【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
文中の将来に関する事項は、当四半期連結会計期間の末日現在において判断したものであります。
(1) 経営成績等の状況の概要
当第3四半期連結累計期間の世界経済は、新型コロナウイルスの感染拡大による影響からの持ち直しの動きが続いたものの、中国でのロックダウンや半導体不足などによる自動車減産、ウクライナ情勢も影響した原燃料価格の上昇や世界的なインフレの進行、物流の混乱、為替の変動など、先行き不透明な状況のうちに推移しました。
このような環境の中、当社グループでも中国のロックダウンや自動車生産の影響を受け、一部製品の販売数量が減少したものの、需要が伸長する製品については販売機会を着実に捉え販売数量を伸ばすとともに、高騰する原燃料価格や物流費の販売価格への転嫁、徹底したコストダウンを実施してまいりました。
当第3四半期連結累計期間の売上高は4,045億13百万円(前年同期比17.9%増)、営業利益は365億66百万円(同6.9%減)、経常利益は397億66百万円(同7.9%減)、親会社株主に帰属する四半期純利益は295億48百万円(同25.7%増)となりました。
セグメント別の経営成績は、次のとおりであります。
なお、当連結会計年度より、各事業が負担すべき費用を負担し、グループ全体の利益への貢献に責任を持って事業運営する体制に移行するため、全社共通費用を全て各事業に配賦する方法に変更しています。前年同期比較については、前年同期の数値を変更後の配賦方法に基づき組み替えた数値で比較しております。
[メディカル・ヘルスケア事業]
コスメ・健康食品事業は、中国のロックダウンの影響などにより化粧品原料の販売数量が減少したものの、原燃料価格上昇に伴う販売価格の是正や、健康食品素材の販売数量が増加したことなどにより、増収となりました。
ライフサイエンス事業は、キラル関連製品の販売やインドでの分析サービスなどが好調に推移したことや、為替の影響により、増収となりました。
当部門の売上高は、164億79百万円(前年同期比13.0%増)、営業利益は、減価償却費の増加などにより、10億76百万円(同41.9%減)となりました。
[スマート事業]
液晶表示向けフィルム用の酢酸セルロースや高機能フィルムなどのディスプレイ事業は、高機能フィルムの販売数量が新規採用により増加したものの、液晶パネルの在庫調整の影響により、酢酸セルロースの販売数量が減少し、減収となりました。
電子材料向け溶剤やレジスト材料などのIC/半導体事業は、液晶パネル材料向けの販売数量が減少したものの、需要が堅調な半導体材料向けの販売数量の増加や、原燃料価格上昇に伴う販売価格の上昇などにより、増収となりました。
当部門の売上高は、232億17百万円(前年同期比3.4%減)、利益面では、販売数量の減少や原燃料価格の上昇などにより、営業損失2億9百万円(前年同期は営業利益36億47百万円)となりました。
[セイフティ事業]
自動車エアバッグ用インフレータ(ガス発生装置)などのモビリティ事業は、半導体不足や中国のロックダウンによる自動車減産の影響を受けたものの、自動車生産が回復傾向にあり販売数量が増加したことや、為替の影響などにより、増収となりました。
当部門の売上高は、621億10百万円(前年同期比23.4%増)、営業利益は、米国での人件費の増加などにより、8億58百万円(同64.5%減)となりました。
[マテリアル事業]
酢酸は、定期修繕に伴う販売調整や、前期高騰した酢酸市況の軟化により、減収となりました。
酢酸誘導体は、酢酸エチルの販売数量増加などにより、増収となりました。
アセテート・トウは、前年同期の減収要因であった会計基準変更の影響が無くなったことや、加熱式たばこ用の需要増加などによる販売数量の増加、原燃料価格上昇に伴う販売価格の是正、為替の影響などにより、増収となりました。
