【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要、及び経営者の視点による当社の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものであります。
(1)経営成績等の状況の概要
① 財政状態及び経営成績の状況
当事業年度における世界経済は、新型コロナウイルス感染症による経済停滞からの復興の動きがみられた一方、ロシアによるウクライナ侵攻や、先進国におけるインフレの影響を受けました。国内経済は徐々に持ち直しの動きが見られましたが、先行き不透明な状況が続きました。
当社が属する医薬品業界におきましては、こうした新たな感染症への対策とともに、がんや認知症等、世界的に患者数が増えている疾患の治療法の確立が、継続的な重要課題になっております。当社におきましては、創薬領域を中心に、積極的な事業展開を図りました。
各領域における当事業年度の成果は次のとおりです。
a.創薬
当事業年度における創薬事業の売上はありませんでしたが、当社の効率的な抗体取得プラットフォームを活用し、主にがん領域で抗体開発を進めております。カドヘリン3(CDH3)及びトランスフェリン受容体(TfR)を標的とする3つの抗体の開発を進めているほか、これに続く多くの候補抗体が研究開発段階にあります。当社のパイプラインの開発状況は次のとおりです。
(a)PPMX-T002
PPMX-T002はがん細胞で多数発現しているCDH3を標的とする抗体に、イットリウム90(90Y)という放射性同位元素(RI)を標識した抗がん剤候補です。がん細胞上の標的に抗体が集積し、90Yが放射線を照射してがん細胞を殺傷する仕組みです。導出先の富士フイルム株式会社(以下「富士フイルム社」)が、子会社の放射性医薬品事業をPDRファーマ株式会社(以下「PDRファーマ社」)に譲渡したことから実施権が返還されたものです。PDRファーマ社と今後の開発について協議した結果、2022年12月に、当社主導で開発及び導出活動を進めていくことが決まりました。なお、富士フイルム社の子会社が米国で行った拡大第I相試験においては、本抗体が標的のがん細胞へ集積することが確認されております。当社は現在、90Yから、さらに有効性の高いRIへの変更も視野に、RI医薬品開発会社とのコラボレーションに向けて取り組んでおります。
(b)PPMX-T003
PPMX-T003は、当社独自のファージライブラリの中から、当社が特許を保有するICOS法というスクリーニング技術を活用して取得したユニークな完全ヒト抗体です。標的は、細胞内への鉄の取り込みに関与し、増殖が盛んながん細胞に極めて多く発現するTfRです。本抗体がTfRに結合すると、がん細胞内への鉄の取り込みを阻害し、それによってがん細胞の増殖を抑制する抗腫瘍効果が得られます。PPMX-T003は、その増殖抑制効果から様々ながんに対する治療効果が期待できると考えられ、鋭意開発を進めております。
TfRは、がん細胞の他に、赤芽球細胞(赤血球になる前の細胞)にも極めて多く発現しています。このため、赤血球が異常に増える疾患である真性多血症(PV)に対して、赤血球数を正常化する効果が期待できることから、まずはPVの治療薬を目指して、国内で第I相試験(以下「本治験」)を実施しております。PV患者さんでの本治験では6名を組み入れ対象としておりますが、組み入れが当初の想定より難航しております。このため、組み入れ基準を実臨床に即して見直した結果、当事業年度には3名への投与を開始しました。これまでのところ重大な副反応もなく、順調に推移しております。残る3名をできる限り早期に組み入れるため、治験実施施設の追加を進めており、本資料提出日時点で7か所に増やしております。さらに1か所の手続を進めており、2024年3月期中に本治験を完了させる予定です。
また、アグレッシブNK細胞白血病(ANKL)という超希少疾患に対する有効な治療薬となる可能性も見出されており、東海大学との共同研究を進めております。2022年3月に国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の「創薬支援推進事業・希少疾病用医薬品指定前実用化支援事業」に採択されており、2023年3月に予定どおり医師主導第I/II相試験の治験計画届の提出が完了し、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)の調査も終了しました。今後は被験者登録の後、患者さんへの投与を開始する予定です。
