【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
文中の将来に関する事項は、当四半期連結会計期間の末日現在において判断したものであります。
(1) 財政状態及び経営成績の状況
当社の中核事業領域であるiPS細胞は、山中伸弥教授によるヒトiPS細胞の発明以降、世界中で研究が盛んに行われております。
最近では、iPS細胞を活用した病態解明や再生医療への応用など、実用的な研究開発が多く行われるようになりました。2017年には、希少難病の患者から作製したiPS細胞を活用して病態を解明し、新薬候補の治験へつなげた事例が報告され、さらに、再生医療に関しても、iPS細胞を使った加齢黄斑変性、パーキンソン病、虚血性心筋症、脊髄損傷等の臨床研究及び治験が進められております。
当社では、前者のようにiPS細胞を病態解明や創薬研究に使用する事業を「研究支援事業」、後者の再生医療を「メディカル事業」と位置付け、二つのセグメントに分け、推進しております。
研究支援事業では、大学/公的研究機関及び製薬企業等を顧客として、研究試薬や細胞などの研究用製品、iPS細胞作製受託などの研究サービス、及び細胞測定機器を提供しております。研究用途であるため、医薬品のような製造販売承認は必要とされず、新しい技術を比較的短期間で事業化し収益を上げることができる特長があり、前年度は、研究支援事業の売上が全体の約60%となっております。当社では、iPS細胞を中心とした幅広い「ヒト細胞ビジネスプラットフォーム」を保有しており、競争優位性の高い製品やサービスを世界中で展開し、短中期の収益の柱として推進しております。
一方、メディカル事業では、現在、脊髄小脳変性症を対象とした再生医療製品ステムカイマル及び筋萎縮性側索硬化症(ALS)及び横断性脊髄炎を対象としたiPS神経グリア細胞の研究開発を進めております。ステムカイマルの国内第II相臨床試験では、2020年2月に第1例目の被験者への投与を開始し、2022年5月に観察期間も含め全て終了しております。現在、データ解析及び評価を行っており、今後、承認申請に向けた準備を進めてまいります。さらに、再生医療事業として、安全性の高い臨床用iPS細胞の受託作製サービスを実施しており、製薬企業向けに「GMP-iPS細胞マスターセルバンク」、個人向けに「パーソナルiPS」を提供しております。
再生医療に関しては、上市までに臨床試験を行い製造販売承認を取得する必要があるため、研究支援事業より事業化に時間が必要とされますが、日本では2014年の法改正により、世界で最も再生医療の産業化に適した環境が整いつつあります。「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(通称 薬機法)」では、治験において安全性が確認され、有効性が推定された再生医療等製品に対して早期承認(条件・期限付き承認)を与えることが可能になりました。これにより、患者様に対して新たな治療機会を早期に提供するとともに、治験期間の短縮や治験費用の削減が期待できます。
また、経済産業省の報告書(「平成29年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備「根本治療の実現」に向けた適切な支援のあり方の調査」)によると、再生医療産業のグローバルでの市場規模は2030年で約5~10兆円となっており、今後、巨大市場に成長することが見込まれています。
このように、再生医療を中長期的な成長事業と位置付け、早期の製造販売承認の取得を目指します。
さらに、メディカル事業では、臨床検査受託サービスにも力を入れており、日本では、新型コロナウイルスPCR検査及び臓器移植にかかわるHLA関連検査、インドでは、がんのコンパニオン診断サービスを中心に実施しております。今後とも新たな検査項目を追加し、事業を拡大してまいります。
短中期的な収益の柱である「研究支援事業」と、中長期的な成長事業である「メディカル事業」の両方を組み合わせることで、短期→中期→長期と、連続的な成長を目指します。
2020年に始まった新型コロナウイルスの感染拡大は、世界各国で続いておりますが、一方、「ウィズコロナ」に向けて行動制限措置の緩和も進んでおります。ただし、今後、新たな変異株の出現等、不透明な状況が継続する可能性があります。
