【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
(1)経営成績等の状況の概要
当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。なお、当社グループは、当連結会計年度より連結財務諸表を作成しているため、前年同期及び前連結会計年度末との比較分析は行っておりません。
① 財政状態の状況
(資産)
当連結会計年度末における流動資産は2,474,106千円となりました。この主な内訳は、現金及び預金2,245,438千円、前渡金95,102千円、貯蔵品88,421千円であります。また、当連結会計年度末における固定資産は518,588千円となりました。この主な内訳は、契約関連無形資産371,711千円、のれん125,343千円であります。
この結果、資産合計は2,992,694千円となりました。
(負債)
当連結会計年度末における流動負債は175,688千円となりました。この主な内訳は、前受金71,891千円、未払金59,197千円であります。また、当連結会計年度末における固定負債は122,420千円となりました。この内訳は、繰延税金負債122,420千円であります。
この結果、負債合計は298,109千円となりました。
(純資産)
当連結会計年度末における純資産合計は2,694,585千円となりました。この主な内訳は、資本金2,474,634千円、資本剰余金2,917,337千円、利益剰余金△2,700,067千円であります。
② 経営成績の状況
医薬品業界では新薬の研究開発の難易度が上昇しており、製薬会社は、従来の主役であった低分子医薬に加え、抗体医薬品、遺伝子医薬品、細胞医薬品・再生医療等の新しいタイプの創薬シーズ・モダリティ(創薬技術)を創薬系ベンチャー等から導入して研究開発パイプラインの強化を図っております。
当社グループが取り組んでいる抗体誘導ペプチド等の機能性ペプチドも新しいタイプの創薬シーズ・モダリティであり、当社グループは、大学等のシーズをインキュベーションして製薬会社に橋渡しすることで、医薬品業界における大学発創薬系ベンチャーの役割を果たしていきたいと考えております。この役割を担うため、当社グループは、大阪大学をはじめとする大学等の研究機関との間で、共同研究等により連携を図り、大学の技術シーズを生かした基礎研究を実施しております。更に、当社グループは、開発品の開発規模(試験規模及び必要資金規模)を踏まえ、医薬品の研究開発プロセスのうち、基礎研究から、一定段階の臨床試験や薬事承認までを実施して技術シーズのインキュベーションを行う方針です。
一方、医薬品の研究開発は期間が長く必要資金も大きいことから、当社グループは、研究開発段階から製薬会社等との提携体制を構築し、その提携収入等により、研究開発遂行上の財務リスクの低減を図っていく方針です。医薬品の研究開発段階においては、契約一時金、研究開発協力金及び開発マイルストーンを受取り、当社グループの開発品が将来上市に至った場合には、提携製薬会社からのロイヤリティー収入等によって本格的な利益拡大を実現する計画です。
このような業界環境及びビジネスモデルのもと、当社グループは、大阪大学大学院医学系研究科の研究成果である機能性ペプチド「AJP001」を強みとして展開する抗体誘導ペプチドプロジェクトと機能性ペプチド「SR-0379」を中心に研究開発を進めております。
(A)抗体誘導ペプチドプロジェクト
当社グループの創薬活動の強みは、新しいモダリティである抗体誘導ペプチドの創薬プラットフォーム技術「STEP UP(Search Technology of EPitope for Unique Peptide vaccine)」を保有していることです。当社グループは、機能性ペプチド「AJP001」を利用した創薬プラットフォーム技術により、多様な抗体誘導ペプチドを創生して開発パイプラインの強化を図ってまいります。高額な抗体医薬品に対して医療費を抑制できる代替医薬品として抗体誘導ペプチドを開発することにより、先進国で深刻化する医療財政問題の解決や患者様の経済的負担の軽減に貢献していきたいと考えております。
(a)抗体誘導ペプチド「FPP003」(標的タンパク質:IL-17A)
FPP003は、標的タンパク質IL-17Aに対する抗体誘導ペプチドの開発化合物です。先行する抗IL-17A抗体医薬品は、尋常性乾癬、強直性脊椎炎、関節症性乾癬及びX線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎等の幅広い薬事承認を取得しており、既に世界市場は数千億円規模まで拡大しております。
