【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
(業績等の概要)
(1) 業績当連結会計年度における世界経済は、欧米等において歴史的な高インフレが続き、政策金利の引き上げなどの影響から個人消費の減速が見られました。一方、わが国では新型コロナウイルス感染症拡大への警戒が続く中、感染防止と経済活動の両立を目指し、まん延防止等重点措置などの行動制限もなかったことから個人消費を中心に持ち直しの動きが見られました。しかしながら、ウクライナ情勢などによる不透明感に加え急激な円安の進行から、エネルギーコストや原材料価格が高騰し物価上昇の家計への影響や供給面での制約などに注意が必要な状況で推移しました。農業を取り巻く環境は、世界的な人口増加や新興国の経済発展などを背景とした農産物需要の拡大から農業生産は引き続き伸長するものと考えられます。世界の農薬市場は、成長が鈍化していましたが、米州などの需要増加からここ数年は再び拡大基調にあります。当社グループの主な販売地域に目を転じますと、北米では一部地域で干ばつなどの天候不順の影響を受けたものの、大豆や棉の作付面積が拡大し市場全体は増加しました。中南米では、ブラジルで高温多湿な天候が続いたことから害虫の発生も多く農薬市場が拡大しました。また、アジアでは天候が安定的に推移した東南アジア地域などで農薬需要が増加しました。一方、欧州では夏季の高温と干ばつなどの天候不順の影響から市場全体は減少に転じました。国内農業においては農家の高齢化や後継者不足の深刻化、耕作放棄地の増加などの構造的課題の解決は進んでいません。これに対して政府の農林水産業・地域の活力創造本部では、「農林水産物・食品の輸出拡大戦略」において、2030年までに5兆円という輸出額目標を掲げ、農林水産事業者の利益の拡大を図っています。このような状況下、当社グループは中期経営計画「Ensuring Growing Global 2(EGG2)」に取り組み、収益性の向上と技術革新・次世代事業の確立および持続的な企業価値の向上を目指しました。当連結会計年度の主な取り組みとしては、インドで本格販売を開始した新規水稲用殺虫剤ベンズピリモキサンの拡販に向けて技術普及活動を重点的に行いました。さらに、技術革新・次世代事業の確立の一環として、当社が2020年4月より配信しておりますスマートフォン用アプリケーション「レイミーのAI病害虫雑草診断」の海外向けサービス「NICHINO AI DIAGNOSIS」をインド、ベトナム、台湾および韓国において提供を開始しました。このようなスマート農業への取り組みを通じ、生産者の利便性のさらなる向上を図っております。当連結会計年度における当社グループの売上高は1,020億90百万円(前期比219億79百万円増、同27.4%増)となりました。海外売上高は733億63百万円、海外売上高比率は71.9%となりました。利益面では、営業利益は87億39百万円(前期比29億76百万円増、同51.6%増)、経常利益は77億79百万円(前期比21億14百万円増、同37.3%増)、親会社株主に帰属する当期純利益は44億88百万円(前期比82百万円増、同1.9%増)となりました。なお、当連結会計年度より、在外連結子会社等の収益及び費用は、各社の決算日の直物為替相場により円貨に換算する方法から、期中平均為替相場により円貨に換算する方法に変更したため、遡及適用後の数値で前期比較を行っています。詳細は「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 (会計方針の変更)」をご参照ください。セグメントの業績を示すと、次のとおりです。
① 農薬事業農薬事業の売上高は965億52百万円(前期比215億51百万円増、同28.7%増)、セグメント利益(営業利益)は84億10百万円(前期比30億49百万円増、同56.9%増)となりました。
② 農薬以外の化学品事業農薬以外の化学品事業の売上高は37億66百万円(前期比3億円増、同8.7%増)、セグメント利益(営業利益)は9億48百万円(前期比11百万円減、同1.2%減)となりました。
③ その他その他の売上高は17億70百万円(前期比1億27百万円増、同7.8%増)、セグメント利益(営業利益)は3億30百万円(前期比29百万円増、同9.6%増)となりました。