この結果、当第2四半期連結累計期間の経営成績は、売上高1,576百万円(前年同四半期比59.4%増)、営業損失90百万円(前年同四半期359百万円の損失)、経常利益70百万円(前年同四半期201百万円の損失)、親会社株主に帰属する四半期純利益68百万円(前年同四半期201百万円の損失)となりました。
セグメント別の経営成績を示すと、次のとおりであります。
a.研究支援事業
研究支援事業では、大学/公的研究機関及び製薬企業等の研究所を顧客として、研究試薬や細胞などの研究用製品及びiPS細胞作製受託などの研究サービスを提供しております。最先端技術を集約した製品・サービスを上記研究機関に提供することで、画期的な新薬や治療法の開発に貢献してまいります。現在、世界中の製薬企業では、動物愛護の観点や、ヒトと動物の種の違いによる試験結果の差といった問題点などから「動物実験からヒト細胞実験」への大きなシフトが進んでいます。今後、ヒト細胞実験が普及することで、これまで十数年かかっていた新薬開発のプロセスが大幅に短縮され、さらに、従来と比べて性能の高い新薬が開発できることが期待されています。中でもヒトiPS細胞はその中心的存在として注目を集めており、例えば、アルツハイマー病患者から作製したiPS細胞を研究で使うことで、アルツハイマー病の病態解明及び新薬開発が加速されると期待されています。
当社グループでは、RNAリプログラミング技術及び各種細胞への分化誘導技術など、ヒトiPS細胞に関する世界最先端の技術プラットフォームを保有しており、さらに、がん細胞やヒト組織を医療機関から調達する幅広いネットワークも保有しております。これら技術優位性の高い「ヒト細胞ビジネスプラットフォーム」を最大限活用することで、上記の「動物実験からヒト細胞実験」へのシフトを先取りした事業を進めております。具体的には、iPS細胞研究用の研究試薬製品、患者の組織からiPS細胞を作製する病態モデル細胞の作製、ヒト組織を用いた新薬の薬効薬理試験サービス、ヒト生体試料のバンキングなどがあります。
さらに、上記の研究用製品及び研究サービスに加え、Axion BioSystems社(米国)の細胞測定機器、及びBlacktrace Holdings社(英国)のシングルセル解析機器などの研究機器の販売を行っております。これらの機器は、当社のiPS細胞及び疾患モデル細胞を創薬スクリーニングに応用するためのものであり、細胞と機器を一元化して販売することで、総合的なソリューションを顧客に提供しております。
新型コロナウイルス治療薬や抗がん剤など様々な医薬品の研究開発が世界中の製薬企業で進められておりますが、患者から採取した生体試料(血液、がん組織等)は、その重要な研究材料として使用されています。当社の米国子会社では、大規模な生体試料バンクを保有しており、これらの生体試料を世界中の製薬企業に提供しております。
この結果、売上高は902百万円(前年同四半期比45.5%増)、セグメント利益は134百万円(前年同四半期比86.2%増)となりました。
b.メディカル事業
再生医療分野においては、ヒト体性幹細胞やヒトiPS細胞の臨床応用を目指した研究が世界中で盛んに行われており、将来、再生医療製品がグローバルで巨大産業に成長することが見込まれています。
特にiPS細胞は、体の様々な細胞に分化させる事が可能であることから、有効な治療法のない難病に対する臨床応用に大きな期待が寄せられています。iPS細胞を医療に応用する場合の最大の技術課題は安全性の確保ですが、当社では、遺伝子変異リスクを最小化し、外来遺伝子やウイルス残存リスクの低い、高品質で臨床応用に適したiPS細胞を作製するRNAリプログラミング技術を開発・保有しております。RNAリプログラミングの技術優位性を活かし、iPS細胞の早期の臨床応用を目指しております。
メディカル事業では以下の事業を推進しております。
(a) 体性幹細胞製品ステムカイマル
ヒト細胞加工製品ステムカイマルは台湾のSteminent Biotherapeutics Inc.(以下、ステミネント社)が開発した再生医療製品であり、当社は脊髄小脳変性症を対象とした日本における独占的商業ライセンス契約を締結しております。
脊髄小脳変性症は、小脳や脳幹、脊髄の神経細胞が変性してしまうことにより、徐々に歩行障害や嚥下障害などの運動失調が現れ、日常の生活が不自由となってしまう原因不明の希少疾患です。ステムカイマルの投与により、症状の進行を抑制する効果が期待されています。ステムカイマルは、腕の血管から静脈注射(点滴)で投与するため、侵襲性が低い治療法になります。
