【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
(1) 経営成績等の状況の概要
当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。
①財政状態及び経営成績の状況
(経営を取り巻く経済環境)
当連結会計年度の世界経済は、経済活動の再開が本格化した一方で、世界的なインフレとインフレを抑え込むための各国の金融引き締め政策により景気持ち直しのペースが鈍化しました。地域別に見ますと、米国では、インフレや金融引き締めの影響を受けたものの、堅調な個人消費や輸出の拡大を背景に回復基調を維持しました。欧州では、ウクライナ情勢に伴うエネルギー価格の高止まりやインフレの進行により、景気は減速しました。中国では、ゼロコロナ政策に伴う活動制限により個人消費の回復が鈍化し、設備投資も伸び悩みました。また、その他の新興国については、インドや東南アジアを中心に、景気は緩やかに回復しました。我が国ではエネルギー価格の高騰や円安進行による物価上昇が継続しましたが、個人消費を中心とした緩やかな回復が続きました。
このような不安定な経済環境の中、当社関連市場においては、半導体部品の不足やサプライチェーン混乱の影響を受けましたが、需要については総じて堅調に推移しました。製品別に見ますと、オフィス向け複合機は、オフィス出社人数の回復に伴い機器の置き換えが進み需要は堅調に推移しましたが、レーザープリンターとインクジェットプリンターは、在宅需要が一巡したことにより需要は伸び悩みました。カメラ市場は、ミラーレスカメラやレンズを中心に、プロやハイアマチュアの需要が底堅く推移しました。医療機器は、国内は2021年の補正予算を背景とした需要の反動がありましたが、海外では画像診断装置を中心に医療現場の投資は回復傾向となりました。半導体デバイス市場は、メモリー市場など一部では弱含みましたが、パワーデバイスやセンサー向け等が好調に推移し、露光装置全体としても旺盛な需要が継続しました。FPD露光装置はコロナ禍による在宅関連需要が一巡したことや景気減速によるノートPC等の需要が減少し、縮小傾向となりました。
平均為替レートにつきましては、米ドルは前期比で約22円円安の131.66円、ユーロは前期比で約8円円安の138.42円となりました。
(当連結会計年度の経営成績)
経営指標
第121期
(億円)
第122期
(億円)
増減率
(%)
売上高
35,134
40,314
14.7%
売上総利益
16,278
18,278
12.3%
営業費用
13,459
14,744
9.5%
営業利益
2,819
3,534
25.4%
営業外収益及び費用
208
△10
-
税引前当期純利益
3,027
3,524
16.4%
当社株主に帰属する当期純利益
2,147
2,440
13.6%
1株当たり当社株主に帰属する当期純利益
基本的
205.35
236.71
15.3%
希薄化後
205.29
236.63
15.3%
当連結会計年度は、部品不足に対して代替部品への切り替えや新規調達先の開拓を継続し、物流逼迫に対しても輸送スペースの早期確保や代替輸送ルートを活用し製品供給に努めました。さらに製品価格改定や円安による好転影響もあり、当期の売上高は、前期比14.7%増の4兆314億円となりました。事業のポートフォリオ転換を着実に進めた結果、新規事業の売上高は1兆円を超え、全社でも2017年以来5年ぶりに売上高が4兆円を超えました。
売上総利益率は、部品価格や物流コストの上昇に加え、プリンティング機器の製品供給の安定化に伴い本体比率が上がり、前期を1.0ポイント下回る45.3%となりましたが、製品価格改定や円安の追い風もあり売上総利益は前期比12.3%増の1兆8,278億円となりました。
営業費用は、売上増加に伴う販売経費の増加に加え、円安による外貨建ての営業費用の増加などにより、前期比9.5%増の1兆4,744億円となりましたが、効率性を重視した管理を徹底し経営体質の改善を進め、売上高経費率は前期を1.8ポイント下回る36.5%となりました。その結果、営業利益は前期比25.4%増の3,534億円となりました。
営業外収益及び費用は、有価証券評価損益の悪化や円安進行によるグループファイナンスの外貨建て債務から生じた為替差損などにより、前期比で218億円悪化し、10億円の損失となりました。これらの結果、税引前当期純利益は前期比16.4%増の3,524億円となり、当社株主に帰属する当期純利益は前期比13.6%増の2,440億円となりました。
基本的1株当たり当社株主に帰属する当期純利益は、前期に比べ31円36銭増加し236円71銭となりました。
(セグメント別の経営成績)
以下の情報はセグメント情報に基づきます。セグメント情報に関する詳細は「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等(1)連結財務諸表 注記事項 注23 セグメント情報」を参照ください。
プリンティングビジネスユニット
経営指標
第121期
(億円)
第122期
(億円)
増減率
(%)
オフィス
7,564
8,909
17.8%
プロシューマー
8,891
10,025
12.8%
プロダクション
2,886
3,621
25.5%
外部顧客向け売上高合計
19,340
22,554
16.6%
セグメント間取引
48
65
35.2%
売上高合計
19,388
22,619
16.7%
売上原価及び営業費用
17,131
20,500
19.7%
営業利益
2,257
2,120
△6.1%
税引前当期純利益
2,330
2,258
△3.1%
プリンティングビジネスユニットでは、期後半は半導体部品の供給に改善が見られ、オフィス向け複合機の生産が回復し、販売台数は前期を上回りました。サービスと消耗品については、オフィス出社人数の回復に伴い前期から緩やかに増加しました。レーザープリンターとインクジェットプリンターは、前期のコロナ禍による生産活動の停滞から回復し、販売台数は前期を大きく上回りましたが、消耗品は在宅需要が一巡したことにより前期を下回りました。プロダクション市場向け機器は、高速カットシートインクジェットプリンターのvarioPRINT iXシリーズが好調に推移し、サービス収入も増加しました。
これらの結果、当ユニットの売上高は、前期比16.7%増の2兆2,619億円となりました。税引前当期純利益は、製品価格改定を行ったものの部品価格や物流コストの上昇の影響を受け、前期比3.1%減の2,258億円となりました。
イメージングビジネスユニット
経営指標
第121期
(億円)
第122期
(億円)
増減率
(%)
カメラ
4,329
5,094
17.7%
ネットワークカメラ他
2,186
2,936
34.3%
外部顧客向け売上高合計
6,515
8,031
23.3%
セグメント間取引
20
4
△79.2%
売上高合計
6,535
8,035
22.9%
売上原価及び営業費用
5,748
6,769
17.8%
営業利益
787
1,266
60.9%
税引前当期純利益
785
1,280
63.2%
イメージングビジネスユニットでは、レンズ交換式デジタルカメラは、部品不足の影響を受け製品供給が停滞しましたが、EOS R5とEOS R6をはじめとしたフルサイズミラーレスカメラの販売が引き続き堅調に推移したことに加え、APS-Cサイズミラーレスカメラの新製品EOS R7とEOS R10も好評を博し、販売台数は前期を上回りました。製品ラインアップを強化したRFレンズも販売が好調に推移し、販売本数は前期を上回りました。ネットワークカメラは、製品の供給量が回復したことに加え、用途の多様化を背景に販売活動を強化し、大幅な増収となりました。また、業務用映像制作機器は、新製品のEOS R5 CをはじめとするシネマEOS、業務用ビデオカメラ、放送局用レンズの販売が好調に推移しました。
これらの結果、当ユニットの売上高は、前期比22.9%増の8,035億円となりました。税引前当期純利益は、プロダクトミックスの好転により収益性が改善し、前期比63.2%増の1,280億円となりました。
メディカルビジネスユニット
経営指標
第121期
(億円)
第122期
(億円)
増減率
(%)
外部顧客向け売上高合計
4,800
5,130
6.9%
セグメント間取引
4
3
△9.0%
売上高合計
4,804
5,133
6.9%
売上原価及び営業費用
4,510
4,823
7.0%
営業利益
294
310
5.4%
税引前当期純利益
343
319
△7.0%
メディカルビジネスユニットでは、国内は2021年の補正予算による需要増からの反動が大きく、海外では据付工事の延伸がありましたが、欧米を中心に、コロナ禍で控えられていたCT装置やMRI装置などの大型の画像診断装置を中心に需要が回復し、超音波診断装置も好調に推移しました。過去最高水準となった受注に対し、逼迫する部品への対応を進めて着実に販売へと繋げました。
これらの結果、当ユニットの売上高は前期比6.9%増の5,133億円となり、過去最高の売上となりました。税引前当期純利益は、前期は企業買収に伴う営業外収益を計上したこともあり、前期比7.0%減の319億円となりました。
インダストリアルビジネスユニット
経営指標
第121期
(億円)
第122期
(億円)
増減率
(%)
光学機器
2,159
2,403
11.3%
産業機器
1,123
805
△28.3%
外部顧客向け売上高合計
3,282
3,208
△2.2%
セグメント間取引
96
84
△11.9%
売上高合計
3,377
3,292
△2.5%
売上原価及び営業費用
2,929
2,712
△7.4%
営業利益
449
580
29.3%
税引前当期純利益
453
592
30.7%