当社グループは、2019年4月からFPP003の尋常性乾癬を対象疾患とする第Ⅰ/Ⅱa相臨床試験をオーストラリア(注)で進めております。本試験は当社グループの抗体誘導ペプチドをヒトに初めて投与する臨床試験(FIH (First in Human)試験)です。2023年2月14日に公表した第Ⅰ/Ⅱa相臨床試験の速報結果において、FPP003投与症例の約8割(高用量コホート、陽性率78%(9例中7例))で抗IL-17A抗体(標的タンパク質IL-17Aに対する抗体)の抗体価の持続的な上昇が確認されました。安全性に関しては、ワクチンで頻繁にみられる局所反応以外に特に臨床的に問題となるものはみられませんでした。本試験結果は、当社の抗体誘導ペプチドが慢性疾患の標的タンパク質である「自己タンパク質」(IL-17A)に対して抗体誘導することをヒトで初めて示したものであり、抗体誘導ペプチドの開発コンセプトを支持するものです。
また、強直性脊椎炎を対象とする開発については、医師主導治験として第Ⅰ相臨床試験が進んでおります。
なお、FPP003に関しては、住友ファーマ株式会社との間でオプション契約を締結しており、同社は、北米での全疾患に対する独占的開発・商業化権の取得に関するオプション権を保有しております。
(注)オーストラリアでの臨床試験データは米欧等での承認申請に使用可能であり、次相以降は米国等での臨床試験を想定しております。
(b)抗体誘導ペプチド「FPP004」(標的タンパク質:IgE)
FPP004は、標的タンパク質IgEに対する抗体誘導ペプチドの開発化合物です。
先行する抗IgE抗体医薬品は、喘息、慢性蕁麻疹及び花粉症(季節性アレルギー性鼻炎)の薬事承認を取得しております。当社グループは、日本で患者数が多い花粉症(季節性アレルギー性鼻炎)を対象として開発しており、現在、前臨床試験の段階にあります。
なお、研究開発パイプラインが拡充される中、当社グループは前臨床試験等の人的リソースをFPP005等の開発に優先的に投下し、FPP004についてはバックアップ化合物の探索研究を進めております。
(c)抗体誘導ペプチド「FPP005」(標的タンパク質:IL-23)
FPP005は、標的タンパク質IL-23に対する抗体誘導ペプチドの開発化合物です。
先行する抗IL-23抗体医薬品は、尋常性乾癬、関節症性乾癬、クローン病及び潰瘍性大腸炎等の幅広い疾患を対象に開発が進んでおります。当社は、2023年からの臨床試験開始を目指して前臨床試験を進めております。
FPP005は、2022年8月に株式会社メディパルホールディングスから、抗体誘導ペプチドの研究開発支援に関する提携契約に基づく有望な開発品として、利益分配等の対象開発品に選定されております。
(d)抗体誘導ペプチドの研究テーマ
抗体誘導ペプチドの探索研究は、大阪大学大学院医学系研究科との共同研究により実施しております。
自社研究テーマは、抗体医薬品の代替医薬品として、アレルギー性疾患を対象とする抗体誘導ペプチドの研究を行っております。更に生活習慣病の高血圧及び抗血栓を対象とする抗体誘導ペプチドの研究、2022年4月からは熊本大学との共同研究により脂質異常症を対象とする抗体誘導ペプチドの研究に取り組んでおります。
また、住友ファーマ株式会社との間で精神神経疾患を対象とする抗体誘導ペプチドの研究契約を締結し、製薬会社とのアライアンスのもとでの探索研究にも取り組んでおります。疼痛を対象とする抗体誘導ペプチドの探索研究については、塩野義製薬株式会社との共同研究が終了し、今後は本研究成果に基づき当社が単独で研究開発を進めていくことになりました。現在、開発化合物の創生に向けた候補化合物の最適化研究を進めております。さらに、株式会社メドレックスとの間でマイクロニードル技術を用いた抗体誘導ペプチドの次世代製剤技術開発に関する共同研究を進めております。
(B)新型コロナペプチドワクチン「FPP006」
FPP006は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対するペプチドワクチンの開発化合物です。
当社は、大阪大学大学院医学系研究科との連携のもと、抗体誘導ペプチドの技術基盤を活用し、新型コロナペプチドワクチンの研究開発を行っております。
既存のワクチンはウイルス全体や標的タンパク質(mRNAワクチン、DNAワクチン、ウイルスベクターワクチン及び組換えタンパク質等)を抗原として用いて免疫を誘導するのに対し、FPP006は、ウイルスの変異の報告がないペプチド配列(エピトープ)を選択して効率的に免疫を誘導するのが特徴です。この特徴を活かして、高効率で副反応が少なくウイルスの変異の影響を受けないワクチンになることが期待されます。
