【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
(1)経営成績等の状況の概要
当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。
①経営成績の状況
当事業年度の世界経済は、ロシアのウクライナ侵攻に端を発したエネルギー、資源価格の高騰と、継続していた新型コロナウイルス感染症流行の影響があり、経済状況が揺れ動きました。それに伴う物価の上昇により、米国の政策金利が大幅に上昇しました。これによって米国の景気が落ち込むことが心配されましたが、全般的には大きな落ち込みはなく、株価も高値を維持しました。また、米中関係の緊迫や中国国内の新型コロナウイルス感染症の感染対策が、サプライチェーンに影響し、半導体不足から各種の機器の納期遅延等が問題となりました。
日本の景気も横ばい気味で推移しましたが、引き続き労働市場は需給が逼迫している状況が継続しました。このために、中小企業を中心に人員不足が各業種において発生いたしました。
こうした経済情勢の中、当社製品の主要なビジネス分野であるLGD市場は、この数年継続して拡大して来たと見られます。このために、LGD製造企業は活発に設備投資を進め、新規企業も多数設立されました。当社はこのような状況から、2021年11月に島工場の建設を開始し、生産能力の拡大を進めてまいりました。また、本社にあった生産設備を工場に移転し、あわせて工程ごとに集中する配置に転換しました。島工場は2022年11月に稼働を開始し、工程集中による合理化も合わせ、2022年12月にはダイヤモンドの成長能力が計画通り拡大したことを確認できました。一方で、島工場の一部生産設備の納期遅延により、当初計画したすべての設備が整ったのは、2023年3月となりました。
しかし、第3四半期会計期間の末頃から、LGD製造企業の上記の状況から、小型宝石において供給過剰が発生しました。このため、その取引価格が、それまでのペースを上回って下落しました。第4四半期には、LGD製造企業の中には、生産の縮小や、設備増設計画の見直しや延期をするところも出てきました。このようなLGD製造企業の動きは、当社の主力商品である種結晶の受注状況を大幅に変えることとなりました。それまで生産拡大を続けていました当社の大手ユーザー各社も、2023年1月以降に一旦種結晶の購入を控える動きが出てまいりました。
当社のこれまでの種結晶売上は、数社の大手ユーザーがそのほとんどを占めていました。特に、10x10mm以上の大型種結晶については、生産量がそれほど多くなかったこともあり、ユーザーを限定していました。しかし、受注が減少した事態に対応するため営業方針の変更を行いました。それは、大手ユーザーからの小型宝石生産用種結晶の受注減少により、今まで当社の生産能力の問題で供給することができなかったユーザーへの販売を開始し、10x10mm以上の大型種結晶については需要のある全てのユーザーに販売開始する、という方針変更を行いました。これらの対策によって、2023年2、3月の種結晶売上は安定しました。また、10x10mm以上の種結晶の売上比率も増加し、平均単価が上がることとなりました。
一方、種結晶以外の製品については、当事業年度の初めから内外の企業、研究機関から多くの引き合いが来ていました。特に、量子コンピューター関連研究を行っているベンチャー企業などから、半導体関連開発向けの基板需要が想定より膨らみました。米国や欧州で新規のダイヤモンドデバイス企業が設立され、当事業年度後半には日本においても新たに2社のベンチャー企業が立ち上がりました。これらの企業からも基板の引き合いが来ており、市場全体が活発になったと考えられます。
光学部品では、X線や赤外線の窓材が量産に移行し、定期的な購入が始まりました。ヒートシンクについては、レーザー等への小型製品と共に、大型の材料を使った実装技術へのアプローチも開始され、モザイク結晶を購入する動きが始まりました。
当社は当事業年度において東京証券取引所グロース市場に上場することを目指し、数年前からガバナンス体制の整備等を進めてまいりました。整備が完了した2022年3月に上場申請を行い、その後東京証券取引所の審査を経て、2022年6月27日に上場を果たしました。
上場によって多数の新たな業務への対応が必要となりましたので、管理部門の人員を補強しさらに社外の専門家との連携を図る等により、内部管理体制の一層の強化を図ってまいりました。
以上の結果、当事業年度の売上高は2,707,217千円(前年同期比73.3%増)、営業利益は1,280,928千円(前年同期比146.1%増)、経常利益は1,280,724千円(前年同期比142.6%増)、当期純利益は909,628千円(前年同期比142.7%増)となりました。
なお、当社はダイヤモンド単結晶の製造、販売、開発事業の単一セグメントであるため、セグメント別の記載を省略しております。
②財政状態の状況
(資産)
当事業年度末における流動資産は2,962,243千円となり、前事業年度末に比べ1,543,689千円増加いたしました。これは主に東京証券取引所グロース市場への上場に伴う公募増資等により現金及び預金が1,172,574千円、仕掛品が205,680千円及び売掛金が91,096千円増加したことによるものであります。