インダストリアルビジネスユニットでは、半導体露光装置は、パワーデバイスやセンサー向け等の幅広い分野において好調に推移する中、生産能力を最大限に活用し販売台数は前期を上回りました。FPD露光装置は、販売台数は設置遅れを挽回した前期を下回りましたが、コロナ禍による在宅関連需要の減少や景気減速の影響を軽微に留め、高水準を維持しました。有機ELディスプレイ製造装置は、パネルメーカーが用途の多様化に向けて投資を検討する端境期となっており、減収となりました。
これらの結果、当ユニットの売上高は、前期比2.5%減の3,292億円となりました。税引前当期純利益は、半導体露光装置の販売台数増加に伴い、前期比30.7%増の592億円となりました。
(当連結会計年度の財政状態)
第121期
(2021年12月31日)
第122期
(2022年12月31日)
増減
資産合計
(億円)
47,509
50,955
3,446
負債合計
(億円)
16,525
17,465
940
株主資本合計
(億円)
28,738
31,131
2,393
非支配持分
(億円)
2,247
2,359
112
純資産合計
(億円)
30,984
33,490
2,506
負債及び純資産合計
(億円)
47,509
50,955
3,446
株主資本比率
(%)
60.5%
61.1%
0.6%
当連結会計年度末における総資産は、前連結会計年度末から3,446億円増加して5兆955億円となりました。世界的な半導体部品の不足や国際物流の需給逼迫が深刻化する中で、電子部品や原材料、重要部品を厚めに確保するなど安全在庫確保に努めた結果、棚卸資産は増加しました。また売上が増加したことにより売上債権も増加しました。
負債は前連結会計年度末から940億円増加して1兆7,465億円となりました。当連結会計年度では、東芝メディカルシステムズ(株)(現キヤノンメディカルシステムズ(株))を買収した際の買収資金を1,200億円圧縮したことなどにより、長期債務は減少しました。一方、運転資金の増加に伴い、短期借入金及び一年以内に返済する長期債務は増加しました。
純資産は、前連結会計年度末から2,506億円増加して3兆3,490億円となりました。2度の自己株式取得による減少の一方で、増益により利益剰余金は増加し、また円安によりその他の包括利益累計額は増加しました。
これらの結果、当連結会計年度末の株主資本比率は前連結会計年度末より0.6ポイント上昇して61.1%となりました。
②キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度末の現金及び現金同等物は、為替変動の影響分を合わせて、前連結会計年度末から393億円減少し、3,621億円となりました。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
キーパーツと主要部品の在庫レベルを高めにしたことや、運転資金が増加したことなどにより、前連結会計年度末から1,884億円減少して、2,626億円の収入となりました。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
生産能力、効率性の向上を目的とした設備投資を継続し、また有価証券購入額が増加しました。一方で、海外販売会社において機能見直しによる支店の整理等、固定資産の売却が増加したことなどにより、前連結会計年度末から264億円減少し、1,808億円の支出となりました。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
東芝メディカルシステムズ(株)(現キヤノンメディカルシステムズ(株))を買収した際の買収資金について返済を行い、長期債務を1,200億円圧縮しました。さらには1,000億円の自己株式取得を実施し、また、増配したことで配当金の支払いが前期から304億円増加しました。一方で、運転資金の増加に伴う短期借入金の増加などがあり、1,468億円の支出となりました。
また、営業活動によるキャッシュ・フローから投資活動によるキャッシュ・フローを控除した、いわゆるフリーキャッシュ・フローは、前連結会計年度から1,620億円減少し、818億円の収入となりました。
詳細については、「(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容 ⑤流動性と資金源泉 b.現金及び現金同等物」に記載のとおりであります。
③生産、受注及び販売の実績
a. 生産実績
当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
セグメントの名称
金額(百万円)
前連結会計年度比(%)
プリンティング
1,976,553
116.0
イメージング
848,085
129.8
メディカル
557,659
109.2
インダストリアル
355,025
107.4
その他及び全社
75,489
104.1
消去
△99,588
–
合計
3,713,223
117.2
(注)1.
金額は、販売価格によって算定しております。
2.
上記の金額には、消費税等は含まれておりません。
b. 受注実績
当社グループの生産は、当社と販売各社との間で行う需要予測を考慮した見込み生産を主体としておりますので、販売高のうち受注生産高が占める割合は僅少であります。従って受注実績の記載は行っておりません。
c. 販売実績
当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
セグメントの名称
金額(百万円)
前連結会計年度比(%)
プリンティング
2,261,938
116.7
イメージング
803,480
122.9
メディカル
513,331
106.9
インダストリアル
329,232
97.5
その他及び全社
223,021
119.5
消去
△99,588
–
合計
4,031,414
114.7
(注)1.
上記の金額には、消費税等は含まれておりません。
2.
最近2連結会計年度の主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は、次のとお
りであります。
相手先
第121期
(2021年1月1日から
2021年12月31日まで)
第122期
(2022年1月1日から
2022年12月31日まで)
販売高
(百万円)
割合(%)
販売高
(百万円)
割合(%)
HP Inc.
405,971
11.6
484,111
12.0
(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日(2023年3月30日)現在において判断しております。
はじめに
当社は、プリンティング、イメージング、メディカル、インダストリアル、その他の製品を世界的に事業展開する企業グループであります。また、企業の成長と発展を果たすことにより、世界の繁栄と人類の幸福に貢献することを、経営理念としております。
①主要業績評価指標
当社の事業経営に用いられる主要業績評価指標(Key Performance Indicators。以下「KPI」という。)は以下のとおりであります。
(収益及び利益率)
当社は、真のグローバル・エクセレント・カンパニーを目指し邁進しておりますが、経営において重点を置いている指標の1つに収益が挙げられます。以下は経営者が重要だと捉えている収益に関連したKPIであります。
売上高はKPIの1つと考えております。当社は主に製品、またそれに関連したサービスから売上を計上しています。売上高は、当社製品への需要、会計期間内における取引の数量や規模、新製品の評判、また販売価格の変動といった要因によって変化し、その他にも市場でのシェア、市場環境等も売上高を変化させる要因です。さらに製品別の売上高は売上の中でも重要な指標の1つであり、市場のトレンドに当社の経営が対応しているかというような内容を測定するための目安となります。
売上総利益率は収益性を測るもう1つのKPIと考えております。当社はフェーズⅥの基本方針のもと、事業競争力を徹底的に強化し、価格競争力を持つ収益性の高い商品の提供を図っています。さらに、内製化や、設計・生産技術・製造現場が三位一体となった組み立ての自動化等のグループ一丸となった原価低減活動を推進しています。当社では、売上総利益率の向上に向けて、引き続きこれらの施策を推進してまいります。
営業利益率、税引前当期純利益率及び売上高研究開発費比率も当社のKPIとして考えており、これらについて当社は2つの面からの方策をとっております。1つは、販売費及び一般管理費そのものを統制し低減に努めていること、もう1つは将来の利益を生み出す技術に対する研究開発費を一定の水準に維持していくことです。現在の市場における優位性を保持しつつ、他市場における可能性も開拓していくために必要なことであり、そうした投資が将来の事業の成功の基盤となります。
(キャッシュ・フロー経営)
当社はキャッシュ・フロー経営にも重点を置いております。以下の指標は、経営者が重要だと捉えているキャッシュ・フロー経営に関連したKPIです。
在庫回転日数はKPIの1つであり、サプライチェーン・マネジメントの成果を測る目安となります。棚卸資産は陳腐化及び劣化する等のリスクを内在しており、その資産価値が著しく下がることで、当社の業績に悪影響を及ぼすこともありえます。こうしたリスクを軽減するためには、サプライチェーン・マネジメントの強化により、棚卸資産の圧縮及び製品コスト等の回収を早期化させるために生産リードタイムを短縮させ、一方で販売の機会損失を防ぐため適正水準の製品在庫を保持していく活動の継続が重要であると考えられます。