(C)機能性ペプチド「SR-0379」
SR-0379は、皮膚潰瘍を対象疾患とする開発化合物です。皮膚のバリア機能が欠損して様々な細菌が創面に付着している皮膚潰瘍の治療には、細菌、感染のコントロールが重要です。SR-0379は、血管新生や肉芽形成促進による創傷治癒促進作用に加え、抗菌活性を併せ持つことが強みです。当社は、SR-0379の開発により、高齢化社会を迎え重要性が増している褥瘡等の皮膚潰瘍の早期回復を促進し、患者様のQOL向上に貢献することを目指しております。
SR-0379の開発は、複数のアカデミア主導の医師主導治験、更に企業治験を経て、現在、塩野義製薬株式会社と当社の共同開発により日本での開発を進めております。2022年11月22日に公表した第Ⅲ相臨床試験の速報結果において、SR-0379 群はプラセボ群と比較して主要評価項目(「簡単な外科的措置に至るまでの日数」)の日数を短縮する傾向がみられたものの、統計学的に有意な差には至りませんでした。安全性に関しては、治験薬と因果関係がある有害事象はなく、SR-0379 の高い安全性が確認されました。現在、本試験結果の詳細な解析を行っており、塩野義製薬株式会社と当社はSR-0379の今後の開発方針を検討してまいります。
(D)医薬品以外の事業分野
(a)機能性ペプチドの販売
医薬品以外の事業分野においては、2018年3月に株式会社ファンケルから「マイルドクレンジングシャンプー」、更に2020年4月に株式会社SMV JAPANから「携帯アルコール除菌スプレー」等が発売され、当社グループの機能性ペプチドを含有する商品が販売されております。
これらの商品販売に関し、当社グループは化粧品原料商社又は販社に対して機能性ペプチドを販売しております。
(b)創傷用洗浄器の共同開発
株式会社サイエンスとの間で、2022年2月から次世代の創傷用洗浄器の共同開発を進めております。同社のファインバブル技術を用いた創傷用洗浄器に当社グループの抗菌作用を示す機能性ペプチドを組み合わせて用いることにより、洗浄力の高い新規創傷用洗浄器を開発し、褥瘡等の皮膚潰瘍の治療に貢献することを目指しております。
(c)幹細胞化粧品の共同開発
株式会社ASメディカルサポート及び株式会社N3との間で、2022年12月に幹細胞化粧品の共同開発契約を締結いたしました。両社の幹細胞上清液の特徴を活かした幹細胞化粧品に当社グループのヒアルロン酸産生増加作用や幹細胞誘導作用をもつ機能性ペプチドを配合することにより、皮膚再生に有効性の高い新規機能性成分を配合した化粧品の共同開発を進めてまいります。
(d)フェムテック化粧品の共同開発
株式会社サンルイ・インターナッショナルとの間で、2023年2月にフェムテック化粧品の共同開発契約を締結いたしました。同社のフェムテック分野の化粧品に当社グループの抗菌作用を持つ機能性ペプチドを配合した新規化粧品の共同開発を進めてまいります。
当社は、2022年10月1日付で株式交換を実施し、当社に対して抗体誘導ペプチドに関する知的財産権を許諾しているアンチエイジングペプタイド株式会社を完全子会社化しました。
当社は、アンチエイジングペプタイド株式会社をグループ内に取り込むことにより、①医薬品分野において抗体誘導ペプチドプロジェクトのコア技術であるAJP001の知的財産基盤を統合強化し、②化粧品分野においてはアンチエイジング機能をもつOSK9等のショートペプチド群を取得して機能性ペプチド事業の強化を図ってまいります。
これに関連して、当社はグループ内の事業分野別の役割分担を明確にするため、化粧品分野等での機能性ペプチドの販売業務等(以下「化粧品事業等」という)を2022年12月1日付でアンチエイジングペプタイド株式会社に事業譲渡いたしました。当社は、医薬品事業を中心に事業展開し、AAPは非医薬品事業の化粧品事業等に特化して事業拡大を図ってまいります。
以上の事業を進めた結果、当連結会計年度の業績は、事業収益1,067千円、営業損失1,169,069千円、経常損失1,175,229千円、親会社株主に帰属する当期純損失1,172,515千円となりました。
・事業収益
化粧品分野向け等の機能性ペプチド販売額1,067千円を計上いたしました。
・事業費用、営業損失、経常損失及び当期純損失
研究開発費はSR-0379の臨床試験費用及び抗体誘導ペプチド開発費用等により912,355千円、その他の販売費及び一般管理費は257,781千円計上し、事業費用は1,170,136千円となりました。
