【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
(1) 業績等の概要当第1四半期連結累計期間(2023年4月1日から同年6月30日)における世界経済は、新型コロナウイルス感染症による行動制限が緩和され、社会経済活動の回復が進みましたが、ウクライナ情勢の緊迫化や、世界的なインフレ進行と欧米各国の金融引き締めが経済にもたらす影響が懸念され、景気回復のペースが鈍化しました。当社グループ事業の主要対象分野である自動車関連分野は、半導体の供給制約の緩和を背景に自動車メーカーでの生産が正常化に向かい、回復基調で推移しました。ICT・家電分野は、個人消費の減退が続き、スマートフォンやパソコンの販売が低迷しました。食品分野は、行動制限の緩和やインバウンド需要の回復により土産物や外食の需要が回復しましたが、物価上昇に伴う消費者の節約・低価格志向は根強く、また卵の供給不足による影響もあり、厳しい事業環境が続きました。農業分野は、日本、インド、北米の農薬需要が弱含みで推移しましたが、ブラジルでは、主要作物の作付面積が拡大していること等から、農薬需要は堅調に推移しました。当社グループを取り巻く事業環境は引き続き予断を許さない状況にありますが、2023年度は、社会価値と経済価値の追求による企業価値向上を目指した中期経営計画『ADX 2023』の最終年度となります。3カ年の集大成として、一段上のステージへと邁進するべく、成長に向けた施策を着実に実行していきます。情報・電子化学品では、成長が期待できる半導体分野への投資を加速しており、当第1四半期連結累計期間では、韓国で生産する先端半導体メモリ向け高誘電材料の設備増強を決定し、また、千葉工場で建設を進めてきたEUV(極端紫外線)フォトレジスト向け光酸発生剤の生産設備が竣工しました。ライフサイエンス事業では、化学合成農薬以外の事業ポートフォリオ拡充を目的として、英国のアジュバント等の添加剤やバイオスティミュラントの製造・販売会社であるInteragro (UK) Limitedの全発行株式を、Nichino Europe Co., Ltd.が取得しました。また、インドにおいて、新規水稲用殺虫剤ベンズピリモキサンに加え、複数の農薬原体を製造できるマルチパーパスプラントが竣工しました。サステナビリティの取り組みでは、「2030年:GHG排出量46%削減(2013年比)、2050 年:カーボンニュートラル」の実現に向けて、インターナルカーボンプライシング制度と再生可能由来エネルギーの導入を開始しました。以上の結果、当第1四半期連結累計期間の売上高は、前年同期に比べ71億22百万円(前年同期比△7.0%)減収の945億96百万円となり、営業利益は前年同期に比べ16億37百万円(同△18.1%)減益の74億22百万円、経常利益は前年同期に比べ22億86百万円(同△21.9%)減益の81億50百万円、親会社株主に帰属する四半期純利益は前年同期に比べ10億17百万円(同△16.6%)減益の51億20百万円となりました。
<報告セグメントの概況>(化学品事業)当事業の売上高は前年同期に比べ58億2百万円(同△10.4%)減収の497億94百万円となり、営業利益は前年同期に比べ16億67百万円(同△23.2%)減益の55億34百万円となりました。
① 樹脂添加剤自動車向けでは、世界の自動車生産の緩やかな回復を背景に核剤や光安定剤等の販売が堅調に推移しました。建材向けでは、北米や中国で住宅内装材の需要が停滞し、塩ビ用安定剤の販売が低調でした。食品包装向けでは、サプライチェーン上の在庫積み上がりや生産調整があったものの、透明化剤の販売は底堅い需要に支えられ、堅調に推移しました。ポリオレフィン樹脂に使用されるワンパック顆粒添加剤や酸化防止剤は、欧州を中心に競争が激化し、販売が低調でした。難燃剤は、家電やパソコン等の需要低迷が長期化し、筐体等に使用されるエンジニアリングプラスチック向けの販売が低調でした。一方、ポリオレフィン樹脂向けは大型家電向けを中心に販売が好調に推移しました。樹脂添加剤全体では、販売数量の減少により、前年同期に比べ減収減益となりました。