また有利子負債依存度も当社のKPIの1つであります。当社のような製造業では、開発、生産、販売等のプロセスを経て、事業が実を結ぶまでには、一般に長い期間を要するため、堅固な財務体質を構築することは重要なことであると考えます。今後も当社は主に通常の営業活動からのキャッシュ・フローで、流動性や設備投資に対応してまいります。
総資産に占める株主資本の割合を示す株主資本比率も、当社におけるKPIの1つとしております。株主資本を潤沢に持つことは、長期的な視点に立って高水準の投資を継続することにつながり、短期的な業績悪化にも揺るがない事業運営を可能にします。特に、研究開発に重点を置く当社にとっては、財務の安全性を確保することは、非常に重要なことであると考えられます。
②重要な会計方針及び見積り
当社の連結財務諸表は、米国会計基準に基づいて作成されております。また当社は、連結財務諸表を作成するために、種々の見積りと仮定を行っております。これらの見積り及び仮定は将来の市場状況、売上増加率、利益率、割引率等の見積り及び仮定を含んでおります。当社は、これらの見積り及び仮定は合理的であると考えておりますが、実際の業績は異なる可能性があります。また、パンデミックや地政学的リスク、さらにはインフレに伴う景気減速のリスク等により、当社の業績が経営者の仮定及び見積りとは異なる可能性があります。当社は、現在当社の財政状態及び経営成績に影響を与えている会計方針を適用するにあたり、以下の事項がより重要な判断事項であると考えています。
a.長期性資産の減損
基準書360「有形固定資産」に準拠し、有形固定資産や償却対象の無形固定資産などの長期性資産は、帳簿価額が回収できないという事象や状況の変化が生じた場合に、減損に関する検討を実施しております。帳簿価額が割引前将来見積キャッシュ・フローの総額を上回っていた場合には、帳簿価額が公正価値を超過する金額について減損を認識しております。公正価値の決定は、見積り及び仮定に基づいて行っております。
b.有形固定資産
有形固定資産は取得原価により計上しております。減価償却方法は、定額法で償却している一部の資産を除き、定率法を適用しております。
c.棚卸資産
棚卸資産は、低価法により評価しております。原価は、国内では平均法、海外では主として先入先出法により算出しております。
d.リース
当社は、貸手のリースでは主にオフィス製品の販売においてリース取引を提供しております。販売型リースでの機器の販売による収益は、リース開始時に認識しております。販売型リース及び直接金融リースによる利息収益は、それぞれのリース期間にわたり利息法で認識しております。これら以外のリース取引はオペレーティングリースとして会計処理し、収益はリース期間にわたり均等に認識しております。機器のリースとメンテナンス契約が一体となっている場合は、リース要素と非リース要素の独立販売価格の比率に基づいて収益を按分しております。通常、リース要素は、機器及びファイナンス費用を含んでおり、非リース要素はメンテナンス契約及び消耗品を含んでおります。一部の契約ではリースの延長又は解約オプションが含まれております。当社は、これらのオプション行使が合理的に確実である場合、オプションの対象期間を考慮し、リース期間を決定しております。当社のリース契約の大部分は、顧客の割安購入選択権を含んでおりません。
借手のリースでは建物、倉庫、従業員社宅、及び車輛等に係るオペレーティングリース及びファイナンスリースを有しております。当社は、契約開始時に契約にリースが含まれるか決定しております。一部のリース契約では、リース期間の延長又は解約オプションが含まれております。当社は、これらのオプション行使が合理的に確実である場合、オプションの対象期間を考慮し、リース期間を決定しております。当社のリース契約には、重要な残価保証または重要な財務制限条項はありません。当社のリースの大部分はリースの計算利子率が明示されておらず、当社はリース料総額の現在価値を算定する際、リース開始時に入手可能な情報を基にした追加借入利子率を使用しております。当社のリース契約の一部には、リース要素及び非リース要素を含むものがあり、それぞれを区分して会計処理しております。当社はリース要素と非リース要素の見積独立価格の比率に基づいて、契約の対価を按分しております。オペレーティングリースに係る費用は、そのリース期間にわたり定額法で計上されております。
e.企業結合
企業買収は取得法で処理しております。取得法では、取得した全ての有形及び無形資産並びに引き継いだ全ての負債を、支配獲得日における公正価値に基づき認識及び測定します。公正価値の決定には、将来キャッシュ・フローの予測、割引率、資本収益率、及びその他の利用可能な市場データに基づく見積りなどの、重要な判断や見積りを伴います。また、将来キャッシュ・フローの予測は、被買収会社の実績や、過去及び将来に想定される趨勢、市場や経済状況などの多くの要素に基づいております。
f.のれん及びその他の無形固定資産
のれん及び耐用年数が確定できないその他の無形固定資産は償却を行わず、代わりに毎年第4四半期に、または潜在的な減損の兆候があればより頻繁に減損テストを行っております。全てののれんは、企業結合のシナジー効果から便益を享受する報告単位に配分されます。報告単位の公正価値が、当該報告単位に割り当てられた帳簿価額を下回る場合には、当該差額をその報告単位に配分されたのれんの帳簿価額を限度とし、のれんの減損損失として認識しております。報告単位の公正価値は、主として割引キャッシュ・フロー分析に基づいて決定されており、将来キャッシュ・フロー及び割引率等の見積りを伴います。将来キャッシュ・フローの見積りは、主として将来の成長率に関する当社の予測に基づいております。割引率の見積りは、主として関連する市場及び産業データ並びに特定のリスク要因を考慮した、加重平均資本コストに基づいて決定しております。2021年第4四半期及び2022年第4四半期に行った減損テストの結果、個々の報告単位の公正価値は帳簿価額を十分に超過しており、減損が認識された報告単位はありません。しかし、メディカル報告単位に帰属するのれんについては、公正価値が帳簿価額を超過する割合が他の報告単位と比べて低くなっており、将来キャッシュ・フローが想定よりも減少した場合、減損損失を認識する可能性があります。なお、当該報告単位に帰属するのれんの帳簿価額は542,695百万円となっております。当該報告単位の将来キャッシュ・フローの見積りは、今後の医療機器市場の成長や事業活動地域の成長を考慮した上で立案された中期経営計画に基づいております。
耐用年数の見積りが可能な無形固定資産は、主としてソフトウェア、商標、特許権及び技術資産、ライセンス料、顧客関係であります。なお、ソフトウェアは主として3年から8年で、商標は15年で、特許権及び技術資産は7年から21年で、ライセンス料は8年で、顧客関係は10年から15年で定額償却しております。
g.法人税等の不確実性
当社は、法人税等の不確実性の評価及び見積りにおいて多くの要素を考慮しており、それらの要素には、税務当局との解決の金額及び可能性、並びに税法上の技術的な解釈を含んでおります。不確実性に関する実際の解決が見積りと異なるのは不可避的であり、そのような差異が連結財務諸表に重要な影響を与える可能性があります。
h.繰延税金資産の評価
当社は、繰延税金資産に対して定期的に実現可能性の評価を行っております。繰延税金資産の実現は、主に将来の課税所得の予測によるところが大きく、課税所得の予測は将来の市場動向や当社の事業活動が順調に継続すること、その他の要因により変化します。課税所得の予測に影響を与える要因が変化した場合には評価性引当金の設定が必要な場合があり、当社では繰延税金資産の実現可能性がないと判断した際には、繰延税金資産を修正し、損益計算書上の法人税等に繰り入れ、当期純利益が減少いたします。
i.未払退職及び年金費用
未払退職及び年金費用は数理計算によって認識しており、その計算には前提条件として基礎率を用いています。割引率、期待運用収益率といった基礎率については、市場金利などの実際の経済状況を踏まえて設定しております。その他の基礎率としては、昇給率、死亡率などがあります。これらの基礎率の変更により、将来の退職及び年金費用が影響を受ける可能性があります。
基礎率と実際の結果が異なる場合は、その差異が累積され将来期間にわたって償却されます。これにより実際の結果は、通常、将来の年金費用に影響を与えます。当社はこれらの基礎率が適切であると考えておりますが、実際の結果との差異は将来の年金費用に影響を及ぼす可能性があります。
当連結会計年度の連結財務諸表の作成においては、給付債務の計算に使用する割引率には国内制度、海外制度ではそれぞれ加重平均後で1.2%、4.1%を、長期期待収益率には国内制度、海外制度ではそれぞれ加重平均後で3.1%、5.7%を使用しております。割引率を設定するにあたっては、現在利用可能で、かつ、年金受給が満期となる間に利用可能と予想される高格付けで確定利付の公社債の収益率に関し利用可能な情報を参考に決定しております。また長期期待収益率の設定にあたっては、年金資産が構成される資産カテゴリー別の過去の実績及び将来の期待に基づいて収益率を決定しております。
割引率の低下(上昇)は、勤務費用及び数理計算上の差異の償却額を増加(減少)させるとともに、利息費用を減少(増加)させます。割引率が0.5%低下した場合、予測給付債務は約776億円増加します。割引率の低下(上昇)による影響は、数理計算上の他の前提条件の変更による影響と同様に、翌期以降に繰り延べられます。
長期期待収益率の低下(上昇)は、期待運用収益を減少(増加)させ、かつ数理計算上の差異の償却額を増加(減少)させるため、期間純年金費用を増加(減少)させます。長期期待収益率が0.5%低下した場合、期間純年金費用は約49億円増加します。
これにより年金制度の積立状況(すなわち、年金資産の公正価値と退職給付債務の差額)を連結貸借対照表で認識しており、対応する調整を税効果調整後で、その他の包括利益(損失)累計額に計上しております。
