【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
(1) 業績等の概要当第2四半期連結累計期間(2023年4月1日から同年9月30日)における世界経済は、低成長ながらも回復が続きましたが、ウクライナ情勢に伴う資源・エネルギー価格の高騰やインフレ抑制を目的とした世界的な金融引き締めの影響、さらには中国経済の減速が懸念され、先行き不透明な状況で推移しました。当社グループ事業の主要対象分野である自動車関連分野は、半導体不足等サプライチェーンの混乱で低迷した自動車生産が着実に回復しました。ICT・家電分野は、個人消費の減退や買い替えサイクルの長期化により、スマートフォンやパソコンの販売低迷が続きました。食品分野は、行動制限の緩和やインバウンド需要の回復により土産物や外食の需要が回復しましたが、物価上昇に伴う消費者の節約・低価格志向は根強く、厳しい事業環境が続きました。農業分野は、天候不順や過年度の流通在庫の影響から、国内外ともに農薬需要は弱含みで推移しました。当社グループは2023年度に中期経営計画『ADX 2023』の最終年度を迎えます。社会価値と経済価値の追求による企業価値向上に向けて、計画した施策を着実に実行していきます。樹脂添加剤では、循環型社会の実現に貢献する「アデカシクロエイド」シリーズにおいて、新たにリサイクル樹脂向けの光安定剤ワンパックタイプを市場投入しました。情報・電子化学品では、成長が期待できる半導体分野への投資を積極的に実行しており、韓国で生産する先端半導体メモリ向け高誘電材料の設備増強を決定、また、千葉工場で建設を進めてきたEUV(極端紫外線)フォトレジスト向け光酸発生剤の生産設備が稼働しました。ライフサイエンス事業では、化学合成農薬以外の事業ポートフォリオ拡充を目的として、英国のアジュバント等の添加剤やバイオスティミュラントの製造・販売会社であるInteragro (UK) Limitedの全発行株式を、Nichino Europe Co., Ltd.が取得しました。また、インドにおいて、新規水稲用殺虫剤ベンズピリモキサンに加え、複数の農薬原体を製造できるマルチパーパスプラントが竣工しました。なお、本プラントはインド当局での許認可手続きを経て、2023年度中の稼働開始を予定しています。グループシナジーの創出では、当社と日本農薬の技術を結集した共同研究において、抗寄生虫剤として期待される化合物群を見出し、2023年7月に本件特許出願4報が世界知的財産機構より国際公開されました。サステナビリティの取り組みでは、「2030年:GHG排出量46%削減(2013年比)、2050 年:カーボンニュートラル」の実現に向けて、インターナルカーボンプライシング制度と再生可能由来電力の導入を開始しました。以上の結果、当第2四半期連結累計期間の売上高は、前年同期に比べ88億18百万円(前年同期比△4.5%)減収の1,876億60百万円となり、営業利益は前年同期に比べ3億13百万円(同△2.1%)減益の147億98百万円、経常利益は前年同期に比べ9億円(同△5.5%)減益の155億31百万円、親会社株主に帰属する四半期純利益は前年同期に比べ5億70百万円(同+5.7%)増益の105億50百万円となりました。
<報告セグメントの概況>(化学品事業)当事業の売上高は前年同期に比べ83億36百万円(同△7.6%)減収の1,015億55百万円となり、営業利益は前年同期に比べ19億8百万円(同△13.7%)減益の120億41百万円となりました。
① 樹脂添加剤自動車向けでは、自動車生産の回復を背景に自動車部材に使用される核剤、光安定剤やゴム用可塑剤の販売が堅調に推移しました。建材向けでは、北米を中心に住宅内装材の需要が停滞し、塩ビ用安定剤の販売が低調に推移しました。食品包装向けでは、需要は底堅かったものの、サプライチェーンにおける在庫や生産調整の影響により、透明化剤の販売が低調でした。ポリオレフィン樹脂に使用されるワンパック顆粒添加剤や酸化防止剤は、中東・欧州での需要低迷と市場での競争激化により、販売が苦戦しました。難燃剤は、家電等の需要低迷が長期化し、筐体等に使用されるエンジニアリングプラスチック向けの販売が低調でした。一方、ポリオレフィン樹脂向けの難燃剤は大型家電向けを中心に販売が堅調に推移し、またEV(電気自動車)用途での採用が進みました。樹脂添加剤全体では、販売数量の減少と固定費の増加により、前年同期に比べ減収減益となりました。
