【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在における判断に基づくものであり、その達成を保証するものではありません。
(1)経営成績等の状況の概要
①経営成績
当連結会計年度の業績は次のとおりです。
(単位:億円)
前連結会計年度
当連結会計年度
前年同期比
現地通貨ベース
前年同期比
売上高
8,554
10,542
+23.2%
+16.2%
営業利益
429
397
△7.5%
△5.1%
経常利益
438
399
△8.7%
-
親会社株主に帰属する当期純利益
44
176
+303.4%
-
EBITDA
690
855
+23.8%
-
US$/円(平均)
109.75
130.59
+19.0%
-
EUR/円(平均)
129.73
137.71
+6.2%
-
EBITDA:親会社株主に帰属する当期純利益+法人税等合計+支払利息-受取利息+減価償却費+のれん償却額
当連結会計年度(2022年1月~12月)における当社グループの業績は、売上高は前年同期比23.2%増の1兆542億円でした。世界的なインフレ圧力の高まり、ウクライナ情勢の長期化や中国でのゼロコロナ政策による行動制限など複合的な要因が地政学リスクを高め、世界経済に影響を及ぼし続けたなか、当社グループにおいては、年間を通じてエネルギー、物流及び原料コストの増加に対する価格対応を進めたことに加え、円安による為替換算影響を受けた結果、大幅な増収となりました。また、カラー&ディスプレイセグメントにおいて、前第2四半期までは連結対象外であったC&E顔料事業の売上が通年で加わったことが増収幅を押し上げました。一方で、出荷状況に目を向けると、巣ごもり需要の反動から電気・電子やディスプレイを中心としたデジタル分野での需要減が続いたことや半導体不足による制約などにより自動車市場の生産が回復途上であったことを背景に、第3四半期以降(7月~12月)に高付加価値製品の出荷が各地域で減少しました。また、顔料事業も主要市場である欧州における景気減速に伴い、第3四半期以降に出荷が落ち込みました。
営業利益は、前年同期比7.5%減の397億円でした。多くの製品で価格対応に取り組み、原料コストを中心に価格転嫁が進みましたが、デジタルやモビリティ関連を中心に高付加価値製品の出荷数量が減少した影響により、カラー&ディスプレイとファンクショナルプロダクツセグメントの利益が落ち込みました。一方で、前連結会計年度においては、C&E顔料事業の統合に伴う一時費用を40億円計上しましたが、当連結会計年度は同様の費用計上がなかったことが、減益幅を抑える要因となりました。
経常利益は、前年同期比8.7%減の399億円でした。
親会社株主に帰属する当期純利益は、前年同期比303.4%増の176億円でした。前連結会計年度においては、C&E顔料事業に伴う買収関連費用や米国で繰延税金資産を取崩したことによる法人税等調整額を計上しましたが、当連結会計年度は同様の費用計上がなかったことにより、大幅な増益となりました。
EBITDAは、前年同期比23.8%増の855億円でした。
また、各セグメントの業績は次のとおりです。
(単位:億円)
セグメント
売 上 高
営 業 利 益
前連結
会計年度
当連結
会計年度
前年
同期比
現地通貨
ベース
前年同期比
前連結
会計年度
当連結
会計年度
前年
同期比
現地通貨
ベース
前年同期比
パッケージング&
グラフィック
4,398
5,330
+21.2%
+14.9%
216
203
△6.0%
+0.3%
カラー&ディスプレイ
1,672
2,482
+48.5%
+34.4%
40
51
+29.1%
+37.7%
ファンクショナル
プロダクツ
2,833
3,154
+11.3%
+6.5%
262
236
△9.9%
△13.6%
その他、全社・消去
△349
△424
-
-
△89
△94
-
-
計
8,554
10,542
+23.2%
+16.2%
429
397
△7.5%
△5.1%
[パッケージング&グラフィック]
前連結会計年度
当連結会計年度
前年同期比
現地通貨ベース
前 年 同 期 比
売 上 高
4,398
億円
5,330
億円
+21.2%
+14.9%
営 業 利 益
216
億円
203
億円
△6.0%
+0.3%
