【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
(1)経営成績等の状況の概要
当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。
① 経営成績の状況
当連結会計年度における世界経済は、コロナ禍からの経済活動の再開により景気回復が進んでいる一方、長期化するウクライナ情勢の悪化に伴う地政学リスクの高まり、資源価格の高騰、金利上昇による世界経済の減速が懸念される状況となっております。
当社グループがビジネスを展開する地域を概観すると、グレーターチャイナでは、ゼロコロナ政策撤廃直後の感染急拡大によって主に製造業の操業に影響が生じたものの、その後の感染収束により経済活動並びに景気は回復基調となっています。米州では、インフレの影響による企業のコスト増と、インフレ抑制のための金融引き締めが住宅・設備への投資を抑制させ、景気は緩やかに減速しました。アセアンでは、米国の利上げによる通貨安に伴って輸入物価が上昇するといったマイナス要因はありますが、個人消費が拡大し景気は堅調に推移しています。日本では、原材料やエネルギーコスト上昇分の価格転嫁によるインフレ傾向がみられるものの、内需は拡大し、またコロナ制限の緩和や円安の影響によるインバウンド需要の回復等により、景気は回復基調にあります。
このような状況の下、当連結会計年度の業績は次のとおりとなりました。
(単位:百万円)
前連結会計年度
当連結会計年度
増減額
増減率
(%)
売上高
780,557
912,896
132,339
17.0
売上総利益
139,494
155,410
15,915
11.4
営業利益
35,263
33,371
△1,891
△5.4
経常利益
36,497
32,528
△3,969
△10.9
税金等調整前当期純利益
39,557
33,137
△6,419
△16.2
親会社株主に帰属する
当期純利益
25,939
23,625
△2,314
△8.9
・当連結会計年度の業績は、為替が円安に推移したものの、売上総利益率の低下や販売費及び一般管理費が増加したこと等により営業利益は減益となりました。
・セグメント別では、生活関連セグメントがPrinovaグループの牽引により増益となったほか、機能素材セグメントおよびモビリティセグメントが引き続き好調に推移した一方で、加工材料セグメントおよび電子・エネルギーセグメントは減益となりました。詳細は「② セグメント別の概況」をご覧ください。
・親会社株主に帰属する当期純利益については、営業利益の減少に加え、金利の上昇に伴う支払利息の増加等により、23億円減少の236億円となりました。
セグメント別の業績および主な要因は、次のとおりであります。
機能素材
(単位:百万円)
前連結会計年度
当連結会計年度
増減額
増減率
(%)
売上高
99,874
112,092
12,218
12.2
売上総利益
19,819
22,372
2,552
12.9
営業利益
7,823
8,810
986
12.6
・市況の高騰や円安影響もあり、塗料・ウレタン原料の販売が増加
・加工油剤・樹脂関連の原料販売が増加
・半導体関連等の電子業界向けの原料販売が増加
・営業利益は売上総利益の増加を受け、増益
加工材料
(単位:百万円)
前連結会計年度
当連結会計年度
増減額
増減率
(%)
売上高
257,283
265,024
7,740
3.0
売上総利益
32,313
31,767
△546
△1.7
営業利益
10,858
9,342
△1,515
△14.0
・OA・ゲーム機器業界向け等への樹脂販売は円安による増益影響もあったが、前期の市況高騰による利益率上昇の反動等もあり、収益性が低下
・顔料・添加剤の販売は横ばいだが、工業用・包装材料用途の樹脂の販売は堅調
・導電材料、情報印刷関連材料の販売は減少
・営業利益は販売費及び一般管理費が増加したことにより、減益
電子・エネルギー
(単位:百万円)
前連結会計年度
当連結会計年度
増減額
増減率
(%)
売上高
128,131
136,975
8,844
6.9
売上総利益
29,767
30,770
1,003
3.4
営業利益
10,278
9,273
△1,004
△9.8
・半導体用途向けの材料販売が増加
・ディスプレイ用途のフォトリソ材料等の販売は低調
・変性エポキシ樹脂関連の販売は、半導体用途向けおよびモバイル機器向けが低調
・営業利益は売上総利益が増加したものの、販売費及び一般管理費が増加したことにより、減益
モビリティ
(単位:百万円)
前連結会計年度
当連結会計年度
増減額
増減率
(%)
売上高
103,389
125,560
22,171
21.4
売上総利益
12,718
14,432
1,713
13.5
営業利益
4,131
4,794
662
16.0
・樹脂の販売は自動車生産台数の増加に加え、円安による影響等もあり好調
・内外装・電動化用途の機能素材・機能部品の販売が増加
