する四半期損失は3,956百万円(前年同期は3,694百万円の親会社の所有者に帰属する四半期損失)となりました。
(2)財政状態の状況
① 資産、負債及び資本の状況
(資産)
当第3四半期連結会計期間末の資産合計は、前連結会計年度末に比べ9,053百万円減少し、14,919百万円となりました。流動資産は8,289百万円減少し、8,140百万円となりました。主な要因は、現金及び現金同等物の減少8,179百万円であります。非流動資産は764百万円減少し、6,779百万円となりました。主な要因は、その他の金融資産の減少765百万円であります。
(負債)
当第3四半期連結会計期間末の負債合計は、前連結会計年度末に比べ5,003百万円減少し、10,324百万円となりました。流動負債は5,396百万円減少し、646百万円となりました。主な要因は、社債及び借入金の減少4,735百万円であります。非流動負債は393百万円増加し、9,678百万円となりました。主な要因は、繰延税金負債の減少316百万円、Saiseiファンドにおける外部投資家持分の増加534百万円、その他の非流動負債の増加189百万円であります。
(資本)
当第3四半期連結会計期間末の資本合計は、前連結会計年度末に比べて4,050百万円減少し、4,595百万円となりました。主な要因は、四半期損失3,957百万円の計上及びその他の資本の構成要素の減少1,406百万円であります。
② キャッシュ・フローの状況
当第3四半期連結会計期間末における現金及び現金同等物(以下、資金と言います。)は、前連結会計年度末と比べて8,179百万円減少し、6,947百万円となりました。当第3四半期連結累計期間における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は以下のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動により使用した資金は3,881百万円(前年同期は3,279百万円の資金の使用)となりました。これは主に、税引前四半期損失4,269百万円、減価償却費及び償却費283百万円、金融収益276百万円及び金融費用444百万円の計上等によるものであります。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動により使用した資金は809百万円(前年同期は549百万円の資金の使用)となりました。これは主に、有形固定資産の取得による支出188百万円及び投資有価証券の取得による支出526百万円等によるものであります。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動により使用した資金は3,631百万円(前年同期は6,674百万円の資金の獲得)となりました。これは主に、新株予約権付社債の償還による支出5,000百万円及び新株の発行による収入1,117百万円等によるものであります。
(3)会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
前事業年度の有価証券報告書に記載した「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」中の会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定の記載について重要な変更はありません。
(4)経営方針・経営戦略等
当第3四半期連結累計期間において、当社が定めている経営方針・経営戦略等について重要な変更はありません。
(5)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当第3四半期連結累計期間において新たに発生した優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題はありません。
(6)研究開発活動
当第3四半期連結累計期間においては、体性幹細胞再生医薬品、iPSC再生医薬品の各分野において、以下のとおり研究開発を推進しました。
当第3四半期連結累計期間における研究開発費の総額は、3,027百万円(前年同期は2,558百万円)です。
① 体性幹細胞再生医薬品分野
当第3四半期連結累計期間において、体性幹細胞再生医薬品を用いて、日本国内における脳梗塞急性期及びARDSに対する治療薬(開発コード:HLCM051)の開発を進めました。
<炎症>
脳梗塞急性期に対する治療薬の開発においては、有効性及び安全性を検討するプラセボ対照二重盲検第Ⅱ/Ⅲ相試験(治験名称:TREASURE試験)を実施しました。2022年3月末にすべての治験登録患者の投与後365日後データの収集が完了し、同年5月に試験データの一部を解析し速報値を公表しました。その結果、主要評価項目は未達となりました。一方で、脳梗塞患者の日常生活における臨床的な改善を示す複数の指標を通じて、全般的に1年後の患者の日常生活自立の向上が示唆されました。データの詳細は、2022年10月にシンガポールで開催された第14回世界脳卒中学会、11月2日に日本で開催された第40回日本神経治療学会学術集会にて、治験医師より発表されました。現在、規制当局と申請に向けた協議を進めております。
