【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
(経営成績等の概要)
(1)経営成績
① 経営成績全般
当連結会計年度の世界経済は、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)に関して行動制限が緩和し正常化が進む一方で、世界的なインフレ進行や長期化するウクライナ情勢によるエネルギーコスト及び原材料コストの高騰、供給面の制約発生、地域により消費持ち直しに足踏みが見られた。堅調に推移していた半導体業界についても、調整の動きが見られた。国内経済においては、個人消費及び企業の設備投資に緩やかな持ち直しの動きが見られ、総じて改善した。
当連結会計年度の連結営業成績については、売上高は、旺盛な半導体需要や自動車生産の回復、販売価格の上昇等の増収要因があったが、前連結会計年度に実施した事業売却で約1,600億円の減収要因があり、総じて減収となる1兆3,926億21百万円(前連結会計年度比1.9%減)となった。なお、売却した事業のうち、蓄電デバイス・システム、アルミ缶、アルミ圧延品と、持分減少で連結除外となった昭光通商㈱の前連結会計年度の数値はその他セグメントに含まれている。営業利益は、原材料価格高騰の販売価格転嫁のタイムラグ影響や事業売却の影響もあり、総じて減益となる593億71百万円(同278億27百万円減)となった。営業外損益は、支払利息の増加はあったものの、主に為替差益により収益増となり、経常利益は593億67百万円(同274億94百万円減)となった。
当連結会計年度の親会社株主に帰属する当期純利益は、前連結会計年度に計上した蓄電デバイス・システム事業の譲渡に係る事業構造改善費用等の特別損失の計上がなく、307億93百万円(同428億87百万円増)となった。
② セグメントの経営成績
当連結会計年度より報告セグメントについては新経営体制に準じた形に変更しており、以下の前年同期比較については、前年同期の数値を変更後のセグメント区分に組み替えた数値で比較分析している。また、当連結会計年度よりセグメント別売上高については各セグメントの「外部顧客への売上高」を記載している。
[半導体・電子材料セグメント]
当セグメントでは、半導体前工程材料及び半導体後工程材料は、年後半からの半導体後工程の生産調整の影響を受けたものの、年初からの旺盛な半導体需要を背景に増収となった。またデバイスソリューションは、HDメディアが当年第4四半期連結会計期間からのデータセンター向けの需要減速により数量減となったものの、SiCエピタキシャルウエハーが増収となり、前連結会計年度並みとなった。なお、前連結会計年度の売上高・営業利益には、前年第4四半期連結会計期間に譲渡したプリント配線板事業も含まれている。
この結果、当セグメントの売上高は4,271億71百万円(前連結会計年度比1.0%増)となり、営業利益は原材料価格高騰の影響を受け、442億28百万円(同10.8%減)となった。
[モビリティセグメント]
当セグメントでは、自動車部品は、年後半からの自動車生産の回復に加え、一部顧客の需要増もあって増収となった。リチウムイオン電池材料は、民生需要減速の影響を受けて減収となった。
この結果、当セグメントの売上高は1,806億26百万円(前連結会計年度比3.9%増)となり、営業損益は原材料価格高騰の影響もあり、14億89百万円(同5億32百万円増)の損失となった。
[イノベーション材料セグメント]
当セグメントでは、原材料価格高騰に伴う値上げにより製品販売価格は上昇したものの、販売数量減により売上高は前連結会計年度比で減少した。
この結果、当セグメントの売上高は1,410億81百万円(前連結会計年度比1.6%減)となり、営業利益は原材料価格高騰のコスト増加分の価格転嫁タイムラグ等により、98億38百万円(同27.9%減)となった。
[ケミカルセグメント]
当セグメントでは、石油化学は4年に一度の大型定修はあったものの、ナフサ価格高騰による販売価格の上昇により売上高は前連結会計年度比で増加した。一方大型定修による販売数量減少に加え、前連結会計年度と比較し受払差が縮小したことから、営業利益は減少した。化学品は値上げによる販売価格上昇により売上高は増加したものの、営業利益は原燃料価格高騰等のコスト増により減少した。黒鉛電極は主に販売価格上昇により売上高、営業利益ともに増加した。
この結果、当セグメント全体としては増収減益となり、売上高は5,278億25百万円(前連結会計年度比22.5%増)となり、営業利益は249億10百万円(同34.3%減)となった。
(2)キャッシュ・フローの状況
営業活動によるキャッシュ・フローは、運転資本や法人税等の支払額の増加等により、前連結会計年度に比べ149億34百万円の収入減少となる1,003億49百万円の収入となった。
投資活動によるキャッシュ・フローは、有形固定資産の取得による201億15百万円の支出増加、有形固定資産の売却による187億37百万円の収入増加や前連結会計年度の連結範囲の変更を伴う子会社株式の売却による841億33百万円の収入の影響等も含め、832億73百万円の収入減少となる546億67百万円の支出となった。
この結果、フリー・キャッシュ・フローは、前連結会計年度に比べ982億8百万円の収入減少となる456億81百万円の収入となった。
財務活動によるキャッシュ・フローは、長期借入による4,096億円の収入増加、連結範囲の変更を伴わない子会社株式取得2,876億35百万円の支出や前連結会計年度の株式の発行による824億5百万円の収入の影響等も含め、177億77百万円の支出減少となる1,039億64百万円の支出となった。
