【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
(1) 経営成績の分析当社グループ(当社及び連結子会社3社)は、遺伝子の働きを利用した「遺伝子医薬」の開発、実用化を目指し、研究開発を行う創薬系のバイオベンチャーです。遺伝子医薬のグローバルリーダーを目指して、自社における医薬品の開発及び開発パイプラインの拡充のための国内外企業との共同開発、業務提携、資本参加等を積極的に行っています。当第1四半期連結累計期間の事業収益は前年同期に比べ1百万円増加し16百万円(前年同期比7.9%増)となりました。当社グループでは、HGF遺伝子治療用製品コラテジェンの条件及び期限付製造販売の承認を取得し、2019年9月から田辺三菱製薬より販売しておりますが、当面の治療に必要な数量を概ね出荷完了しているため、当第1四半期連結累計期間においての製品売上高は0百万円となりました。一方、ACRLにおいて実施している希少遺伝性疾患のオプショナルスクリーニング検査は安定的に推移し、手数料収入として16百万円(同1百万円の増加)を計上いたしました。 当第1四半期連結累計期間における事業費用は、前年同期に比べ5億6百万円減少し、30億52百万円(同14.2%減)となりました。 売上原価は、前年同期に比べ8百万円増加し、25百万円(同53.0%増)となりました。当第1四半期連結累計期間におけるコラテジェンの出荷はありませんでしたが、使用期限切れによる廃棄が見込まれる製品の評価損を計上したことにより製品売上原価が3百万円となりました。ACRLにおける希少遺伝性疾患のオプショナルスクリーニング検査にかかる原価は、新規検査機器購入による減価償却相当額等が前年同期に比べ5百万円増加し、21百万円(同32.0%増)となっております。 研究開発費は、前年同期に比べ6億88百万円減少し、15億79百万円(同30.3%減)となりました。2020年度よりプラスミドDNAの技術を用いた新型コロナウイルス感染症予防DNAワクチンの開発を開始し、臨床試験及び非臨床試験を実施しておりましたが、昨年度にワクチン開発の中止を決定し、これにより研究用材料費が2億円、外注費が4億91百万円減少しております。当社グループのような研究開発型バイオベンチャー企業は先行投資が続きますが、提携戦略などにより財務リスクの低減を図りながら、今後も研究開発投資を行っていく予定です。研究開発の詳細については、本報告書「(4) 研究開発活動」をご参照ください。 販売費及び一般管理費は前年同期に比べ1億73百万円増加し、14億48百万円(同13.6%増)となりました。為替の円安に伴い、Emendo社買収に伴うのれん償却額が前年同期より87百万円増加しております。Emendo社における弁護士等専門家及びコンサルタントへの報酬が増加したため、支払手数料が前年同期より24百万円増加しております。
この結果、当第1四半期連結累計期間の営業損失は30億36百万円(前年同期の営業損失は35億43百万円)となりました。 当第1四半期連結累計期間の経常損失は28億97百万円(前年同期の経常損失は29億34百万円)となりました。為替の円安に伴い、外貨預金及びEmendo社への貸付金の評価替を行った結果、為替差益が1億3百万円発生しております(前年同期は5億16百万円の為替差益)。Vasomune社が米国及びカナダにおいて獲得した助成金について、当社開発費負担分に応じて32百万円を受領し、補助金収入に計上しております(前年同期は84百万円)。当第1四半期連結累計期間の親会社株主に帰属する四半期純損失は29億11百万円(前年同期の親会社株主に帰属する四半期純損失は29億38百万円)となりました。当社が保有する投資有価証券について、簿価に比べて時価が著しく下落したため、減損処理による投資有価証券評価損1百万円を計上しております。当期法人税等を13百万円計上しております(前年同期は3百万円)。
(2) 財政状態の分析当第1四半期連結会計期間末の総資産は前連結会計年度末に比べ16億27百万円減少し、371億93百万円となりました。流動資産は13億67百万円減少し、115億28百万円となっております。2022年10月12日に発行したCantor Fitzgerald & Co.を割当先とする第42回新株予約権(第三者割当て)について2023年3月末日までにその一部が行使され、10億66百万円を調達いたしましたが、現金及び預金は当期事業費用等により、15億40百万円減少し、94億94百万円となりました。コラテジェンの販売用製品を製造したことにより、製品が1億10百万円増加しております。コラテジェンの原薬を製造したことにより、原材料及び貯蔵品が4億32百万円増加して14億37百万円となりました。前年度の消費税が還付されたことにより、未収消費税等が3億37百万円減少しております。 当第1四半期連結会計期間末の固定資産は2億59百万円減少し、256億64百万円となっております。のれんが前連結会計年度末に比べ5億84百万円減少して226億70百万円となりました。円安による為替変動の影響により米ドル建のれんの換算額が1億40百万円増加しましたが、のれんの償却により7億25百万円減少しております。