j.収益認識
当社は、主にプリンティング、イメージング、メディカル、インダストリアルの各ビジネスユニットの製品、消耗品並びに関連サービス等の売上を収益源としており、それらを顧客との個別契約に基づき提供しております。当社は、約束した財またはサービスの支配が顧客に移転した時点、もしくは移転するにつれて、移転により獲得が見込まれる対価を反映した金額により、収益を認識しております。
プリンティングビジネスユニットの製品(オフィス向け複合機、レーザープリンター、インクジェットプリンター等)及びイメージングビジネスユニットの製品(デジタルカメラ等)の販売による収益は、製品の支配を顧客がいつ獲得するかにより、主に出荷または引渡時点で認識しております。
また、メディカルビジネスユニットの製品(CT装置やMRI装置等)及びインダストリアルビジネスユニットの製品(半導体露光装置やFPD露光装置等)の販売にあたり、機器の性能に関して顧客検収を要する場合は、機器が顧客の場所に据え付けられ、合意された仕様が客観的な基準により達成されたことを確認した時点で、収益を認識しております。
当社のサービス売上の大部分は、プリンティングの製品及びメディカルの製品のメンテナンスサービスに関連するものであり、一定期間にわたり認識しております。プリンティングの製品のサービス契約は、通常、顧客は、機器の使用量に応じた従量料金、固定料金、または、基本料金に加えて使用量に応じた従量料金を支払う契約であり、修理作業及び消耗品の提供を含んでおります。プリンティングの製品のサービス契約による収益の大部分は、顧客への請求金額が、履行義務の充足に伴い顧客に移転した価値と直接対応していることから、顧客への請求金額により収益を計上しております。メディカルの製品のサービス契約は、通常、顧客は、当社が提供する待機サービスの対価として、固定料金を支払っており、当社は契約期間にわたり均等に収益を認識しております。
プリンティングの製品に関するサービス契約の多くは、関連する製品販売契約と一体で実行されます。製品及びサービスの取引価格は、独立販売価格の比率に基づいて各履行義務に配分される必要があり、その配分には判断が伴います。独立販売価格は、市場の状況及びその他観察可能なインプットを含む合理的に入手可能な全ての情報に基づき、配分の目的に合致するように設定された価格のレンジを用いて見積もられています。製品またはメンテナンスサービスの取引価格が設定されたレンジを外れる場合は、見積独立販売価格に基づき取引価格は配分されることになります。契約獲得の追加コストは、関連するプリンティングの製品が販売された時に、費用として認識しております。
転用可能性がなく、かつ完了した成果に対して顧客から支払いを受ける強制力のある権利を有している一部の産業機器の販売契約(以下「長期契約」)に関する収益は一定期間にわたり認識しており、コストを基礎とする進捗度に基づき、完成時の見積り利益の当期進捗分を含む収益が当期に認識されます。未完成の長期契約に関する損失は、損失が発生することが明らかになった期に認識されます。長期契約に関する作業実績や作業状況、想定される収益性の変化や最終的な契約条項がコストや収益の見積りに与える影響は、それらが識別され合理的に見積り可能になった期に認識されます。将来コストや完成時の利益に影響を与える要素は生産効率、労働力や資材の利用可能性とコストを含み、これらの要素は見積もりの正確性に影響し、将来の収益と売上原価に重要な影響を与えることがあります。
財またはサービスの移転と交換に当社が受け取る取引価格は、値引き、顧客特典、売上に応じた割戻し等の変動対価を含んでおります。変動対価は、主として、販売代理店や小売店が主要顧客であるイメージングの製品の販売に関連しております。当社は、変動対価に関する不確実性が解消された時点で収益認識累計額の重要な戻し入れが生じない可能性が高い範囲で、変動対価を取引価格に含めております。変動対価は、過去の傾向や売上時点におけるその他の既知の要素に基づいて見積もっており、直近の情報に基づき定期的に見直しております。また、当社は、販売後の短期間、顧客に製品の返品権を付与することがあり、当該返品権により予想される返品を考慮し決定された取引価格に基づき収益認識をしております。
当社は、連結損益計算書の収益について、顧客から徴収し政府機関へ納付される税金を除いて表示しております。
k.信用損失引当金
信用損失引当金は、過去の信用損失の経験と合理的かつ裏付け可能な予測を踏まえつつ、基準書326(「金融商品-信用損失」)に基づいて、全ての債権計上先を対象として計上しております。また当社は、破産申請など顧客の債務返済能力がなくなったと認識した時点において、顧客ごとに信用損失引当金を積み増しております。債権計上先をとりまく状況に変化が生じた場合は、債権の回収可能性に関する評価はさらに調整されます。法的な償還請求を含め、全ての債権回収のための権利を行使してもなお回収不能な場合に、債権の全部または一部を回収不能とみなし、信用損失引当金を取り崩しております。
l.環境負債
環境浄化及びその他の環境関連費用に係る負債は、環境アセスメントあるいは浄化努力が要求される可能性が高く、その費用を合理的に見積ることができる場合に認識しており、連結貸借対照表のその他の固定負債に含めております。環境負債は、事態の詳細が明らかになる過程で、あるいは状況の変化の結果によりその計上額を調整しております。その将来義務に係る費用は現在価値に割引いておりません。
m.新会計基準
「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等(1)連結財務諸表 注記事項 注1 (24)新会計基準」に記載のとおりであります。
③当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
a.売上高
当連結会計年度は、全世界において経済活動の再開が本格化した一方で、世界的なインフレとインフレを抑え込むための各国の金融引き締め政策により景気持ち直しのペースが鈍化しました。こうした中、半導体部品の不足やサプライチェーン混乱の影響を受けましたが、各セグメントにおける需要については総じて堅調に推移し、売上高は前連結会計年度比14.7%増の4兆314億円となりました。製品売上高及びサービス売上高は前連結会計年度比でそれぞれ、15.2%増の3兆2,318億円、12.8%増の7,996億円となりました。
当連結会計年度の海外での売上高は、連結売上高の78.5%を占めます。海外での売上高の計算は、円と外貨の為替レートの変動に影響されます。製品の現地生産及び海外からの部品や材料調達等によりその影響を抑えておりますが、為替レートの変動は当社の経営成績に大きな影響を与える可能性があります。
当連結会計年度の米ドル及びユーロの平均為替レートはそれぞれ131.66円及び138.42円と、前連結会計年度に比べて米ドルは約22円円安、ユーロは約8円円安で推移しました。米ドルとの為替レートの変動により約2,459億円の売上高増加、ユーロとの変動で約563億円の売上高増加、その他の通貨との変動で約378億円の売上高増加影響がありました。その結果、当連結会計年度の為替による売上高の増加影響は約3,400億円となりました。
b.売上原価
売上原価は、主として原材料費、購入部品費、工場の人件費から構成されます。原材料費のうち海外調達される原材料については、海外の市場価格や為替レートの変動による影響を受け、当社の売上原価に影響を与えます。売上原価にはこれらの他に有形固定資産の減価償却費、修繕費、光熱費、賃借料などが含まれております。当連結会計年度は部品、材料の価格上昇および、国際的な物流の逼迫による輸送費用の上昇による影響を受けました。その結果、売上高に対する売上原価の比率は、当連結会計年度は54.7%となり、前連結会計年度53.7%より1.0ポイント上昇しました。
c.売上総利益
当連結会計年度の売上総利益は、前連結会計年度と比べ12.3%増加の1兆8,278億円となりました。また売上総利益率は、前連結会計年度より1.0ポイント悪化し45.3%となりました。売上総利益の増加は、製品価格改定や円安の追い風によるものであり、一方売上総利益率の減少は、部品価格や物流コストの上昇に加え、プリンティング機器の製品供給の安定化に伴う本体比率の上昇などによるものです。
d.営業費用
営業費用は、主に人件費、研究開発費、広告宣伝費であります。営業費用は、売上増加に伴う販売経費の増加に加え、円安による外貨建ての営業費用の増加などにより、前期比9.5%増の1兆4,744億円となりました。一方、当連結会計年度売上高に対する経費率は前連結会計年度より1.8ポイント改善し、36.5%となりました。経費率の改善は、効率性を重視した管理を徹底し経営体質の改善を進めたことによるものです。
e.営業利益
当連結会計年度の営業利益は、前連結会計年度比25.4%増加の3,534億円でありました。営業利益率は0.8ポイント好転して8.8%となりました。
f.営業外収益及び費用
当連結会計年度の営業外収益及び費用は、有価証券評価損益の悪化や円安進行によるグループファイナンスの外貨建て債務から生じた為替差損などにより、前連結会計年度から218億円悪化し、10億円の損失となりました。
g.税引前当期純利益
当連結会計年度の税引前当期純利益は3,524億円で、前連結会計年度比16.4%の増益となりました。また、売上高に対する比率は8.7%でした。
h.法人税等
当連結会計年度の法人税等は205億円増加し、実効税率は26.2%でした。実効税率が日本の法定実効税率を下回っているのは、主に試験研究費の税額控除や海外子会社で適用される税率が日本の法定実効税率より低いためです。
i.当社株主に帰属する当期純利益