(2) 財政状態の状況当連結会計年度末の資産合計は、前連結会計年度に比べ、184億5百万円増の1,366億52百万円となりました。当連結会計年度末の負債合計は、前連結会計年度末に比べ、122億36百万円増の635億27百万円となりました。当連結会計年度末の純資産合計は、前連結会計年度末と比べ、61億68百万円増の731億25百万円となりました。
(3) キャッシュ・フローの状況当連結会計年度末における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は前連結会計年度末に比べ33億5百万円増加し、当連結会計年度末は143億66百万円となりました。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)営業活動による資金の減少は、19億23百万円となりました。これは税金等調整前当期純利益を77億38百万円計上したものの、棚卸資産の増加額75億39百万円による資金の減少、法人税等の支払額27億63百万円があったことが主な要因であります。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)投資活動による資金の減少は、13億38百万円となりました。これは有形固定資産の取得による支出16億5百万円があったことが主な要因であります。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)財務活動による資金の増加は、61億71百万円となりました。これは短期借入金の純減額28億30百万円、長期借入金の返済による支出13億60百万円があったものの、長期借入れによる収入80億円、社債の発行による収入40億36百万円があったことが主な要因であります。
(生産、受注及び販売の状況)(1) 生産実績当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。
セグメントの名称
生産高(百万円)
前年同期比(%)
農薬事業
63,247
123.1
農薬以外の化学品事業
717
127.1
その他
655
160.9
合計
64,620
123.5
(注) 金額は、製品製造原価によっています。
(2) 商品仕入実績当連結会計年度における商品仕入実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。
セグメントの名称
仕入高(百万円)
前年同期比(%)
農薬事業
20,201
111.2
農薬以外の化学品事業
1,277
104.7
その他
115
120.3
合計
21,594
110.8
(注) 金額は、仕入価格によっています。
(3) 受注実績当連結会計年度における受注状況をセグメントごとに示すと、次のとおりです。
セグメントの名称
受注高(百万円)
前年同期比(%)
受注残高(百万円)
前年同期比(%)
農薬事業
-
-
-
-
農薬以外の化学品事業
-
-
-
-
その他
611
143.5
118
408.3
合計
611
143.5
118
408.3
(4) 販売実績当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。
セグメントの名称
販売高(百万円)
前年同期比(%)
農薬事業
96,552
128.7
農薬以外の化学品事業
3,766
108.7
その他
1,770
107.8
合計
102,090
127.4
(注) セグメント間取引については、相殺消去しています。
(経営者の視点による経営成績等の状況に関する認識および分析・検討内容)経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識および分析・検討内容は以下のとおりです。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。
(1) 当連結会計年度の経営成績の状況に関する認識および分析・検討内容当社グループの中核事業である農薬事業を取り巻く環境は、世界的な人口増加や新興国の経済発展などを背景とした食料需要の拡大から、グローバルな農薬市場は拡大傾向にあります。一方、国内では、農業従事者の高齢化、後継者不足の深刻化による耕作面積の減少、政府による農業資材費低減方針などを背景に、農薬市場は漸減傾向が継続するものと考えられます。また、創薬難度の高まりと農薬登録要件の増加により、新規薬剤開発コストが増大し、開発期間も長期化しております。