固定資産は3,054,213千円となり、前事業年度末に比べ1,655,214千円増加いたしました。これは主に有形固定資産が
1,629,652千円増加したことによるものであります。
この結果、資産合計は6,016,457千円となり、前事業年度末に比べ3,198,903千円増加いたしました。
(負債)
当事業年度末における流動負債は740,545千円となり、前事業年度末に比べ383,356千円増加いたしました。これは主に未払法人税等が282,558千円、未払金が55,403千円及び1年内返済予定の長期借入金が28,640千円増加したことによるものであります。
固定負債は345,409千円となり、前事業年度末に比べ69,696千円減少いたしました。これは主に資産除去債務が39,559千円及び退職給付引当金が9,167千円増加したものの、長期借入金が118,424千円減少したことによるものであります。
この結果、負債合計は、1,085,954千円となり、前事業年度末に比べ313,660千円増加いたしました。
(純資産)
当事業年度末における純資産合計は4,930,502千円となり、前事業年度末に比べ2,885,243千円増加いたしました。これは主に、東京証券取引所グロース市場への上場に伴う公募増資や新株予約権の行使等により資本金及び資本準備金がそれぞれ988,645千円増加したこと、当期純利益計上により利益剰余金が909,628千円増加したことによるものであります。
この結果、自己資本比率は82.0%(前事業年度末は72.6%)となりました。
③キャッシュ・フローの状況
当事業年度末における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、売上債権の増加、棚卸資産の増加、有形固定資産の取得による支出等の要因により一部相殺されたものの、税引前当期純利益が1,275,102千円(前年同期比146.9%増)と758,651千円増加したこと等により、前事業年度末に比べ1,172,574千円増加し、当事業年度末は2,239,570千円となりました。
当事業年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動の結果獲得した資金は1,184,225千円(前事業年度は635,000千円の獲得)となりました。これは主に、税引前当期純利益1,275,102千円、減価償却費317,090千円があった一方で、棚卸資産の増加額284,166千円及び法人税等の支払額千126,079円等があったことによるものであります。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動の結果使用した資金は1,886,624千円(前事業年度は545,005千円の使用)となりました。これは主に有形固定資産の取得による支出1,884,391千円等があったことによるものであります。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動の結果獲得した資金は1,862,248千円(前事業年度は15,666千円の獲得)となりました。これは主に株式の発行による収入1,962,589千円等があったことによるものであります。
④生産、受注及び販売の実績
a.生産実績
当社はダイヤモンド単結晶の製造、販売、開発事業の単一セグメントであります。当事業年度における生産実績は以下のとおりであります。
生産高
当事業年度
(自2022年4月1日
至2023年3月31日)
前年同期比(%)
生産高合計(千円)
945,359
130.0
(注)1.金額は製造原価によっております。
2.当社の売上高及び生産高は、ダイヤモンド単結晶の製造のための設備の規模(生産能力)に依存します。なお、最近2事業年度の当社の生産能力(カラットベース)は、以下のとおりであります。
前事業年度
(自2021年4月1日
至2022年3月31日)
当事業年度
(自2022年4月1日
至2023年3月31日)
(カラット)
(カラット)
生産能力
110,000
150,000
b.受注実績
当社はダイヤモンド単結晶の製造、販売、開発事業の単一セグメントであります。当事業年度における製品種類別の受注実績は以下のとおりであります。
製品種類
当事業年度
(自2022年4月1日至2023年3月31日)
受注高(千円)
前年同期比(%)
受注残高(千円)
前年同期比(%)
種結晶(注)
1,636,588
81.2
357,818
32.0
基板及びウエハ
70,300
160.2
10,734
147.8
光学部品及びヒートシンク
34,177
81.7
9,920
72.4
工具素材
20,292
62.5
2,280
85.5
宝石原石
-
-
-
-
合計
1,761,357
82.6
380,752
33.3
c.販売実績
当社はダイヤモンド単結晶の製造、販売、開発事業の単一セグメントであります。当事業年度における製品種類別の販売実績は、以下のとおりであります。
製品種類
当事業年度
(自2022年4月1日
至2023年3月31日)
前年同期比(%)
種結晶(千円)(注)2.
