【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
(1) 経営成績等の状況の概要
当事業年度における当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。
① 経営成績の状況
当社は、「バイオで価値を創造する -こども・家族・社会をつつむケアを目指して-」を目標に掲げ、これまでの事業活動で得てきたバイオ技術に関するノウハウ及び知見を最大限活用し、従来より手掛けてきた希少疾患、難病に加えて、小児疾患を重点的なターゲットと定め、これらの疾患に悩む患者様、そのご家族や介護者の方を含めた包括的なケアを目指して、新薬のみならず新たな医療の開発・提供に取り組んでおります。上述の目標を達成するために、バイオ後続品事業、バイオ新薬事業、細胞治療事業(再生医療)の3つを主要事業とした研究開発活動を推進しております。バイオ後続品事業においては、安定的な収益基盤を確立させると共に、我が国の医療費削減を目的としたジェネリック医薬品の普及政策を背景に、患者様へ新たな治療の選択肢と、より安価な治療を届けられるよう事業展開を図っております。バイオ新薬事業及び細胞治療事業(再生医療)においては、未だ世にない画期的な治療法の開発を目的に、新たな医薬品を創出するというチャレンジを鋭意推進し、その成長性を追求しております。
当事業年度における各事業の進捗状況は以下のとおりであります。
イ バイオ後続品事業
各上市済製品においてはパートナー会社との協働の下、フィルグラスチムバイオ後続品の原薬販売、ダルベポエチンアルファバイオ後続品の売上高に応じたロイヤリティによる収益を安定的に計上していることに加え、2021年12月9日に上市されたラニビズマブバイオ後続品にかかる販売収益においては、想定を超える受注と2023年1月に糖尿病黄斑浮腫に対する追加適応症の承認取得により、さらなる売上増が見込まれることから、今後の経営基盤を支える収益源としての役割が期待されます。その他、上述の3製品に続いての上市を目指す第4製品目のバイオ後継品の研究開発並びに新たなバイオ後継品の開発も着実に推進しております。
ロ バイオ新薬事業
次世代型抗体医薬品等の研究開発を進めた結果、2020年1月にがん細胞内侵入能力を有する抗体を用いた抗がん剤の開発を目的として札幌医科大学との共同研究契約、同じくがん細胞殺傷効果を有する新たな抗体の取得を目的としてMabGenesis㈱との共同研究契約をそれぞれ締結しました。また、2022年5月には㈱カイオム・バイオサイエンスとの抗体医薬品開発に関する共同研究契約を締結し、当社が保有するがん領域の抗体医薬品の開発候補品について、両社の技術・知見を組み合わせて共同研究を行うことを目的に開発活動をスタートさせております。その他、新規メカニズムに基づく新生血管形成を阻害する抗RAMP2抗体に関して特許査定を受ける等、知財戦略と並行しながら、開発中のパイプラインについても着実に開発活動を推進しております。
ハ 細胞治療事業(再生医療)
当社は、今後の企業価値向上に大きく寄与する重要な研究ソースとして、乳歯歯髄幹細胞(SHED)を活用したプロジェクトの推進、アカデミア及び企業との共同研究又は提携を推進しております。
当社は、これまでのSHEDの疾患に対する適性の見極めの結果、神経及び骨疾患などの分野で新たな治療法を提供できる可能性を複数のアカデミア及び企業に評価いただき、それぞれの分野で研究開発活動を推進しております。
複数のアカデミア及び企業と研究開発を進めていく中で、SHEDを基盤とした治療法開発の可能性に関して着実に成果が得られつつあり、当社の成長ドライバーであるSHEDを活用した世界初の再生医療等製品の創出を目指してまいります。また、国立大学法人東海国立大学機構名古屋大学との間で進めている脳性まひに対する取り組みに関して、世界で初めて慢性期脳性まひモデルの運動障害の改善をSHEDの投与で確認したことを基に、2022年10月には名古屋大学と脳性まひ治療に関する特許の共同出願や、同年11月に開催された「第66回日本新生児成育医学会・学術集会」において、名古屋大学より当該研究成果を発表する等、各アカデミアとの連携を通して進めています。
さらに、SHEDの臨床入りのスタートとして、名古屋大学が主導する脳性まひを対象とした臨床研究(SHEDのファーストインヒューマン試験)において、現在投与開始に向けた準備が進められています。2019年にSHEDを導入して以来進めてきた探索・基礎研究の段階から、ヒトへの投与を行う臨床段階へと開発ステージが上がったことにより、SHEDを医薬品として早期に上市させる蓋然性も高まり、今後も精力的に研究開発を推進してまいります。
そのほか、将来の成長戦略として、より高い治療目標を達成するためにSHEDへの遺伝子導入や培養法改変によってSHEDの機能を強化した第二世代SHED(次世代型細胞治療「デザイナー細胞」)の研究開発を推進しております。