主にVasomune社が発行する株式への出資により、投資有価証券が2億82百万円増加して12億4百万円となっております。 当第1四半期連結会計期間末の負債は前連結会計年度末に比べ1億2百万円増加し、84億97百万円となりました。コラテジェンの原薬購入額の計上により、買掛金が4億12百万円増加しております。前年度の費用の支払いにより、未払金が1億75百万円減少しております。前年度の事業税等の支払により、未払法人税等が79百万円減少しております。 当第1四半期連結会計期間末の純資産は前連結会計年度末に比べ17億29百万円減少し、286億95百万円となりました。Cantor Fitzgerald & Co.を割当先とする第42回新株予約権(第三者割当て)の行使により、資本金及び資本剰余金がそれぞれ5億38百万円増加しております。親会社株主に帰属する四半期純損失29億11百万円の計上により、利益剰余金が減少しております。主にのれんに係る為替変動の影響により、為替換算調整勘定が83百万円増加しております。
(3) 事業上及び財務上の対処すべき課題当第1四半期連結累計期間において、当社グループの事業上及び財務上の対処すべき課題に重要な変更、及び新たに生じた課題はありません。
(4) 研究開発活動当第1四半期連結累計期間における研究開発費は前年同期に比べ6億88百万円減少し、15億79百万円(前年同期比30.3%減)となりました。当社グループは、“遺伝子医薬のグローバルリーダー”を目指し、遺伝子医薬を中心に医薬品の開発、実用化に取組んでおります。また、究極の遺伝子治療といわれるゲノム編集は、これまで治療の難しかった疾患を対象とした研究開発が進められていますが、当社グループのEmendo社は、独自のゲノム編集技術の開発を進めており、ゲノム編集の分野でも難易度の高い技術を開発しております。さらに当社は、国内外の企業と積極的に提携し、有望な医薬品の実用化に向けて共同開発を進めております。以下に、当社グループの開発品並びに当社提携先の開発状況についてご説明いたします。当社開発プロジェクト
■HGF遺伝子治療用製品(一般名:ベペルミノゲンペルプラスミド)(自社品)国内における慢性動脈閉塞症を対象疾患としたHGF遺伝子治療用製品の開発については、2019年3月に国内初の遺伝子治療用製品「コラテジェン®」として、慢性動脈閉塞症における潰瘍の改善の効能効果で条件及び期限付承認を取得し、2019年9月10日より発売を開始いたしました。2021年末に製造販売後承認条件評価のための目標症例数である本品投与120例、比較対照80例の患者登録が完了し、従前どおり2023年春に予定している本承認に向けた申請の準備を進めております。米国における開発につきましては、2022年末までに下肢潰瘍を有する閉塞性動脈硬化症を対象とした後期第Ⅱ相臨床試験の当初目標症例60例の投与を完了し、さらに、脱落例をふまえ、2023年第1四半期に数例の登録追加を完了しております。2023年度においては、投与後の経過観察を実施いたします。その他、イスラエルでは、2022年に当社の提携先企業Kamada社が、イスラエル保健省に製造販売承認を申請し、現在審査が行われています。また、トルコでは、当社提携先企業Er-Kim社の申請に向けた準備が、トルコ政府の財政面の問題等から停滞しております。当社は、HGF遺伝子治療用製品コラテジェンの日本及び米国における末梢性血管疾患を対象とした独占的販売権許諾契約を田辺三菱製薬と締結しております。■NF-κBデコイオリゴDNA(自社品)核酸医薬NF-κBデコイオリゴDNAについては、米国において椎間板性腰痛症を対象とした後期第Ⅰ相臨床試験を実施し、投与後の観察期間6ケ月間に続き、12ケ月間を経た結果でも、患者の忍容性は高い上、重篤な有害事象も認められず、安全性を確認できました。さらに、探索的にデータを評価したところ、患者の腰痛の著しい軽減とその効果の持続が認められ、有効性も確認できました。現在、日本国内における第Ⅱ相臨床試験の準備を進めており、当該試験に関して塩野義製薬株式会社と契約を締結し、費用の一部を負担いただくとともに、試験結果に基づき第Ⅲ相臨床試験の実施について協議する予定です。■高血圧治療用DNAワクチン(自社品)高血圧治療用DNAワクチンについては、オーストラリアでの第Ⅰ相/前期第Ⅱ相臨床試験は重篤な有害事象はなく、安全性に問題がないことを確認しました。今後の開発につきましては、新型コロナウイルスのDNAワクチンとは異なるプラスミドDNAの発現に関する改善策などの検討を進めてまいります。■新型コロナウイルス感染症DNAワクチン(自社品)2020年から2022年まで実施した研究開発の知見を活かし、プラスミドの発現効率や導入効率の向上等、プラットフォームの見直しを行い、並行して、将来発生する可能性のある新たな変異株を視野に入れた改良型DNAワクチン並びにワクチンの経鼻投与製剤の研究を米国スタンフォード大学と共同で実施しております。■Tie2受容体アゴニスト(共同開発品)Tie2受容体アゴニストは、カナダのバイオ医薬品企業であるVasomune社と共同開発契約を締結し、急性呼吸不全など血管の不全を原因とする疾患を対象に2020年12月より米国において第Ⅰ相臨床試験を実施し、安全性と忍容性を確認いたしました。