日本国内の第II相臨床試験においては、2020年2月には、国立学校法人名古屋大学において、第1例目の被験者への投与を開始し、2021年5月に全被験者への投与が完了し、さらに、2022年5月には全被験者の観察期間が終了いたしました。
本治験では、「多施設共同、プラセボ対照、ランダム化、二重盲検、並行群間比較」という非常にエビデンスレベルの高いデザインにおいて安全性と有効性について評価を行っており、早期の製造販売承認の取得を目指しております。現在、データ解析・評価を実施しており、今後、承認申請に向けた準備を進めてまいります。
台湾では、ステミネント社が第II相臨床試験を完了しており、これまでに重篤な安全性の問題は見られていないことが確認されています。米国でも、ステムカイマルの治験計画届(IND)がFDAの承認を得ております。
また、日本では、2018年12月に厚生労働省による大臣承認を経て、希少疾病用再生医療等製品として指定されており、開発に係る経費の助成金(最大50%)、優遇税制措置、及び優先審査等の支援措置を受けることができるようになっております。
当社では、病気と闘っている患者様へ少しでも早く新しい治療法が届けられるよう、本プロジェクトを積極的に推進してまいります。
(b) iPS神経グリア細胞製品
iPS細胞から神経グリア細胞を作製し、各種神経変性疾患に対するiPS細胞再生医療製品として研究開発を行っております。本プロジェクトを加速させるため、2018年4月に、米国Q Therapeutics Inc.(キューセラピューティクス、以下、Qセラ社)との間で合弁会社「株式会社MAGiQセラピューティクス」を設立いたしました。Qセラ社は中枢神経系の再生医療に特化したベンチャー企業であり、Qセラ社の創業者である、Mahendra Rao博士はアメリカ国立衛生研究所(NIH)再生医療センターの初代ディレクターも務めた、神経幹細胞の世界的に著名な研究者です。合弁会社では、当社のiPS細胞技術とQセラ社の中枢神経系の技術を組み合わせることで、iPS神経グリア細胞の開発を加速しております。
現在、iPS神経グリア細胞を用いた前臨床試験(動物実験)を公益財団法人実験動物中央研究所と実施しております。また、iPS神経グリア細胞の製造のため「殿町・リプロセル再生医療センター」(神奈川県ライフイノベーションセンター内)の整備を進め、2021年3月に厚生労働省関東信越厚生局より再生医療等の安全性の確保等に関する法律に基づき「特定細胞加工物製造許可」(施設番号:FA3200006)を取得しております。
(c) 臨床用iPS細胞(GMP-iPS細胞マスターセルバンク、パーソナルiPS)
iPS細胞による再生医療の研究開発は世界中で精力的に行われており、日本でも、加齢黄斑変性、パーキンソン病、虚血性心筋症、脊髄損傷等の臨床研究及び治験が進められています。再生医療に用いるiPS細胞には高い安全性と品質、さらに各国の医療ガイドラインに準じることが必要とされます。
安全性の高いiPS細胞を作製するためには、iPS細胞を作るプロセスである「リプログラミング」が重要になります。リプログラミング技術は様々報告されていますが、当社では遺伝子変異リスクを最小化し、外来遺伝子やウイルス残存リスクの低い最先端のRNAリプログラミング技術を開発・保有しております。本技術を利用することで、臨床応用に最適なiPS細胞を作製することができます。製薬企業向けとして、「GMP-iPS細胞マスターセルバンク」、個人向けとして「パーソナルiPS」の二つを提供しております。
「GMP-iPS細胞マスターセルバンク」では、医薬品製造の規制であるGMP(Good Manufacturing Practice)に準拠してiPS細胞を大量製造し、再生医療製品の出発材料として製薬企業等に提供します。当社のiPS細胞は、日米欧の3極の規制に準拠しているため、日米欧で幅広く使用できることが強みになります。
「パーソナルiPS」は、将来の疾患に備え、個人のiPS細胞を作製し保管するサービスです。個人のiPS細胞をあらかじめ作製することで、治療までの期間を短縮でき、さらに免疫拒絶のリスクを最小化した移植治療を実現します。2022年2月、販路拡大のため、関西電力株式会社が運営するECモールサイト「かんでん暮らしモール」に出店いたしました。今後とも積極的に事業を推進してまいります。
(d) 臨床検査受託サービス
2005年に衛生検査所として登録して以来、臓器移植にかかわるHLAタイピング及び抗HLA抗体検査等の臨床検査を実施しており、これまで全国300以上の医療機関との取引実績があります。