・営業利益は売上総利益の増加を受け、増益
生活関連
(単位:百万円)
前連結会計年度
当連結会計年度
増減額
増減率
(%)
売上高
191,634
273,161
81,527
42.5
売上総利益
44,757
55,907
11,150
24.9
営業利益
9,429
10,581
1,151
12.2
・Prinovaグループは食品素材の販売が上期特に好調だったこともあり、全体として堅調を維持
・林原はトレハ®等を中心とした食品素材の販売は増加したが、AA2G®等を中心とした香粧品素材は主に海外での需要の減少を受けて販売が減少
・中間体・医薬品原料、香粧品素材の販売が増加
・営業利益は売上総利益の増加を受け、増益
その他
特記すべき事項はありません。
② 財政状態の状況
前連結会計年度
当連結会計年度
増減
増減率
(%)
流動資産(百万円)
514,286
530,132
15,846
3.1
固定資産(百万円)
225,434
232,556
7,121
3.2
総資産(百万円)
739,720
762,688
22,968
3.1
負債(百万円)
384,628
384,300
△327
△0.1
純資産(百万円)
355,092
378,388
23,295
6.6
自己資本比率(%)
46.5
48.2
+1.7ポイント
–
・流動資産は、現預金の減少があったものの、棚卸資産および売掛金の増加等により増加
・固定資産は、投資有価証券の売却等による減少があったものの、有形固定資産および無形固定資産の増加等により増加
・負債は、コマーシャル・ペーパーおよびリース債務等の増加があったものの、買掛金および短期借入金の減少等により減少
・純資産は、その他有価証券評価差額金等の減少があったものの、親会社株主に帰属する当期純利益の計上および為替換算調整勘定の増加等により増加
・以上の結果、自己資本比率は前連結会計年度末の46.5%から48.2%へ1.7ポイント上昇
③ キャッシュ・フローの状況
(単位:百万円)
前連結会計年度
当連結会計年度
営業活動によるキャッシュ・フロー
△17,776
9,414
投資活動によるキャッシュ・フロー
△7,664
△8,031
財務活動によるキャッシュ・フロー
27,282
△17,247
・営業活動による資金の増加額は、運転資本の増加による資金の減少200億円および法人税等の支払額142億円があったものの、税金等調整前当期純利益331億円の計上および減価償却費による資金留保123億円があったこと等によるもの
・投資活動による資金の減少額は、投資有価証券の売却による収入74億円および連結範囲の変更を伴う子会社株式の売却による収入20億円があったものの、有形固定資産の取得による支出120億円および無形固定資産の取得による支出48億円があったこと等によるもの
・財務活動による資金の減少額は、長期借入れによる収入50億円があったものの、長期借入金の返済による支出86億円、配当金の支払額71億円および自己株式の取得による支出56億円があったこと等によるもの
④ 販売の状況
「① 経営成績の状況」および「第5経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(セグメント情報等)」をご参照願います。
(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
① 重要な会計上の見積りおよび当該見積りに用いた仮定
当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されております。この連結財務諸表の作成に際し、資産、負債、収益、費用の報告数値に影響を与える見積りおよび仮定を用いておりますが、見積り特有の不確実性があるため実際の結果は異なる可能性があります。連結財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び仮定のうち、重要なものは以下のとおりであります。
・ 有形固定資産および無形固定資産の減損評価
当社は、のれんを含む有形・無形固定資産の価値が毀損していないかどうかを確認するために、各資産または資産グループの減損兆候の有無を調査した上で、割引前将来キャッシュ・フローに基づき減損損失の認識の判定を行っております。その結果、減損損失の認識が必要と判断された場合には、資産の帳簿価額のうち回収不能部分について減損損失を計上しております。
この減損損失の認識・測定に用いる将来キャッシュ・フローの基礎となる事業計画や使用価値の算定に用いる割引率等は、その性質上会計上の判断や仮定を伴うものでありますが、割引前将来キャッシュ・フローや回収可能価額の下落を引き起こすような事業環境の変化により見積りの見直しが必要になった場合には、追加的な減損損失が発生する可能性があります。