2,581,506
177.6
基板及びウエハ(千円)
67,523
143.4
光学部品及びヒートシンク(千円)
37,591
127.4
工具素材(千円)
20,597
63.7
宝石原石(千円)
-
-
合計(千円)
2,707,217
173.3
(注)1.最近2事業年度の主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は以下のとおりであります。
相手先
前事業年度
(自2021年4月1日
至2022年3月31日)
当事業年度
(自2022年4月1日
至2023年3月31日)
金額(千円)
割合(%)
金額(千円)
割合(%)
CBC株式会社
244,378
15.6
687,713
25.4
Lusix LTD.
410,079
26.2
680,566
25.1
Sigma Carbon Technologies
387,413
24.8
532,967
19.7
Cornes Technologies USA
196,404
12.6
444,856
16.4
2.当社は、大型のダイヤモンド単結晶を大量に製造することができますが、当社の主要な製品である種結晶に
ついて、人工宝石市場における種結晶の大型化のニーズが増大しております。なお、当事業年度におけるサ
イズ別の種結晶の出荷割合(出荷個数ベース)は以下のとおりであります。
種結晶サイズ
当事業年度
(自2022年4月1日
至2023年3月31日)
割合(%)
7x7mm以下
16.3
8x8mm~9x9mm
45,5
10x10mm以上
38.2
(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
経営者の視点による当社の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は、次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において判断したものであります。
①重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社の財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に基づき作成されております。この財務諸表を作成するにあたり重要となる会計方針については「第5 経理の状況 1 財務諸表等 (1)財務諸表 注記事項 重要な会計方針」に記載のとおりであります。
また、財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5 経理の状況 1 財務諸表等 (1)財務諸表 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載のとおりであります。
なお、 新型コロナウイルス感染症の影響については、「第5 経理の状況 1 財務諸表等 (1)財務諸表 注記事項 (追加情報)」に記載のとおりであります。
②経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容については、「(1) 経営成績等の状況の概要」に含めて記載しております。
a.経営成績に重要な影響を与える要因
当社の事業に重要な影響を与える要因の詳細につきましては、「第2 事業の状況3 事業等のリスク」に記載のとおりであります。
b.資本の財源及び資金の流動性
当社の資金需要のうち主なものは、ダイヤモンド単結晶の製造のための設備投資、研究開発費、人件費等の営業費用であります。
当社は、事業運営上必要な流動性と資金の源泉を安定的に確保することを基本方針としております。
当社は、日常の運転資金については自己資金で賄い、自己資金では賄えない設備投資資金等については金融機関からの長期借入で賄うとともに、資本での調達を検討することとしております。
なお、当事業年度末における借入金の残高は、350,054千円であり、当事業年度末における現金及び現金同等物の残高は2,239,570千円であります。
c.経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社は、経営上の目標の達成状況を判断するための成長性を判断する客観的な指標として、①売上高成長率、②経常利益率、③ROE、④自己資本比率を重視しております。
①当事業年度における売上高成長率は、73.3%(前期は37.0%)となっております。
売上高成長率は、当社の成長性や事業進捗のペースを表す指標として、重視しております。
当社が競争優位性を確保しながら適切なペースで売上高を向上させ、経営上の目標を達成するための施策としては、当社の売上高はダイヤモンド単結晶の製造のための設備の規模に依存することから、金融機関からの借入及び資本での調達による長期的な資金を獲得し、設備投資を進め、生産能力の拡大を図ってまいります。
②当事業年度における経常利益率は、47.3%(前期は33.8%)となっております。
経常利益率は、当社の売上高に対する収益性を表す指標として、重視しております。
当社の事業進捗及び競争優位性の確保にとって、設備投資及び研究開発活動が重要ですが、そのための長期的な資金として自己資金を継続的に確保することが必要であるため、一定の経常利益率の確保に努めてまいります。
③当事業年度におけるROEは、26.1%(前期は20.4%)となっております。
ROEは、当社の投下資本に対する収益性を表す指標として、重視しております。
また、研究開発活動により、ダイヤモンド単結晶の新たな用途を開拓することにより事業領域の拡大を図ってまいります。具体的には、ダイヤモンド半導体デバイス開発に必要な素材の開発や光学部品として必要な高品質結晶の開発を推進してまいります。
④当事業年度の自己資本比率は、82.0%(前期は72.6%)となっております。
当社の事業進捗にとって設備投資は重要ですが、財務の健全性を保つためには、自己資本比率を50%以上に保ちたいと考えております。過度な借入を行うことがないよう、キャッシュ・フローにも注意を払っております。
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