これらの実績及びノウハウを活かし、2021年3月に、新型コロナウイルスPCR検査を新たに開始いたしました。当社のPCR検査は、陽性・陰性の判定に加え、オミクロンBA.5などの変異株を1~2時間程度の短時間で特定できることを特徴としています。通常、変異株の特定にはゲノム解析が用いられており、2日間程度を要しますが、当社の検査では変異株の特定までの時間を圧倒的に短縮できます。現在、医療機関、法人、個人を対象として本検査を拡大しており、日本調剤株式会社との業務提携によって、同社が展開する全国の「健康チェックステーション」でも販売を行っております。さらに、大手ECサイトであるAmazonや楽天市場でも販売を進めております。今後とも、更なる販路の拡大に努めてまいります。
この結果、売上高は674百万円(前年同四半期比82.9%増)、セグメント利益は221百万円(前年同四半期22百万円の損失)となりました。
なお、管理部門にかかる費用など各事業セグメントに配分していない全社費用が286百万円(前年同四半期250百万円)あります。
また、当社グループの財政状態は次のとおりであります。
(資産の部)
当第2四半期連結会計期間末における流動資産は前連結会計年度末に比べて1,211百万円増加し、6,590百万円となりました。これは主に、有価証券が953百万円増加したこと、売掛金が154百万円増加したことなどによります。固定資産は前連結会計年度末に比べて462百万円減少し、2,253百万円となりました。これは主に、投資有価証券が518百万円減少したことなどによります。
(負債の部)
当第2四半期連結会計期間末における流動負債は前連結会計年度末に比べて119百万円増加し、946百万円となりました。これは主に、契約負債が143百万円増加したことなどによります。固定負債は前連結会計年度末に比べて6百万円増加し、23百万円となりました。これは主に、繰延税金負債が6百万円増加したことなどによります。
(純資産の部)
当第2四半期連結会計期間末における純資産は前連結会計年度末に比べて623百万円増加し、7,873百万円となりました。これは主に、新株予約権の行使により、資本金及び資本準備金がそれぞれ284百万円増加したこと、親会社株主に帰属する四半期純利益68百万円を計上したこと等によるものです。
(2) キャッシュ・フローの状況
当第2四半期連結累計期間における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、前連結会計年度末に比べて26百万円増加し、2,663百万円となりました。
当第2四半期連結累計期間における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
当第2四半期連結累計期間において営業活動の結果獲得した資金は60百万円(前年同四半期は140百万円の使用)
となりました。これは主に、税金等調整前四半期純利益70百万円によるものであります。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
当第2四半期連結累計期間において投資活動の結果使用した資金は540百万円(前年同四半期は978百万円の獲得)
となりました。これは主に、投資有価証券の取得による支出500百万円があったことによるものであります。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
当第2四半期連結累計期間において財務活動の結果獲得した資金は484百万円(前年同四半期は686百万円の獲得)
となりました。これは主に、新株予約権の行使による株式の発行による収入564百万円があったことによるものであ
ります。
(3) 経営方針・経営戦略等
当第2四半期連結累計期間において、当社グループが定めている経営方針・経営戦略等について重要な変更はあり
ません。
(4) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当第2四半期連結累計期間において、当社グループの優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題に重要な変更は
ありません。
(5) 研究開発活動
当第2四半期連結累計期間における研究開発活動の金額は、209百万円であります。
なお、当第2四半期連結累計期間において、当社グループの研究開発活動の状況に重要な変更はありません。