【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
(1)経営成績等の状況の概要
当連結会計年度(以下、「当年度」といいます。)における当社グループを取り巻く事業環境は、ウクライナ情勢などの影響により原燃料価格が高騰し、欧米の金融引締め政策や中国のゼロコロナ政策(ロックダウン)も加わり、世界経済は減速しました。国内においては、年度後半以降、コロナ禍からの経済正常化がみられるものの、通年では原燃料価格の高騰や半導体などの原材料供給不足による自動車生産の回復遅れもあり、緩やかな景気回復にとどまりました。
こうした事業環境のもと、世界的な電気自動車化(EV化)に伴う、リチウムイオン電池セパレータ製造工程で使われるVOC(有機溶剤)回収装置の販売が堅調に推移しました。加えて、診断薬用および遺伝子検査試薬用の原料酵素が海外向けの販売を伸ばしました。一方、フィルム事業や不織布マテリアル事業などでは、製品価格改定を進めたものの、原燃料価格高騰の影響をカバーするには至らず、収益性の面で苦戦しました。また、フィルム事業では、セラミックコンデンサ用離型フィルムなどの一時的な需要減退を受けて、販売が減少しました。
財務面では、犬山工場の火災事故に係る受取保険金56億円、投資有価証券の一部売却による投資有価証券売却益29億円を特別利益に計上しました。一方、不織布マテリアル事業、エンジニアリングプラスチック事業などの事業用資産や休止予定資産に関して、減損損失98億円を特別損失として計上しました。
以上の結果、当年度の売上高は3,999億円と前年度比6.4%の増収、営業利益は101億円と前年度比64.6%の減益、経常利益は66億円と前年度比71.5%の減益、親会社株主に帰属する当期純損失は7億円(前年度は親会社株主に帰属する当期純利益129億円)となりました。
セグメント別の概況は、次のとおりです。
(フィルム・機能マテリアル)
当セグメントは、製品価格改定を進めましたが、原燃料価格高騰と需要減退の影響が大きく、減収減益となりました。
フィルム事業では、包装用フィルムは、原燃料価格高騰に対し製品価格の改定が追いつかず、さらに、年度後半には荷動きが鈍化しました。工業用フィルムは、原燃料価格高騰に加えて、セラミックコンデンサ用離型フィルムなどの需要減退の影響を受けました。
機能マテリアル事業では、工業用接着剤“バイロン”は、中国のゼロコロナ政策の影響を受けて、販売が減少しました。
この結果、当セグメントの売上高は前年度比3億円(0.2%)減の1,700億円、営業利益は同153億円(76.7%)減の46億円となりました。
(モビリティ)
当セグメントは、製品価格改定を進めましたが、原燃料価格高騰の影響が大きく、増収ながら営業損失が拡大しました。
エンジニアリングプラスチックは、国内では、原燃料価格高騰に対し製品価格の改定が追いつきませんでした。海外では、製品価格改定を進めましたが、原料価格・物流費の高騰、海外での加工費増加の影響を受けました。
エアバッグ用基布は、製品価格の改定を進めましたが、原糸などの原料購入価格の上昇により、収益性の改善に至りませんでした。
この結果、当セグメントの売上高は前年度比46億円(10.3%)増の493億円、営業損失は45億円(前年同期は営業損失18億円)となりました。
(生活・環境)
当セグメントは、VOC回収装置、高機能ファイバーの販売が堅調に推移したものの、不織布マテリアル事業における原燃料価格高騰の影響が大きく、増収減益となりました。
環境ソリューション事業では、世界的なEV化に伴うリチウムイオン電池の需要拡大を受けて、リチウムイオン電池セパレータ製造工程で使用されるVOC回収装置、および交換エレメントの販売が堅調に推移しました。
不織布マテリアル事業では、原燃料価格高騰に対する製品価格改定が追いつきませんでした。
高機能ファイバー事業では、“ザイロン”は建築補強用途、自転車タイヤ用途、“イザナス”は釣糸用途を中心に販売が堅調に推移しました 。
衣料繊維事業では、円安の影響を受け、海外仕入れコストが上昇しましたが、中東向け特化生地は、輸出採算が好転しました。
この結果、当セグメントの売上高は前年度比156億円(13.6%)増の1,299億円、営業利益は同5億円(13.2%)減の30億円となりました。
