【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
(1)経営成績等の状況の概要
当事業年度における当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。
①財政状態及び経営成績の状況
当事業年度における国内外の経済環境は、急速な為替の変動、世界的な資源価格の高騰やインフレの進行など、依然として先行き不透明な状況が継続しております。こうした外部環境の中、当事業年度における当社業績につきましては、売上高630,815千円(前期比82,117千円減少)、研究開発費1,135,613千円(前期比176,574千円減少)、営業損失は1,258,655千円(前事業年度は1,334,319千円の営業損失)、経常損失は1,243,838千円(前事業年度は1,329,312千円の経常損失)、当期純損失は1,242,871千円(前事業年度は1,479,895千円の当期純損失)となりました。売上高につきましては、国内外の経済環境による当社業績への影響は限定的であり創薬支援事業は堅調に推移いたしましたが、創薬事業では当事業年度はライセンス契約締結一時金等の売上高計上がなかったことにより、前期に比べ当期は減収となりました。また損益につきましては、研究開発費において主に臨床試験費用やCBA-1535に係る治験用の製剤製造費用等が計上されておりますが、治験用の製剤製造費用等の計上額が前事業年度よりも減少したこと等により、営業損失、経常損失、純損失ともに前期比で赤字幅の縮小となりました。
当事業年度における当社の事業活動の概況は次のとおりです。
創薬事業においては、自社開発中のがん治療用抗体CBA-1205の臨床第1相試験を進めております。前半パートでは既に本抗体の安全性・忍容性の高さが示されており、現在、肝細胞がん患者さんを対象として本剤の安全性と初期の有効性を確認する後半パートの症例の登録が進行しております。さらに、肝細胞がん以外の適応症への展開に向けた海外研究機関との共同研究の推進や、DLK-1を標的とした更なる創薬探求の検討を進めるなど、導出価値向上を企図する活動を積極的に推進しております。2つ目の臨床開発品目である多重特異性抗体CBA-1535は、2022年6月末に臨床第1相試験前半パートにおける最初の固形がん患者さんへの投与を開始して以降、現在まで予定通りに治験が進行しております。今後も、段階的に治験薬の投与量を増やしながら安全性の確認を進めてまいります。現在、非臨床段階にある創薬パイプラインのPCDCについては、2022年7月にADCに関する技術の導入およびオプション契約をHeidelberg Pharma社と締結し、これにより導出活動のためのデータパッケージを補強しました。導出契約獲得に向けた取り組みとして、2022年後半に開催された国内外の学会やビジネスカンファレンスにおいて、PCDCのポテンシャルを示すデータを導出候補となる製薬企業へ紹介するなど、活動を強化しております。また、PCDCの導出活動と合わせてCBA-1205やCBA-1535の臨床開発の進捗状況についても導出候補企業へ提供することで、当社の創薬パイプラインに対する興味やニーズを着実に捉え、機を逃さずに導出契約の獲得につなげてまいります。
その他の非臨床および探索段階にある創薬プロジェクトにおいては、CBA-1535の次世代型となるTribody™によるリード抗体であるPTRYの新規の特許出願が完了し、イタリアのCEINGEとの共同研究の成果に関する論文が2022年9月に発表されました。今後、当社の創薬プロジェクトの一つとして研究投資に注力いたします。また、新規ターゲットに対するリード抗体の創出及び知財化に向けた研究開発についても継続し、今後の開発パイプラインの質・量の拡充に向けた取り組みを進めております。
・創薬パイプライン(導出品)
スイスのADCT社にADC用途に限定して導出したLIV-1205は、現在、ADCT-701として神経内分泌がんを対象に米国国立がん研究所(NCI)での臨床試験に向けた準備が進められており、2023年の臨床入りが見込まれています。
2021年1月に中国のHenlius社との間でライセンス契約を締結していたLIV-2008/2008bについては、先行品の開発状況など事業戦略上の理由によりHenlius社では本抗体の開発を行わないことの判断がなされ、2023年1月17日付で当社とのライセンス契約を終了することを合意いたしました。今後、本抗体については、他の創薬パイプラインの導出活動と合わせて、新たな導出先の開拓を進めてまいります。