当連結会計年度の当社株主に帰属する当期純利益は前連結会計年度比13.6%の増益である2,440億円となりました。また、売上高当期純利益率は6.1%となりました。
④海外事業と外国通貨による取引
当社の販売活動は様々な地域で現地通貨により行っている一方、売上原価は円の占める割合が比較的高くなっております。当社の現在の事業構造を鑑みると、円高影響は売上高や売上総利益率に対してマイナス要因となりま
す。こうした為替相場の変動による財務リスクを軽減することを目的に、当社は為替先物契約を主とした金融派生商品を利用した取引を実施しております。
海外における売上高利益率は、主に販売活動を中心としているため、国内の売上高利益率と比較すると低くなっております。一般的に販売活動は、当社が行っている生産活動ほど収益性は高くありません。地域別セグメント情報に関する詳細は「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等(1)連結財務諸表 注記事項 注23 セグメント情報」を参照ください。
⑤流動性と資金源泉
a.キャッシュ・フロー経営の基本原則
当社は財務戦略の基本方針に「キャッシュ・フロー経営の徹底による健全な財務体質の維持」を掲げ、以下の2点をキャッシュ・フロー経営の基本原則としております。
1.現行事業の収益性をさらに改善し新規事業の成長スピードを高めることにより、高収益体質の向上に努め
ます。
2.事業の中期的な拡大・成長に必要な設備投資は減価償却費の範囲内に収め、財務健全性の維持に努めま
す。ただし、成長戦略の為の大規模なM&A等は積極的に行う予定であり、必要に応じて外部からの資金調達も実施します。
資金の調達(Cash-In)
事業活動からの利益をベースとする営業活動によるキャッシュ・フローを原資とします。資金調達を行う際は、金融市場の状況を鑑みて、期間・通貨・手法を検討し、多様な選択肢から最適な手段を選定します。
資金の使途(Cash-Out)
資金の主な使途は以下の優先順位に則り決定しております。
1.成長投資:設備投資・研究開発やM&Aなど
M&Aは新規事業の早期育成・拡大の選択肢として重視しております。投資対象先の選定にあたり、市場の成長性・規模、当社の事業領域・技術との親和性の高い市場であることを基準としております。
2.株主還元
中長期的な業績の見通しに加え、将来の投資計画やキャッシュ・フローなどを総合的に勘案して、配当を中心に、安定的かつ積極的な利益還元を実施します。
3.借入金返済
成長投資と株主還元の次に、健全な財務体質維持のために、借入金返済について着実に進めて参ります。
b.現金及び現金同等物
キャッシュ・フローの推移
当連結会計年度における現金及び現金同等物は、前連結会計年度から393億円減少して、3,621億円となりました。当社の現金及び現金同等物は主に円と米ドルを中心としておりますが、その他の外貨でも保有しております。
営業活動によるキャッシュ・フロー
当連結会計年度の営業活動によるキャッシュ・フローは、キーパーツと主要製品の在庫レベルを高めにしたことや運転資金が増加したことなどにより、前期比1,884億円減少し、2,626億円の収入となりました。営業活動によるキャッシュ・フローは、主に顧客からの現金受取によるキャッシュ・イン・フローと、部品や材料、販売費及び一般管理費、研究開発費、法人税の支払いによるキャッシュ・アウト・フローとなっております。当連結会計年度におけるキャッシュ・イン・フローの減少は、主に売上高の増加に伴い、顧客への債権が増加したことによります。当社の回収率に重要な変化はありません。また部品や材料の支払いといったキャッシュ・アウト・フローの増加は、キーパーツと主要製品等の在庫水準が高まったことなどによるものです。法人税の支払いによるキャッシュ・アウト・フローの増加は、課税所得の増加によるものです。
投資活動によるキャッシュ・フロー
当連結会計年度の投資活動によるキャッシュ・フローは、生産能力、効率性の向上を目的とした設備投資を継続し、また、有価証券購入額が増加しました。固定資産購入額は前連結会計年度より112億円増加して、当連結会計年度は1,885億円となり、有価証券購入額は194億円増加して、216億円となりました。一方で、当期は大型の企業買収がなかったことや、海外販売会社において機能見直しによる支店の整理等、固定資産の売却が増加したことなどにより、前連結会計年度より264億円減少し1,808億円の支出となりました。
フリーキャッシュ・フロー
当社は、営業活動によるキャッシュ・フローから投資活動によるキャッシュ・フローを控除した純額をフリーキャッシュ・フローと定義しており、当連結会計年度のフリーキャッシュ・フローは、前連結会計年度の2,438億円から、1,620億円減少し、818億円の収入となりました。
当社は、キャッシュ・フロー経営に重点を置き、フリーキャッシュ・フローを常時モニタリングしております。フリーキャッシュ・フローは当社の現在の流動性や財務活動の使途を理解する上で重要であり、また投資家にも有用であると考えております。当社は資金の調達源泉を明らかにするために、米国会計基準による連結キャッシュ・フロー計算書や連結貸借対照表と併せて、米国会計基準以外の財務指標(Non-GAAP財務指標)である、フリーキャッシュ・フローを分析しております。なお、最も直接的に比較可能な米国会計基準に基づき作成された指標とフリーキャッシュ・フローの照合調整表は以下のとおりです。
(億円)
第121期
第122期
増減
営業活動によるキャッシュ・フロー
4,510
2,626
△1,884
投資活動によるキャッシュ・フロー
△2,073
△1,808
+264
フリーキャッシュ・フロー
2,438
818
△1,620
財務活動によるキャッシュ・フロー
△2,674
△1,468
+1,205
為替変動の現金及び現金同等物への影響額
173
258
+85
現金及び現金同等物の増減
△63
△393
△330
現金及び現金同等物の期首残高
4,077
4,014
△63
現金及び現金同等物の期末残高
4,014
3,621
△393
財務活動によるキャッシュ・フロー
当連結会計年度の財務活動によるキャッシュ・フローは、東芝メディカルシステムズ(株)(現キヤノンメディカルシステムズ(株))を買収した際の買収資金について返済を行い、長期債務1,200億円を圧縮しました。さらには1,000億円の自己株式取得を実施し、また、増配したことで配当金の支払いが前期から304億円増加しました。一方で、運転資金の増加に伴う短期借入金の増加などがあり、1,468億円の支出となりました。なお、当連結会計年度の配当金の支払額は、1株当たり115.00円を実施しました。東芝メディカルシステムズ(株)(現キヤノンメディカルシステムズ(株))を買収した際の借入金の残高推移は以下のとおりであります。
当社は、流動性や必要資本を満たすため、増資、社債発行、借入といった外部からの様々な資金調達方法をとることが可能です。当社は、これまでどおりの資金調達や資本市場からの資金調達が可能であり、また将来においても可能であり続けると認識しておりますが、経済情勢の急激な悪化やその他状況によっては、当社の流動性や将来における長期の資金調達に影響を与える可能性があります。
当社の長期債務は、主に銀行借入とリース債務によって構成されています。
格付け
当社は、グローバルな資本市場から資金調達をするために、格付機関であるS&Pグローバル・レーティングから信用格付を得ております。それに加えて、当社は日本の資本市場からも資金調達するために、日本の格付会社である格付投資情報センターからも信用格付を得ております。2023年2月28日現在、当社の負債格付は、S&Pグローバル・レーティング:A(長期)、A-1(短期);格付投資情報センター:AA(長期)であります。当社では、現時点で負債の返済を早めるような格付低下の要因は発生しておりません。当社の信用格付が下がる場合は、借入コストの増加につながります。
c.在庫の適正化
当社の最新の在庫水準の最適化の方針は、運転資金を最小化し、在庫の陳腐化のリスクを避け、一方で予期せぬ天災発生時でも販売活動を継続できるようにするため、適切なバランスを維持していくことであります。当社の在庫回転日数は、当連結会計年度、前連結会計年度末時点でそれぞれ、69日、66日となりました。在庫回転日数増加の主な要因は、世界的な半導体部品の不足や国際物流の需給逼迫が深刻化する中で、電子部品や原材料、重要部品を厚めに確保するなど、安全在庫確保に努めた結果として、工場の仕掛品や販売会社の製品在庫が増加したことによるものであります。
d.設備投資
当社は積極的な業績拡大に資する投資を行う一方、総額は減価償却費の範囲内に収めることでフリーキャッシュ・フローを安定的に創出するなど、財務基盤を強固にするキャッシュ・フロー経営を徹底しています。当連結会計年度における設備投資は、前連結会計年度の1,519億円から47億円増加し、1,566億円になりました。翌連結会計年度につきましては、引き続き成長のための設備投資を行うことにより、当社の設備投資は2,100億円の見込みであります。
e.退職給付債務への事業主拠出
当社の確定給付型年金への拠出額は、当連結会計年度317億円、前連結会計年度438億円であり、確定拠出型年金への拠出額は、当連結会計年度243億円、前連結会計年度227億円であります。また、一部の子会社が加入している複数事業主制度への拠出額は、当連結会計年度47億円、前連結会計年度48億円であります。
f.運転資本