(ライフサイエンス)
当セグメントは、人工腎臓用中空糸膜は原燃料価格高騰の影響を受けましたが、海外向けの原料酵素が堅調に推移し、増収増益となりました。
バイオ事業では、第4四半期に新型コロナウイルス感染症の感染者数が大幅に減少したことで、PCR検査用試薬の販売が減少しました。一方、診断薬用および遺伝子検査試薬用の原料酵素は、海外向けの販売が堅調に推移しました。
医薬品製造受託事業は、FDA対応の費用が嵩みましたが、市販製剤の生産・出荷を順次再開したことで販売が回復しました。
メディカル事業では、人工腎臓用中空糸膜の販売は堅調に推移しましたが、原燃料価格高騰の影響を受けました。
この結果、当セグメントの売上高は前年度比31億円(8.9%)増の381億円となり、営業利益は同6億円(6.4%)増の92億円となりました。
(不動産、その他)
当セグメントでは、不動産、エンジニアリング、情報処理サービス、物流サービス等のインフラ事業は、それぞれ概ね計画どおりに推移しました。
この結果、当セグメントの売上高は前年度比12億円(10.5%)増の126億円、営業利益は同0億円(1.4%)減の22億円となりました。
②キャッシュ・フローの状況
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度の営業活動によるキャッシュ・フローは、前年度比93億円収入が減少し、78億円の収入となりました。主な内容は、減価償却費191億円による資金の増加および運転資本の増加による資金の減少177億円です。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動によるキャッシュ・フローは、前年度比114億円支出が増加し、360億円の支出となりました。主な内容は、有形及び無形固定資産の取得による支出392億円および投資有価証券の売却による収入37億円です。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動によるキャッシュ・フローは、613億円の収入となりました(前年度は17億円の支出)。主な内容は、短期借入金の増加による収入306億円、非支配株主からの払込みによる収入300億円、長期借入れによる収入231億円、社債の発行による収入200億円および長期借入金の返済による支出370億円です。
この結果、当連結会計年度末の現金及び現金同等物の残高は、前年度末比338億円増の602億円となりました。
③生産、受注及び販売の実績
(イ)生産実績
当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。
セグメントの名称
金額(百万円)
前連結会計年度比(%)
フィルム・機能マテリアル
176,880
0.1
モビリティ
51,232
8.3
生活・環境
138,082
17.1
ライフサイエンス
41,666
10.8
不動産
-
-
その他(うち製造)
22,913
△0.6
合計
430,774
7.0
(注)1.金額は平均販売価格によっており、セグメント間の内部振替前の数値によっています。
2.外注生産を含んでいます。
3.不動産の生産実績はありません。
(ロ)受注実績
当社グループの製品は一部の受注生産を除き見込生産を行っています。
(ハ)販売実績
当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。
セグメントの名称
金額(百万円)
前連結会計年度比(%)
フィルム・機能マテリアル
170,028
△0.2
モビリティ
49,320
10.3
生活・環境
129,872
13.6
ライフサイエンス
38,134
8.9
不動産
4,053
2.4
その他
8,514
14.8
合計
399,921
6.4
(注)1.総販売実績に対する販売実績の割合が100分の10以上となる販売先はありません。
2.セグメント間の取引については相殺消去しています。
(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識および分析・検討内容は次のとおりです。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。