当連結会計年度においては、INTERFACIAL CONSULTANTS LLC(加工材料セグメントに属する連結子会社。以下、IFC)が手掛ける樹脂分野の製品・製造プロセス開発事業に係る事業用資産について減損損失を計上しました。IFCは樹脂等の分野において革新的な技術プラットフォームおよび顧客ニーズに合わせた製品・技術・製造プロセス開発能力を有しており、それらを当社グループに取り込むことを目的として2020年3月に同社を連結子会社化しました。IFCの持分の取得時点における事業計画では、IFCが保有する技術プラットフォームや製品・技術・製造プロセス開発能力を活かした製品の製造・販売による収益の拡大を見込んでいましたが、北米での新型コロナウイルス感染症拡大や、それに伴う半導体の供給不足の影響を受け、2020年および2021年のIFCの経営成績は取得当初の事業計画を下回り継続して営業損失を計上したことから、前連結会計年度において、のれん等を減損しました。
その後、2022年において計画していた一部顧客への販売について計画を下回り、当連結会計年度においても継続して営業損失を計上し、事業計画の見直しを行いました。この結果、将来キャッシュ・フローの見積りの総額が資産グループの帳簿価額を下回ったことから当連結会計年度において事業用資産の減損損失を計上することとなりました。当該減損損失の測定にあたっては、使用価値と正味売却価額を比較した結果、回収可能価額として正味売却価額を用いております。
使用価値(IFCの最新の事業計画を基礎とし、将来の不確実性を加味して見積もった将来キャッシュ・フローの割引現在価値)の算定における主要な仮定は特定の顧客向けの開発活動の進捗と、それに伴う当該顧客向けの製品の販売数量、別の顧客向けの売上高(役務収益含む)であります。正味売却価額については事業用資産の時価等を勘案し、算定しております。
詳細については「第5 経理の状況 1連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記情報(連結損益計算書関連)および (セグメント情報等) 関連情報 報告セグメントごとの固定資産の減損損失に関する情報」をご参照ください。
・ 繰延税金資産の回収可能性の判断
繰延税金資産は、事業計画に基づき納税主体毎の将来の課税所得の見積りを行った上で、将来の税金支払額を軽減する効果が認められる範囲において計上しております。したがって、将来の課税所得が大きく減少するような事業環境の変化が生じた場合には、繰延税金資産を取崩し、当該期間の税金費用を増加させる可能性があります。
・ 退職給付に係る負債および資産の測定
当社グループの従業員に対する確定給付型退職給付制度について、退職給付債務と年金資産の差額を連結貸借対照表上退職給付に係る負債(または資産)に計上しております。退職給付債務は、簡便法を採用している場合を除き、退職率、死亡率、割引率等の基礎率を設定して算定しますが、特に割引率が重要な仮定であります。割引率は安全性の高い債券(一定格付以上の社債)の利回りを基礎として適宜見直しを行っております。なお、当連結会計年度末では0.7%(加重平均値)を設定しています。
年金資産に係る主な仮定は長期期待運用収益率であり、現在および予想される年金資産の配分と、年金資産を構成する多様な資産からの現在および将来期待される長期の収益率を考慮して適宜見直しを行っております。なお、当連結会計年度末では2.0%を設定しております。
この割引率を含む基礎率を見直した場合や、見積りと実績に差額が生じた場合は数理計算上の差異が発生し、主に発生時の翌連結会計年度に全額費用処理しております。従って、多額の数理計算上の差異が発生した場合には、将来の経営成績に影響を及ぼす可能性があります。詳細については「第5 経理の状況 1連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記情報(退職給付関係)」をご参照ください。
② 当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。なお、下記文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。
A)財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容
当社グループの当連結会計年度の経営成績等につきましては、Prinovaグループの食品素材販売が第1四半期は非常に好調に推移し、第2四半期以降は需給の調整も見られましたが通年として好調を維持しました。他方でウクライナ情勢の悪化に伴う資源価格の高騰やサプライチェーンの混乱が、原材料価格とユーティリティコストの高騰およびサプライチェーン上での在庫調整を受けた需要減少という形で主要製造業の業績に通年に亘り影響を与えました。また第3四半期以降においては、経済活動制限の緩和に伴う経費執行が増加したことに加え、グレーターチャイナにおける上海ロックダウンの影響により樹脂ビジネスが低調に推移したこと等から、通期では全体としては当初想定していた業績を下回る結果となりました。詳細については、「(1)経営成績等の状況の概況 ①経営成績の状況 ②財政状態の状況 ③キャッシュ・フローの状況 ④販売の状況」をご参照ください。