・創薬パイプライン(自社研究開発・導出候補品)
CBA-1205については、日本国内において臨床第1相試験を実施しております。本治験の主目的は、前半パートでは固形がん患者さん、後半パートでは肝細胞がんの患者さんにおける安全性と忍容性の評価です。前半パートの患者登録は終了しており、本抗体の高い安全性が示唆されています。また、前半パートの最終結果はすべての解析の終了を待つ必要がありますが、客観的な腫瘍評価法であるRECIST v1.1によるSD(安定)評価が続きCBA-1205の投与が最も継続している患者さんの投与期間は1年半を超過いたしました。一般的に固形がんの第1相試験に参加されるのは切除不能な進行・再発の固形がん患者さんで、標準的な治療法に不応、不耐であり、本治験の前半パートに参加された患者さんも既に複数の標準的治療法を受けておられることから、SD評価の継続は意義のある状況と考えております。現在、肝細胞がんの患者さんのみを対象とした後半パートを実施中です。
CBA-1535については、2022年6月末に前半パートにおける第一例目のがん患者さんへの投与を開始しました。現在まで順調に国内での治験が進行しております。本試験は、がん細胞と免疫細胞(T細胞)の双方に結合し、T細胞を活性化してがんを叩くというTribody™の作用機作を検証するための世界初の臨床試験であり、CBA-1535でこのコンセプトが確認されれば他のがん抗原に対するTribody™の適用の可能性が広がることになります。
BMAAについては、これまでに取得した抗セマフォリン3A抗体のデータを用い、アカデミア等との共同研究を推進しております。
PCDCについては、2022年7月にドイツのHeidelberg Pharma社との間でADC技術であるATAC® Platformの技術導入およびオプション契約を締結しました。ATAC® Platform はキノコ由来の毒素であるアマニチンを抗体に付加することにより、抗体が結合するがん細胞に対する殺傷能力を高める技術です。今回の技術導入によりPCDCのデータパッケージを補強し、外部企業への導出又は協業の機会を求めた活動を推進いたします。また並行して、データパッケージ強化のための研究開発活動を実施してまいります。
探索段階にある創薬プロジェクトの中で注力する2つの重点プロジェクトについては、導出計画や開発計画を検討しながら事業化に資する研究活動を推進しており、これらは新たに特許出願も完了いたしました。また、CBA-1535の活性を更に高めたTribody™抗体の新規創薬プロジェクトも進展し、新たに特許出願を完了しております。このうち、5T4×CD3×PD-L1をターゲットとするTribody™抗体はPTRYという社内コードを付け、今後当社の創薬パイプラインの一つとして研究開発を重点的に進めてまいります。当社では継続的な創薬シーズの創出と知財化を行うことにより、新たなパイプラインの拡充と導出機会の探索等を行ってまいります。
その他、国内のアカデミアと協働で、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の助成事業に係る感染症領域やADLib®システムの技術改良に関する研究も継続して実施しております。
以上の結果、創薬事業における当事業年度の業績は、売上高前期比103,013千円減少、臨床開発の進展により研究開発費1,135,613千円(前期比176,574千円減少)の研究開発費を計上、セグメント損失は1,135,613千円(前事業年度は1,209,270千円のセグメント損失)となりました。
創薬支援事業は、当社の安定的な収益確保に資する事業であり、当社の独自の抗体作製手法であるADLib®システムを中心とした抗体作製技術プラットフォームを活かした抗体作製業務や抗体の親和性向上業務のほか、タンパク質調製業務を受託し、国内の主要製薬企業を中心にバイオ医薬の研究支援を展開しております。国内の製薬企業を中心に当社の技術サービス力をご評価いただき、着実に取引件数や案件数が広がっており、2022年7月にはロート製薬株式会社との委受託契約を締結いたしました。収益基盤の強化のための新規顧客の開拓は継続して進めており、今後も本事業の伸長に向けて取り組んでまいります。
創薬支援事業における当事業年度の業績は、国内製薬企業を中心に既存顧客との安定的な取引が継続したことにより、売上高630,815千円(前期比20,896千円増加)となり、セグメント利益は348,858千円(前期比29,318千円増加)、セグメント利益率は55.3%(目標50%)となりました。