カプロラクトン誘導体やエポキシ化合物などは、自動車向け塗料保護フィルム用途の需要拡大によりカプロラクトン誘導体の販売数量が増加したことや、原燃料価格上昇に伴う販売価格の是正、為替の影響などにより、増収となりました。
当部門の売上高は、1,135億6百万円(前年同期比27.2%増)、営業利益は、原燃料価格の上昇や、全社共通費用配賦額の増加などにより、136億58百万円(同1.9%減)となりました。
[エンジニアリングプラスチック事業]
ポリアセタール樹脂、PBT樹脂、液晶ポリマーなどポリプラスチックス株式会社の事業は、日系自動車生産台数の減少予想による自動車部品メーカーの在庫圧縮の影響を受け、新型コロナウイルスの影響からの需要回復で販売数量が急増していた前年同期と比較して販売数量が減少したものの、継続的な販売価格の是正や、為替の影響により、増収となりました。
ABS樹脂、エンプラアロイ樹脂、フィルム、水溶性高分子などダイセルミライズ株式会社の事業は、販売数量の増加や、原燃料価格上昇に伴う販売価格の是正などにより、増収となりました。
当部門の売上高は、1,830億59百万円(前年同期比16.8%増)、営業利益は、販売価格の是正や、為替の影響などにより、208億68百万円(同24.9%増)となりました。
[その他]
その他部門は、防衛関連事業での販売数量が減少したことなどにより、減収となりました。
当部門の売上高は、61億39百万円(前年同期比23.5%減)、営業利益は、3億14百万円(同56.3%減)となりました。
(2) 経営方針・経営戦略等
当第3四半期連結累計期間において、当社グループが定めている経営方針・経営戦略等について重要な変更はありません。
(3) 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
前連結会計年度の有価証券報告書に記載した「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」中の会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定の記載について重要な変更はありません。
(4) 事業上及び財務上の対処すべき課題
当第3四半期連結累計期間において、当社グループが対処すべき課題について重要な変更はありません。
(5) 財務及び事業の方針の決定を支配する者の在り方に関する基本方針
当第3四半期連結累計期間において、当社の財務及び事業の方針の決定を支配する者の在り方に関する基本方針について重要な変更はありません。
(6) 研究開発活動
当第3四半期連結累計期間におけるグループ全体の研究開発活動の金額は、16,716百万円であります。
なお、当連結会計年度において、当社グループの研究開発活動の状況で特筆すべき内容は、次のとおりであります。
・2022年4月には中期戦略『Accelerate 2025-Ⅱ』で掲げる循環型社会構築のための「4つのシフト*」実現に向け
た「産産学学官官」の協創をさらに加速させるため、新たにバイオマスイノベーションセンター及び無機複合実装研
究所を設置しました。また、医療分野に関連する製品やサービス、研究開発やマーケティング機能を集約し、ニーズ
探索の強化と事業シナジー拡大によりメディカル分野のSBU化を目指すライフサイエンス事業企画室を設置いたしま
した。
*4つのシフト:「新企業集団の形成」「バイオマスプロダクトツリーの実現」「カーボンオフセット、エネルギーオフセットの実現」「健康・安全安心・便利快適・環境といった4つのトリガーによる幸せの提供」
(バイオマスイノベーションセンター)
当社にとって新バイオマスプロダクトツリーの実現やバイオマスバリューチェーンの構築は、酢酸セルロース事業の更なる発展と、カーボンニュートラルなどの社会的課題解決の双方対して大きな推進力になります。これらの社会実装に向け、関連の取り組みを俯瞰的に管轄する実行組織としてバイオマスイノベーションセンターを新設し、産業・学術・官庁の垣根を超えた共創をより一層加速させています。