事業ポートフォリオの観点では、中期経営計画ACE 2.0での注力領域であるフード関連ビジネスでは、前年度設立したPrinovaグループにおけるスポーツニュートリションの受託製造を行う米国・ユタ州の新工場が稼働致しました。食品素材販売のオーガニック成長に加えて更なる飛躍のための体制強化を進めております。同じくACE 2.0の注力領域であるバイオ関連事業においては、新規素材の開発および事業創出に向けて、2023年4月に林原㈱とナガセケムテックス㈱の発酵・酵素事業を統合し、グループ全体のバイオイノベーション創出を推進する体制構築を進めております。更に、収益構造の変革に向けて一部の不採算および低効率事業からの撤退を実施しポートフォリオの改善を進めました。
また、前年度から引き続き政策保有株式の売却を実施し、特別利益を計上しております。なお、ここから得られた資金は将来に向けた成長投資や株主還元等に効果的・効率的に活用してまいります。
成長投資の観点では、デジタルトランスフォーメーション(DX)・先端技術関連投資・研究開発関連投資等、中長期的な成長に向けた新しいビジネスモデルの構築に必要な投資を継続しております。
B)当社グループの経営成績等に重要な影響を与える要因
「3.事業等のリスク」をご参照ください。
C)キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に関する情報
当社グループの当連結会計年度のキャッシュ・フローの分析につきましては、「第3 事業の状況 3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績の状況 ③キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりであります。
当社グループの資本の財源及び資金の流動性につきましては、以下のとおりであります。
当社グループの資金需要は商品の仕入、製造費、販売費、研究開発などの一般管理費、設備投資、デジタルマーケティングなどへの新規成長投資、M&Aによる株式や営業権取得が主なものです。持続的成長の実現に向け、これらの資金需要に対応するための安定的かつ機動的な資金の確保は重要な戦略と考えています。
資本の財源としましては、営業活動によるキャッシュ・フローに加え、資金調達手段として金融機関からの借入の実施、社債ならびにコマーシャル・ペーパーの機動的な発行による資本市場からの調達など、多様化を図りながらバランスの良い調達を実施しております。
また、金融・資本市場における不測の事態や急な資金需要が発生した場合に備え、複数の金融機関と長期・短期のコミットメントライン契約を締結し流動性を確保しております。
当社グループの資金管理については日本国内における当社と国内子会社間においては日本円、中国国内の現地法人間においては人民元および米ドル、また米国と一部アジア地区およびメキシコにおける現地法人間においては米ドルのキャッシュ・マネジメント・システムを導入しており、資金の効率化を図ることで、流動性確保と金融費用の削減に努めております。
本報告書提出時点における格付けについては、株式会社格付投資情報センター(R&I)から発行体格付と長期債格付ともに「A」(シングルAフラット)を、短期格付で「a-1」(aワン)を取得しており、また取引先金融機関とは良好な関係を維持しております。
現状の資金調達および資金繰りに問題はないと認識しておりますが、ロシア・ウクライナ情勢等の地政学リスクの高まりにより当社グループのビジネスに影響が及ぶ場合は、手元流動性を厚めに保有するなどの手段を講じる場合があります。
D)経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等の達成・進捗状況について
中期経営計画 ACE 2.0における重要指標は以下のとおりです。
当社グループでは資本効率性の向上と収益力の拡大を課題としており、ROEおよび営業利益をKGI(Key Goal Indicator)として掲げております。ACE 2.0の二年目にあたる当年度は、主要製造業の減益、経済活動制限の緩和・正常化に伴う販売費及び一般管理費の増加等により営業利益は333億円と前年割れの水準となりました。ACE 2.0の資本効率性を意識した基本方針に基づいて株主還元を進めたものの、減益の影響を受けROEは6.6%と前年より低下しました。また、計画の前提となった内外環境が一定程度以上に変化していることから、ACE 2.0の骨子である“質の追求”と基本方針は踏襲しつつも、KGIおよびKPIの目標値を含めた部分的見直しを現在進めております。
なお、ACE 2.0の基本方針および取り組み状況については、「1.経営方針、経営環境及び対処すべき課題等(2)中期経営計画 ACE 2.0」をご参照ください。