②キャッシュ・フローの状況
当事業年度末における現金及び現金同等物(以下「資金」)の残高は1,727,270千円となり、前事業年度末と比べ63,717千円減少いたしました。各キャッシュ・フローの状況とその主な要因は以下のとおりです。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動の結果使用した資金は1,191,009千円となりました。主な内訳は、税引前当期純損失の計上によるものであります。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
当事業年度において投資活動による資金の増減はありません。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動の結果取得した資金は1,127,291千円となりました。これは主に新株予約権の行使による株式の発行によるものであります。
③生産、受注及び販売の実績
a.生産実績
当社は研究開発を主体としており、生産実績を定義することが困難であるため、生産実績の記載はしておりません。
b.受注実績
当社は研究開発を主体としており、受注実績を定義することが困難であるため、受注実績の記載はしておりません。
c.販売実績
当事業年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
セグメントの名称
当事業年度
(自 2022年1月1日
至 2022年12月31日)
販売高(千円)
前年同期比(%)
創薬事業
-
-
創薬支援事業
630,815
103.4
合計
630,815
88.5
(注)1.「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号 2020年3月31日)等を当事業年度の期首から適用しております。これに伴い、当事業年度における売上高は58,805千円増加しております。詳細は、「第5 経理の状況 1 財務諸表等 (1) 財務諸表 注記事項(会計方針の変更)」に記載のとおりであります。
2.主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合
相手先
前事業年度
(自 2021年1月1日
至 2021年12月31日)
当事業年度
(自 2022年1月1日
至 2022年12月31日)
販売高
(千円)
割合(%)
販売高
(千円)
割合(%)
小野薬品
352,772
49.48
365,195
57.89
中外製薬グループ
158,004
22.16
160,627
25.46
Henlius社
102,500
14.38
-
-
(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識および分析・検討内容は次のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において判断したものであります。
a.経営成績等の状況に関する認識および分析・検討内容
当社の事業は創薬事業と創薬支援事業により構成されており、当事業年度の当社業績は、630,815千円と前事業年度と比較し82,117千円の減収となりました。これは主に、当事業年度での創薬事業におけるライセンス契約締結一時金等の売上高計上がなかったことが要因となりますが、一方で創薬支援事業については取引は拡大して売上高は630,815千円と前期比103.4%となりました。当社の強みである高い業務品質と柔軟な対応力を発揮するため、国内の大手抗体医薬企業との取引を重点的に深化させた結果であり、今後も拡大基調となることを見込んでおります。
コスト面においては、販売費及び一般管理費は1,607,513千円と前期比149,265千円の減少となり、特にCBA-1535のCMC開発等の研究開発費の減少が主な要因となっております。
創薬事業は当社の成長をけん引する事業であり、アンメットニーズに光を当てるための医薬品の研究開発を推進しております。通常、医薬品の研究開発においては、研究資金の先行投資と成功時には大きなリターン、サイエンスの不確実性による開発遅延・中止リスク等と向き合うことになるため、継続的な成長のためには複数の開発パイプラインを確保するなどの手立てを打つことが重要であります。当事業年度においては、CBA-1205の第1相臨床試験の後半パートが進行、CBA-1535では2022年2月に治験計画届の提出、6月には日本での第1相臨床試験が開始しており、現在、2つの開発候補品の取り組みが進んでおります。現時点で、当社が同事業において同時期に扱える臨床開発品目数は2から3つと想定しており、予定通り臨床開発に向けた取り組みに至っております。これらの初期臨床開発実施後の導出を目指すことで、前臨床段階の導出と比較し、より大きな経済条件の獲得できることを目指しております。