② 情報・電子化学品半導体向けでは、光酸発生剤等の製品群で半導体の生産調整による影響を受けましたが、先端DRAM向け高誘電材料の販売が好調に推移しました。一方で、プリント基板等に使用される電子部品用エッチング薬液の販売が低調でした。ディスプレイ向けでは、光学フィルム向け光硬化樹脂等の販売が低調でしたが、大型パネルの生産が回復し、カラーフィルター向け光重合開始剤やエッチング薬液の販売が堅調に推移しました。情報・電子化学品全体では、スマートフォンやパソコン等の生産調整に伴う材料の販売減少を、先端半導体向け製品の販売好調でカバーし増収となりましたが、設備投資に伴う固定費の増加もあり、前年同期に比べ若干の減益となりました。
③ 機能化学品自動車向けでは、エンジンオイル用潤滑油添加剤の販売が、海外での自動車生産の回復や新エンジンオイル規格の普及拡大により好調に推移しました。また、自動車の構造用接着剤向けエポキシ樹脂や車載用電子部品向けエポキシ樹脂接着剤の販売が底堅く推移しました。建築塗料向けでは、インドの住環境の変化に伴う需要を取り込み、反応性乳化剤の販売が堅調に推移しましたが、自動車、家電、スマートフォン・パソコンの需要が軟調に推移し、水系樹脂や特殊エポキシ樹脂の販売が低調でした。化粧品向け特殊界面活性剤は、欧州を中心に需要が落ち込み、販売が低調でした。工業用途で使用されるプロピレングリコール類や過酸化製品は、価格改定は進みましたが、市況低迷の影響を受け、販売数量が減少しました。機能化学品全体では、採算性の改善に努めましたが、販売数量の減少により、前年同期に比べ減収減益となりました。
(食品事業)当事業の売上高は前年同期に比べ4億79百万円(同+2.4%)増収の207億75百万円となり、営業利益は前年同期に比べ12億45百万円増益の3億70百万円(前年同期は8億74百万円の営業損失)となりました。国内の製パン、製菓用マーガリン、ショートニング類は、最終商品のダウンサイジングの影響もあり、汎用品を中心に販売数量が減少しました。一方で、人流の回復を受け、土産菓子向けのマーガリン類やフィリング類の販売は好調に推移しました。パン等のおいしさの持続と消費期限延長に寄与する機能性マーガリン「マーベラス」シリーズの販売は引き続き堅調でした。前期から販売開始したプラントベースフード「デリプランツ」シリーズは、製品ラインナップを拡充して販売に努めたことにより、採用が順調に拡大しました。海外では、中国がコロナ前の水準には至らないものの需要が持ち直したこと、東南アジアで販売が堅調に推移したこと、価格改定が進捗したこともあり、売上、利益ともに回復が進みました。 食品事業全体では、生産の効率化やコスト削減、前期から取り組んでいる価格改定の効果が出始めたことに加え、前期の減損処理による減価償却費の減少もあり、前年同期に比べ増収増益となりました。
(ライフサイエンス事業)当事業の売上高は前年同期に比べ18億34百万円(同△7.6%)減収の221億80百万円となり、営業利益は前年同期に比べ14億円(同△55.0%)減益の11億46百万円となりました。農薬は、国内では水稲用殺虫剤ベンズピリモキサン(商品名「オーケストラ」)を始めとする主力自社開発品目の普及拡販に努めましたが、過年度の流通在庫の影響等から販売が低調に推移しました。海外では、世界最大の農薬市場であるブラジルで多雨によりサトウキビ向け除草剤の需要が拡大しました。一方で、北米では寒冷な気候が続き例年よりも害虫の発生が少なかったことから殺虫剤の需要が減少し、インドでは雨季の遅れ等の天候不順により農薬の散布機会が減少したことから、販売が低調に推移しました。医薬品は、海外向けで需要が減少したこと等から外用抗真菌剤「ルリコナゾール」の販売が低調に推移しました。ライフサイエンス事業全体では、農薬販売の減少により、前年同期に比べ減収減益となりました。
