【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
(1)経営成績の状況
文中の将来に関する事項は、当四半期連結会計期間の末日現在において判断したものです。
当社は、1996年の創業時から、MVNO事業モデルという新たな通信事業の在り方を提唱・実践し、安全・安心・便利にデータを運ぶ(通信する)ことを自らの使命(ミッション)として事業を展開しています。具体的には、携帯通信(SIM)事業、ローカル携帯網による通信(ローカル4G/5G)事業、及び、スマートフォンで利用するデジタルID(FPoS(Fintech Platform over SIM、エフポス))事業の3つの事業に取り組んでいます。
当社は、SIM事業の進化を継続することで安定的な収益基盤を確保し、ローカル4G/5G事業及びFPoS事業に投資することで、ローカル4G/5G事業及びFPoS事業を将来の収益の柱に育てる計画です。
① 携帯通信(SIM)事業について
当社は、2020年6月の総務大臣裁定を受け、2020年7月に、大手携帯電話事業者と同等の音声定額プランを提供する「日本通信SIM」を発売し、以後、契約回線数及び四半期売上ともに成長を続けています。
当社は、「日本通信SIM」の商品力を強化するため、仕様を拡充しており、2022年4月には、他のMVNOに先駆けて、スマートフォン等に内蔵されているeSIMへの対応を開始(2022年4月6日公表)したほか、2023年3月までに、携帯電話不正利用防止法に基づく本人確認において、マイナンバーカードに格納された電子証明書による方法を導入しました。
2023年4月には、「日本通信SIM」の主力プランである「合理的みんなのプラン」を強化し、月額基本料を据え置いたまま、データ通信の基本データ容量を6GBから10GBに増量し、音声通話の国内無料通話分も、70分の無料通話と5分以内の通話かけ放題を選択できるようにすることで、他社の料金プランと比較しやすくしました。
また、2023年5月には、MNPワンストップサービスに対応しました。これは、携帯電話番号を変更せずに携帯電話事業者を乗り換える(これを「MNP」といいます)場合、契約中の携帯電話事業者で手続きを開始する必要があるところ、契約中の携帯電話事業者による解約抑止等によりMNPを断念する事例があることを受け、乗り換え先の携帯電話事業者でMNPの手続きを開始することができるようにしたものです。MNPワンストップサービスには、株式会社NTTドコモ(以下、「NTTドコモ」といいます)、KDDI株式会社/沖縄セルラー電話株式会社、ソフトバンク株式会社、楽天モバイル株式会社及び当社が対応しています。
以上により、「日本通信SIM」の売上は個人・法人ともに契約回線数が順調に伸長し、大手携帯電話事業者や大手MVNOからのMNP転入も増加しています。また、パートナーブランドでの音声通信サービスの契約回線数も順調に伸長しており、結果として、SIM事業は、MVNO事業、イネイブラー事業ともに成長することができました。
② ローカル携帯網による通信(ローカル4G/5G)事業について
ローカル4G/5G事業は、先進的な事例の多い米国で実績を作り、その経験を生かして日本で展開することを目指しており、当社米国子会社は、米国市場で、ローカル携帯網との接続に使用するSIMを提供する事業を進めています。ローカル携帯網と接続するためには、大量かつ高度に専門的なデータをSIMに書き込む必要がありますが、当社は、米国子会社を通じて当該分野における技術及びノウハウを蓄積し、これらを活用することで、パートナー企業や顧客企業が設置するローカル携帯網に接続することのできるSIMを提供しています。当社は、引き続き、日本及び米国で知見を蓄積し、これらを活用して、ローカル4G/5G事業の導入事例を積み上げてまいります。
③ スマートフォンで利用するデジタルID(FPoS)事業について
スマートフォンが広く普及し、アプリをダウンロードして様々な事業者のサービスを利用することができるようになりましたが、同時に、お客様の個人情報を含む様々なデータが、十分な安全性が確保されているかどうかが不明な状態で、サービス提供事業者を含む多くの事業者に保有されている問題が広く認識されるようになっています。一方、グローバル化が加速する中、日本のような成熟社会においては、個人情報を含む情報をデジタル化し、デジタル化したデータを連携することで新たな価値を生み出す取り組みを断念する選択肢はなく、個人情報を含むデータの安全性およびプライバシーを確保できる仕組みが求められています。
この背景のもと、当社は、当社の特許技術であるFPoSを利用してスマートフォンで利用できるデジタルIDを構築し提供する事業を推進しています。FPoSは、電子署名法による認定を受けた電子認証局がお客様のスマートフォン(iPhone及びAndroid)に公開鍵の入った電子証明書を発行し、お客様のスマートフォン内で生成する秘密鍵との組み合わせで、お客様の本人性(本人に間違いないこと)と真正性(本人の意思が改ざんされていないこと)を担保するものです。