この結果、当連結会計年度末の現金及び現金同等物は、為替変動の影響等も含め、前連結会計年度末に比べ482億55百万円減少となる1,866億83百万円となった。
(生産、受注及び販売の実績)
(1)生産実績
当社グループの生産品目は広範囲かつ多種多様であり、同種の製品であっても、その容量、構造、形式等は必ずしも一様ではなく、セグメントごとに生産規模を金額あるいは数量で示すことはしていない。このため生産の状況については、「経営成績等の概要 (1)経営成績 ②セグメントの経営成績」におけるセグメントの経営成績に関連付けて示している。
(2)受注実績
当連結会計年度において受注実績は、金額に重要性がないため記載を省略している。
(3)販売実績
当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりである。
セグメントの名称
販売高(百万円)
前年同期比(%)
半導体・電子材料
427,171
1.0
モビリティ
180,626
3.9
イノベーション材料
141,081
△1.6
ケミカル
527,825
22.5
報告セグメント計
1,276,702
9.0
その他
115,919
△53.4
合計
1,392,621
△1.9
(注)1 セグメント間の取引については、相殺消去している。
2 主な相手先別の販売実績及び総販売実績に対する割合については、当該割合が100分の10以上の相手先がないため、記載を省略している。
(経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容)
(1)財政状態の分析
当連結会計年度末の総資産は、棚卸資産、有形固定資産は増加したものの、現金及び預金、のれん等無形固定資産は減少し、前連結会計年度末比419億69百万円減少の2兆1,004億21百万円となった。負債合計は、子会社が発行していた優先株式を取得するため劣後ローンによる資金調達を行った結果、有利子負債(借入金、コマーシャル・ペーパー、社債及びリース債務)が増加し、前連結会計年度末比2,018億6百万円増加の1兆5,257億44百万円となった。純資産は、為替換算調整勘定等の増加はあったが、金融機関保有の優先株式を当社が取得したことにより非支配株主持分が減少したため、前連結会計年度末比2,437億75百万円減少の5,746億77百万円となった。
(2)経営成績の分析
当連結会計年度の連結営業成績については、売上高は、旺盛な半導体需要や自動車生産の回復、販売価格の上昇等の増収要因があったが、前連結会計年度に実施した事業売却で約1,600億円の減収要因があり、総じて前連結会計年度に比べ270億14百万円減少し1兆3,926億21百万円となった。
売上原価は、原材料価格高騰の影響もあり、前連結会計年度に比べ79億97百万円増加し1兆896億39百万円となった。
販売費及び一般管理費は、前連結会計年度に実施した事業売却により前連結会計年度に比べ71億84百万円減少し2,436億11百万円となった。
営業利益は、原材料価格高騰の販売価格転嫁のタイムラグ影響や事業売却の影響もあり、総じて前連結会計年度に比べ278億27百万円減少し593億71百万円となった。
経常利益は、支払利息の増加はあったものの、主に為替差益により営業外収益増となり、前連結会計年度に比べ274億94百万円減少し593億67百万円となった。
特別利益は、固定資産売却益の計上等により前連結会計年度に比べ2億47百万円増加し232億80百万円となった。
特別損失は、前連結会計年度に計上した蓄電デバイス・システム事業の譲渡に係る事業構造改善費用等の計上がなくなり、前連結会計年度に比べ529億4百万円減少し340億64百万円となった。
これにより、税金等調整前当期純利益は485億83百万円となり、親会社株主に帰属する当期純利益は前連結会計年度に比べ428億87百万円増加し307億93百万円となった。
(3)キャッシュ・フローの状況の分析
営業活動によるキャッシュ・フローは、運転資本や法人税等の支払額の増加等により、前連結会計年度に比べ149億34百万円の収入減少となる1,003億49百万円の収入となった。
投資活動によるキャッシュ・フローは、有形固定資産の取得による201億15百万円の支出増加、有形固定資産の売却による187億37百万円の収入増加や前連結会計年度の連結範囲の変更を伴う子会社株式の売却による841億33百万円の収入の影響等も含め、前連結会計年度に比べ832億73百万円の収入減少となる546億67百万円の支出となった。
この結果、フリー・キャッシュ・フローは、前連結会計年度に比べ982億8百万円の収入減少となる456億81百万円の収入となった。
財務活動によるキャッシュ・フローは、長期借入による4,096億円の収入増加、連結範囲の変更を伴わない子会社株式取得2,876億35百万円の支出や前連結会計年度の株式の発行による824億5百万円の収入の影響等も含め、177億77百万円の支出減少となる1,039億64百万円の支出となった。
この結果、当連結会計年度末の現金及び現金同等物は、為替変動の影響等も含め、前連結会計年度末に比べ482億55百万円減少となる1,866億83百万円となった。
(4)資本の財源及び資金の流動性
当社グループは、必要な資金について、自己資金の利用に加え、長期資金を主に設備投資計画等に基づき銀行借入及び社債の発行等によって調達するとともに、短期的な運転資金を銀行借入及びコマーシャル・ペーパーの発行等により調達している。