探索段階にある創薬プロジェクトにおいては、2021年1月にHenlius社とLIV-2008/2008bの導出契約の締結をいたしましたが、残念ながら先行品の状況から同社において本剤の開発が行われないことが決まり、2023年1月にHenlius社との契約は終了いたしました。開発や契約の遅延や終了のリスクが内在する医薬品ビジネスにおいて、当社は複数の創薬パイプラインを創製し導出することで、当社の収益の選択肢拡大に努めております。当事業年度においては、特許出願が完了しているがん治療用抗体であるPCDCの導出活動を本格化し、国内外の製薬企業への導出に向けた取り組みを進めております。また、PCDCに続く新規の創薬パイプラインとして、Tribody™のがん治療用抗体PTRYをパイプライン化、がん領域・中枢神経領域の創薬プロジェクトにおいても新たに特許出願を完了するなど、新たなパイプライン創出に向けて、現在、創薬研究にも注力しております。以上の結果、当事業年度における創薬事業の研究開発費は1,135,613千円、セグメント損失は1,135,613千円となりました。
創薬支援事業は、当社の安定的な収益確保に資する事業であり、当社の抗体の技術プラットフォームを活かして日本の製薬企業やアカデミアの研究支援を実施しております。タンパク質調製業務や抗体作製など個々の業務を担う競合他社が多数ありますが、製薬企業を中心とした当社顧客に対して、高い品質や柔軟な対応を行うサテライトラボとして高付加価値型サービスを提供することを目指し、他の競合企業との差別化を図っております。なお、高付加価値型ビジネスを遂行する上での目標として、セグメント利益率を50%以上維持することとしております。当事業年度においては、日本国内の抗体医薬大手企業との取引の深耕化に重点を置いた結果、創薬支援事業の売上高は当初の業績予想額620,000千円に対し630,815千円と、達成率101.7%となりました。また、セグメント利益率は55.3%、セグメント利益は348,858千円(前年比29,318千円増)を確保しております。
両事業において、当社の強みである抗体作製にかかるコア技術をフル活用することにより、新たなビジネスの成果が芽生え、成果も創出できる状況になってまいりました。短期的には初期臨床開発にかかる研究開発コストが増大することになりますが、創薬支援事業の拡大により当社が捻出できる研究開発資金を増大させるような取り組みを継続してまいります。
なお、経営成績に重要な影響を与える要因については、「第2 事業の状況 2 事業等のリスク」に記載のとおりとなっております。
b.資本の財源及び資金の流動性についての分析
当社は研究開発型ベンチャー企業であり、研究開発のための先行投資が必要となっております。資本の財源となる収益については、これまで主として提携先製薬企業等から委受託業務による収益を獲得しており、加えて、保有する創薬パイプラインの導出により契約一時金、マイルストーン収入等を計上しております。将来において、当社が保有する創薬パイプラインが新たに導出に至った場合には、契約一時金、マイルストーン収入の増加が見込まれ、また、医薬品が上市された場合には販売ロイヤルティを受領することとなります。導出に至るまでの先行投資期間においては研究開発費の支出等から営業活動によるキャッシュ・フローはマイナスを計上する計画であり、当事業年度においては、CBA-1205の臨床開発やCBA-1535のCMC開発の進展などによる支払が発生したことにより、営業活動によるキャッシュ・フローは1,191,009千円の支出となりました。
なお、上記先行投資期間における営業活動によるキャッシュ・フローのマイナスについて、現在既に収益を得ている創薬支援事業における1社ごとの取引量や新たに取引先を拡大することで営業キャッシュ・フローの改善に努めております。また、財務活動によるキャッシュ・フローについては、助成金の獲得や必要に応じた資金調達等により補填を行っております。資金調達においては、新株予約権の発行によるエクイティファイナンスに加え、有利子負債の調達も含めて実施しており、調達上の安定性の確保の観点や財務レバレッジにも留意しております。