ARDSに対する治療薬の開発においては、肺炎を原因疾患としたARDS患者を対象に、有効性及び安全性を検討する第Ⅱ相試験(治験名称:ONE-BRIDGE試験)を実施しました。2021年8月と11月に、ONE-BRIDGE試験におけるHLCM051投与後90日と180日の評価項目のデータの一部を発表し、有効性並びに安全性について良好な結果が示されました。これらを経て、3月末にPMDAと承認申請に向けての指導及び助言を受けるための再生医療等製品申請前相談を実施いたしました。その中で、本製品の有効性及び安全性に関する一定の合意は得られたものの、承認申請にあたってはデータ補強が必要との助言を受け、規制当局と協議を進めています。
② iPSC再生医薬品分野
当第3四半期連結累計期間において、がん免疫療法(開発コード:HLCN061)、細胞置換療法に関する研究開発を進めました。
<がん免疫>
eNK®細胞を用いて、固形がんを対象にしたがん免疫療法の研究を進めています。これまで当社グループが培ってきたiPS細胞を取り扱う技術と遺伝子編集技術を用いることで、殺傷能力を高めたeNK®細胞の作製に成功しており、更に大量かつ安定的に作製する製造工程を開発するなど、次世代がん免疫療法を創出すべく自社研究を進めています。神戸医療イノベーションセンター内に、2022年7月、当社の自社管理による細胞加工製造用施設が本稼働し、eNK®細胞の治験製品の製造に向けた試作製造に着手いたしました。なお、上記施設にて使用する培養装置の供給元である佐竹マルチミクス株式会社と、2022年10月、培養装置の継続的改良と支援業務に関する資本業務提携契約を締結しました。
現在までの研究の成果としては、国立研究開発法人国立がん研究センターとの共同研究において、複数種類のがん腫に由来するPDX(Patient-Derived Xenograft:患者腫瘍組織移植片)サンプルにより、eNK®細胞が認識する特定の分子候補の発現をRNAシーケンシングと免疫染色で確認しています。次のステップとして、PDXを用いてeNK®細胞の抗腫瘍効果などの評価を行う予定です。更に、国立大学法人広島大学大学院とeNK®細胞を用いた肝細胞がんに対するがん免疫細胞療法に関する共同研究を、兵庫医科大学とeNK®細胞を用いた中皮腫に対するがん免疫細胞療法に関する共同研究を進めています。また、自社研究において、eNK®細胞が肺がんモデルマウスやヒト肝がんモデルマウスに対して抗腫瘍効果を有すること、生体におけるがんと同様の環境を有している肺がん患者由来のがんオルガノイド*1においても、同様に抗腫瘍効果があることを確認しております。なお、eNK®細胞を用いた治験の開始を目指し、PMDAとの相談を開始しています。
*1 生体内の組織・器官に極めて似た特徴を有している3次元的な構造をもつ組織・細胞
<細胞置換>
iPSCプラットフォームとして、遺伝子編集技術を用いた、HLA型に関わりなく免疫拒絶のリスクを低減する次世代iPS細胞、UDCに関する研究を進めております。患者の免疫細胞に認識されにくいiPS細胞を作製することで拒絶反応を抑制し、有効性と安全性を高めた再生医療等製品を開発するための次世代技術プラットフォームの確立を目指しております。現在、UDCの臨床株及びマスターセルバンクが完成し、様々な細胞に分化できる能力を有することの確認など具体的な臨床応用に向けた研究を進めております。細胞治療への応用としては、網膜を構成する細胞の1つで特に光に反応する視細胞に関し、UDCからの分化誘導が可能なことをカナダのバイオベンチャー企業であるSTEMAXONとの共同研究を通じて確認し、疾患動物モデルを用いた評価を進めています。また、国立研究開発法人国立国際医療研究センターと、血糖値に応じてインスリンを生産・分泌し血液中の糖の調整を担う膵臓β細胞に関し、UDCからの作製に成功しています。
眼科領域において、iPS細胞由来網膜色素上皮(RPE)細胞(開発コード:HLCR011)を用いた治療法開発に向けて、現在、住友ファーマ株式会社と共同で、2023年3月までの治験開始を目指し準備を進めています。
肝疾患領域において、機能的なヒト臓器をつくり出す3次元臓器(開発コード:HLCL041)を用いた治療法開発に向けた研究を進めており、2022年4月より、国立大学法人東京大学医科学研究所再生医学分野と、肝疾患に対する肝臓原基*2を用いた治療法の実用化に向け、UDCを用いた肝臓原基の製造法確立を目的とした共同研究を開始しました。
*2 肝臓の基となる立体的な肝臓の原基。肝細胞に分化する前の肝前駆細胞を、細胞同士をつなぐ働きを持つ間葉系細胞と、血管をつくり出す血管内皮細胞に混合して培養することで形成されます。
なお、当社グループは医薬品事業のみの単一セグメントであるため、セグメント別の記載を省略しております。
以下の表は、当第3四半期連結会計期間末現在の当社グループの開発品並びにその適応症、市場、開発段階及び進捗状況を示しております。
<体性幹細胞再生医薬品分野>
<iPSC再生医薬品分野>
(*)Retinal Pigment Epithelium:網膜色素上皮細胞
(7)従業員数
当第3四半期連結累計期間において、主に要員の最適化のための希望退職者募集の実施により、当社従業員数は前連結会計年度末に比べ31名減少しております。