【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
(1)経営成績等の状況の概要
① 財政状態及び経営成績の状況
当社グループは、眼科領域に特化しグローバルに医療用医薬品、医療機器の研究開発を行う眼科医療ソリューション・カンパニーです。
当連結会計年度における世界経済は、新型コロナウイルス感染症の新規感染者が抑えられてきたことによる経済の持ち直しが期待されておりましたが、いまだ予断を許さない状況が継続していることに加え、ウクライナ情勢の長期化によるエネルギー問題等による原材料や輸送コストの高騰、急激な為替変動等により、依然として先行き不透明な状況が続いております。
このような市場環境のもと、当社グループは以下のとおり事業展開及び研究開発を進めました。
[医療機器]
(ウェアラブル近視デバイス(Kubota Glass))
当社グループが開発中のクボタメガネ・テクノロジーは、網膜に人工的な光刺激を与えて近視の進行の抑制、治療を目指す当社独自のアクティブスティミュレーション技術です。2020年に、米国子会社のクボタビジョン・インクが、被験者12名に対し、クボタメガネ・テクノロジーを用いた試作機である卓上デバイスにて眼軸に与える影響を検証した結果、対照眼と比較し眼軸長の短縮を確認しました。次いで、同技術を用いたウェアラブルデバイスでも、18歳から35歳の25名の近視傾向のある被験者に対しても同様の効果検証が完了しました。また、クボタメガネ・テクノロジーを用いた卓上デバイスにて、成人患者に対し、4ヶ月間、週3〜5回、1日1.5時間の光刺激(近視性デフォーカス)を与えた臨床試験では、年間換算で近視の進行を等価球面度数で見た場合、平均101%抑制し、眼軸長の伸展の38%の減少が見られました。
通常、眼軸長は、年齢と共に伸びる、若しくは成長が止まるものであり、人工的な光により眼軸長が対照眼と比較して短くなるということは、世界でも前例がありません。当社では、このテクノロジーをスマートメガネ、スマートコンタクトレンズに応用し、メガネのいらない世界の実現に向けて開発を推進しております。
2021年には、台湾における医療機器の製造許可取得及び医療機器のデザイン・開発会社として「ISO 13485:2016」の認証を取得しました。また2022年には、米国FDAでの医療機器登録の完了及び、ソフトローンチとして、米国及び日本の一部眼科医院で販売を開始、2022年12月に初の直営店となる「Kubota Glass Store」を東京にオープンしました。現在、販売拡大に向けた準備を進めるとともに、より多くのエビデンスを得るための臨床試験等を継続しております。今後は、主に日本、米国及び台湾において、製造から販売・配送、アフターケアまでのプロセスにおけるトラブルシューティング及びマーケットフィットの検証を目的としたソフトローンチを行う一方で、より広範な市場での商業化を可能にするためのマーケティング活動の強化、及びよりマーケットニーズにフィットした次世代機の開発の準備を進め、逐次着手していく方針です。
(在宅・遠隔医療モニタリング機器)
当社が開発する超小型モバイルOCT(光干渉断層計)のPBOSは、眼科において網膜の状態の検査に用いられるOCT の超小型モデルのことで、モバイルヘルスを含む在宅・遠隔医療分野での需要を見据えた在宅眼科医療機器ソリューションです。ウェット型加齢黄斑変性や糖尿病黄斑浮腫等の網膜浮腫による網膜疾患患者が自宅で患者自身で網膜の状態を測定することを可能にする検査デバイスです。インターネットを介して、網膜の構造や視力の変化といった病状の経過を、医師が遠隔で診断できるシステムを確立することにより、個別の患者に適した眼科治療を実現し、視力の維持向上を目指します。2020年の初期型試作機の完成以降も更なる機能改善のため、AI(人工知能)を活用した3D生成機能などのソフトウェア改良を行いつつ、パートナー企業との共同開発、商業化の可能性を模索しております。
[低分子化合物]
エミクススタト塩酸塩については、スターガルト病を対象とする第3相臨床試験として、2018年11月には最初の被験者登録を、最終的には194名の被験者登録を完了し、当第3相臨床試験は終了しました。当該臨床研究のデータベースの集計及び分析の結果、主要評価項目及び副次的評価項目を達成せず、治療群間の有意差も示されませんでした。主要評価項目である黄斑萎縮の進行率は、エミクススタト投与群で1.280mm2/年、プラセボ投与群で1.309mm2/年でした(p=0.8091)。但し、エミクススタトの忍容性は良好で、先行研究と同様の安全性プロファイルが示されております。