①重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積りおよび当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5経理の状況 1連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載のとおりです。
②当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
(イ)財政状態の分析
当連結会計年度末の総資産は、前年度末比711億円(13.7%)増の5,889億円となりました。これは主として現金及び預金や棚卸資産が増加したことによります。
当連結会計年度末の負債は、前年度末比469億円(14.6%)増の3,675億円となりました。これは主として社債や借入金が増加したことによります。
当連結会計年度末の純資産は、主として三菱商事株式会社から東洋紡エムシー株式会社に対する第三者割当増資に係る新株式申込証拠金の払込みにより非支配株主持分が増加したことから、前年度末比243億円(12.3%)増の2,214億円となりました。
また、財政状態に関する各種指標(連結ベース)は次のとおりです。
回次
第161期
第162期
第163期
第164期
第165期
決算年月
2019年3月
2020年3月
2021年3月
2022年3月
2023年3月
自己資本比率
(%)
38.3
36.4
37.8
37.6
32.2
時価ベースの自己資本比率
(%)
27.2
20.8
25.8
18.8
15.6
自己資本当期純利益率
(%)
△0.3
7.8
2.3
6.8
△0.3
キャッシュ・フロー対
有利子負債比率
(年)
21.0
4.0
5.3
11.2
29.4
インタレスト・カバレッジ・レシオ
(倍)
6.0
32.2
28.0
14.0
5.9
有利子負債自己資本比率
(D/Eレシオ)
(倍)
0.93
0.98
1.01
0.98
1.21
自己資本比率:非支配株主持分を含まない期末純資産/期末総資産
時価ベースの自己資本比率:株式時価総額[期末株価終値×自己株式控除後の期末発行済株式数]/期末総資産
自己資本当期純利益率:親会社株主に帰属する当期純利益/非支配株主持分を含まない期末純資産の期首・期末平均
キャッシュ・フロー対有利子負債 比率 :期末有利子負債/営業キャッシュ・フロー
インタレスト・カバレッジ・レシオ :営業キャッシュ・フロー/(連結キャッシュ・フロー計算書)利息の支払額
有利子負債自己資本比率(D/Eレシオ):期末有利子負債/非支配株主持分を含まない期末純資産
当社グループは、財務の健全性の指標として特に有利子負債自己資本比率(D/Eレシオ)を重視しています。当連結会計年度末のD/Eレシオは1.21倍となりました。
(ロ)経営成績の分析
2025中期経営計画の二年目にあたる当連結会計年度は、期初において売上高4,100億円、営業利益240億円を計画し事業活動を進めましたが、原燃料価格高騰や工業用フィルムの需要回復遅れ等により売上高、営業利益ともに計画に対し未達となりました。
売上高については、原燃料価格高騰に対して価格改定を進めましたが、セラミックコンデンサ用離型フィルムの在庫調整局面の長期化などにより期初の計画には届きませんでした。
営業利益については、為替影響も含む原燃料価格高騰に価格改定が追いつきませんでした。また、品質、安全防災、研究開発などの基盤整備強化に伴う人件費の増加、コロナ禍からの経済活動再開に伴う営業活動費用の増加、さらに医薬品製造受託事業におけるFDA対応費用が嵩んだことなどもあり、期初の計画を大きく下回りました。
親会社株主に帰属する当期純利益については、期初において130億円を計画しましたが、当連結会計年度の実績は、親会社株主に帰属する当期純損失7億円となりました。これは、犬山工場の火災事故に係る受取保険金56億円、資産の効率化および財務体質の健全化を目的として当社および当社の子会社が保有する投資有価証券や固定資産の売却を進め、投資有価証券売却益29億円、固定資産売却益12億円を特別利益に計上したものの、営業利益が当初計画を下回ったことに加え、当社の不織布マテリアル事業およびエンジニアリングプラスチック事業の事業用資産等で減損損失98億円を特別損失に計上するなど合計157億円の特別損失を計上したことによります。この結果、「自己資本当期純利益率(ROE)」は△0.3%となりました。