インターネットの世界は、現実の世界よりなりすましや改ざんが容易であり、相手が本人に間違いないのか、また、相手から届いた情報が間違いなく本人が送った情報であるのかを確認することができないため、インターネットでの意思表示や取引は、信頼できるものとは言えません。しかしながら、FPoSによって、インターネットを経由する通信に本人性と真正性を担保することができれば、インターネットでの意思表示や取引が信頼できるものとなります。例えば、インターネットバンキングにおいて、銀行は、取引主体が口座名義人本人であること、振込等の取引依頼が口座名義人本人の意思によることが担保された状態で取引を実行することができ、預金者は、他者のなりすましによって口座から資金を移動される危険がなくなります。
インターネット経由の通信に本人性と真正性を担保することは、銀行(インターネットバンキング)のほか、医療、行政、教育、交通等、多くの領域におけるサービス提供者の課題を解決する手段となります。
さらに、当社は、前橋市並びに民間企業及び大学等57者の官民連携会社であるめぶくグラウンド株式会社と提携し、FPoSに「ダイナミック・オプトイン」機能を搭載しました。これは、各事業者に対するお客様の個人情報の提供およびデータ連携の状況をお客様が常時確認することができる機能で、お客様は、例えば、A事業者への個人情報の提供またはA事業者からB事業者に対するデータ連携について、いつでも、許諾すること、許諾しないこと、または許諾を取り消すことができます。「ダイナミック・オプトイン」によれば、自分の個人情報を自分で管理することができ、個人情報を勝手に他者にデータ連携されることがありません。
「ダイナミック・オプトイン」の前提には、データ連携を安全・安心に行える仕組みがあり、これはFPoSの最大の特徴の一つです。一般的に、データ連携においては、固有の番号を割り当ててデータを紐付けています。この方法は、確実である一方、破られた場合のリスクも大きく、データへのアクセスに強固な技術的制約を設ける必要があります。例えば、携帯電話を使用するには、携帯通信網にアクセスする必要がありますが、仮に、IDとパスワード、またはワンタイムパスワードを使用してアクセスすることができると、これらをハッキングすることで、携帯電話事業者と契約することなく、携帯電話を使用することができてしまいます。そのため、携帯電話事業者は、SIMというICチップによって契約者を識別し、SIMが有効でない限り、携帯電話を使用することができないという技術的制約を設けているのです。
個人情報のような重要なデータへのアクセスは、携帯通信網へのアクセスと同様に、強固な技術的制約を設ける必要があり、FPoSはまさにこの役割を担っています。FPoSは、公開鍵が入った電子証明書とスマートフォン内で生成する秘密鍵を正しく組み合わせて使用しなければアクセスできない仕組みにより、お客様の個人情報等のデータの安全を確保しています。また、「ダイナミック・オプトイン」により、お客様による明示的な許諾があった場合のみ、お客様が許諾した事業者との間でデータ連携を行うため、お客様は、スマートフォンのアプリ等に個人情報を提供する場合でも、個人情報の利用を許諾する事業者と許諾しない事業者を確認したうえで、安心して利用することができます。
安全・安心・便利にデータを運ぶことを会社の使命(ミッション)として取り組んでいる当社にとって、まさにFPoSはその中核を担う役割を持つ技術であり、オペレーションなのです。
以上のことから、当社グループの当第1四半期連結累計期間(以下、「当四半期」という)の売上高は1,715百万円となり、前第1四半期連結累計期間(以下、「前年同四半期」という)と比較し、361百万円(26.7%増)の増収となりました。これは、MVNO事業における「日本通信SIM」を主とした音声定額・準定額サービスの成長(前年同四半期対比19.5%増)、及びイネイブラー事業におけるパートナーブランドの音声サービスの成長(前年同四半期対比34.8%増)によるものです。
売上原価は950百万円となり、前年同四半期と比較して183百万円の増加(23.9%増)となりました。これは、主に、「日本通信SIM」の成長に伴う携帯網の調達コストの増加によるものですが、当社がNTTドコモから調達する携帯網は、データ通信及び音声通話のいずれも、能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えた額を超えない額で設定するものとされているため、売上高の増加に比べて売上原価の増加を抑えることができるようになっています。
その結果、売上総利益は764百万円(前年同四半期は586百万円)、販売費及び一般管理費は497百万円(前年同四半期は428百万円)、営業利益は267百万円(前年同四半期は158百万円)となりました。