当連結会計年度においては、親会社株主に帰属する当期純利益の計上や為替換算調整勘定の増加による自己資本増加等により、ネットD/Eレシオが1.08倍まで改善した。なお、子会社が発行していた優先株式を取得するため劣後ローンによる資金調達を行ったが、優先株式及び劣後ローンは、㈱日本格付研究所よりその金額の50%の資本性が認められており、ネットD/Eレシオの算出に反映している。企業価値向上のため、コア成長事業向けを中心とした設備投資を積極的に行うとともに、引き続き財務体質強化のための有利子負債圧縮を進め、中期的にはネットD/Eレシオを1.0倍に近づけることを目指していく。
当社グループは、事業活動における収益力の向上に加え、運転資金の効率化等により、フリー・キャッシュ・フローの拡大を進めている。また、グループ各社の資金集約化等により、資金の効率的な活用も行っている。資金の流動性については、当連結会計年度末に保有している1,866億83百万円の現金及び現金同等物に加え、600億円のコミットメント・ラインを確保しており、資金需要にタイムリーに対応ができる状態を維持している。
(5)経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
2022年実績
2025年
売上
(兆円)
1.39
1.0超
EBITDAマージン
(%)
12.1
20
ROIC
(%)
3.2
中長期的に10%
ネットD/Eレシオ
(倍)
1.08
1.0倍を目指す
目標数値の達成により、総株主還元(TSR)は中長期的に化学業界で上位25%の水準を目指す。
(6)重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に基づき作成している。この連結財務諸表の作成にあたり、当連結会計年度における資産・負債及び収益・費用の報告金額並びに開示に影響を与える将来に関する見積りを実施する必要がある。経営者は、これらの見積りについて、当連結会計年度末時点において過去の実績やその他の様々な要因を勘案し、合理的に判断しているが、実際の結果は見積り特有の不確実性があるため、将来においてこれらの見積りとは異なる場合がある。
当社グループの連結財務諸表作成において採用する重要な会計方針は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)」に記載しているが、特に次の重要な会計方針が、連結財務諸表作成における重要な見積りの判断に大きな影響を及ぼすと考えている。
なお、新型コロナウイルス感染症の影響に関する仮定についての情報は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項(追加情報)」に記載している。また、連結財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び仮定のうち、重要なものは「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載している。
①有形固定資産及び無形固定資産(のれんを含む)の減損
当社グループは、営業活動から生ずる損益またはキャッシュ・フローが継続してマイナスとなるなど減損の兆候が見られる場合に資産又は資産グループについて減損の判定を行い、使用価値と正味売却価額のいずれか高い方が帳簿価額を下回っていると判断される場合には、その差額を減損損失として認識する。使用価値は予算等社内における管理会計の計画数値を基に見積り、正味売却価額については不動産鑑定評価額等から関連する経費等を差し引いた額で見積っている。
将来の不確実な経済条件の変動等により有形固定資産及び無形固定資産(のれんを含む)の評価に関する見積りの前提が変化した場合には、認識される減損損失の金額に重要な影響を与える可能性がある。
②棚卸資産の評価
当社グループで保有する棚卸資産は取得原価をもって貸借対照表価額とし、収益性の低下により期末における回収可能価額が取得原価よりも下落している場合には、回収可能価額まで棚卸資産の評価を切り下げている。回収可能価額は、商品及び製品については正味売却価額に基づき、原材料等については再調達原価に基づいている。
当社グループの保有する棚卸資産の一部は、価格変動の著しい経済環境の影響を受ける傾向にあるため、市場価格が下落した場合には、棚卸資産の帳簿価額を切下げることになる。特に原油価格が下落した場合や黒鉛電極の需要が急激に減少した場合には、棚卸資産の評価損の金額に重要な影響を与える可能性がある。
③繰延税金資産の評価
当社グループが計上している繰延税金資産は、将来減算一時差異等に関するものであり、定期的かつ合理的に回収可能性の評価のための見積りを実施している。繰延税金資産の回収可能性は、主に将来の課税所得の見積りによるところが大きく、課税所得の予測は将来の市場動向や当社グループの事業活動の状況及びその他の要因により変化する。繰延税金資産の回収可能性に不確実性がある場合、将来回収される可能性が高いと考えられる金額までを繰延税金資産に計上している。
当該見積りについて、将来の不確実な経済条件の変動等により見直しが必要となった場合には、繰延税金資産及び法人税等調整額の金額に重要な影響を与える可能性がある。
④退職給付債務及び費用
当社グループには、確定給付制度を採用している会社が存在する。確定給付制度の退職給付債務は、数理計算上の仮定を用いて算定しており、当該数理計算上の仮定には、割引率、退職率、昇給率等の様々な計算基礎がある。
当該見積り及び当該仮定について、将来の不確実な経済条件の変動等により見直しが必要となった場合には、退職給付に係る資産、退職給付に係る負債及び退職給付に係る調整累計額の金額に重要な影響を与える可能性がある。