【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
文中の将来に関する事項は、当四半期連結会計期間の末日現在において判断したものであります。
(1) 経営成績等の状況の概要当第1四半期連結累計期間における当社グループ(当社、連結子会社および持分法適用会社)の財政状態、経営成績(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。
財政状態及び経営成績の状況当第1四半期連結累計期間の世界経済は、経済活動の正常化に伴い景気の緩やかな持ち直しの動きが続いたものの、世界的な金融引締めに伴う影響、物価上昇、ウクライナ情勢の長期化など、先行き不透明な状況のうちに推移しました。当社グループの主要市場でも一部で需要の回復傾向がみられたものの、その回復が緩やかなものにとどまるなど、厳しい事業環境となりました。このような環境の中、当社グループでは、需要が伸長する製品については販売機会を着実に捉え販売数量を伸ばすとともに、収益改善に向けた取り組みの加速、徹底したコストダウンなどを実施してまいりました。当第1四半期連結累計期間の売上高は1,308億2百万円(前年同期比2.2%増)、営業利益は91億18百万円(同29.8%減)、経常利益は126億93百万円(同17.8%減)となりました。親会社株主に帰属する四半期純利益は、投資有価証券売却益などにより、149億84百万円(同68.3%増)となりました。
セグメント別の経営成績は、次のとおりであります。なお、当第1四半期連結会計期間より、従来「メディカル・ヘルスケア」に含めていた化粧品原料1,3-ブチレングリコールを、「マテリアル」に変更し、「セイフティ」に含めていた新規医療デバイス研究開発機能を、「メディカル・ヘルスケア」に変更しております。前年同四半期比較については、前年同四半期の数値を変更後のセグメント区分に組み替えた数値で比較しております。
[メディカル・ヘルスケア事業] ライフサイエンス事業は、キラル関連製品の販売が好調に推移したものの、前年度末に医薬品開発製造受託事業の子会社を売却した影響により、減収となりました。 コスメ・健康食品事業は、健康食品素材の販売数量が減少したことなどにより、減収となりました。当部門の売上高は、33億75百万円(前年同期比15.1%減)、コスメ・ヘルスケア事業の販売数量の減少などにより、営業利益は3億15百万円(同10.5%減)となりました。
[スマート事業] 液晶表示向けフィルム用の酢酸セルロースや高機能フィルムなどのディスプレイ/オプト事業は、液晶パネルの在庫調整が進んだものの本格的な需要回復には至らず、酢酸セルロースの販売数量が減少したことや、主要顧客向けの販売が遅れ高機能フィルムの販売数量が減少したことなどにより、減収となりました。 電子材料向け溶剤やレジスト材料などのIC/半導体事業は、半導体の需要減少や液晶パネルの需要が本格的な回復に至らなかったことで販売数量が減少し、減収となりました。当部門の売上高は、75億47百万円(前年同期比21.1%減)、利益面では、販売数量の減少や原料価格の上昇などにより、営業損失6億43百万円(前年同期は営業利益11億39百万円)となりました。
[セイフティ事業] 自動車エアバッグ用インフレータ(ガス発生装置)などのモビリティ事業は、自動車生産が前年同期より回復し販売数量が増加したことなどにより、増収となりました。当部門の売上高は、223億94百万円(前年同期比25.9%増)、利益面では、生産地統廃合に伴う経費の増加などにより、営業損失6億51百万円(前年同期は営業損失1億76百万円)となりました。
[マテリアル事業] 酢酸は、主要誘導品の酢酸ビニルや高純度テレフタル酸の需要減少による販売数量の減少や、酢酸市況の軟化により、減収となりました。 酢酸誘導体は、電子材料やディスプレイ向けの需要減少により販売数量が減少し、減収となりました。 アセテート・トウは、加熱式たばこ用の需要増加などによる販売数量の増加、原燃料価格上昇や旺盛な需要を受けた販売価格の是正などにより、増収となりました。 カプロラクトン誘導体、エポキシ化合物、1,3-ブチレングリコールは、国内の化粧品向け需要の回復により1,3-ブチレングリコールの販売数量が増加したものの、電子材料やディスプレイ向けの需要減少によりエポキシ化合物の販売数量が減少したことなどにより、減収となりました。当部門の売上高は、459億97百万円(前年同期比27.4%増)、販売価格の是正や為替の影響などにより、営業利益は93億96百万円(同87.9%増)となりました。