この他、急性骨髄性白血病、悪性リンパ腫等の血液がん及び固形がんに対する治療薬としての作用機序を明確化するため、名古屋大学及び群馬大学と共同で臨床効果に関する創薬研究を推進しております。
(c)PPMX-T004
PPMX-T004は、CDH3を標的とし、薬剤を結合した抗体薬物複合体(ADC)です。現在、最新の薬物と、これを結合させるためのリンカー等の最適な組み合わせを検討しております。試験管での試験で有望な組み合わせが見出されており、今後は動物実験で検証を進めてまいります。
ADCは、抗体に結合した薬物を細胞内に取り込ませることで、対象とした細胞を特異的に殺傷することができるため、患者さん自身の免疫機能の状態に関わらず高い臨床効果が期待できます。また、RIを用いていないため、使用する施設の制約も受けません。このため、PPMX-T002との棲み分けが可能と考えております。
(d)PPMX-T001
PPMX-T001は、肝臓がんで高い発現率が見られるGPC3を標的としています。2006年に特許を受ける権利等を譲渡した中外製薬株式会社によって、肝臓がん等の治療薬として「GC33」及び「ERY974」という2種類の異なった形態での薬剤開発が進められていますが、2022年6月21日をもって同社との契約の対象特許が期間満了となるため、同社との契約も同日に満了しました。PPMX-T001が今後の当社の収益に与える影響はなく、当社計画にも見込んでおりません。
これらのパイプラインの他、当社は富山大学及び富山県とともに、新型コロナウイルス感染症ウイルスの様々な変異株に対する治療薬候補であるスーパー中和抗体UT28Kの評価を進めております。本案件は、政府等の助成金を得て開発を進める方針を採っており、現在は富山大学において治療効果を検証する動物実験の解析を行っております。
b.抗体研究支援
前事業年度よりも案件が増加したことや、規模が大きい案件を受注したことにより、売上高は12,039千円となり、前事業年度に比べて47.2%増加しました。
c.抗体・試薬販売
研究用抗体・試薬の販売は引き続き回復基調を維持し、海外取引は新型コロナウイルス感染症拡大前の水準に回復しました。海外の主要な顧客との外貨建て取引につきましては、販売数量の増加及び期中の円安進行により、売上高が増加した結果、売上高は82,161千円となり、前事業年度に比べて28.9%増加しました。また、新型コロナウイルス感染症による肺炎等、血管炎症を伴う各種疾患の重症化を予測するためのPTX3迅速計測キットの開発に向けて、湧永製薬株式会社と共同研究契約を締結し、現在開発を進めております。
以上の結果、当事業年度の売上高は、計画を上回る94,201千円(前事業年度比31.0%増)となりました。
損益につきましては、PPMX-T003の第I相試験の遅延により、研究開発費が想定よりも減少したものの、営業損失は697,769千円(前事業年度は営業損失472,195千円)となり、ほぼ計画どおりに進捗しました。経常損失は為替差益等による営業外収益8,183千円及び営業外費用19千円の計上により、689,604千円(前事業年度は経常損失481,681千円)となり、当初計画より損失額が減少しました。また、当社が保有する固定資産につきまして「固定資産の減損に係る会計基準」に基づき86,070千円を、本社移転に際し、現在のオフィスの原状回復に充当する資産除去債務として9,397千円を、それぞれ減損損失として特別損失に計上したものの、当期純損失は786,999千円(前事業年度は当期純損失599,023千円)となり、当初計画より損失額は減少しました。
また、当社は医薬品事業のみの単一セグメントであるため、セグメント別の記載を省略しております。
財政状態については、次のとおりであります。
(資産)
当事業年度末の総資産は、前事業年度末に比べ733,879千円減少し、2,566,650千円となりました。主に、研究開発費等の支払い及び固定資産取得に係る未払金の支払い等により現金及び預金769,918千円が減少したことによるものであります。
(負債)
当事業年度末の負債は、前事業年度末に比べ21,729千円増加し、170,105千円となりました。主に、AMEDの「創薬支援推進事業・希少疾病用医薬品指定前実用化支援事業」への採択により交付された助成金である長期預り金58,987千円、資産除去債務12,800千円を当事業年度より計上した一方、未払金や未払法人税等の支払いにより67,508千円が減少したことによるものであります。
(純資産)
当事業年度末の純資産は、前事業年度末に比べ755,608千円減少し、2,396,545千円となりました。主に、新株予約権が31,411千円を当事業年度に新たに計上した一方、当期純損失786,999千円の計上により減少したことによるものであります。