(無機複合実装研究所)
当社は、今後大きな成長が見込まれる次世代パワーデバイスや次世代通信規格6Gに求められる素材として無機有機複合材料に着目し、リサーチセンターにおいて進めてまいりました基礎研究と並行して顧客ニーズに基づく応用研究・開発を進めてまいります。
(ライフサイエンス事業企画室)
当社は、キラルカラム、新規投与デバイス、製剤ソリューションなどダイセルグループが持つ医療関連事業を統合し、それらの事業戦略およびR&D戦略を立案・推進し、世界シェアNo.1を誇るキラルカラムの顧客基盤を活用したグループ内医療関連事業のシナジー追求や、ダイセルグループが持つ製品・技術の特長を生かせる遺伝子治療分野などでの研究開発を加速いたします。
・2022年6月には、国立大学法人神戸大学と当社は、研究・技術の発展と、社会への貢献を目的とした「包括的な産学連携推進に関する協定」を締結いたしました。本協定は、共同研究・受託研究等の企画・実施、組織的連携による人財育成、神戸の立地を生かした産学連携の推進などを定めております。具体的な研究テーマとして、メディカル・ヘルスケア領域で「機能性食品素材の機能評価とメカニズム解明」による健康増進、グリーンケミストリー領域で「水素/メタンのガス分離膜の開発」によるGHG(温室効果ガス)削減への寄与を起点にこれらに続くテーマの検討も進め、イノベーション創出に繋がる研究領域を拡大してまいります。
・2022年10月には、熊本大学産業ナノマテリアル研究所と当社は、「ワンタイムエナジー共同研究講座」を設置いたしました。本研究講座では、熊本大学が培ってきた極限プロセス環境を利用したパルスパワー(注)などの衝撃エネルギー関連の研究成果と当社が持つ技術「ワンタイムエナジー®」(注)とのシナジーを発現し、新たな探索研究を推進(注)することで、まだ世の中にない新たな価値を共創し、物質科学および安全・安心に関わるデバイスの技術の深耕化と医療、ヘルスケア、救命、防災、インフラなど「確実性」や「緊急性」が要求される様々な分野での社会実装を目指します。
(注)パルスパワー:瞬間的なエネルギーであり、電気エネルギー、化学エネルギー、力学エネルギー、光エネルギー等を時間的又は空間的に圧縮することにより、発生する高エネルギーです。
(注)ワンタイムエナジー®:世界中で命を守る自動車用エアバッグで培った、ただ一度だけ、安全、確実、瞬時に最適なエネルギーを生み出す技術です。電気自動車の事故時に乗員の感電を防ぐ電流遮断器や薬剤投与デバイス「アクトランザTMラボ」など、今後、様々な領域へ新たな価値を創造・共創していきます。
(注)本研究講座の具体的研究テーマ
①ワンタイムエナジーの原理・機構解明及び微生物・細胞等への作用
②ワンタイムエナジー利用による新接合方法(異種材料)
③爆轟法ナノダイヤモンドの構造解析と医工連携研究(医療材料としての研究)
④セイフティデバイスの基礎検討に関する連携研究
<受賞歴>
・一般社団法人近畿化学協会の「第22回 環境技術賞」受賞
2022年5月、ダイキン工業株式会社と当社が共同で開発した透湿膜全熱交換エレメントについて、「透湿膜シートを用いた『透湿膜全熱交換エレメント』の開発と製品化」が、一般社団法人近畿化学協会の「第22回 環境技術賞」を共同で受賞しました。
環境技術賞は、化学に関連する研究・技術で地球環境との共存並びにその維持・改善を積極的に意識し、方向付けがなされた新技術・改良技術で興行的・社会的・学術的価値が明らかとなったものについて顕著な業績と認められたものに与えられるものです。
共同開発した「透湿膜シート」は従来の紙製シートの約1/3の薄さで、空気中の熱を効率良く移動させます。またこの透湿膜は水蒸気を選択的に透過させる一方で、菌やウイルス、二酸化炭素といった室内の空気を汚染する物質の遮断性を向上しています。透湿性と耐水性を備えた「透湿膜シート」は洗浄や消毒も可能で、清潔性を維持することができます。「省エネ性」だけでなく、「安全・安心な空間」というコロナ禍で必要とされる価値を提供する商品であることが評価されました。