具体的な進捗として、2021年9月8日にナノキャリア㈱と共同研究契約を締結、さらには同12月6日には㈱バイオミメティクスシンパシーズと疾患指向性のあるSHEDを取得可能とする新規培養法の開発に係る委託開発契約をそれぞれ締結し、開発活動を本格化させております。加えて、アカデミアとの研究開発においては、国立大学法人浜松医科大学と協働で進めてきました脳腫瘍に対する新規治療法に関する基礎研究において、高い研究成果が得られており、浜松医科大学と共同で論文発表を行う等、第二世代SHEDの研究開発も確実に進展しております。引き続き当社は、第二世代SHEDの臨床応用に向けた研究開発も、アカデミア及び企業と推進してまいります。
さらに、SHEDを再生医療等製品として製品化するための基盤として開発を進めてきたSHEDマスターセルバンク(MCB)が2022年8月に完成し、これにより、SHEDの製造の原料となる乳歯を提供頂く体制構築のための「ChiVo Net 未来医療子どもボランティアネットワーク」、東京大学医学部附属病院、昭和大学歯科病院、それぞれとの連携から、㈱ニコン・セル・イノベーションのGMP/GCTP対応製造施設において細胞培養、MCBのGMP製造を行うまでの一連の体制(S-QuatreⓇ)を構築することができました。加えて、2022年9月には、昭和電工マテリアルズ㈱と再生医療等製品の製法開発及び治験薬製造に関する基本取引契約を締結し、上述の体制下において製造された信頼性の高い高品質なSHEDマスターセルバンクを活用した治験薬製造に向けて、開発活動を加速させております。
以上の試みを通して、当社における再生医療等製品の研究・開発活動をさらに一層加速すると共に、S-QuatreⓇを基盤としたSHED創薬プラットフォームを用いて、アカデミアや企業との連携による研究・開発パイプラインの強化をより確実に進めてまいります。
なお、これまでSHEDと共に取り組んでまいりました心臓内幹細胞(CSC)に関するパイプライン(JRM-001)については、将来の上市を目指したパートナリング活動を継続する中で、心疾患領域における研究開発経験・ノウハウを保有する㈱メトセラに当該事業を譲渡し、同社が主体となって開発を行っていただくことが最善と判断したため、JRM-001の開発を行う㈱日本再生医療の全株式譲渡を2022年4月4日付で決議・実行し当社の連結子会社ではなくなりましたが、今後も当社による開発活動の支援を継続いたします。
これらの結果、当事業年度の売上高は2,776,241千円(前期比 76.9%増)、営業損失は550,929千円(前期は651,139千円の営業損失)、経常損失は624,769千円(前期は968,535千円の経常損失)、当期純損失は657,434千円(前期は550,863千円の当期純損失)となりました。
なお、2022年4月4日付で、連結子会社であった㈱日本再生医療の株式を譲渡したことにより、連結子会社が存在しなくなったため、当事業年度より連結財務諸表を作成しておりません。
② 財政状態の状況
(資産)
当事業年度末における総資産の残高は、前事業年度度末比12.2%増の3,894,765千円となりました。これは主に、仕掛品が366,387千円減少したものの、売掛金及び契約資産が626,912千円、前渡金が325,992千円増加したことによるものであります。
(負債)
当事業年度末における負債の残高は、前事業年度末比50.6%増の2,661,259千円となりました。これは主に、受注損失引当金が475,243千円減少したものの、長期借入金(1年内返済予定を含む)が850,000千円、転換社債型新株予約権付社債が400,000千円増加したことによるものであります。
(純資産)
当事業年度末における純資産の残高は、前事業年度末比27.6%減の1,233,505千円となりました。これは、資本金及び資本剰余金がそれぞれ88,285千円、新株予約権が11,461千円増加したものの、当期純損失を657,434千円計上したことによるものであります。
③ キャッシュ・フローの状況
当事業年度末における現金及び現金同等物(以下、「資金」という。)は、1,067,162千円となりました。各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動により減少した資金は1,421,259千円となりました。これは主に、棚卸資産の減少353,498千円があったものの、売上債権の増加626,912千円、受注損失引当金の減少475,243千円、税引前当期純損失を656,224千円計上したことによるものであります。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動により減少した資金は28,825千円となりました。これは主に、関係会社貸付金の回収による収入26,254千円あったものの、投資有価証券の取得による支出50,000千円があったことによるものであります。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動により増加した資金は1,356,312千円となりました。これは主に、長期借入金の返済による支出150,000千円あったものの、長期借入れによる収入970,000千円、転換社債型新株予約権の発行による収入499,720千円があったことによるものであります。
④ 生産、受注及び販売の実績
a.生産実績
当事業年度における生産実績は、次のとおりであります。
区分
当事業年度
(自 2022年4月1日
至 2023年3月31日)
生産高(千円)