売上高は、前年同期比21.2%増の5,330億円でした。食品包装を主用途とするパッケージ用インキは各地域ともに価格対応を進めた結果、増収となりました。しかしながら、出荷数量ベースで見ると、アジアではゼロコロナ政策が続いた中国での出荷停滞の影響もあり、前年を下回りました。商業印刷や新聞を主用途とする出版用インキについては、国内でチラシやイベント関連印刷物の需要が回復しなかったことや、欧州で景気減速を背景に需要が落ち込んだことから、それぞれの地域で出荷が落ち込みましたが、全地域で価格対応を積極的に進めたことにより、増収となりました。デジタル印刷で使用されるジェットインキは屋外広告(看板・ポスター)やバナーなどの産業用や商業印刷用の需要が落ち込みましたが、円安による為替換算影響により、増収となりました。2022年1月に買収を完了したイタリアの接着剤メーカーSapici S.p.A.の売上が加わったことも増収要因となりました。
営業利益は、前年同期比6.0%減の203億円でした。現地通貨ベースでは0.3%の増益となりました。各地域で年間を通じてエネルギー、物流及び原料コストの増加分に対する価格対応に取り組み、米州や欧州を中心に転嫁が進みましたが、出荷数量の減少と新興国通貨安による換算目減りが響き、減益となりました。この状況下、Sapici S.p.A.につきましては、欧州での接着剤製品の拡販を進めたことで、利益を着実に上げました。
[カラー&ディスプレイ]
前連結会計年度
当連結会計年度
前年同期比
現地通貨ベース
前 年 同 期 比
売 上 高
1,672
億円
2,482
億円
+48.5%
+34.4%
営 業 利 益
40
億円
51
億円
+29.1%
+37.7%
売上高は、前年同期比48.5%増の2,482億円でした。C&E顔料事業が加わったことにより、塗料用、プラスチック用及び化粧品用顔料が特に大幅な増収となりました。こうしたなか、化粧品用顔料につきましては、脱マスクの動きで先行する米州や欧州で需要が回復し、アジアでも回復傾向が見られました。一方で、ディスプレイ用途であるカラーフィルタ用顔料は、パネルメーカーの減産とそれに伴う在庫調整が続き、出荷が落ち込んだ結果、大幅な減収となりました。スペシャリティ用顔料は、農業用については引き続き堅調に推移しましたが、建材用発泡コンクリートで使用される建築用は、主な需要地である欧州で引き続き出荷が落ち込みました。
営業利益は、前年同期比29.1%増の51億円でした。前連結会計年度においては、C&E顔料事業の統合に伴う一時費用を40億円計上しましたが、当連結会計年度は同様の費用計上がなかったことにより、増益となりました。この一時要因の影響を除くと、カラーフィルタ用、スペシャリティ用などの高付加価値製品の出荷の落ち込み、欧州の景気減速とエネルギーコスト上昇を背景としたC&E顔料事業の利益減少、第3四半期以降におけるTFT液晶の出荷減の影響などにより、全体的に利益が押し下げられました。
[ファンクショナルプロダクツ]
前連結会計年度
当連結会計年度
前年同期比
現地通貨ベース
前 年 同 期 比
売 上 高
2,833
億円
3,154
億円
+11.3%
+6.5%
営 業 利 益
262
億円
236
億円
△9.9%
△13.6%
売上高は、前年同期比11.3%増の3,154億円でした。電気・電子やディスプレイを中心とするデジタル分野については、半導体を主用途とするエポキシ樹脂は、中国でのゼロコロナ政策や電子デバイス市場減速の影響により、国内外で出荷が大きく落ち込みましたが、価格対応を進めたことで増収となりました。スマートフォンなどのモバイル機器を主用途とする工業用テープは、需要の着実な取り込みにより、増収となりました。モビリティを中心とするインダストリアル分野※については、国内外で需要が落ち込みましたが、それぞれ価格対応を進めた結果、主要製品はいずれも増収となりました。PPSコンパウンドは、モビリティ(自動車)向けの出荷数量が落ち込むなか、価格対応を進めたことや、住設機器向けなど自動車以外の用途で出荷を伸ばした結果、増収となりました。
営業利益は、前年同期比9.9%減の236億円でした。各製品において、エネルギー、物流及び原料コストの増加に対する価格対応が進みましたが、デジタル分野を中心にエポキシ樹脂など高付加価値製品の出荷が落ち込んだことにより、減益となりました。