② 情報・電子化学品半導体向けでは、特に第2四半期末にかけて半導体メーカーの減産による影響を受けたものの、上期全体では先端DRAM向け高誘電材料の販売が好調に推移し、先端フォトレジスト向け光酸発生剤の販売も堅調でした。一方で、プリント基板等に使用される電子部品用エッチング薬液の販売が低調でした。ディスプレイ向けでは、大型パネルの生産が回復し、カラーフィルター向け光重合開始剤、ブラックマトリクス及びエッチング薬液の販売が堅調に推移しました。一方で、光学フィルム向け光硬化樹脂は、パネル市場の中国シフトの影響により販売が低調でした。情報・電子化学品全体では、先端半導体向け製品の販売好調とディスプレイ関連材料の持ち直しにより増収となりました。利益は原材料価格の高騰に加え設備投資に伴う固定費の増加もあり、前年同期に比べ若干の減益となりました。
③ 機能化学品自動車向けでは、エンジンオイル用潤滑油添加剤の販売が、海外での自動車生産の回復や新エンジンオイル規格の普及拡大により好調に推移しました。また、自動車の構造用接着剤向けエポキシ樹脂や車載用電子部品向けエポキシ樹脂接着剤の販売が底堅く推移しました。建築塗料向けでは、インドの住環境の変化に伴う需要を取り込み、反応性乳化剤の販売が好調に推移しました。一方で、家電、スマートフォン、パソコンの市況低迷が続き、水系樹脂や特殊エポキシ樹脂の販売が低調でした。化粧品向け特殊界面活性剤は、欧州を中心に需要が落ち込み、販売が低調でした。工業用途で使用されるプロピレングリコール類や過酸化製品は、市況低迷が続き販売が低調でした。機能化学品全体では、販売数量の減少により、前年同期に比べ減収減益となりました。
(食品事業)当事業の売上高は前年同期に比べ15億12百万円(同+3.8%)増収の413億83百万円となり、営業利益は前年同期に比べ31億88百万円増益の13億2百万円(前年同期は18億85百万円の営業損失)となりました。国内の製パン、製菓用マーガリン、ショートニング類は、食料品高騰による消費支出減や最終商品のダウンサイジングの影響もあり、汎用品を中心に販売数量が減少しました。一方で、人流の回復を受け、土産菓子向けのマーガリン類やフィリング類の販売は好調に推移しました。パン等のおいしさ持続と消費期限延長に寄与する機能性マーガリン「マーベラス」シリーズは新製品の販売が堅調でした。プラントベースフード「デリプランツ」シリーズは、さらなるおいしさと使いやすさを追求するとともに、製品ラインナップの拡充と市場浸透に向けた提案を推し進め、採用が増加しました。海外では、中国がコロナ前の水準には至らないものの需要が戻りつつあること、東南アジアで販売が堅調に推移したこと、価格改定が進捗したこともあり、売上、利益ともに回復が進みました。 食品事業全体では、生産の効率化やコスト削減、販売価格の改定に加え、2022年度の減損処理による減価償却費の減少もあり、前年同期に比べ増収増益となりました。
(ライフサイエンス事業)当事業の売上高は前年同期に比べ24億95百万円(同△5.8%)減収の406億66百万円となり、営業利益は前年同期に比べ18億63百万円(同△72.7%)減益の6億99百万円となりました。農薬は、国内では水稲用殺虫剤ベンズピリモキサン(商品名「オーケストラ」)をはじめとする主力自社開発品目の普及拡販に努めましたが、天候不順や過年度の流通在庫の影響等から販売が低調に推移しました。海外では、世界最大の農薬市場であるブラジルで多雨によりサトウキビ向け除草剤の需要が底堅く推移したことなどから、販売が堅調に推移しました。インドでは天候不順の影響はあったものの、棉や野菜分野で普及拡販を進めている殺虫剤トルフェンピラドやピリフルキナゾンをはじめとした自社開発品目を中心に販売が堅調に推移しました。一方で、北米では寒冷な気候が続き例年よりも害虫の発生が少なかったことから殺虫剤の需要が減少し、販売が低調に推移しました。医薬品は、海外向けで需要が減少したことから外用抗真菌剤「ルリコナゾール」の販売が低調に推移しました。ライフサイエンス事業全体では、農薬販売の減少により、前年同期に比べ減収減益となりました。