その後の更なる分析の結果、ベースライン時の萎縮病巣面積がより小さい被験者グループでのプラセボ投与群と比較したところ、エミクススタト投与群の萎縮病巣の進行率が有意に低いことが示唆され、それを検証するべく、サブグループ解析を実施しました。ベースライン時の萎縮病巣領域が小さい被験者グループに対して変数減少法による単変量と多変量分析を行い、このサブグループにおける萎縮病巣の進行に影響する独立したベースラインの因子を特定しました。この解析の結果、エミクススタト投与群の24カ月目の黄斑萎縮の進行率が、プラセボ投与群に比べ40.8%抑制されました(p=0.0206、エミクススタト投与群 n=34、プラセボ群 n=21)。上記の結果を受けて、当社は、引き続き共同開発パートナーを探す等の活動を継続するとともに、エミクススタトの今後の計画について改めて検討してまいります。
a.経営成績
当連結会計年度の事業収益は8百万円、売上原価は6百万円となりました。研究開発費、販売費及び一般管理費については以下のとおりです。
(研究開発費)
当連結会計年度の研究開発費は、前連結会計年度と比較して528百万円減少(前年度比△25.9%)し、1,513百万円となりました。これは、エミクススタト塩酸塩の研究開発費用、及びウェアラブル近視デバイスの開発費用が減少したことが主な要因です。
(単位:%を除き、千円)
2021年12月期
2022年12月期
増減額
増減率(%)
研究開発費
2,040,674
1,512,866
△527,808
△25.9
(販売費及び一般管理費)
当連結会計年度の販売費及び一般管理費は、前連結会計年度と比較して3百万円減少(前年度比△0.4%)し、601百万円となりました。これは、経費削減施策の影響によりその他の一般管理費が減少したことが主な要因です。
(単位:%を除き、千円)
2021年12月期
2022年12月期
増減額
増減率(%)
販売費及び一般管理費
603,905
601,293
△2,612
△0.4
b.財政状態
(流動資産)
当連結会計年度末の流動資産は、前連結会計年度末と比べて443百万円減少し、4,182百万円となりました。これは、現金及び現金同等物が増加した一方で、その他の金融資産が減少したことが主な要因です。
(非流動資産)
当連結会計年度末の非流動資産は、前連結会計年度末と比べて31百万円増加し、238百万円となりました。これは、有形固定資産及びその他の非流動資産が増加したことが要因です。
(流動負債)
当連結会計年度末の流動負債は、前連結会計年度末と比べて182百万円減少し、361百万円となりました。これは、買掛金及び未払債務が減少したことが主な要因です。
(非流動負債)
当連結会計年度末の非流動負債は、前連結会計年度末と比べて28百万円減少し、109百万円となりました。これは、リース負債が減少したことが要因です。
(資本)
当連結会計年度末の資本は、前連結会計年度末と比べて203百万円減少し、3,950百万円となりました。これは、当期損失の計上により繰越損失(利益剰余金のマイナス)が拡大したことが主な要因です。
② キャッシュ・フローの状況
現金及び現金同等物は、取得日後3ヶ月以内に満期が到来する短期の流動性の高いすべての投資を含み、現金同等物はマネー・マーケット・ファンドで構成されております。取得日現在の満期が3ヶ月から1年の間である投資は、短期投資に分類されます。
当社グループが保有する現金、現金同等物及び短期・長期の金融商品は、前連結会計年度末及び当連結会計年度末において、それぞれ4,416百万円及び4,049百万円でありました。第三者金融機関への預金額は、連邦預金保険公社及び証券投資家保護公社の適用ある保証上限を超える可能性があります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
前連結会計年度及び当連結会計年度における営業活動に使用した現金及び現金同等物(以下、資金)は、それぞれ2,514百万円及び2,087百万円となりました。使用した資金が427百万円減少した主な要因は、前連結会計年度に比べ、当連結会計年度は研究開発及び一般管理費等の支払いに関する資金が減少したことによるものです。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
前連結会計年度及び当連結会計年度における投資活動により得られた資金は、それぞれ3,563百万円及び505百万円となりました。得られた資金が3,057百万円減少した主な要因は、満期を迎えた金融資産の再投資を抑制したことによるものです。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