※インダストリアル分野とは、自動車、鉄道、船舶などのモビリティ用途と建設機械、産業機械などの一般工業用途に係る製品分野の総称です。
②キャッシュ・フロー
[営業活動によるキャッシュ・フロー]
79億円(前連結会計年度
448億円)
当連結会計年度は、税金等調整前当期純利益が352億円、減価償却費が471億円となりました。また、法人税等に149億円を支払い、運転資本の増加により520億円の資金を使用しました。以上の結果、営業活動により得られた資金の総額は79億円となりました。
[投資活動によるキャッシュ・フロー]
△732億円(前連結会計年度
△1,476億円)
当連結会計年度は、設備投資に454億円、子会社株式の取得により307億円の資金を使用しました。以上の結果、投資活動に使用した資金の総額は732億円となりました。
[財務活動によるキャッシュ・フロー]
839億円(前連結会計年度
995億円)
当連結会計年度は、借入等により1,020億円の資金を調達した一方で、剰余金の配当として95億円を支払いました。以上の結果、財務活動により得られた資金の総額は839億円となりました。
(キャッシュ・フロー関連指標の推移)
2020年度
2021年度
2022年度
自己資本比率
(%)
38.9
32.3
30.7
時価ベースの自己資本比率
(%)
30.1
25.6
17.5
キャッシュ・フロー対
有利子負債比率
(年)
4.9
8.6
64.2
事業収益インタレスト・
カバレッジ・レシオ
(倍)
18.6
20.5
9.3
(注)1.各指標の算式は以下のとおりです。
自己資本比率 :(純資産-非支配株主持分)/総資産
時価ベースの自己資本比率 :株式時価総額(期末株価終値×期末発行済株式数(自己株式控除後))/総資産
キャッシュ・フロー対有利子負債比率
:有利子負債/営業キャッシュ・フロー
事業収益インタレスト・カバレッジ・レシオ:(営業利益+受取利息+受取配当金)/支払利息
2.各指標は、いずれも連結ベースの財務数値により算出しています。
3.有利子負債は、連結貸借対照表に計上されている借入金、社債及びリース債務を対象にしています。
営業キャッシュ・フローは連結キャッシュ・フロー計算書の営業活動によるキャッシュ・フローを使用しています。
また、支払利息については、連結損益計算書の支払利息を使用しています。
③生産、受注及び販売の実績
(イ) 生産実績
当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと次のとおりです。
セグメント
金額(百万円)
前年同期比(%)
パッケージング&グラフィック
522,917
118.4%
カラー&ディスプレイ
243,700
140.3%
ファンクショナルプロダクツ
314,303
109.0%
報告セグメント計
1,080,920
119.6%
その他
50
95.6%
計
1,080,971
119.6%
(注)生産実績は期中平均販売価格により算出しています。
(ロ) 受注実績
当社グループは、主として見込生産を行っているため、該当事項はありません。
(ハ) 販売実績
当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと次のとおりです。
セグメント
金額(百万円)
前年同期比(%)
パッケージング&グラフィック
533,009
121.2%
カラー&ディスプレイ
209,056
154.9%
ファンクショナルプロダクツ
311,579
111.2%
報告セグメント計
1,053,644
123.2%
その他
556
126.2%
計
1,054,201
123.2%
(注)セグメント間の取引については相殺消去しています。
(2)経営者の視点による財政状態、経営成績等の状況の分析
①経営成績の分析
経営成績の分析については、「(1)経営成績等の状況の概要 ①経営成績」に記載しています。
②財政状態の分析
当連結会計年度末の資産の部は、運転資本の増加や子会社の買収などにより、前連結会計年度末と比べて1,902億円増加し、1兆2,616億円となりました。負債の部は、主に借入金の増加により、前連結会計年度末比1,501億円増の8,405億円となりました。また、純資産の部は、為替の影響などにより前連結会計年度末比401億円増の4,211億円となりました。
③資本の財源及び資金の流動性