(2) 財政状態の分析(資産) 当第2四半期連結会計期間末における総資産は5,176億30百万円(前連結会計年度比+3.5%)となり、前連結会計年度末に比べ175億62百万円の増加となりました。主な要因は、棚卸資産の増加です。(負債) 当第2四半期連結会計期間末における総負債は1,917億75百万円(同+1.8%)となり、前連結会計年度末に比べ34億16百万円の増加となりました。主な要因は、支払手形及び買掛金の増加です。(純資産)当第2四半期連結会計期間末における純資産は3,258億54百万円(同+4.5%)となり、前連結会計年度末に比べ141億45百万円の増加となりました。主な要因は、利益剰余金の増加です。
(3) キャッシュ・フローの状況当第2四半期連結累計期間末における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)の残高は、前連結会計年度末の資金残高に比べ25億8百万円(前連結会計年度末比+3.2%)増加し、820億46百万円となりました。各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は、以下のとおりです。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)営業活動による資金収入は、前第2四半期連結累計期間に比べ133億89百万円(同+100.9%)増加し、266億64百万円となりました。これは主に、棚卸資産の増減による支出の減少によるものです。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)投資活動による資金支出は、前第2四半期連結累計期間に比べ27億10百万円(同+21.6%)増加し、152億84百万円となりました。これは主に、有形固定資産の取得による支出の増加によるものです。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)財務活動による資金支出は、前第2四半期連結累計期間に比べ30億95百万円(同+37.5%)増加し、113億40百万円となりました。これは主に、長期借入金の返済による支出の増加によるものです。
(4) 事業上及び財務上の対処すべき課題① グループ戦略課題当第2四半期連結累計期間において、グループの戦略課題に重要な変更及び新たに生じた課題はありません。
② 財務及び事業の方針の決定を支配する者の在り方に関する基本方針当第2四半期連結累計期間において、財務及び事業の方針の決定を支配する者の在り方に関する基本方針に変更はありません。
(5) 研究開発活動第162期(2023年度)の研究開発方針として、ⅰ) 持続可能な社会と人々の豊かなくらしに貢献する研究開発を推進する。ⅱ) 戦略製品と環境貢献製品を中心とした市場開発・新製品開発に注力し、更なる事業拡大へ繋げる。ⅲ) エネルギー、環境、次世代ICT、ライフサイエンスなどフロンティア領域での新規事業創出を加速する。ⅳ) カーボンニュートラルの実現に向けて、GHG排出量低減と、CO2の利活用に向けた研究開発に取り組む。の4項目を掲げて研究開発活動を推進しています。 当第2四半期連結累計期間におけるグループ全体の研究開発活動の金額は、71億84百万円です。
① 化学品事業事業のさらなる拡大に向け、戦略製品を中心とした市場開発や新製品開発に注力しています。市場環境の変化やユーザーニーズを鋭敏に捉えて社内で共有することで、タイムリーな製品開発を推進しています。
ⅰ) 樹脂添加剤分野環境対応型製品アデカシクロエイドシリーズとして、バイオマス原料を活用した塩ビ用可塑剤や、生分解性バイオプラスチック用可塑剤、リサイクルプラスチックに従来のプラスチックと同等以上の機能を付与する添加剤パッケージなどを開発しています。また、新しい機能付与剤として、ポリプロピレンの靭性と衝撃性を向上するβ晶核剤や繊維向け帯電防止剤の紹介を進めています。ⅱ) 情報・電子化学品分野 半導体向けでは、次世代DRAM用の新規高誘電ALD成膜材料の開発に注力しています。ロジック半導体向けの新規ALD材料も、ユーザーでの性能評価が進展しています。また、ArFやEUVなどの先端フォトレジスト向けに光酸発生剤や関連材料の採用が拡大しています。ⅲ) 機能化学品分野一般社団法人日本接着学会より、「第45回技術賞」を株式会社デンソーとともに受賞しました。共同開発した「カーボンニュートラル レーザ硬化型接着システム」が、省エネルギー化を達成し、CO2削減を可能にする接着技術として高く評価されました。