前年同期比(%)
バイオ後続品事業
1,222,980
269.2
原薬等販売収益
1,222,980
269.2
合計
1,222,980
269.2
(注)金額は、製造原価によっております。
b.受注実績
フィルグラスチムバイオ後続品及びラニビズマブバイオ後続品につきましては、ロット単位での受注であり、各ロットの生産高に応じて売上高が変動し、受注金額を確定できないことから、記載を行っておりません。
なお、上記以外の品目につきましては、研究開発段階での売上であり、その不確実性に鑑み、記載を行っておりません。
c.販売実績
当事業年度における販売実績は、次のとおりであります。
区分
当事業年度
(自 2022年4月1日
至 2023年3月31日)
販売高(千円)
前年同期比(%)
バイオ後続品事業
2,572,702
166.7
原薬等販売収益
2,331,444
161.1
知的財産権等収益
241,258
252.5
バイオ新薬事業
–
–
細胞治療事業(再生医療)
203,539
778.9
知的財産権等収益
203,539
778.9
合計
2,776,241
176.9
(注)当事業年度における主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりであります。
相手先
当事業年度
(自 2022年4月1日
至 2023年3月31日)
販売高(千円)
割合(%)
千寿製薬㈱
1,369,494
49.3
富士製薬工業㈱
665,880
24.0
(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者の視点による当社の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において判断したものであります。
① 財政状態及び経営成績の状況に関する分析・検討内容
当事業年度における売上高は、新たに販売開始となったラニビズマブバイオ後続品を含めて主にバイオ後続品の原薬等の販売が順調に推移したことに加え、ダルベポエチンアルファバイオ後続品の販売に伴うロイヤリティ収益、バイオ後続品の第4製品目の製造プロセス開発に係る原薬販売等により、2,776,241千円となりました。一方、主にバイオ後続品事業におけるラニビズマブバイオ後続品の商用製造に向けた最終段階の開発及び将来の原価低減に向けた開発費用並びに細胞治療事業(再生医療)におけるSHEDマスターセルバンク開発等に取り組んだ結果、研究開発費を1,216,349千円計上したため、営業損失は550,929千円、当期純損失は657,434千円となりました。
② キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報
当社が業を営む医薬品業界の特質として、研究開発投資がリターンを生み出すまでの期間が長く、これに伴うリスクも高いと考えられております。当社は、そのリスクを分散させるために、複数の開発品を保有し、パイプラインの充実を図ることが最重要課題であると考えておりますが、そのためには多額の研究開発資金が必要となります。一方で、特にバイオ後続品については、既存バイオ医薬品の特許期間の満了時期から逆算して研究開発を開始する必要があるため、機を逸することのない意思決定と経営資源の投入を行う必要があります。今後も直接金融による資金調達が基本になりますが、開発品の優先順位を考慮しつつ財務会計面及び管理会計面からも検討を加えた上で意思決定を行っていくことで、パイプラインの充実と安定的な収益基盤の確立につながるものと考えております。
なお、今後1年の資金繰りの状況は研究開発費として1,600,000千円を計上する予定であります。これら研究開発費は、SHEDの成長戦略実現に向けた開発、ラニビズマブバイオ後続品の原価低減のための施策による一時的支出が主な内訳であります。当社は、当事業年度末で現金及び預金並びに売掛金を合わせて2,155,929千円の残高を有しており、今後中長期的には上述のとおり原価低減施策の結果、高い利益率を持ったバイオ後続品の販売による売掛債権の回収及びロイヤリティ収益並びに新株予約権行使等で必要十分な資金調達がされることが見込まれるため、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在していないものと評価しております。ただし、新型コロナウイルス感染症の影響の長期化も想定し、資金調達も含め、手許流動性の維持・向上に努めてまいります。
③ 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社の財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づいて作成しております。この財務諸表の作成にあたり、見積りが必要となる事項につきましては、合理的な基準に基づき、会計上の見積りを行っております。これらの見積りには不確実性が伴うため、将来において、これらの見積り及び仮定とは異なる結果となる可能性があります。
当社の財務諸表で採用した重要な会計方針は、「第5 経理の状況 1 財務諸表等 注記事項 (重要な会計方針)」に記載しております。
#C4584JP #キッズウェルバイオ #医薬品セクター