[エンジニアリングプラスチック事業] ポリアセタール樹脂、PBT樹脂、液晶ポリマーなどポリプラスチックス株式会社の事業は、国内の自動車向け需要は回復傾向にあるものの、海外の自動車市場や、IT関連産業の需要低迷などにより販売数量が減少し、減収となりました。 ABS樹脂、エンプラアロイ樹脂、フィルム、水溶性高分子などダイセルミライズ株式会社の事業は、巣ごもり需要の減少や顧客の在庫の影響などにより販売数量が減少し、減収となりました。当部門の売上高は、503億25百万円(前年同期比14.3%減)、販売数量の減少などにより、営業利益は7億34百万円(同88.8%減)となりました。
[その他] その他部門は、防衛関連事業からの撤退などにより、減収となりました。当部門の売上高は、11億61百万円(前年同期比35.8%減)、営業損失33百万円(前年同期は営業利益1億2百万円)となりました。
財政状態は、次のとおりであります。総資産は、現金及び預金や有形固定資産等の増加により、前連結会計年度末に比し190億98百万円増加し、7,847億5百万円となりました。負債は、短期社債等の減少により、前連結会計年度末に比し60億69百万円減少し、4,491億1百万円となりました。また純資産は、3,356億4百万円となりました。純資産から非支配株主持分を引いた自己資本は、3,199億22百万円となり自己資本比率は40.8%となりました。
(2) 経営方針・経営戦略等当第1四半期連結累計期間において、当社グループが定めている経営方針・経営戦略等について重要な変更はありません。
(3) 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定前連結会計年度の有価証券報告書に記載した「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」中の会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定の記載について重要な変更はありません。
(4) 事業上及び財務上の対処すべき課題当第1四半期連結累計期間において、当社グループが対処すべき課題について重要な変更はありません。
(5) 財務及び事業の方針の決定を支配する者の在り方に関する基本方針当第1四半期連結累計期間において、当社の財務及び事業の方針の決定を支配する者の在り方に関する基本方針について重要な変更はありません。
(6) 研究開発活動当連結会計年度におけるグループ全体の研究開発活動の金額は、6,374百万円であります。なお、当連結会計年度において、当社グループの研究開発活動の状況で特筆すべき内容は、次のとおりであります。
[組織変更]・2023年4月には、ライフサイエンスSBUを設置いたしました。これまでライフサイエンス事業企画室において、当社グループが持つ医療関連事業の事業戦略およびR&D戦略を立案・推進し、SBU化の準備を進めてまいりましたが、同事業の目指す方向性、事業戦略が明確になったことから「ライフサイエンスSBU」に移行いたしました。同SBUには、キラルカラム事業から派生したインドを中心とするサービス事業分野や、ゲノム遺伝子分野へのリソース集中投下など、従来のCPIカンパニーと製剤ソリューションビジネスを統合した「ファーマテックBU」と、医療機器事業として新規投与デバイスを社会実装できる事業基盤の確立を進める「メディカル事業開発部」を設置し、それぞれの施策を効率的に推進いたします。
[産学連携]・当社グループが中期戦略のなかで掲げた循環型社会構築に貢献するために取り組むと決めた「新バイオマスプロダクトツリーの実現」「カーボンオフセット、エネルギーオフセットの実現」や成長を加速させる新しい製品およびプロセスの開発に向けて、大学、公的研究機関との産学連携を積極的に進めております。(神戸大学)・当社が包括連携協定により共同研究を進めている国立大学法人神戸大学が、経済産業省による「令和4年度補正予算 地域の中核大学等のインキュベーション・産学融合拠点の整備」事業に採択されました。