② キャッシュ・フローの状況
当事業年度末における現金及び現金同等物は、前事業年度末に比べ769,918千円減少し、2,444,934千円となりました。
当事業年度における各キャッシュ・フローの状況と要因は次のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動によるキャッシュ・フローは、564,274千円の支出となりました。主に、非資金項目である減損損失やAMEDからの助成金である長期預り金等によるキャッシュ・フローの増加があった一方、税引前当期純損失785,072千円の計上等による減少があったことによるものであります。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動によるキャッシュ・フローは、212,989千円の支出となりました。主に、研究開発用の有形固定資産の取得による支出163,870千円や差入保証金の差入による支出41,934千円等があったことによるものであります。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動によるキャッシュ・フローは、20千円の支出となりました。これは、自己株式の取得によるものであります。
③ 生産、受注及び販売の実績
a.生産実績
当社で行う事業は、提供するサービスの性格上、生産実績の記載になじまないため、当該記載を省略しております。
b.受注実績
当社で行う事業は、提供するサービスの性格上、受注実績の記載になじまないため、当該記載を省略しております。
c.販売実績
当社は医薬品事業の単一セグメントであるため、セグメント別の記載はしておりません。当事業年度における販売実績は次のとおりであります。
セグメントの名称
金額(千円)
前年同期比(%)
医薬品事業
94,201
131.0
合計
94,201
131.0
(注)最近2事業年度の主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりであります。
相手先
前事業年度
(自 2021年4月1日
至 2022年3月31日)
当事業年度
(自 2022年4月1日
至 2023年3月31日)
金額(千円)
割合(%)
金額(千円)
割合(%)
R&D Systems, Inc.
20,279
28.2
27,033
28.7
Pierce Biotechnology, Inc.
16,548
23.0
23,894
25.4
Abcam plc
11,029
15.3
14,316
15.2
(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
① 重要な会計方針及び見積り
当社の財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されております。この財務諸表の作成にあたっては、当社の財務諸表で採用する重要な会計方針は、「第5 経理の状況 1 財務諸表等 (1)財務諸表 注記事項 重要な会計方針」に記載しております。また、財務諸表の作成にあたっては、経営者による会計方針の選択・適用、資産・負債及び収益・費用の報告金額並びに開示に影響を与える見積りを必要としております。経営者は、これらの見積りを行うにあたり、過去の実績等を勘案し合理的に判断しておりますが、実際の結果は、見積りによる不確実性のため、これらの見積りと異なる結果をもたらす場合があります。
特に以下の事項は、経営者の会計上の見積りの判断が財政状態及び経営成績に重要な影響を及ぼすと考えております。
(固定資産の減損処理)
当社は、固定資産のうち営業活動から生ずる損益が継続してマイナスになっている資産について、回収可能価額まで減額し、当該減少額を減損損失として計上しております。
(繰延税金資産)
繰延税金資産の回収可能性の判断については、将来の課税所得を合理的に見積り、将来の税金負担を軽減する効果を有すると考えられる範囲内で繰延税金資産を計上することになります。当社は、税務上の欠損金が継続しており、繰延税金資産の回収可能性を合理的に見積もることは困難と判断し、繰延税金資産を計上していません。
② 財政状態の分析
財政状態の分析については、「(1)経営成績等の状況の概要 ① 財政状態及び経営成績の状況」に記載のとおりです。
③ 経営成績の分析
(売上高)
当事業年度の売上高は、94,201千円(前事業年度71,932千円、前年同期比31.0%増)となりました。当事業年度における創薬の売上はありませんでしたが、抗体・試薬販売及び抗体研究支援はいずれも売上高が前事業年度から増加し、計画を達成しました。