(a) キャッシュ・フローの状況については、「(1)経営成績等の状況の概要 ②キャッシュ・フロー」に記載しています。
(b) 財務戦略
当社グループは、長期経営計画「DIC Vision 2030」において、ネットD/Eレシオ(注2)を経営指標として設定することとし、これを1.0倍程度に維持することを目標としています。翌連結会計年度末のネットD/Eレシオは、在庫を中心とする運転資本圧縮に取り組むことにより、1.09倍程度まで改善する計画です。また、資本性の認められる借入を考慮した調整後ネットD/Eレシオは0.94倍程度となる見込みです。
(注)1.有利子負債は、連結貸借対照表に計上されている借入金、コマーシャル・ペーパー、社債及びリース債務を対象にしています。
2.ネットD/Eレシオ=ネット有利子負債/自己資本
3.ネット有利子負債=有利子負債-現金及び預金
(c) 資金需要の主な内容
当社グループの運転資金需要のうち主なものは、原材料等の購入のほか、製造費、販売費及び一般管理費等の営業費用です。投資を目的とした資金需要は、設備投資、子会社株式及び出資金の取得、関連会社株式及び出資金の取得等によるものです。今後の設備投資計画等については、「第3 設備の状況 3.設備の新設、除却等の計画」に記載しています。
(d) 資金調達
これらの資金需要に対して当社グループは、運転資金については、自己資金のほか短期借入金及びコマーシャル・ペーパーの発行により、また設備投資等の長期資金については、長期借入金及び社債で調達を行っています。
なお、当連結会計年度末のネット有利子負債は4,459億円、ネットD/Eレシオは1.15倍となりました。また、コロナ禍における金融市場の混乱に備えて、一年を通じて手元現預金の水準を高めに維持した結果、当連結会計年度末の現金及び預金は634億円となりました。
④重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されています。この連結財務諸表の作成にあたっては、当連結会計年度における資産・負債及び収益・費用の報告金額並びに開示に影響を与える将来に関する見積りを実施する必要があります。経営者は、これらの見積りについて、当連結会計年度末時点において過去の実績やその他の様々な要因を勘案し、合理的に判断していますが、見積り特有の不確実性があるため、実際の結果は将来においてこれらの見積りとは異なる場合があります。
当社グループの連結財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等(1)連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載のとおりです。
なお、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う会計上の見積りについては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(追加情報)」に記載しています。
(3)経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当連結会計年度における長期経営計画「DIC Vision 2030」の達成状況は次のとおりです。
(単位:億円)
2022年度計画
2022年度実績
2023年度見通し
2025年度
当初計画
売上高
9,500
10,542
11,500
11,000
営業利益
540
397
430
800
売上高営業利益率
5.7%
3.8%
3.7%
7.3%
親会社株主に帰属する
当期純利益
280
176
200
450
EBITDA*
880
855
870
1,370
ROIC**
5.2%
3.6%
3.6%
6.0%
ネットD/Eレシオ***
(ネットD/Cレシオ)****
1.0倍
(48.7%)
1.15倍
(51.4%)
1.09倍
(50.1%)
1倍以下
(50%以下)
*
EBITDA = 親会社株主に帰属する当期純利益+法人税等合計+支払利息-受取利息+減価償却費+のれん償
却額
**
ROIC = 税引き後営業利益÷ (ネット有利子負債+純資産)
***
ネットD/Eレシオ = ネット有利子負債 ÷ 自己資本
**** ネットD/Cレシオ = ネット有利子負債 ÷(ネット有利子負債+純資産)