さらに、各国の農薬登録制度における要件の厳格化、ジェネリック農薬との価格競争、ロシアのウクライナ侵攻に伴う電力高騰や鉱物資源の供給不足による原材料費や委託製造費の高騰、異常気象による農作物への影響など当社グループを取り巻く事業環境は一層厳しさを増しております。なお、今後の見通しにつきましては、新型コロナウイルス(COVID-19)感染症の沈静化による経済活動の正常化が進む一方で、地政学リスクの顕在化による世界経済への影響等、不安定で不透明な状況が続くと想定しております。当社グループの中核事業である農薬事業は、食料安定供給を支える農業生産の根幹に関わるビジネスであるため、他の業種に比し影響は限定的であると考えられますが、生産、調達などへの直接的な影響や農業を取り巻く環境変化による間接的な影響が想定されます。このような事業環境下、グループビジョン「Nichino Group-Growing Global」のもと、当社グループは中期経営計画「Ensuring Growing Global 2(EGG2)」に取り組み、収益性の向上と技術革新・次世代事業の確立および持続的な企業価値の向上を目指して活動しました。当連結会計年度における当社グループの売上高は1,020億90百万円(前期比219億79百万円増、同27.4%増)となりました。利益面では、営業利益は87億39百万円(前期比29億76百万円増、同51.6%増)、経常利益は77億79百万円(前期比21億14百万円増、同37.3%増)となり、親会社株主に帰属する当期純利益は44億88百万円(前期比82百万円増、同1.9%増)となりました。なお、当連結会計年度より、在外連結子会社等の収益及び費用は、各社の決算日の直物為替相場により円貨に換算する方法から、期中平均為替相場により円貨に換算する方法に変更したため、遡及適用後の数値で前期比較を行っています。詳細は「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 (会計方針の変更)」をご参照ください。なお、セグメント別の業績は以下のとおりです。
(農薬事業)国内農薬販売では、園芸用殺虫剤ピリフルキナゾン(商品名「コルト」)を始めとする主力自社開発品目の普及拡販に努めました。また、2021年5月にコルテバ・アグリサイエンス日本株式会社およびダウ・アグロサイエンス日本株式会社(現コルテバ・ジャパン株式会社)(以下、両社あわせて「コルテバ社」といいます。)との間で販売契約を締結し、同年10月より開始したコルテバ社製品の販売が通年にわたり寄与したこともあり、国内農薬販売全体の売上高は前期を上回りました。海外農薬販売では、世界最大の農薬市場であるブラジルの農薬需要が拡大基調にあることに加え、多雨によりサトウキビ向け除草剤需要が増加したことなどからSipcam Nichino Brasil S.A.の売上高が伸長しました。北米では、棉でのコナジラミ多発生により殺虫剤ブプロフェジンの販売が好調に推移しNichino America Inc.の売上高が伸長しました。欧州では、ばれいしょ向けで除草剤ピラフルフェンエチルの販売が好調に推移したことなどからNichino Europe Co.,Ltd.の売上高が伸長したほか、バイエル社向けフルベンジアミド原体販売が好調に推移しました。また、アジアではインドにおいて園芸用殺虫剤トルフェンピラドの販売が棉と唐辛子を中心に好調に推移しました。さらに、為替が円安基調で推移したこともあり、海外農薬販売全体の売上高は前期を上回りました。以上の結果、農薬事業の売上高は965億52百万円(前期比215億51百万円増、同28.7%増)、セグメント利益(営業利益)は84億10百万円(前期比30億49百万円増、同56.9%増)となりました。
(農薬以外の化学品事業)化学品事業では、株式会社アグリマートのシロアリ薬剤分野の販売が好調に推移しました。医薬品事業では、外用抗真菌剤の販売が堅調に推移しました。以上の結果、農薬以外の化学品事業の売上高は37億66百万円(前期比3億円増、同8.7%増)、セグメント利益(営業利益)は9億48百万円(前期比11百万円減、同1.2%減)となりました。
(その他)緑化造園工事事業では、緑化整備事業や造園工事の受注に努めた結果、売上高が増加しました。分析事業では、食品分野の受注が伸長した結果、売上高が増加しました。以上の結果、その他の売上高は17億70百万円(前期比1億27百万円増、同7.8%増)、セグメント利益(営業利益)は3億30百万円(前期比29百万円増、同9.6%増)となりました。
