【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
(1)経営成績等の状況の概要
① 当期の経営成績
売上高は343億43百万円(前期比32.8%減)となりました。
遺伝子組換え天然型ヒト成長ホルモン製剤「グロウジェクト®」は、販売数量は増加しましたが、2022年4月の薬価改定の影響を受けました。同じく薬価改定があった腎性貧血治療薬は減収幅が大きかったものの、2021年5月に薬価収載された「イズカーゴ®点滴静注用10mg」が大きく寄与したことなどにより、主力製品の売上合計は前期とほぼ同水準となりました。
主力製品以外では、契約金収入の減少およびアストラゼネカ株式会社の新型コロナウイルスに対するワクチン原液の国内製造の受託を予定どおり終了したことなどにより、売上高合計は前年同期に比べて減収となりました。
利益面におきましては、売上高の減収に伴い売上総利益が減少(前期比37.3%減)したことなどにより、営業利益は49億75百万円(前期比75.0%減)、経常利益は54億18百万円(前期比73.6%減)、親会社株主に帰属する当期純利益は37億72百万円(前期比74.0%減)となりました。
積極的な研究活動および臨床試験の進捗に応じた開発活動の結果、研究開発費は22.7%増加し88億2百万円(前期比16億26百万円増)となりました。
前連結会計年度
(自 2021年4月1日
至 2022年3月31日)
当連結会計年度
(自 2022年4月1日
至 2023年3月31日)
増減
金額(百万円)
金額(百万円)
%
売上高
51,082
34,343
△32.8
営業利益
19,933
4,975
△75.0
経常利益
20,512
5,418
△73.6
親会社株主に帰属する当期純利益
14,507
3,772
△74.0
営業利益の増減は以下のとおりであります。
・主力製品の減収による売上高の減少 △16,738百万円
・売上原価の減少 1,574百万円
・売上高減少に伴う販売費・一般管理費の減少 1,832百万円
・研究開発費の増加 △1,626百万円
② 主要な売上
前連結会計年度
(自 2021年4月1日
至 2022年3月31日)
当連結会計年度
(自 2022年4月1日
至 2023年3月31日)
増減
金額(百万円)
金額(百万円)
%
ヒト成長ホルモン製剤
グロウジェクト®
12,945
12,261
△5.3
ムコ多糖症Ⅱ型治療剤
イズカーゴ®点滴静注用
3,003
4,428
47.4
腎性貧血治療薬
エポエチンアルファBS注「JCR」
ダルベポエチンアルファBS注「JCR」
5,875
2,876
2,998
4,696
2,710
1,986
△20.1
△5.8
△33.7
再生医療等製品
テムセル®HS注
3,497
3,404
△2.7
ファブリー病治療薬
アガルシダーゼベータBS点滴静注「JCR」
711
964
35.6
医療機器
102
103
1.3
契約金収入
10,571
6,546
△38.1
AZD1222原液
14,375
1,931
△86.6
(注)1 契約金収入は事業化に向けた契約および販売提携に関する契約が締結されたこと等に由来します。
2 医薬品売上高は前連結会計年度26,032百万円、当連結会計年度25,755百万円であります。
③ 研究開発の状況
[ライソゾーム病治療薬]
・当社では現在、17種類を超えるライソゾーム病治療薬について、独自の血液脳関門通過技術「J-Brain Cargo®」を適用した新薬の研究開発に重点的に取り組んでおります。
・血液脳関門通過型ハンター症候群治療酵素製剤パビナフスプ アルファ(開発番号:JR-141)については、米国において米国食品医薬品局(FDA)より2022年12月にRare Pediatric Disease(※)の指定を受けております。2022年2月にはグローバル臨床第3相試験において最初の被験者への投薬が開始されており、現在、被験者の登録を進めております。なお、2020年12月にブラジル国家衛生監督庁(ANVISA)に製造販売承認申請を行っておりましたが、2022年8月に非承認となりました。現在実施中のグローバル臨床第3相試験の結果を用いて再度申請を行うことを予定しております。
・血液脳関門通過型ムコ多糖症Ⅰ型治療酵素製剤lepunafusp alfa(開発番号:JR-171)については、現在、日本・ブラジル・米国での臨床第1/2相試験において、2022年3月に計画した全例の登録を完了し、最終解析を実施しております。グローバルでの臨床第3相試験の早期開始に向けて、準備を進めております。