(2) 財政状態の分析(資産) 当第1四半期連結会計期間末における総資産は5,051億13百万円(前連結会計年度比+1.0%)となり、前連結会計年度末に比べ50億44百万円の増加となりました。主な要因は、投資有価証券の増加です。(負債) 当第1四半期連結会計期間末における総負債は1,866億69百万円(同△0.9%)となり、前連結会計年度末に比べ16億89百万円の減少となりました。主な要因は、支払手形及び買掛金の減少です。(純資産)当第1四半期連結会計期間末における純資産は3,184億44百万円(同+2.2%)となり、前連結会計年度末に比べ67億34百万円の増加となりました。主な要因は、為替換算調整勘定の増加です。
(3) 事業上及び財務上の対処すべき課題① グループ戦略課題当第1四半期連結累計期間において、グループの戦略課題に重要な変更及び新たに生じた課題はありません。
② 財務及び事業の方針の決定を支配する者の在り方に関する基本方針当第1四半期連結累計期間において、財務及び事業の方針の決定を支配する者の在り方に関する基本方針に変更はありません。
(4) 研究開発活動第162期(2023年度)の研究開発方針として、ⅰ) 持続可能な社会と人々の豊かなくらしに貢献する研究開発を推進する。ⅱ) 戦略製品と環境貢献製品を中心とした市場開発・新製品開発に注力し、更なる事業拡大へ繋げる。ⅲ) エネルギー、環境、次世代ICT、ライフサイエンスなどフロンティア領域での新規事業創出を加速する。ⅳ) カーボンニュートラルの実現に向けて、GHG排出量低減と、CO2の利活用に向けた研究開発に取り組む。の4項目を掲げて研究開発活動を推進しています。 当第1四半期連結累計期間におけるグループ全体の研究開発活動の金額は、34億67百万円です。
① 化学品事業事業のさらなる拡大に向け、戦略製品を中心とした市場開発や新製品開発に注力しています。市場環境の変化やユーザーニーズを鋭敏に捉えて社内で共有することで、タイムリーな製品開発を推進しています。
ⅰ) 樹脂添加剤分野環境対応型製品アデカシクロエイドシリーズとして、バイオマス原料を活用した塩ビ用可塑剤や、生分解性バイオプラスチックであるPLA(ポリ乳酸)に柔軟性を付与するPLA用可塑剤、リサイクルプラスチックに従来のプラスチックと同等もしくはそれ以上の機能を付与する添加剤パッケージなどを開発しています。さらなる製品ラインナップの拡充と、展示会への出展等を含めた市場開発を進めています。ⅱ) 情報・電子化学品分野 半導体向けでは、最先端DRAM用の新規高誘電ALD成膜材料の採用が本格化しています。ロジック半導体向けの新規ALD材料も、ユーザーでの性能評価が進展しています。また、ArFやEUVなどの先端フォトレジスト向けに光酸発生剤や関連材料の採用が拡大しています。ⅲ) 機能化学品分野一般社団法人日本接着学会より、「第45回技術賞」を株式会社デンソーとともに受賞しました。共同開発した「カーボンニュートラル レーザ硬化型接着システム」が、省エネルギー化を達成し、CO2削減を可能にする接着技術として高く評価されました。