当連結会計年度における運転資本(流動資産から流動負債を控除した額)は、前連結会計年度の8,175億円から269億円減少し、7,906億円になりました。減少の主な要因は、流動負債である短期借入金(1年以内に返済する長期債務を含む)の増加によるものです。当社の運転資本は、予測できる将来需要に対して十分であると認識しております。当社の必要資本は、設備投資に関わる支出の水準及び時期といった全社的な事業計画に基づいております。流動比率(流動負債に対する流動資産の割合)は、当連結会計年度は1.58、前連結会計年度は1.77であります。
g.総資本当社株主に帰属する当期純利益率
総資本利益率(当社株主に帰属する当期純利益を前年度末及び当年度末の総資産平均で除した割合)は、当連結会計年度では5.0%です。当期純利益の増加により、前連結会計年度の4.6%から改善しました。
h.株主資本当社株主に帰属する当期純利益率
株主資本利益率(当社株主に帰属する当期純利益を前年度末及び当年度末の株主資本平均で除した割合)は、当連結会計年度では8.1%です。増益による利益剰余金の増加や円安による為替換算調整額の増加に伴い株主資本は増加しましたが、当期純利益も増加し、前連結会計年度の7.9%から改善しました。
i.有利子負債依存度
当社はフェーズⅥにてキャッシュ・フロー経営の徹底を重点項目の一つとしており、財務基盤の再強化を進めています。当連結会計年度では東芝メディカルシステムズ(株)(現キヤノンメディカルシステムズ(株))を買収した際の買収資金について、返済を行って1,200億円の圧縮を行っています。一方で、運転資金の増加に伴い短期借入金が増加しました。その結果、当連結会計年度における短期借入金、短期オペレーティングリース負債、長期借入金、及び長期オペレーティングリース負債は、前連結会計年度末の3,210億円から964億円増加し4,174億円となり、有利子負債依存度(総資産に対する有利子負債の割合)で表すと8.2%になります。前連結会計年度の6.8%からは増加となりましたが、財務基盤は安定しております。
j.株主資本比率
株主資本比率(株主資本を総資産で除した割合)は、当連結会計年度は61.1%となり、前連結会計年度の60.5%から増加いたしました。増益による利益剰余金の増加や、円安によるその他の包括利益累計額の増加等のため純資産が増加したことなどにより株主資本比率は0.6%好転し、引き続き高い財務基盤を維持しております。
⑥知的財産戦略
1.基本方針
当社は、独自技術で差別化した魅力的な質の高い製品・サービスにより、新市場や新規顧客を開拓する研究開発型企業として発展してきました。知的財産部門は、事業の発展を支援することを重視し、これからの時代を先読みし、10年後、20年後の姿を描き、知的財産戦略を策定・実行しています。
当社の知的財産戦略の基本戦略は下記4つとしております。
1,コアコンピタンス技術に関わる特許は、競争領域において事業を守る特許としてライセンスせず、
競争優位性の確保に活用する。
2,通信、GUIなどの汎用技術に関わる協調領域の特許をクロスライセンスなどに利用することで、
研究開発や事業の自由度を確保する。
3,他社の知的財産権を尊重する。一方でキヤノンの知的財産権の侵害に対しては毅然と対応する。
4,他社が容易に到達できない検証困難な発明は、ノウハウとして秘匿し守ることで、他社の追従を
許さず、競争優位性を確保する。
2.管理体制
当社では、当社の知的財産法務本部と各グループ会社の知的財産部門との間で、知的財産の取り扱いに関する役割と責任、活動方針の策定プロセスなどを取り決めたグローバルマネジメントルールを策定しています。
これにより、当社全体の知的財産活動を統制し、特許ポートフォリオの最適化を図りつつ、必要に応じて協働で訴訟やライセンス活動を行うことにより、利益の最大化を図っています。
3.全社の知的財産戦略
特許ポートフォリオ
当社は、さまざまな環境変化から次の時代の社会や経済の流れを読み取り、知的財産戦略を策定・実行しています。事業のコアコンピタンスに関わる知的財産権の取得はもちろんのこと、これからのビジネスの流れを先取りした知的財産権の取得にも大きなリソースを投入しています。
半導体や希少材料のサプライチェーン問題、エネルギーや食料の自給需要、環境配慮要請といった社会変化、3次元空間の映像化に対する顧客ニーズなどを踏まえ、需要が高まる製品・サービス、注目度が高まる技術を予見し、知的財産権の取得にあたっての注力分野と出願国を決定しています。また、製品やサービスの実施に不可欠となる標準技術へも投資をし、さまざまな業種の企業との交渉にも備えています。このようにして構築した知的財産ポートフォリオを保有することにより、競争優位性の確保と将来事業の自由度の確保を両立させています。
当社は、全世界で特許・実用新案を約8万3千件保有しています(2022年12月現在)。日本国内はもとより海外での特許取得も重視しており、地域ごとの事業戦略や技術・製品動向を踏まえた上で特許の権利化を推進しています。特に米国は、世界最先端の技術をもつ企業が多く市場規模も大きいことから、米国での特許出願については、事業拡大、技術提携の双方の視点から注力しており、米国の特許登録件数ランキングは37年連続で5位以内を維持しています。
オピニオンリーダーとしての活動
当社は、日本の産業の振興、ひいては世界の産業の振興への貢献をめざし、知的財産の業界をリードする活動を積極的に行っています。2014年には、LOT(License on Transfer)ネットワークを他社とともに設立し、自らは事業を行わず特許訴訟を脅しに利益を得るPAE(Patent Assertion Entity)による不当な特許訴訟から会員企業を守る仕組みを構築しました。2023年2月時点で2,800社以上が会員企業になっています。2020年には、発起人としてさまざまな業界に働きかけを行い、「COVID-19と戦う知財宣言」を立ち上げ、新型コロナウイルス感染症の早期収束を支援しています。また、2019年より、世界知的所有権機関(WIPO)が運営する、環境技術の活用を促進するためのプラットフォームであるWIPO GREENにパートナーとして参加し、WIPOと協力して環境技術の普及を行っています。さらに、各国特許庁の長官と意見交換を行い、よりよい知的財産システム(環境/制度/施策)の確立に貢献しています。
4.産業グループ別の知的財産戦略
当社は、グローバル優良企業グループ構想フェーズVIにおいて、プリンティング、イメージング、メディカル、インダストリアルの各グループの事業競争力の強化を図る一方、ボリュメトリックビデオ、XRなどの次世代イメージング、次世代ヘルスケア、スマートモビリティなど将来のビジネス創出にも力を入れています。知的財産部門は、これらの事業が発展・成長するために、光学技術、映像処理・解析技術などのコアコンピタンス技術、AI・IoTを組み入れたサイバー&フィジカルシステムに欠かせない技術などに関する知的財産の創出・権利化に力を入れています。
Ⅰ.プリンティンググループ
プリントエンジン、材料、キーコンポーネント等のプリンター本体に関する次世代コア技術の特許網を強化しています。併せて、在宅ユーザー、シェアオフィスユーザーを含む多様な顧客へと提供される様々なソリューション技術の特許網を構築することでプリンターを取り巻く印刷事業全体の差別化を支援し、印刷事業を支える様々なグループ会社との知財連携体制を強化しております。
Ⅱ.イメージンググループ
光学やセンサーなどのコア技術を駆使したミラーレスカメラに加え、ネットワーク技術を融合させることで映像制作やセキュリティ用途のカメラ群へと映像ソリューションを展開しており、これらの特許ポートフォリオを拡充しています。さらにボリュメトリックビデオ、XRなどの3次元空間の映像処理技術、運転支援用カメラに代表されるスマートモビリティ領域など、次世代のエンターテインメントや社会インフラを支える領域でも積極的に知的財産を創出しております。
Ⅲ.メディカルグループ
プレシジョン・メディシン(個別化医療)の提供へと進化するAIソリューション、次世代型検出器搭載CT等、医療現場に次々と提供される新たな価値を創造する技術ポートフォリオを知的財産戦略に展開します。
知的財産活動を通じて、グループ内の技術シナジー実現や国内外研究機関との連携支援、画像診断領域の競争力強化とヘルスケアITや体外診断等への事業領域の拡大に貢献しております。
Ⅳ.インダストリアルグループ
露光装置、ダイボンダー、OLED製造装置、スパッタリング装置などの分野においては、特許とノウハウによるオープン&クローズ戦略を実施し、産業機器IoTにも注力しています。
ナノインプリントリソグラフィ(NIL)では産学官連携やグループ会社連携を利用し、材料技術、要素技術、装置技術から半導体プロセスまで、強靭な特許ポートフォリオを構築しております。
当社の知的財産活動に関するその他の情報は、当社ウェブサイト(https://global.canon/ja/intellectual-property/)に掲載しております。
⑦トレンド情報
当社は、プリンティング、イメージング、メディカル、インダストリアルの分野において、開発、生産から販売、サービスにわたる事業活動を営んでおります。
Ⅰ.プリンティングビジネスユニット
当社は、家庭向け、オフィス向け、プロダクションプリント向けのインクジェットプリンター、レーザープリンター、複合機の開発・製造・販売及びメンテナンス、アフターサービスを行うとともに、ソフトウェア及びサービス、ソリューションビジネスを通して顧客に付加価値を提供しています。
2020年に発売を開始したオフィス向け複合機「imageRUNNER ADVANCE DXシリーズ」、2021年の3シリーズ9モデルに続いて、2022年には4モデルの新製品を発売し、「imageRUNNER ADVANCE DXシリーズ」のラインアップを拡充しました。また、製品の高い信頼性が認められ、独立評価機関として権威あるKeypoint Intelligence社 BLI(Buyers Laboratory)事業部から、最も信頼性の高いA3オフィス複合機ブランドとして選出されました。