・血液脳関門通過型ムコ多糖症ⅢA型治療酵素製剤(開発番号:JR-441)については、現在、2023年度早期のグローバル臨床試験開始に向けた取り組みを進めております。
・血液脳関門通過型ムコ多糖症ⅢB型治療酵素製剤(開発番号:JR-446)については、現在、2024年度中のグローバル臨床試験開始に向けた取り組みを進めております。
・その他のJ-Brain Cargo®を適用したライソゾーム病治療薬(ポンペ病治療薬(開発番号:JR-162)、スライ症候群治療薬(開発番号:JR-443)、GM2ガングリオシドーシス治療薬(開発番号:JR-479)についても、研究開発を順次行うとともにグローバル展開を推進してまいります。なお、フコシドーシス治療薬(開発番号:JR-471)につきましては、2022年10月に締結した実施許諾契約に基づき、株式会社メディパルホールディングスに対し、日本を除く全世界における研究・開発、製造および販売などの事業化に関する再実施許諾権付の独占的実施権を許諾いたしました。本治療薬を創出した企業としてライセンサーの立場で参画し、本治療薬の早期事業化に貢献いたします。
[基盤技術の創出]
・JCR 独自の血液脳関門通過技術「J-Brain Cargo®」技術の様々なモダリティへの応用可能性を広げる研究の他、J-Brain Cargo®技術に続く新たな基盤技術の創出に注力しております。
・2023年3月にライソゾーム病に対する J-Brain Cargo®技術を適用した遺伝子治療に関する武田薬品工業株式会社との共同研究開発契約に基づく、非臨床PoCを達成しました。
・2023年3月にアレクシオン・アストラゼネカ・レアディジーズと神経変性疾患を対象疾患として、J-Brain Cargo®技術を適用した非公開の治療薬候補物質の共同研究、選択権およびライセンス契約を締結しました。
[再生医療等製品]
・「テムセル®HS注」の新たな適応拡大として新生児低酸素性虚血性脳症(開発番号:JR-031HIE)に対する臨床第1/2相試験を終了し、現在解析中です。
・帝人株式会社との共同開発であった他家(同種)歯髄由来幹細胞(DPC)を用いた急性期脳梗塞を適応症とする再生医療等製品(開発番号:JTR-161/JR-161)については、2022年4月に共同開発を終結することで合意いたしました。
[ヒト成長ホルモン製剤]
・「グロウジェクト®」へのSHOX異常症(開発番号:JR-401X)の効能追加については、2022年7月に製造販売承認申請を行いました。
・遺伝子組換え持続型成長ホルモン製剤(開発番号:JR-142)の臨床第2相試験を実施しており、予定していた統計解析を完了し、臨床第3相試験の開始に向けた準備を進めています。
※1 Rare Pediatric Disease指定
希少小児疾患の予防と治療のための新薬および生物製剤の開発を促進することを目的としているもの。今後の米国における製造販売承認のための優先審査バウチャーを取得できる可能性がある。
④ キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度末における現金及び現金同等物は、前連結会計年度末に比べ174億54百万円減少して132億78百万円となりました。各キャッシュ・フローの状況および主な要因は次のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動の結果使用した資金は、55億0百万円(前連結会計年度比147億89百万円の支出増)となりました。これは主に、棚卸資産の増加額38億77百万円、法人税等の支払額82億79百万円があった一方で、税金等調整前当期純利益の計上額54億12百万円があったことなどによるものであります。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動の結果使用した資金は、150億2百万円(前連結会計年度比117億52百万円の支出増)となりました。これは主に有形固定資産の取得による支出76億54百万円、関係会社株式の取得による支出67億17百万円があったことなどによるものであります。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動の結果得られた資金は、19億48百万円(前連結会計年度比41億27百万円の収入増)となりました。これは主に、長期借入金の増加額47億50百万円があった一方で、配当金の支払額27億39百万円があったことなどによるものであります。
⑤ 生産、受注及び販売の実績
(1)生産実績
当連結会計年度の生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
セグメントの名称
当連結会計年度
(自 2022年4月1日