(2) 目標とする経営指標の達成状況等当社グループは、当社の将来のありたい姿としてグルーブビジョン「Nichino Group-Growing Global」を策定し、新規農薬、医・動物薬など、顧客ニーズに適う先進技術を提供し農業生産や健康的な生活を支えること、ならびに低環境負荷製品、省力化技術など、SDGsに資する製品、サービスを拡大し持続可能な社会に貢献することを目指しております。このグループビジョン達成に向けた将来のありたい姿として、当社グループは事業規模として営業利益率15%以上、売上高2,000億円を目指しております。その達成に向けた数値目標として、2030年度に営業利益率10%以上、売上高1,250億円を実現し、魅力ある新製品技術、CSR(SDGs)経営を通じてグローバルで“ニチノーブランド、ニチノー品質”が浸透している企業を目指すことを定めております。2022年3月期を初年度とする中期経営計画「Ensuring Growing Global 2(EGG2)」においては、最終年度となる2024年3月期の目標売上高1,000億円、計画数値として営業利益64億円、売上高890億円を設定し、収益性の向上と技術革新・次世代事業の確立および持続的な企業価値の向上を図る計画としております。ターゲット市場における重点剤の登録取得や開発推進、創薬パイプラインの充実化、次世代事業の開発推進、インドにおける製販体制強化、スマート農業への対応、業務改革・働き方改革の推進など、事業基盤の強化に一定の成果を上げることができました。また、株式会社ADEKAとの資本業務提携によるシナジーを早期に創出し発揮するべく活動を推進してきました。当連結会計年度においては、期初の計画数値として売上高913億円および営業利益69億円を設定し、業績向上に努めてまいりました。海外農薬販売において、ブラジルをはじめ各地域において販売が伸長し、さらに、為替が円安基調で推移した結果、売上高、営業利益とも期初の計画数値を上回りました。
(3) 財政状態の状況①事業全体の状況当連結会計年度末の総資産は、棚卸資産が増加したことなどにより、前連結会計年度に比べ、184億5百万円増の1,366億52百万円となりました。負債につきましては、仕入債務が増加したことなどにより、前連結会計年度末に比べ、122億36百万円増の635億27百万円となりました。純資産につきましては、前連結会計年度末と比べ、61億68百万円増の731億25百万円となりました。この結果、自己資本比率は前連結会計年度末と比べ、3.6%減の51.9%になりました。
②セグメント情報に記載された区分ごとの状況当連結会計年度末のセグメント資産は、前期末に比べ171億41百万円増加し、1,285億82百万円となりました。
(農薬事業)当連結会計年度末のセグメント資産は、前期末に比べ170億44百万円増加し、1,232億69百万円となりました。
(農薬以外の化学品事業)当連結会計年度末のセグメント資産は、前期末に比べ38百万円増加し、31億67百万円となりました。
(その他)当連結会計年度末のセグメント資産は、前期末に比べ57百万円増加し、21億44百万円となりました。
③キャッシュ・フローの状況キャッシュ・フローの状況につきましては、「(業績等の概要) (3) キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりであります。
④資本の財源および資金の流動性当社グループの資金需要のうち主なものは、新剤開発・登録等にかかる研究開発費や開発途中の剤の生産設備の設置及び既存剤の生産効率化にかかる設備投資であり、これらを主に自己資金並びに金融機関からの借入金により調達しています。また、当連結会計年度末における現金及び現金同等物の残高は143億66百万円であり、十分な手元流動性を確保しています。
⑤重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されています。重要な会計上の見積りについては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載しています。連結財務諸表を作成するにあたって、資産、負債、収益及び費用の報告額に影響を及ぼす見積り及び仮定を用いていますが、これらの見積り及び仮定に基づく数値は実際の結果と異なる可能性があります。なお、新型コロナウイルス感染症の影響については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 (追加情報)」に記載しています。