当初新型コロナウイルス感染症肺炎患者を対象としていましたが、その後、重症化リスクが低いオミクロン株への置き換わりが急速に進んだことに伴い、第Ⅱ相臨床試験の対象疾患をインフルエンザ等のウイルス性及び細菌性肺炎を含む急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に広げるべく米国FDAに申請し、承認を受けることができました。2023年度は、前期第Ⅱ相臨床試験の目標症例数の登録を目指してまいります。■Zokinvy(一般名:ロナファルニブ)(導入品)当社は、2022年5月に米国の医薬品企業であるEiger社と、ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群とプロジェロイド・ラミノパチーを適応症とする治療薬であるZokinvyについて、日本における独占販売契約を締結いたしました。2023年3月に希少疾病治療薬(オーファン・ドラッグ)の指定を受け、今後は一日も早い薬事承認・薬価収載を目指し、国内承認取得の準備を進めてまいります。Emendo社開発プロジェクト
■ゲノム編集技術による遺伝子治療用製品開発当社は、究極の遺伝子治療法ともいわれるゲノム編集技術を用いた遺伝子疾患治療に挑むため、2020年12月にゲノム編集における先進技術及びそれを活用した開発パイプラインを持つEmendo社を子会社化しました。Emendo社では、ゲノム編集の安全な医療応用を目指し、新規CRISPRヌクレアーゼ(※1)を探索・最適化するプラットフォーム技術(OMNI Platform)を確立しており、ゲノム編集でしばしば問題視される「オフターゲット効果」(※2)を回避できるなど、新たな特徴をもった新規ヌクレアーゼ(OMNI ヌクレアーゼ)を数多く作出し、特許を出願しております。Emendo社ではOMNI Platformの更なる性能向上、効率化を目指した開発を継続しております。同時にEmendo社では、様々な遺伝子疾患について、その疾患と遺伝子変異の分子機構の理解に基づき、疾患に応じてゲノム編集戦略を構築し、数多くのOMNI ヌクレアーゼの中から適切なヌクレアーゼを選択し、それをさらに標的配列に対して最適化して、これまでゲノム編集では対象とできなかった疾患を含め、様々な疾患に対する安全で有効な治療の開発を進めております。なかでも、ELANE(好中球エラスターゼ遺伝子)の異常によるELANE関連重症先天性好中球減少症(※3)では、対立遺伝子(※4)配列の一方のみの変異により発症するため、その治療は、ほとんど同じ配列をもつ対立遺伝子のうち、変異のある遺伝子のみを破壊するという非常に精度の高いゲノム編集が必要となります。Emendo社では、ELANE関連重症先天性好中球減少症を対象とするゲノム編集治療について、2023年度中に米国での臨床試験開始に向け、FDAと協議を開始し、2022年11月に新薬臨床試験開始申請前相談(プレINDミーティング)を実施いたしました。
※1 新規CRISPRヌクレアーゼ:ゲノム編集で使用する新たなRNA誘導型DNA切断酵素で、ガイドRNAで規定した塩基配列を識別し、その標的とした塩基配列を切断する。※2 オフターゲット効果:ゲノム編集で、DNA鎖上の目的とする塩基配列以外の別の領域に、意図せぬ突然変異を引き起こしてしまうこと。※3 ELANE関連重症先天性好中球減少症:顆粒球系細胞の成熟障害により発症する好中球減少症で、発症すると細菌感染などが起きやすくなり、中耳炎や気道感染症、蜂窩織炎、皮膚感染症を繰り返し、敗血症などにより死亡することもある。※4 ヒトの細胞には父親から受継いだ染色体と母親から受継いだ染色体がペアとなって存在しています。それぞれの染色体には基本的に同じ遺伝子が載っており、片方の染色体に載っている遺伝子から見て、もう片方の染色体の同じ場所に載っている遺伝子を対立遺伝子と言います。検査受託サービス及び提携先における開発状況■希少遺伝性疾患検査を主目的としたACRLの検査受託ACRLでは現在、一般社団法人希少疾患の医療と研究を推進する会(CReARID)が展開する「オプショナルスクリーニング」事業における検査業務を受託しております。現在、各自治体や民間の検査センター等との連携も含め新生児を対象とした追加スクリーニング検査の受託拡大を図っており、当連結会計年度における受託数の増加を見込んでおります。また、希少遺伝性疾患の確定検査並びに治療効果をモニタリングするバイオマーカーの検査については、実施体制の構築を進めており、希少遺伝性疾患の診断から治療に至るまでの包括的な検査体制の提供を目指してまいります。■マイクロバイオームを用いた治療薬・サプリメントなどの開発当社は、腸内細菌叢を利用した疾患治療薬や健康維持のサプリメントを開発しているイスラエルのMyBiotics Pharma Ltd.(以下「MyBiotics社」といいます。)と2018年7月に資本提携しております。MyBiotics社では、腸内細菌叢の微生物の構成を再現した培養物(SuperDonor)の製造法を確立しており、クロストリジウム・ディフィシル感染症の治療薬MBX-SD-202の第Ⅰ相臨床試験をイスラエルにおいて完了し、今後の開発を米国で実施するべく、FDAと協議を行っております。