営業損失は1,169,069千円、経常損失は1,175,229千円及び親会社株主に帰属する当期純損失は1,172,515千円となりました。
③ キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度における現金及び現金同等物(以下、「資金」という。)は、当連結会計年度末には2,245,438千円となりました。
当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動の結果使用した資金は1,053,151千円となりました。これは主に、税金等調整前当期純損失1,175,229千円の計上並びに前渡金166,377千円の減少によるものであります。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動の結果使用した資金は19,141千円となりました。これは主に、有形固定資産12,978千円の取得及び差入保証金6,037千円の差入によるものであります。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動の結果得られた資金は245,125千円となりました。これは主に、新株式の発行による収入によるものであります。
④ 生産、受注及び販売の実績
a.生産実績
当社は研究開発を主体としており、生産実績を定義することが困難であるため、生産実績は記載しておりません。
b.受注実績
当社は研究開発を主体としており、受注生産を行っておりませんので、受注実績は記載しておりません。
c.販売実績
当社グループは医薬品等の研究開発事業の単一セグメントであるため、セグメントごとの情報は記載しておりません。当連結会計年度の販売実績は以下のとおりであります。
セグメントの名称
当連結会計年度
(自 2022年1月1日
至 2022年12月31日)
金額(千円)
医薬品等の研究開発事業
1,067
(注)当連結会計年度の主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりであります。
相手先
当連結会計年度
(自 2022年1月1日
至 2022年12月31日)
金額(千円)
割合(%)
アリスタヘルスアンドニュートリションサイエンス株式会社
525
49.2
株式会社SMV JAPAN
489
45.8
(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において判断したものであります。
① 財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容
当社グループの当連結会計年度の財政状態及び経営成績は、「第2 事業の状況 3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要 ① 財政状態の状況」及び「② 経営成績の状況」に記載しております。
また、当社グループの経営成績に重要な影響を与える要因につきましては、「第2 事業の状況 2.事業等のリスク」に記載のとおりであります。
② キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報
当社グループの主な資金需要は、医薬品等の創出のための研究開発費やその他の販売費及び一般管理費等の事業費用であり、これら事業上必要な資金は、事業収益から得られる資金だけでなく、株式市場等からの増資資金の獲得や補助金等の活用により調達しております。また、手元資金については、資金需要に迅速かつ確実に対応するため、銀行預金により流動性を確保しております。
③ 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められる会計基準に基づき作成されております。この連結財務諸表の作成にあたって、資産及び負債又は損益の状況に影響を与える会計上の見積りは、連結財務諸表作成時に入手可能な情報及び合理的な基準に基づき判断しておりますが、実際の結果は見積り特有の不確実性があるため、見積りと異なる場合があります。
当社グループの連結財務諸表作成にあたって採用している重要な会計方針は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)」及び「(1)連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載しております。