② 食品事業人々の健康で豊かなくらしに貢献する食品の創造を目標に掲げ、サプライチェーンのあらゆる場面での環境負荷の低減や食品ロス削減、労働力不足などの社会課題や、消費行動など市場ニーズを捉えた新製品開発を行っています。2023年度新製品は、「おいしさと笑顔を食卓のあたり前に ~Healthy & Sustainable~」をテーマに、以下の製品を中心とした10製品をラインナップしました。年度新製品で原料にパーム油を配合する製品にあっては持続可能なRSPO認証パーム油を使用しています。
ⅰ) プラントベースフード「デリプランツ」シリーズ非動物性原料のみで“プラントベースフードの常識を覆すおいしさ”を実現した「デリプランツ」シリーズのラインナップを拡充しました。(ⅰ) バターのような自然なコク味を持つ「デリプランツ コクバター」、(ⅱ) シュレッド加工やダイス加工など様々な用途に対応できる「デリプランツ チーズ(セミハード)」、(ⅲ) 昨年発売し好評の「デリプランツ オーツコンク」「同 ホイップ」「同 チーズ クリーミー」の小容量個包装タイプなど、計7製品を上市しました。今後もラインナップを拡充するとともにアプリケーションの開発を進め、市場への更なる浸透を図ってまいります。ⅱ) 食品ロス削減対応製品パンの経時的な品質低下を抑制することで消費期限を延長し、食品ロス削減に貢献する機能が好評の製パン用練込油脂「マーベラス」のコンセプトを進化させた製品開発を推進しました。(ⅰ) 油脂の使用量を従来よりも約40%低減が可能な高濃度タイプの機能性練込油脂「マーベラスCNC」、(ⅱ) パン、菓子、惣菜の製造時の品質を安定させ生産ロスを削減する高濃度タイプの機能性リキッド「フォーカスC」などの3製品を上市しました。より多彩となったラインナップでターゲット市場の拡大と展開を進めてまいります。
③ ライフサイエンス事業連結子会社である日本農薬㈱では、持続的な新規剤創出を目指してパイプラインの早期拡充に取り組むとともに、既存剤の維持・拡大を目指し全社的な連携による戦略的な研究開発を推進しています。当第1四半期連結累計期間における主な成果は以下のとおりです。2021年9月に国内開発を機関決定した新規汎用性殺虫剤(開発コード:NNI-2101)は、登録に向けた開発を進めています。本剤は幅広い殺虫スペクトルを示すこと、既存剤に感受性の低下した害虫にも有効であること、浸透移行性に優れることから、汎用性に優れた新しい有効成分です。多くの害虫や作物を対象として様々な処理方法で実用性を検討中であり、利便性の高い害虫防除資材を目指して開発を進めています。
④ 新規事業分野エネルギー、環境、次世代ICT、ライフサイエンスなどフロンティア領域において、ADEKAグループの強みを活かした新規事業創出を推進しています。将来ニーズと時間軸を意識し、組織の壁を越えた技術の融合とオープンイノベーションにより、早期事業化に向けて取り組んでいます。i) ライフサイエンス分野日本農薬株式会社とのライフサイエンス分野における新製品創出を目指した共同研究を進めています。動物用医薬品の創出を目指した取り組みにおいて、動物用抗寄生虫薬として期待できる化合物群を見出しました。ⅱ) 環境・エネルギー分野硫黄変性ポリアクリロニトリル「SPAN」の開発と、SPANを用いて世界最軽量二次電池を実証したことが評価され、産経新聞社主催の「第36回 独創性を拓く先端技術大賞」において、「経済産業大臣賞」(社会人部門の最優秀賞)を受賞しました。また、公益社団法人新化学技術推進協会より、第22回GSC賞「奨励賞」を受賞しました。
(5) 経営成績に重要な影響を与える要因及び戦略的現状と見通し当第1四半期連結累計期間において、当社グループの経営成績に重要な影響を与える要因に変更はありません。
(6) 経営者の問題認識と今後の方針について当第1四半期連結累計期間において、経営者の問題認識と今後の方針についての変更はありません。