前連結会計年度及び当連結会計年度における財務活動により得られた資金は、それぞれ171百万円及び1,447百万円となりました。得られた資金が1,275百万円増加した主な要因は、前連結会計年度に比べ、当連結会計年度は新株予約権の権利行使に伴う普通株式の発行による収入が増加したことによるものです。
③ 生産、受注及び販売の実績
a.生産実績
当社グループは、生産活動を行っていないため、該当事項はありません。
b.商品(製品)仕入実績
当社グループは、医療用医薬品・医療機器事業及びこれらに関連する事業のみの単一セグメントであるため、セグメント別の記載を行っておりません。
セグメントの名称
当連結会計年度
(自
2022年1月1日
至
2022年12月31日)
前年同期比(%)
医療用医薬品・医療機器事業及びこれらに関連する事業(千円)
7,632
-
(注) Kubota Glassの販売を開始したことにより、当連結会計年度より仕入実績がございます。
c.受注実績
当社グループの受注実績は、次のとおりであります。
セグメントの名称
受注高(千円)
前年同期比(%)
受注残高(千円)
前年同期比(%)
医療用医薬品・医療機器事業及びこれらに関連する事業
16,450
-
4,200
-
(注)1.単一セグメントであるため、セグメント別の受注実績は記載しておりません。
2.Kubota Glassの販売を開始したことにより、当連結会計年度より受注実績がございます。
d.販売実績
当社グループは、医療用医薬品・医療機器事業及びこれらに関連する事業のみの単一セグメントであるため、セグメント別の記載を行っておりません。
セグメントの名称
当連結会計年度
(自
2022年1月1日
至
2022年12月31日)
前年同期比(%)
医療用医薬品・医療機器事業及びこれらに関連する事業(千円)
8,254
-
(注)1.最近2連結会計年度の主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりであります。
相手先
前連結会計年度
(自
2021年1月1日
至
2021年12月31日)
当連結会計年度
(自
2022年1月1日
至
2022年12月31日)
金額(千円)
割合(%)
金額(千円)
割合(%)
A社
-
-
4,725
57.2
B社
-
-
1,575
19.1
2.当社顧客との各種契約においては秘密保持条項が存在するため、社名の公表は控えさせて頂きます。
3.Kubota Glassの販売を開始したことにより、当連結会計年度より販売実績がございます。
(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。
① 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社グループの連結財務諸表は、IFRSを適用しております。重要な会計方針、重要な会計上の見積り及び見積りを伴う判断については、本報告書「第一部 企業情報 第5 経理の状況」に記載のとおりであります。
当社経営陣は連結財務諸表及び添付の注記で報告された数値に影響を与える見積り及び仮定を行わなければなりません。実際の結果はこれらの見積りと相違する場合があります。
② 財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容
「(1)経営成績等の状況の概要 ①財政状態及び経営成績の状況」及び「(1)経営成績等の状況の概要 ②キャッシュ・フローの状況」をご参照ください。
また、経営成績に重要な影響を与える要因については、本報告書「第一部 企業情報 第1 企業の概況 3 事業の内容 (3)パイプライン」をご参照ください。
(3)資本の財源及び資金の流動性についての分析
当社グループの資金需要は、研究開発投資が中心となります。当社グループでは流動資産が流動負債を大きく上回っており、資金の源泉については内部資金の充当を基本と致しますが、市場環境を考慮して株式市場からも機動的に資金調達するとともに、パートナー企業との提携を通じた資金確保も検討し、財務の健全性や安全性の確保を目指してまいります。
当連結会計年度末の流動資産が4,182百万円(うち、現金及び現金同等物は4,049百万円)がある一方で、流動負債は361百万円であり、本報告書提出日時点において必要な流動性は十分に満たしていると認識しています。