当社は、クラウドにつながることで複合機の機能を拡張するサービスとして、「uniFLOW Online」を提供しています。クラウドサービス連携とセキュリティの強化に加え、コロナ禍以降定着しつつあるオフィスと自宅を組み合わせたハイブリッドワーク環境に向けて、オフィス複合機と家庭用インクジェットプリンターを「uniFLOW Online」を介して組み合わせた「Hybrid Work Print Standard」の発売を新たに開始し、在宅勤務時でもオフィス同様のセキュリティとプリント管理機能を提供できるようになりました。市場動向に沿って、今後も更なる競争力の維持及び向上に向けて、ますます高度化する顧客の需要に応えるべく、製品群の更なる充実とソリューション対応力の強化を図るとともに、販売力の強化に努めていきます。
プロダクションプリントについては、新たに「imagePRESS Vシリーズ」として、高い生産性と堅牢性により大量出力物の短納期化を実現するフラッグシップモデル「imagePRESS V1350」、多種多様な用紙の高速出力により少量多品種印刷ビジネスを支援する「imagePRESS V1000」、オペレーターの作業負荷を軽減するコンパクトな本体サイズの「imagePRESS V900」の3機種を発売しラインアップを一新、様々な商業印刷のニーズに対応しました。加えて、リモート印刷管理アプリケーション「PRISMAremote Manager」との組み合わせにより印刷状況を可視化することで、ダウンタイムの削減にも貢献しています。
大判インクジェットプリンターについて当社は、アート系プロフェッショナルの高い画質要求に応えるべく、新開発した12色の「LUCIA PROインク」により色の再現性や暗部領域での表現力を大幅に向上させた「imagePROGRAF PROシリーズ」を提供しています。また、設計事務所などでの図面大量出力から、企業・店舗でのCAD・ポスターなどの大判サイズ出力ニーズに向けて、多様な印刷用途や用紙の適性に応じた高画質プリントを可能にする全5色顔料インク「LUCIA TD」を搭載した「imagePROGRAF TZ/TX/TM/TAシリーズ」を提供しています。さらに業界初となる蛍光インクを搭載し、より明るくやわらかな色再現が可能な「imagePROGRAF GPシリーズ」の提供も2021年より始めています。
ハイエンドのプロダクションインクジェット市場に向けて、当社は業界をリードする連帳プリンターを提供しており、効率的かつ高品質のフルカラー印刷の実現に貢献しています。「ColorStreamシリーズ」は、磁気インクやインビジブルインクなどのセキュリティインクを含む、カラーおよびモノクロのトランザクション、トランスプロモ、ダイレクトメール、書籍、およびマニュアルなどの印刷物に対応し、生産性と柔軟性に優れた、モジュール式でカスタマイズ可能な製品です。「ProStreamシリーズ」は、オフセット印刷に劣らぬ色再現性と生産性を実現しつつ、デジタル印刷の可変データの多用途性を兼ね備えた、高速で生産性の高い連帳プリンターです。当社が提供する高速カットシート方式のインクジェットプリンター「varioPRINT iX シリーズ」は、これまでの商業印刷のビジネスを大きく変えました。優れた画質と幅広いメディア対応力に、インクジェットの高い生産性と魅力的なコスト効率を兼ね備えています。「varioPRINT iXシリーズ」は、その高い信頼性、生産性、アップタイムによって、より多くの成果物を短時間で生産することができます。最小限の調整とセットアップで、計画的な高速印刷が可能なため、印刷業者は、お客様と合意された納期と価格に基づき、あらゆる成果物に対応し、より多くの利益を上げることができます。
大判グラフィック市場では、「Colorado」と「Arizona」のブランドの下で独自のUV LEDソリューションを提供しており、クラス最高の生産性と最小のコストを目指しております。このソリューションにより、プロの印刷業者は豊富なグラフィックスと産業用アプリケーションを顧客に提供することが可能となります。「Colorado」における、UVgelテクノロジーが、従来の印刷技術の持つ長所を損ねず、あらゆる妥協を排除した独自のプロセスにより、比類のない生産性を提供しています。UVgel460インクのより柔軟で伸縮性のある配合と、独創的なFLXfinish+テクノロジーという2つの追加テクノロジーのおかげで、幅広いアプリケーションへの印刷を可能にしています。UVgel460インクは、折りたたんだり、曲げたり、包んだりしても画像安定性を発揮します。また、FLXfinish+テクノロジーは、煌びやかなグロス調と高級感漂うマット調の印刷を使い分けることを可能にし、表現の自由度を拡大させることが出来ます。
家庭用インクジェットプリンターについては、コロナ禍における在宅勤務の増加やオンライン学習や家庭での趣味など自宅で過ごす時間が増える中、新しいライフスタイルのニーズに対応すべく、当社では幅広いラインアップを揃え、より簡単に効率よく、低ランニングコストでプリント・スキャン・コピーを行える商品を提供しています。
写真や文書印刷に適した「XK110/TS8630」は、お客様のユースシーンに合わせて選択できるUI(ユーザーインターフェース)を採用し、少ない操作でプリントやスキャンなどを行えます。文書を多く印刷するユーザーに最適な「G3370/G1330」は、特大容量タンク搭載により、大量印刷と低ランニングコストを実現しました。
また、ビジネス向けインクジェットプリンターについては、働く場所や働き方の多様化に伴い、オフィス・自宅など幅広いビジネスの現場で、コストを抑えながらビジネス文書や制作物を印刷したいというニーズに対応しました。「GX4030」は低ランニングコストでありながら、高画質なビジネス文書の印刷が可能な全色顔料インクを採用しています。さらに、「GX5030」では、設置場所を選ばない小型化を実現するとともに、低ランニングコストと高い生産性、多様な用紙への対応を実現し、さまざまなビジネスを支援していきます。
レーザープリンターについては、景気の先行きに対する懸念や金利上昇により、ディーラーやユーザーに在庫を絞る動きがみられています。また、長期的なトレンドとしては、スマートフォン、クラウド環境の普及等でユーザーのプリントスタイルが変化する中、プリント需要の減少による市場全体の成長鈍化が懸念されています。そのような環境下において、より付加価値の高い中高速機、特に複合機の拡販に注力しています。更に、当社は各種の技術的イノベーションにより、顧客との一定期間にわたる契約型ビジネスを推進するなどの競争力強化と顧客価値向上をはかり、数量・シェア拡大を図っていきます。生産面では弊社が生産拠点を有する中国のロックダウンにより、操業度が低下したことや、部品逼迫の影響を受け、プリンター本体供給が一時的に不足する問題も起きています。サプライチェーンの多元化を推進することにより製品の安定供給に努めていきます。
Ⅱ.イメージングビジネスユニット
当社は、デジタルカメラと同様に、レンズや様々な関連アクセサリーを製造、販売しております。レンズ交換式デジタルカメラでは、「EOS Rシステム」のさらなるラインアップ拡充としてAPS-Cミラーレスカメラ「EOS R7」「EOS R10」を投入しました。この2機種は APS-Cサイズのセンサーでありながら、上位機種である「EOS R3」のオートフォーカス被写体検出技術を継承するなど、静止画・動画撮影のあらゆる面で高い性能を備えています。プロやハイアマチュアユーザーによる用途に応じたサブカメラとしての使用や、一眼レフカメラからの買い替え、エントリー機からのステップアップを促すモデルとして期待しています。レンズ交換式デジタルカメラ市場は各社のミラーレスカメラと交換用レンズの新製品投入により、需要は景気減速の中でも堅調に推移しています。キヤノンとしては、米国、欧州、中国、日本といった主要地域において、引き続き台数シェア1位を獲得しております。
レンズ交換式デジタルカメラにおいては、撮影領域のより一層の拡大を目指し、更なる高画質化、小型・軽量化、動画機能/ネットワーク機能の充実など、最先端の技術をベースとした新しい製品を提供することにより、今後も成長を目指してまいります。
レンズ交換式デジタルカメラ用交換レンズでは、APS-C専用の「RF-Sレンズ」2機種を含む6機種を投入し、RFレンズのラインアップを拡充いたしました。また、EOS Rシリーズカメラ本体との相乗効果もあり、RFレンズの販売が伸長しました。
コンパクトデジタルカメラ市場は全体としては縮小傾向にあるものの、引き続きプレミアムラインを強化し、収益性の向上に努めてまいります。加えて、手軽さや特定シーンでの撮影を求める新たなニーズを掘り起こして撮影領域を拡大していくために、「PowerShot ZOOM」や、「PowerShot PICK」といった新ジャンルのカメラの展開を進めております。
コンパクトフォトプリンターでは、第3四半期に「SELPHY CP1500」を発売しました。「SELPHY」は、簡単な操作性・優れた携帯性・高画質プリント・高耐久性という強みを持ち合わせ、各地域で高いプレゼンスを維持しております。今後更に新規需要を開拓し、市場を牽引してまいります。
また、新規事業として、現実映像とCGをリアルタイムに融合するMR(Mixed Reality:複合現実)の事業にも取り組んでおります。21年に小型軽量モデルの「MREAL S1」、22年に広視野角モデル「MREAL X1」を投入し、製造業をはじめとして幅広い分野に3Dデータを活用したソリューションを提供してまいります。