② 食品事業人々の健康で豊かなくらしに貢献する食品の創造を目標に掲げ、サプライチェーンのあらゆる場面での環境負荷の低減や食品ロス削減、労働力不足などの社会課題や、消費行動など市場ニーズを捉えた新製品開発を行っています。2023年度新製品は、「おいしさと笑顔を食卓のあたり前に ~Healthy & Sustainable~」をテーマに、以下の製品を中心とした10製品をラインナップしました。年度新製品で原料にパーム油を配合する製品にあっては持続可能なRSPO認証パーム油を使用しています。
ⅰ) プラントベースフード「デリプランツ」シリーズ非動物性原料のみで“プラントベースフードの常識を覆すおいしさ”を実現した「デリプランツ」シリーズのラインナップを拡充しました。(ⅰ) バターのような自然なコク味を持つ「デリプランツ コクバター」、(ⅱ) シュレッド加工やダイス加工など様々な用途に対応できる「デリプランツ チーズ(セミハード)」、(ⅲ) 昨年発売し好評の「デリプランツ オーツコンク」「同 ホイップ」「同 チーズ クリーミー」の小容量個包装タイプなど、計7製品を上市しました。今後もラインナップを拡充するとともにアプリケーションの開発を進め、市場への更なる浸透を図ってまいります。ⅱ) 食品ロス削減対応製品パンの経時的な品質低下を抑制することで消費期限を延長し、食品ロス削減に貢献する機能が好評の製パン用練込油脂「マーベラス」のコンセプトを進化させた製品開発を推進しました。(ⅰ) 油脂の使用量を従来よりも約40%低減が可能な高濃度タイプの機能性練込油脂「マーベラスCNC」、(ⅱ) パン、菓子、惣菜の製造時の品質を安定させ生産ロスを削減する高濃度タイプの機能性リキッド「フォーカスC」などの3製品を上市しました。より多彩となったラインナップでターゲット市場の拡大と展開を進めてまいります。
③ ライフサイエンス事業連結子会社である日本農薬株式会社では、持続的な新規剤創出を目指してパイプラインの早期拡充に取り組むとともに、既存剤の維持・拡大を目指し全社的な連携による戦略的な研究開発を推進しています。当第2四半期連結累計期間における主な成果は以下のとおりです。2021年9月に国内開発を機関決定した新規汎用性殺虫剤(開発コード:NNI-2101)は、登録に向けた開発を進めています。本剤は幅広い殺虫スペクトルを示すこと、既存剤に感受性の低下した害虫にも有効であること、浸透移行性に優れることから、汎用性に優れた新しい有効成分です。多くの害虫や作物を対象として様々な処理方法で実用性を検討中であり、利便性の高い害虫防除資材を目指して開発を進めています。
④ 新規事業分野エネルギー、環境、次世代ICT、ライフサイエンスなどフロンティア領域において、ADEKAグループの強みを活かした新規事業創出を推進しています。将来ニーズと時間軸を意識し、組織の壁を越えた技術の融合とオープンイノベーションにより、早期事業化に向けて取り組んでいます。
i) ライフサイエンス分野日本農薬株式会社とライフサイエンス分野における新規事業創出を目指した共同研究を進めています。動物用医薬品の創出を目指した取り組みにおいて、抗寄生虫薬として期待される化合物群を見出し、本化合物群に関する特許出願4報が世界知的財産機構(WIPO)より国際公開されました。本化合物の動物薬メーカーへの導出を開始し、パイプラインの継続的な拡充に向けて本共同研究を加速していきます。ⅱ) 環境・エネルギー分野硫黄変性ポリアクリロニトリル「SPAN」の開発と、SPANを用いて世界最軽量二次電池を実証したことが評価され、産経新聞社主催の「第36回 独創性を拓く先端技術大賞」において、「経済産業大臣賞」(社会人部門の最優秀賞)を受賞しました。また、公益社団法人新化学技術推進協会より、第22回GSC賞「奨励賞」を受賞しました。
(6) 経営成績に重要な影響を与える要因及び戦略的現状と見通し当第2四半期連結累計期間において、当社グループの経営成績に重要な影響を与える要因に変更はありません。
(7) 経営者の問題認識と今後の方針について当第2四半期連結累計期間において、経営者の問題認識と今後の方針についての変更はありません。