資金の流動性につきましては、当事業年度の営業活動によるキャッシュ・フローが1,191,009千円の支出、財務活動によるキャッシュ・フローが1,127,291千円の収入となり、現金及び現金同等物の期末残高は1,727,270千円となりました。
c.重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社の財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づいて作成されております。また、財務諸表の作成にあたっては、経営者による会計方針の選択・適用、資産・負債及び収益・費用の報告金額及び開示に影響を与える見積りを必要としております。経営者は、これらの見積りについて、過去の実績等を勘案し合理的に判断しておりますが、実際の結果は、見積りによる不確実性のため、これらの見積りと異なる場合があります。
なお、「第2 事業の状況 2 事業等のリスク」に記載の通り、自然災害等のリスクとして新型コロナウイルス感染症等のパンデミックによるリスクは存在しておりますが 、マスク着用や手指衛生等の基本的な予防策を徹底するほか、Web会議や在宅ワークを推進し接触頻度の低減を図るなど、感染予防策を状況に応じて柔軟に実施しております。こうしたなか、当社の事業は重大な影響なく安定した運営を継続しており、新型コロナウイルス感染症による当社業績への影響は限定的であると考えられることから、会計上の見積り等に重要な影響はありません。
<用語解説>(50音、アルファベット順)
用語
意味・内容
アンメットニーズ
現状の医療では満たされていない(未充足)ニーズのことです。具体的には、有効な治療法や薬剤がない場合、薬剤があっても使い勝手が悪い、または副作用が強い、一時的に症状を抑えても再発する、時間とともに悪化するような場合、あるいは治療費が非常に高額になるような場合等にアンメットニーズが存在するといいます。
幹細胞
幹細胞は未分化な細胞で、色々な細胞に分化できる能力と、いつまでも同じ状態で増殖を維持できる能力を持つ特殊な細胞です。
シーズ
事業化・製品化の可能性はあるものの、まだ“種または芽(シーズ)”の状態であり、現時点では大きな売上や価値を生み出さないものの、将来の可能性を秘めたモノ、技術やノウハウのことを指します。企業やアカデミアが見出したものの活用していないような技術や特許等も含まれ、当社の場合、研究初期段階のターゲット抗原やその候補、抗体等が有力な候補となります。
上市
承認された新薬の市場販売が開始されることをいいます。
前駆細胞
幹細胞から特定の体細胞や生殖細胞に分化する途中の段階にある細胞のことで、幹細胞よりも分化できる能力が限られています。
前臨床試験
医薬品の研究開発において、ヒトを対象とする臨床試験の前に行う試験のことです。動物を用いて、医薬品候補化合物等の有効性や安全性を評価します。非臨床試験ともいいます。
相同組換え
相同組換え(相同的組換え)は、遺伝子配列がよく似た部位(相同部位)の間で起こる遺伝子の組換えメカニズムのことをいいます。ニワトリDT40細胞における抗体遺伝子における相同組換えは、抗体遺伝子の多様性を作り出すための仕組みとして機能しています。
探索研究
創薬研究の最初の段階として、医薬品の元となる生理活性を持つ物質を探索する研究段階があります。この研究を一般的に探索研究と呼びます。抗体医薬品の研究開発では、ターゲットである抗原について調べたり、様々な方法で抗体を作製したり、リード抗体を選別するための方法を確立したり、抗体の効果を試験管内の実験や予備的な動物実験により確かめたりする初期段階を探索研究と呼んでいます。
導出(ライセンスアウト)
特許権やノウハウ等を他者に売却したり、実施許諾することをいいます。
導入(ライセンスイン)
他者が持つ特許権やノウハウ等を買い取ったり実施許諾を受けたりすることをいいます。
動物免疫
動物に抗体を作らせる方法のことです。抗原タンパク質や抗原タンパク質を発現する細胞などを注射すると、その動物の免疫反応により体内に抗原に対する抗体が作り出されます。
特異的抗体
ある特定の抗原に結合する抗体です。
トリコスタチンA(TSA)
ニワトリDT40細胞にクロマチン弛緩を誘導するために利用する薬剤で、ヒストン脱アセチル化酵素という種類の酵素の働きを阻害する作用があります。ADLib®システムにおいて、ニワトリDT40細胞の抗体遺伝子組換えを活性化することによって、抗体タンパク質の多様性を増大させる役割を担う薬剤です。
バイスペシフィック抗体
通常、抗体は抗原を認識する部位を2つ持っており、それらは同じ抗原を認識します。それに対し、2つの抗原認識部位がそれぞれ別のターゲット(抗原)を認識するものをバイスペシフィック抗体といいます。