ネットワークカメラでは、カメラの映像を利用した課題解決型の導入形態が定着してきています。国内では製造業向けソリューションが好調で、世界的な生産・物流の混乱の中でも堅調に売上げを伸ばしています。2022年は、性能を大幅に強化した「VB-H47」をはじめとするカメラ6機種を発売しました。暗所や逆光のような明暗差がある環境下でも鮮明な映像を撮影できるため、映像解析ソフトウェアと組み合わせたシーンにおいて解析精度の向上に寄与します。また、ネットワークカメラをAIカメラ化するmicroSDカード型ハードウェアの「AIアクセラレーター AS-AN11」と専用映像解析アプリケーション「侵入検知」、「駐車検知」、「映像変化検知」の3種類を2022年12月から国内市場に向けて順次発売を開始しました。解析専用のサーバーやクラウドが不要となり、初期投資やランニングコストを抑えたシンプルなシステム構築が可能となります。
高度監視市場向け製品は、暗闇でもカラー動画の撮影ができる超高感度性能により、港湾監視などの厳しい要件に応えることができ、順調に販売を伸ばしています。
当社は、2015年にネットワークカメラ業界最大手のアクシス社をグループに迎えました。2022年には、約130の新製品を発売し、4つの新しいアクシスエクスペリエンスセンター(AEC) を開設するなど、力強い成長を見せました。よりお客様の身近になることを目的とし、現在、世界中に34ものAECを保有しています。
産業向けには、DX推進のために新しい3つの映像ソリューションを提供しています。1.カメラを用いて周囲環境の3次元情報と位置姿勢を同時に推定する「Visual SLAM技術」を含む映像解析ソフトウェア「Vision-based Navigation Software」のAGV(Automated Guided Vehicle)をメーカーヘ提供しています。物流分野のみならず今後応用範囲拡大を目指します。2.ネットワークカメラを活用した映像解析ソフトウェア「Vision Editionシリーズ」において、画像処理性能の向上や外部機器・AIとの連携強化を実現した新製品「Vision Edition 2」を発売いたしました。より柔軟で簡易なシステム構築を可能とすることで、多様化・高度化する現場作業の生産性向上二―ズに応えてまいります。3.画像を用いた橋梁やトンネルの点検においては、これまでAI技術によるひび割れの検知をBPOサービスとして請け負って参りましたが、新たにクラウドサービスの提供を開始しました。
業務用映像制作市場では、OTT*1配信での視聴拡大による大量かつ質の高いコンテンツや、ストリーミング・ネット動画の普及による動画コンテンツへの需要が継続しており、「映像クリエーター」といったユーザーの台頭を確認できます。また、企業・教育などでのインハウス制作といった、これまでと異なる市場の立ち上がりも確認出来ます。映像制作において、制作機器の小型軽量化、制作の効率化、省人化の需要は引き続き見受けられます。スポーツや音楽ライブ等を中継する放送ライブ市場では、コロナ禍で停滞していた各種イベントの復活から機材投資の継続が見受けられ、また大判センサーを活用した浅い被写界深度の映像表現の潮流が現れ始めています。その中で当社は、動画・静止画の両方に高性能を求めるユーザー向けに小型・軽量ボディと8K・RAW内蔵記録を実現した「EOS R5C」、映像制作の効率化の需要を受けてフレキシブルにサポートするフルサイズ対応シネマズームレンズ「CN-E20-50mm」、「CN-E45-135mm」、収録からライブ中継まで幅広く活用可能なシネサーボレンズ「CN8x15」、ライブ制作で大判カメラの運用性を高める機能拡張ユニット「EU-V3」、映像制作用4Kリモートカメラ最上位モデル「CR-N700」の市場導入を行ってきました。更に映像ソリューションにおいては、スポーツ中継、エンターテインメント、CMなどでの新しい映像表現、メタバースへのデータ活用など、市場拡大が見込まれる「ボリュメトリックビデオ」での事業創出にも取り組んでまいります。今後も市場の変化を捉えた商品・ソリューションを投入することで、映像制作における幅広いプロのニーズに応え、映像文化の発展に貢献していきます。
※1 オーバーザトップの略。これまで地上波放送、衛星、ケーブルテレビ等で提供されていた映像コンテンツを、インターネットを介して視聴者に直接提供するメディアサービス。
Ⅲ.メディカルビジネスユニット
当社は、疾病の早期発見、早期診断のためCT、MRI、超音波診断装置、X線診断装置などの画像診断装置や検査機器、ヘルスケアITソリューションを開発、製造し、世界150以上の国や地域に提供しております。患者さんに優しく確信度の高い医療の提供に貢献するとともに、医療の効率化、コスト削減を実現する医療システム・サービスをお届けします。
システム事業では、AIソリューションブランド「Altivity」のもと、医療現場で培われた多くの知慧やノウハウを集結して予防・診断・治療・予後のワークフロー全体を効率化し、より質の高い医療を実現するためにAIを活用した医療への取り組みを進めています。長きにわたり日本でトップシェアを堅持しているCTでは、先進のAI自動化技術でCT検査をサポートする新世代の80列160スライスCT「Aquilion Serve」の販売を開始、MRIにおいても画像クオリティーを引き上げるディープラーニングを用いた「Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)」を標準搭載し、複雑な検査段階をアシストする高性能で使いやすい1.5テスラMRI「Vantage Fortian」を市場に投入しました。CT、MRIとも当社製のカメラを搭載し患者さんの体位を検出することで撮影時間の短縮と簡便化を実現しています。また、コンパクトなボディにAIを用いて開発したアプリケーションを搭載することで効率の高いワークフローを実現した超音波診断装置の新製品「Aplio flex / Aplio go」は国内から販売を開始し、順次、販売地域を拡大しております。
当社は先般、米国に新会社「Canon Healthcare USA, INC.」を設立することを決定しました。メディカル市場において影響力の大きい米国での事業強化を図ることで事業全体の成長を加速します。アップストリームマーケティング機能の一部を新会社に移管し、米国キーオピニオンリーダーとのネットワークを構築することで、臨床ニーズをとらえた製品開発・ソリューション提案につなげます。また、11月にレドレン・テクノロジー社の技術を活用したフォトンカウンティング検出器搭載型Ⅹ線CT(以下PCCT)を国立研究開発法人国立がん研究センター(以下国立がん研究センター)に設置し、実用化に向けた共同研究を開始しました。さらには米国医療機関ともPCCT共同研究を開始し、早期にCTの世界シェアNo.1の達成を目指します。
Ⅳ.インダストリアルビジネスユニット
半導体露光装置市場では、新型コロナウイルスの影響による長期的な景気回復時期の不透明感に加え、貿易摩擦激化による投資への影響等が懸念されてきましたが、その影響は軽微に留まり、ロジックやセンサー向けを中心に露光装置の設備投資は堅調に推移しました。後工程露光装置の市場では、半導体チップの高集積化・薄型化への要求の高まりを受け、TSV(Through-Silicon Via)技術等によるメモリーの大容量化やウェハレベルパッケージング化などへの設備投資が伸長しました。
当社では、多様化する半導体アプリケーションに柔軟に対応するため、顧客要望を製品開発の初期段階から反映させる「デザインイン」型のビジネススタイルが定着しております。高付加価値製品の開発も順調に進んでおり、急速に普及が進むIoT(Internet of Things)や車載デバイスなど幅広い分野に向けた製品を展開しております。メモリー向けでは、業界最高水準の生産性と重ね合わせ精度を実現したKrFスキャナー「FPA-6300ES6a」、ならびにi線ステッパー「FPA-5550iZ2」の継続的なアップグレードで、更なる市場シェアの拡大を目指してまいります。また、市場で稼働中の露光装置に対するサービスを充実化するためのソリューションプラットフォーム「Lithography Plus」をリリースしました。装置のリアルタイム分析、異常時の自動復旧、最適な製造条件提案等、当社の露光装置を導入しているユーザーの生産性向上に貢献してまいります。ナノインプリントリソグラフィ(NIL)半導体製造装置は、メモリーデバイスの量産展開に向けた準備を加速するとともに、様々なメーカーと共同開発を行い、NILの適用範囲拡大に向けた活動も進めております。
FPD露光装置市場は、新型コロナウイルス特需の終焉に加え、世界的なインフレや景気減速等により急激に縮小しています。これに伴い、顧客投資計画は一時的に延伸しておりますが、PCやタブレット等の有機ELパネル化需要は旺盛で、2023年後半から2024年初めには市場が回復すると見込んでおります。
薄型の普及が進むパネル市場は今後、大型化、4K/8Kの高精細化に加え、有機ELに代表される高品位なディスプレイに移行していくと予想されています。当社は、高品位な65型パネルを一括露光することにより高い生産性を実現する第8世代ガラス基板向け露光装置「MPAsp-H1003T」、ならびに中小型ディスプレイ製造の更なる高精細化ニーズに応える第6世代ガラス基板向け露光装置「MPAsp-E903T」により、更なる市場シェア拡大を目指してまいります。また、オンライン会議や教育の普及によりニーズが高まったノートPC・タブレットなどのIT機器用ディスプレイに対応するため、高生産性と高精細化を両立したIT機器用ディスプレイ向け露光装置「MPAsp-H1003H」をラインアップに加え、市場ニーズに応えてまいります。
有機ELパネル製造装置市場においては、当社が圧倒的シェアを持つ中小型パネル向け有機EL蒸着装置の競争力を堅持するとともに、大型パネル向け装置の開発を進めてまいります。