至 2023年3月31日)
生産高(百万円)
前年同期比(%)
医薬品事業
25,881
57.6
合計
25,881
57.6
(注) 金額は販売価格により表示しております。
(2)受注実績
当社グループは見込生産によっており、受注生産は行っておりません。
(3)販売実績
当連結会計年度の販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
セグメントの名称
当連結会計年度
(自 2022年4月1日
至 2023年3月31日)
販売高(百万円)
前年同期比(%)
医薬品事業
34,343
67.2
合計
34,343
67.2
(注) 主な相手先別の販売実績およびそれぞれの総販売実績に対する割合は次のとおりであります。
相手先
前連結会計年度
(自 2021年4月1日
至 2022年3月31日)
当連結会計年度
(自 2022年4月1日
至 2023年3月31日)
販売高(百万円)
割合(%)
販売高(百万円)
割合(%)
株式会社メディセオ
7,922
15.5
11,020
32.1
キッセイ薬品工業株式会社
5,969
11.7
4,792
14.0
⑥ 経営成績への影響
新型コロナウイルス感染症の影響につきましては、当連結会計年度につきましては影響を受けておりません。
また、本報告書作成時点においては、パイプラインの臨床試験の遅延等は発生しておらず、製品や原材料、製造用資材についても当面の生産に必要な在庫は確保しており、大きな影響はないと判断しております。
なお、当社グループの経営成績に重要な影響を与える要因につきましては、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」に記載しております。
(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識および分析・検討内容は次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。
① 重要な会計方針及び見積り
当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されております。この連結財務諸表の作成に当たりましては、棚卸資産、有価証券、特許権、貸倒引当金、退職給付に係る負債および繰延税金資産などについて、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項」および「第5 経理の状況 2 財務諸表等 (1)財務諸表 注記事項」に記載のとおり、資産・負債および収益・費用の数値に影響を与える見積りおよび判断を行っております。従いまして、実際の結果は、見積りの不確実性により異なる場合があります。
新型コロナウイルス感染症の影響につきましては、収束まではある程度の期間を要すると想定しておりますが、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」に記載のとおり、当社グループの業績への影響は軽微であると判断しております。従いまして、当連結会計年度における会計上の見積りへの影響はありません。また、本報告書提出日現在において、翌連結会計年度におきましても同様であると判断しております。
② 財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容
・財政状態
当連結会計年度末における資産合計は949億37百万円(前連結会計年度末比21億96百万円減)、負債合計は425億23百万円(前連結会計年度末比35億21百万円減)、純資産合計は524億13百万円(前連結会計年度末比13億24百万円増)となりました。
流動資産は、現金及び預金および売掛金及び契約資産が減少したことなどにより、前連結会計年度末に比べ143億85百万円減少して478億2百万円となりました。固定資産につきましては、有形固定資産が増加したことなどにより、前連結会計年度末に比べ121億88百万円増加して471億35百万円となりました。
流動負債は、未払法人税等が減少したことなどにより、前連結会計年度末に比べ62億92百万円減少して357億62百万円となりました。固定負債は、長期借入金が増加したことなどにより、前連結会計年度末に比べ27億70百万円増加して67億61百万円となりました。
純資産につきましては、配当金の支払があった一方で親会社株主に帰属する当期純利益の計上などにより、前連結会計年度末に比べ13億24百万円増加して524億13百万円となりました。
これらの結果、当連結会計年度末における自己資本比率は、前連結会計年度末に比べ2.4ポイント上昇して54.2%となりました。