当社は、神戸大学が採択された事業において、スタートアップ創出に向けた研究者・学生・起業サポート人材の交流・育成を行うインキュベーション施設、バイオメディカルメンブレンに関連する企業との共同研究施設・設備、そしてオープンイノベーションの推進施設、これらを包括的に有する産学融合中核拠点「バイオメディカルメンブレン研究・オープンイノベーション拠点(通称:J-イノベHUB棟)」の設置の推進に賛同し、その整備を支援してまいります。今後、これらの施設を活用しながら産産学学官官の連携を強化することで、当社と神戸大学の共同研究、技術交流をさらに深化させ、その成果を社会実装していくことで持続可能な循環型社会の実現に貢献してまいります。(金沢大学)・2023年4月には、当社が包括連携協定により共同研究を進めている国立大学法人金沢大学と共同で設置した「バイオマス・グリーンイノベーションセンター(以下、BGIC/ビージック)」が本格稼働いたしました。BGICは、オープンイノベーション拠点として、日本の豊富な森林資源を中心に、農業、水産業の産品やその副産物、廃棄物などを環境にやさしい次世代化学変換プロセスによってさまざまなバイオマス新素材に変換し、活用する技術の確立に取組み、その社会実装によって「新バイオマスプロダクトツリー」を実現していく重要な研究拠点となることが期待されます。本格稼働を機に異分野融合、異業種連携、産産学学官官連携など産学官、業界の壁を超えた共創により、新たな価値の創造、研究成果のスピーディーな社会実装を目指します。(熊本大学)・2023年5月には、国立大学法人熊本大学と当社は、包括的な連携に関する協定を締結いたしました。包括連携協定の締結によって、2022年10月に熊本大学の産業ナノマテリアル研究所と共同で開設した「ワンタイムエナジー共同研究講座」を基盤として、当社の有するワンタイムエナジー技術などと熊本大学の有する知識、技術を融合することで、当社が創業以来培ってきたユニークな素材や技術を最大限に活用し、“健康(ヘルスケア)、安全・安心、便利・快適、環境”の4つの事業領域において、まだ世の中にない新たな価値を共創して社会実装に繋がる研究、人材育成、地域連携等について、相互に協力し、双方および地域社会の発展に寄与することを目指します。
[受賞歴]・公益社団法人日本栄養・食糧学会「令和5年度 技術賞」受賞2023年5月、機能性食品素材のウロリチンAに関する研究開発について、令和5年度日本栄養・食糧学会技術賞を受賞いたしました。日本栄養・食糧学会技術賞は、栄養科学または食糧科学の発展に貢献する産業上の技術開発として認められたものを対象に授与される賞です。ザクロに含まれるエラグ酸の腸内代謝物の一つであるウロリチンAは、細胞の再活性化によりさまざまな健康効果を期待できる機能性食品素材で、当社が世界で初めて発酵法による商業的な生産に成功し、2021年5月に製品名「ウロリッチ®」として販売いたしました。当社は今後もウロリチンAの機能性を解明し、細胞活性効果によるヘルスケアを提案いたします。
・電子デバイス産業新聞「半導体・オブ・ザ・イヤー2023 半導体電子材料部門 優秀賞」受賞2023年5月、当社が開発した、エッチング液からシリコン窒化膜を保護する保護材料「ナノひっつき虫TM」が、電子デバイス産業新聞(発行:株式会社産業タイムズ社)が主催する半導体・オブ・ザ・イヤー2023半導体電子材料部門の「優秀賞」を受賞いたしました。今年で29回を迎える半導体・オブ・ザ・イヤーは、①半導体デバイス、②半導体製造装置、③半導体用電子材料、の3部門で、製品・技術の新規性、半導体業界に与えたインパクト、将来性などを基準に、同新聞記者の投票によって受賞製品・技術が選定されます。「ナノひっつき虫TM」は、天然由来のセルロースを原料にした当社オリジナルの水溶性樹脂を主成分とするシリコン窒化膜選択的な吸着材料です。半導体の製造工程で使用されるシリコン窒化膜に特異的に「ひっつき」、エッチング液と呼ばれる強酸の水溶液からシリコン窒化膜を保護いたします。一方でシリコン酸化膜には作用せず、エッチング加工の生産性に悪影響を与えないことから、エッチング選択比を改善することが可能となりました。半導体をより一層微細化・高積層化していく上で、加工プロセスのエッチング選択比は極めて重要な要素です。今回は、シリコン酸化膜とシリコン窒化膜のエッチング選択比を改善できる新しい手法であることが高く評価されました。