・一般社団法人繊維学会「第48回 繊維学会賞技術賞(市場部門)」受賞
2022年6月、「高生分解性酢酸セルロース(CAFBLO®:キャフブロ)」が、一般社団法人繊維学会「第48回 繊維学会賞技術賞(市場部門)」を受賞しました。
繊維学会賞技術賞は、繊維に関する技術について優秀な研究や発明、または開発を行い、繊維工業の発展に貢献した個人、グループに贈られる賞で、技術部門と市場部門があります。
当社は長年培ったセルロース化学技術を応用し、より生分解しやすい分子構造を見いだし、従来製品の品質を保ったまま、特に海洋での生分解速度をさらに高めた新製品「高生分解性酢酸セルロース(CAFBLO®:キャフブロ)」を開発しました。化学繊維の洗濯くずによる海洋プラごみ問題に対し、CAFBLO®の海洋生分解性を活かした繊維・不織布用途への取組み等が評価されました。2021年8月に海洋生分解性を証明する国際認証「OK biodegradable MARINE」を取得しております。プラスチック資源循環促進法の施行(2022年4月1日)など市場環境の変化に伴い、汎用プラスチック代替としての酢酸セルロース樹脂に多くの引き合いを頂いており、様々な用途へのグレード開発を加速しています。
・公益社団法人発明協会 令和4年度中国地方発明表彰「発明奨励賞」受賞
2022年10月、当社の発明「位相差フィルム用セルロースジアセテート」が公益社団法人発明協会主催の令和4年度中国地方発明表彰において「発明奨励賞」を受賞いたしました。「地方発明表彰」は優れた発明を生み出した技術者・研究者に対して行われるもので、1921年からの歴史がございます。このたびの表彰では、発明の実用化による社会的貢献が評価されました。本発明は、液晶表示装置の光漏れを防ぐためのフィルムに用いる樹脂です。従来、2種類以上のフィルムの張り合わせを必要としておりましたが、本発明の樹脂が偏光板保護フィルムと位相差フィルムの機能を兼ね備えた1種類のフィルムとなり、省エネルギーと軽量化を図れます。
(7) 経営成績に重要な影響を与える要因
当第3四半期連結累計期間において、当社グループの経営成績に重要な影響を与える要因について重要な変更はありません。
(8) 資本の財源及び資金の流動性
資金需要
当社グループにおける主な運転資金需要は、製品製造のための原材料の購入、労務費などの製造費用と、製品の仕入、販売費及び一般管理費等の支払いであります。
当社グループでは、製造設備の増強および更新などのほか、安全向上対策ならびに現業各設備の合理化・省力化を継続的に行っております。当第3四半期連結累計期間の設備投資額は前第3四半期連結累計期間に比し49億円増加し、406億円(前第3四半期連結累計期間比13.7%増)、減価償却費は前第3四半期連結累計期間に比し25億円増加し、221億円(前第3四半期連結累計期間比12.9%増)となりました。
財務政策
当社グループは、設備投資計画に照らして、必要な資金を銀行借入や社債発行により調達しております。短期的な運転資金は、キャッシュマネジメントサービスを通じてグループ内で余剰資金を活用しておりますが、地域、通貨、金利動向等を考慮した結果、銀行借入等による調達を行う場合があります。当第3四半期連結会計期間末における借入金およびリース債務を含む有利子負債の残高は3,221億円であります。
利益配分に関しては、中期戦略『Accelerate 2025-Ⅱ』におきましては、収益力強化に加え適正在庫化などキャッシュコンバージョンサイクル削減効果で資金創出力向上を図ります。また、政策投資株式売却などにより資金創出力をさらに高め、余裕資金を成長投資や株主還元に活用します。株主還元は総還元性向40%以上とし、自己株式取得も視野に柔軟に対応してまいります。