現時点では当社グループにおいて、新型コロナウイルス感染症の影響は受けておりませんが、今後の世界情勢の見通しが立たない中、当社グループがグローバルで持続的な成長を行うために、機動的かつ安定的に資金調達手段を確保する必要があり、各金融機関との間で、バックアップラインとして運転資金を確保する事を目的として、総額155億円のコミットメントライン契約を締結しております。
・経営成績
売上高は前連結会計年度に比べ167億38百万円(32.8%)減少して343億43百万円となりました。
主力製品であるヒト成長ホルモン製剤「グロウジェクト®」につきましては、販売数量は増加しましたが、2022年4月の薬価改定の影響を受け、前期比6億83百万円(5.3%)の減収となりました。2024年3月期につきましては、薬価改定の影響や少子化による市場の縮小傾向を踏まえ、減収を見込んでおります。
「イズカーゴ®点滴静注用10mg」につきましては、販売開始以降順調に市場への浸透が進んでおり、前期比14億24百万円(47.4%)の増収となりました。2024年3月期につきましても、引き続き増収を見込んでおります。
腎性貧血治療薬につきましては、短期型腎性貧血治療薬「エポエチンアルファBS注JCR」・持続型腎性貧血治療薬「ダルベポエチンアルファBS注JCR」の売上高は、2022年4月の薬価改定の影響を受けていずれも減少し、腎性貧血治療薬合計で46億96百万円(前期比11億78百万円・20.1%減)となりましたが、2024年3月期につきましては増収を見込んでおります。
再生医療等製品「テムセル®HS注」につきましては、前期比92百万円(2.7%)の減収となりました。2024年3月期につきましても、減収を見込んでおります。
国産初のライソゾーム病治療薬であるファブリー病治療薬「アガルシダーゼベータBS点滴静注JCR」につきましては、販売体制を強化したことにより前期比2億53百万円(35.6%)の増収となりました。2024年3月期につきましても、引き続き増収を見込んでおります。
契約金収入につきましては、契約交渉の期ずれなどにより前期比40億25百万円(38.1%)の減収となりました。2024年3月期につきましては、新たな契約締結を計画しており増収となる見込みです。
一方で、研究開発費につきましては88億2百万円と前期比16億26百万円(22.7%)の増加となりました。研究開発費は対売上高比率20%を目安に投資を行っておりますが、2024年3月期につきましては、引き続き将来の成長に向けて積極的にグローバルで開発を行う計画であり、97億円(当期比10.2%増・対売上高比26.3%)の研究開発費を見込んでおります。
③ キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報
a.当連結会計年度のキャッシュ・フローの分析
「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要 ④キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりであります。
b.当社グループの資本の財源および資金の流動性
・資金需要の主な内容
当社グループにおきましては、原材料等の仕入れ、研究開発費、人件費および販売費などの運転資金、ならびに生産および研究開発を目的とする設備投資に主たる資金需要が生じます。
なお、研究開発費につきましては、対売上高比率20%を目安に投資を行っております。
また、株主還元についても、経営上の重要な施策の一つとして位置づけております。剰余金の配当等につきましては、将来の利益の源泉となる新薬開発や経営体質強化のための内部留保を確保しつつ、業績およびキャッシュ・フローの状況を勘案しながら継続的かつ安定的な配当を行うことを基本方針としており、ご期待に応える株主還元と財務の健全性のバランスを重視し、配当性向につきましては30%を目安としております。
・資金調達
これらの資金需要に対しましては、営業活動によるキャッシュ・フローからの充当を基本とし、不足する場合は金融機関からの借入金による調達を実施しております。
当連結会計年度末時点の現金及び現金同等物残高は132億78百万円となっており、事業遂行に必要な資金を十分確保しております。
なお、現時点では当社グループにおいて、新型コロナウイルス感染症の影響は受けておりませんが、今後の世界情勢の見通しが立たない中、当社グループがグローバルで持続的な成長を行うために、機動的かつ安定的に資金調達手段を確保する必要があり、各金融機関との間でバックアップラインとして運転資金を確保する事を目的として、当連結会計年度に総額155億円のコミットメントライン契約を締結しております。