パイプライン
新薬として開発している医薬品候補化合物等のことを「パイプライン」といいます。創薬研究から臨床開発を経て関係当局の承認を受けるまでの活動を「創薬」と呼び、「創薬パイプライン」とは創薬のいずれかの段階にあるパイプラインのことをいいます。また、創薬パイプラインのうち開発段階に入ったパイプラインのことを、特に「開発パイプライン」ということがあります。
ハイブリドーマ法
抗原を免疫した動物から抗体を作り出すB細胞を取り出し、増殖し続ける能力を持った特殊な細胞(ミエローマ細胞)と融合させて、抗体を作り続ける細胞(ハイブリドーマ)を作製する方法です。
ヒト化抗体
遺伝子工学の技術により、マウス等の抗体分子の抗原結合部位をヒトの抗体分子に移植した抗体。マウス等由来のアミノ酸配列は全体の5%ほどで、残り95%はヒト由来のアミノ酸配列となるため、ヒトに投与した場合に異物として認識される可能性が軽減されます。
ファースト・イン・クラス
一般的には、その作用機序の医薬品の中で市場に最初に登場した医薬品を指します。類似薬がないことから高い薬価と高い売上が期待できます。抗体の場合は、あるタンパク質(抗原)をターゲットとする初めての抗体医薬をファースト・イン・クラス抗体と呼びます。当社ではそうした抗原をターゲットとすることで、これまでにない医薬品候補抗体の開発を目指し、治療充足度が十分でない疾患の治療に貢献します。
マイルストーン
導出後の臨床試験等の進捗に伴い、その節目(マイルストーン)ごとに受領する収入のことをいいます。
免疫寛容
特定の抗原(例えば、自身の体の構成成分やそれに似ているもの)に対して免疫反応が起こらない状態をいいます。
免疫反応
生体に侵入してきた異物を排除する生体反応のことをいいます。
モノクローナル抗体
単一の抗体産生細胞から得られた抗体のことをいいます。モノクローナル抗体は1つの抗原にのみ結合し、また結合する場所が決まっているため、均一で再現性の高い抗体になります。そのため、抗体医薬品の多くは、モノクローナル抗体が使われています。当社では、ADLib®システム、ハイブリドーマ法、B cell cloning法によりモノクローナル抗体を取得することができます。
ライブラリ
ADLib®システムでは、多種多様な抗体を産生する細胞集団のことをライブラリと呼びます。ライブラリに含まれる細胞が産生する抗体の種類が多いほど、目的に合った抗体を取得できる確率が高くなります。当社では、トリライブラリ、マウスキメラライブラリ、ヒトライブラリを所有しており、顧客ニーズに合わせてライブラリを選択し、抗体作製を行っています。
リード抗体
ADLib®システム、ハイブリドーマ法、B cell cloning法などの様々な手法で作成した抗体の中から、親和性、特異性、生物活性、安定性などのスクリーニングによって見出された医薬品になる可能性を有する抗体群をリード候補抗体と呼び、これらのリード候補抗体群のうち、医薬品としてその後の最適化などのステップに進めるための抗体をリード抗体と呼びます。
臨床試験
臨床試験には、次の3段階があります。
第1相試験(フェーズ1):少数の治験参加者を対象に、治験薬の安全性と治験薬が体内に入ってどのような動きをするのかを確認する試験
第2相試験(フェーズ2):第1相試験で安全性が確認された用量の範囲で、比較的少数の患者さんを対象に、治験薬の有効性(効果)、安全性、用法(投与の仕方:投与回数、投与期間、投与間隔など)・用量(最も効果的な投与量)を確認する試験
第3相試験(フェーズ3):第2相試験で確認された用法・用量で、多数の患者さんに治験薬を対象に、有効性と安全性を検証する試験
初期臨床試験は主に第1相試験および初期の第2相試験のことを指し、治験薬の安全性を主に、有効性の兆しを観察します。
ロイヤルティ
製品が販売(上市)された後に、その販売額の一定比率を受領する収入のことをいいます。
ADC
抗体薬物複合体(Antibody drug conjugate)のことを指します。例えば、悪性腫瘍の細胞表面だけに存在するタンパク質(抗原)に特異的に結合する抗体に毒性の高い薬剤を結合させると、そのADCは悪性腫瘍だけを死滅させることができます。このため、比較的副作用が少なく効き目の強い薬剤となる可能性があります。
ADCC活性