(売上原価、売上総利益)
当事業年度の売上原価は、7,668千円(前年同期比45.4%増)となりました。
この結果、当事業年度の売上総利益は、86,532千円(前年同期比21.7%増)となりました。
(販売費及び一般管理費、営業損失)
当事業年度の販売費及び一般管理費は、784,302千円(前年同期比31.2%増)となりました。
販売費及び一般管理費の増加の主な要因は、PPMX-T003の第Ⅰ相試験費用の増加であります。なお、研究開発費は494,494千円(前事業年度308,424千円、前年同期比37.6%増)となりました。
この結果、営業損失は697,769千円(前事業年度は営業損失472,195千円)となりました。
(営業外収益、営業外費用、経常損失)
当事業年度の営業外収益は、8,183千円(前年同期比14.8%減)となりました。主なものは、為替差益7,809千円であります。
当事業年度の営業外費用は、19千円(前事業年度は18,878千円)となりました。
この結果、経常損失は、689,604千円(前事業年度は経常損失481,681千円)となりました。
(特別利益、特別損失、当期純損失)
当事業年度の特別損失は、95,468千円(前年同期比23.4%減)となりました。当社の事業の特性上、現段階では、将来の収入の不確実性が高いことから、医薬品事業に係る資産の帳簿価額の回収可能額をゼロとし、帳簿価額と備忘価額との差額86,070千円と、本社移転に際し、移転前オフィスの原状回復に充当する資産除去債務として9,397千円を、それぞれ減損損失として特別損失に計上しました。
これらの結果を受け、当事業年度の当期純損失は、786,999千円(前事業年度は当期純損失599,023千円)となりました。
(パイプライン)
パイプラインの状況については、「第1 企業の概況 3 事業の内容 (3)当社の開発品」をご参照ください。
④ キャッシュ・フローの分析
キャッシュ・フローの分析については、「(1)経営成績等の状況の概要 ② キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりです。
⑤ 経営成績に重要な影響を与える要因について
「3 事業等のリスク」に記載したとおり、外部環境、事業内容、組織体制等の様々なリスク要因が経営成績に重要な影響を与える可能性があると認識しております。そのため、当社は常に業界の動向を注視しつつ、優秀な人材の確保と適切な教育を実施するとともに、内部管理体制の強化と整備を進めることで、経営成績に重要な影響を与えるリスク要因に適切な対応を図ってまいります。
⑥ 資本の財源及び資金の流動性についての分析
当社の主な資金需要は、PPMX-T003の開発及び創薬研究に係る研究開発費、並びに事業運営費等であります。これらの費用は、当期は自己資金で賄い、その残金は、すべて銀行預金とし、資金の流動性を確保しております。当事業年度の営業活動によるキャッシュ・フローは、564,274千円の支出、投資活動によるキャッシュ・フローは、212,989千円の支出、財務活動によるキャッシュ・フローは、20千円の支出となり、現金及び現金同等物の期末残高は、2,444,934千円となりました。
⑦ 経営者の問題意識と課題について
当社は、「最先端の抗体技術で世界の医療に貢献する」ことを企業理念としております。この企業理念実現のために、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (5)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題」に記載の課題に対して取り組んでまいります。
⑧ 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社は、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (2)目標とする経営指標」に記載のとおり、ROA(総資産利益率)やROE(自己資本利益率)といった数値的な目標となる経営指標は用いておりませんが、経営指標として、将来の売上に繋がるパイプラインの開発の進捗、パイプラインの拡充及び売上高を重要な目標と考え、事業活動を推進しております。なお、パイプラインの開発の進捗については、「第1 企業の概況 3 事業の内容 (3)当社の開発品」に記載しております。
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