・一般社団法人近畿化学協会「化学・環境技術賞」受賞2023年5月、当社が開発している爆轟法ナノダイヤモンドに関して「爆轟法によるsilicon-vacancyセンターを含有した蛍光ナノダイヤモンド粒子の合成」研究が、近畿化学協会の2022年度第75回「化学・環境技術賞」を受賞いたしました。「化学・環境技術賞」は、化学に関連する研究・技術で、工業的・社会的・学術的価値が明らかになったものについて顕著な業績と認められたもの、および地球環境との共存並びにその維持・改善を積極的に意識し、方向付けがなされた新技術・改良技術で工業的・社会的・学術的価値が明らかとなったものに授与されます。カラーセンターを有するナノダイヤモンドは、極めて小さいサイズ、高い生体適合性、優れた蛍光特性から医療診断分野での利用が期待され、特に、ケイ素原子が炭素原子空孔間に位置しているsilicon-vacancyセンターを有するナノダイヤモンドは、理想的な蛍光プローブとして注目されております。当社は、爆轟法におけるナノダイヤモンドの生成機構を明らかにして、最適なケイ素原料を用いた蛍光ナノダイヤモンド粒子の合成法を開発いたしました。安価でかつ大量生産可能な合成法を世界で初めて成功したことが評価されました。当社は、既に、年間数百kgのナノダイヤモンドを製造可能な試験製造設備を保有しており、今回開発した合成法を適用することで、蛍光ナノダイヤモンドの大量供給が可能であります。同時に、実用化を目指した応用研究で、蛍光プローブを用いた温度センシングの開発にも成功しております。今回開発した合成技術を活用し、医療診断分野における技術発展、そして社会課題の解決に貢献してまいります。
・公益社団法人日本木材加工技術協会「市川賞」受賞2023年6月、国立大学法人京都大学と当社の共同研究チームの「木材をまるごと常温で溶解する」研究の「木材の超穏和溶解を利用した合成ポリマー・接着剤フリーな木質圧縮成形物および表面コート木材の創成」が、日本木材加工技術協会が授与する「市川賞」を受賞いたしました。市川賞は、日本の木材産業の発展に寄与する新しい研究・技術開発の業績として認められたものを対象に授与されます。京都大学が推進する「バイオマスの超穏和溶解による高度利用」の研究においては、木材や農産廃棄物を室温から風呂温度程度の超穏和な条件で、有機酸などに可溶化し、紙とプラスチックの性質を合わせ持つバイオマスフィルムや、その他のバイオマス成形体を創成するとともに、バイオマスが溶解した液体からセルロースやリグニンを常温で分離・利用する方法などを研究しております。今後、当社は京都大学と共同で、さらに木製家具メーカーと共同で、バイオマスフィルムによる表面コートの実用化に向けた研究開発を進めてまいります。
(7) 経営成績に重要な影響を与える要因当第1四半期連結累計期間において、当社グループの経営成績に重要な影響を与える要因について重要な変更はありません。
(8) 資本の財源及び資金の流動性資金需要当社グループにおける主な運転資金需要は、製品製造のための原材料の購入、労務費などの製造費用と、製品の仕入、販売費及び一般管理費等の支払いであります。当社グループでは、製造設備の増強および更新などのほか、安全向上対策ならびに現業各設備の合理化・省力化を継続的に行っております。当第1四半期連結累計期間の設備投資額は前第1四半期連結累計期間に比し75億円増加し、138億円(前第1四半期連結累計期間比118.6%増)、減価償却費は前第1四半期連結累計期間に比し7億円増加し、74億円(前第1四半期連結累計期間比9.8%増)となりました。
財務政策当社グループは、設備投資計画に照らして、必要な資金を銀行借入や社債発行により調達しております。短期的な運転資金は、キャッシュマネジメントサービスを通じてグループ内で余剰資金を活用しておりますが、地域、通貨、金利動向等を考慮した結果、銀行借入等による調達を行う場合があります。当第1四半期連結会計期間末における借入金、社債およびリース債務を含む有利子負債の残高は3,113億円であります。利益配分に関しては、中期戦略『Accelerate 2025』におきましては、収益力強化に加え適正在庫化などキャッシュコンバージョンサイクル削減効果で資金創出力向上を図ります。また、政策投資株式売却などにより資金創出力をさらに高め、余裕資金を成長投資や株主還元に活用します。株主還元は総還元性向40%以上とし、自己株式取得も視野に柔軟に対応してまいります。