なお、当四半期において、Quanta Computer Inc.との訴訟の判決が確定し、これに伴い、363百万円の特別利益を計上したことから、親会社株主に帰属する四半期純利益は597百万円(前年同四半期は161百万円)となりました。
各事業の状況は以下のとおりです。
(単位:百万円)
売上高
前年同四半期
当四半期
対前年同四半期
増減額
対前年同四半期
増減率(%)
MVNO事業
713
851
138
19.5
イネイブラー事業
640
863
222
34.8
計
1,353
1,715
361
26.7
セグメント情報における海外事業の売上高26百万円(前年同四半期は41百万円)は、イネイブラー事業に
含まれます。
(2)資産、負債及び純資産の状況
(資産)
当第1四半期連結会計期間末における流動資産は2,277百万円となり、前連結会計年度末に比べ35百万円減少しました。これは主に未収入金が75百万円増加した一方、現金及び預金が66百万円、売掛金が58百万円減少したことによるものです。固定資産は730百万円となり、前連結会計年度末に比べ2百万円増加しました。これは主に投資その他の資産が8百万円減少した一方、無形固定資産が10百万円増加したことによるものです。
この結果、総資産は3,008百万円となり、前連結会計年度末に比べ32百万円減少しました。
(負債)
当第1四半期連結会計期間末における流動負債は808百万円となり、前連結会計年度末に比べ618百万円減少しました。これは主に買掛金が324百万円、買付契約評価引当金が287百万円減少したことによるものです。固定負債は87百万円となり、前連結会計年度末に比べ7百万円増加しました。これは主に長期前受収益が4百万円増加したことによるものです。
この結果、負債は896百万円となり、前連結会計年度末に比べ610百万円減少しました。
(純資産)
当第1四半期連結会計期間末における純資産は2,112百万円となり、前連結会計年度末に比べ577百万円増加しました。これは主に親会社株主に帰属する四半期純利益597百万円を計上したことによるものです。
この結果、自己資本比率は66.3%(前連結会計年度末は46.1%)となりました。
(3)キャッシュ・フローの状況
当第1四半期連結累計期間における現金及び現金同等物の期末残高は1,514百万円となり、前連結会計年度末に比べ66百万円減少しました。
当第1四半期連結累計期間における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりです。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動によるキャッシュ・フローは45百万円の支出(前年同四半期は38百万円の収入)となりました。これは主に、税金等調整前四半期純利益651百万円を計上した一方、買付契約評価引当金戻入額の計上287百万円、仕入債務の減少が324百万円、未収入金の増加が75百万円、未払又は未収消費税等の減少が20百万円あったことによるものです。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動によるキャッシュ・フローは13百万円の支出(前年同四半期は41百万円の支出)となりました。これは主に無形固定資産の取得による支出17百万円によるものです。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動によるキャッシュ・フローは9百万円の支出(前年同四半期はありませんでした)となりました。これは主に新株予約権の買入消却による支出8百万円によるものです。
(4)経営方針・経営戦略等
当第1四半期連結累計期間において、当社グループが定めている経営方針・経営戦略等について重要な変更はありません。
(5)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当第1四半期連結累計期間において、当社グループが定めている経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等について重要な変更はありません。
(6)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当第1四半期連結累計期間において、当社グループが優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題について重要な変更はありません。
(7)研究開発活動
当第1四半期連結累計期間における当社グループ全体の研究開発活動の金額は33百万円です。
なお、当第1四半期連結累計期間において、当社グループの研究開発活動の状況に重要な変更はありません。
#C9424JP #日本通信 #情報通信業セクター