(単位:億円)
2022年度
(計画(*))
2022年度
(実績)
増 減
(実績-計画)
売上高
4,100
3,999
△101
営業利益
240
101
△139
親会社株主に帰属する当期純利益又は
親会社株主に帰属する当期純損失(△)
130
△7
△137
(*) 期初において計画した計画値
当社グループは足元の業績悪化を受け、「稼ぐ力を取り戻す」ために以下のアクションプランを実行していきます。
フィルム・機能マテリアル
・包装用フィルム:一層の価格改定によるマージンの改善、新ライン・新製品の本格立上げ
・セラミックコンデンサ用離型フィルム:市況回復に合わせ、顧客の増産体制に対応、新ラインの建設
・液晶偏光子保護フィルム:顧客の増産体制に対応、価格改定
・工業用接着剤:一層の価格改定と数量回復、エレクトロニクス向けの新製品開発
モビリティ
・エンジニアリングプラスチック:品質保証体制の確立、一層の価格改定と数量回復
・エアバッグ:収益改善のために一層の価格改定、新原糸工場(タイ)の商業生産の開始
生活・環境
・環境ソリューション:LiBs向けVOC回収装置の海外加速、FO・BC膜の新用途立上げ
・衣料繊維:3工場の集約と海外拠点一体での事業運営による収益回復
ライフサイエンス
・バイオ:PCR検査試薬は売上減少も海外向け原料酵素の拡販、リニューアル増産投資
・メディカル:人工腎臓用中空糸膜は需要増への対応と一貫生産工場建設、急性血液浄化市場、抗体医薬製造プロセス市場への上市・新商品投入
・医薬品製造受託:FDAのWarning Letter対応・GMP体制、販売回復と収益改善
(ハ)経営成績に重要な影響を与える要因について
当社グループの経営成績に重要な影響を与える要因については、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」に記載のとおりですが、特に、セラミックコンデンサ用離型フィルムの市況回復時期を注視しています。また、原燃料価格は2022年度に比べ2023年度は下落するものの高水準で推移すると予想するとともに、欧米はインフレ圧力の高まりを受けた金融引締め政策により、景気は減速することが懸念されます。そのため、原燃料などの価格動向や為替変動についても、引き続き注視していきます。
(ニ)当社グループの資本の財源および資金の流動性について
a.キャッシュ・フロー
当連結会計年度のキャッシュ・フローの分析については、「(1)経営成績等の状況の概要 ②キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりです。
b.契約債務
2023年3月31日現在の契約債務の概要は以下のとおりです。
年度別要支払額(百万円)
契約債務
合計
1年以内
1年超3年以内
3年超5年以内
5年超
短期借入金
71,595
71,595
-
-
-
長期借入金
78,571
29,472
16,438
22,162
10,499
リース債務
2,809
766
1,035
417
590
預り金
1,430
1,430
-
-
-
上記の表において、連結貸借対照表の1年内返済予定の長期借入金は、長期借入金に含めています。
当社グループの第三者に対する保証は、関係会社の借入金等に対する債務保証です。保証した借入金等の債務不履行が保証期間内に発生した場合、当社グループが代わりに弁済する義務があり、2023年3月31日現在の債務保証額は、6,889百万円です。
c.財務政策
当社グループは、2025中期経営計画(2022~2025年度)の目標を達成すべく、安全・防災・環境対応を最優先としつつ、同時に成長事業への積極投資を行っていきます。必要資金に関しては、内部資金または外部調達により資金を調達し、外部調達は、直接金融・間接金融を活用し、D/Eレシオは1.2倍未満、Net Debt/EBITDA倍率は4倍台を目安として管理していきます。
また、マーケット環境の一時的な変化など、不測の事態への対応手段確保のため、当連結会計年度末において、複数の金融機関との間で合計17,500百万円のコミットメントライン契約を締結しています。(借入未実行残高17,500百万円)。