抗体依存性細胞傷害活性(Antibody Dependent Cellular Cytotoxicity)のことです。抗体薬には、がん細胞の表面に発現する標的抗原(標的分子)に結合し抗腫瘍効果を示す直接的な作用のほかに、患者さん自身の免疫細胞(マクロファージやNK細胞等)を介して抗腫瘍効果を発揮する作用があります。そのため、標的抗原の発現量だけでなく、患者さん自身の免疫状態、特に抗体薬が生体内の免疫細胞をがん周囲に呼び寄せ、集まった免疫細胞を活性化することで大きな治療効果を期待できることがあります。このような作用をADCC活性といいます。
ADLib®(アドリブ)システム
ライブラリから特定の抗原を固定した磁気ビーズを用いて目的の抗原に結合する抗体産生細胞を取り出す仕組みです。ADLib®システムで用いるライブラリは、ニワトリのBリンパ細胞由来のDT40細胞の持つ抗体遺伝子の自律的な相同組換えを活性化することによって、抗体タンパク質の多様性が増大しております。既存の方法に比べ、迅速性に優れていることおよび従来困難であった抗体取得が可能になる場合があること等の点に特徴があると考えております。
B細胞
リンパ球の1種で骨髄由来の細胞です。抗原の侵入に応答して増殖し、抗体(免疫グロブリン)を生産する細胞へと分化して抗体を産生します。
B cell cloning法
目的の抗原への結合性抗体を産生する単一のBリンパ細胞を選択し、抗体遺伝子をクローニングする手法のことです。ハイブリドーマ法と異なり、増殖し続ける能力を持った特殊な細胞(ミエローマ細胞)と融合させる工程を省くことができます。
BMAA(抗セマフォリン3A抗体)
セマフォリン3Aは神経の先端の伸長を制御する因子として発見されました。これまでの研究により、セマフォリン3Aを阻害することにより神経再生が起こること、また炎症・免疫反応やがん、骨の形成、アルツハイマー病、糖尿病合併症等とも関連していることが報告されております。抗セマフォリン3A抗体は、この因子の働きを抑えることによりアンメットニーズの高い各種疾患の治療薬開発に結びつくことが期待される抗体です。本抗体は、当社独自の抗体作製技術であるADLib®システムで取得されました。
CMC
Chemistry, Manufacturing and Controlの略で、医薬品の原薬・製剤の化学・製造およびその品質管理を指します。
CMO
Contract Manufacturing Organizationの略称で、製薬会社から医薬品(治験薬・市販薬を含 む)の製造を受託する企業を指します。医薬品を製造するためには、GMP(医薬品等の製造管理 および品質管理に関する基準)をクリアする必要があり、CMOはGMPに対応できる技術力と、開発ライン・製造ラインの設備を備えています。
DT40細胞
ニワトリのファブリキウス嚢(鳥類に特有な一次免疫器官)から取り出され、がん遺伝子の導入により不死化されたB細胞の1つです。このDT40細胞株では抗体遺伝子の相同組換えが高頻度で起きることが知られており、当社ではさらに薬剤により抗体遺伝子組換えを人為的に誘導して、多様な抗体を産生する細胞集団(ライブラリ)を作り出しています。これがADLib®システムの技術の基になっています。
PCDC(抗CDCP1抗体の社内コード)
標準治療耐性のがん種を含む幅広い固形がんで発現(肺、結腸直腸、膵臓、乳、卵巣がんなど)するファースト・イン・クラスとなる標的分子CDCP1に対するヒト化抗体です。細胞内に入り込むインターナリゼーション能が高いことから、薬物との複合体であるADCとしての効果が期待されます。
PTRY(社内コード)
53L10 型 Tribody™(PTRY) は、3つの抗原結合部位の標的をそれぞれ、固形がんに発現が認められる 5T4、免疫細胞である T 細胞上の CD3、残る 1 つを免疫チェックポイント阻害に関与する PD-L1 とした、がん治療用候補抗体です。Tb535H (開発コード:CBA-1535、標的分子:5T4×CD3×5T4)よりも強力な抗腫瘍活性が示されています。
T細胞
リンパ球の一種で、免疫反応の司令塔として重要な役割を果たす細胞。T細胞はその機能によって、免疫応答を促進するヘルパーT細胞、逆に免疫反応を抑制するサプレッサーT細胞、病原体に感染した細胞や癌細胞を直接殺すキラーT細胞などに分類されます。
Tribody™
多重特異性抗体を作製する自社の技術であるTrisoma®で作製された抗体の商標です。バイスペシフィック抗体は2種類の標的(抗原)に結合することができますが、Tribody™は抗原結合部位が3ヶ所あるので最大3種類の抗原に結合することができ、より特異性の高い抗体を作成することができます。
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