【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
文中の将来に関する事項は、当四半期連結会計期間の末日現在において当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)が判断したものであります。
(1) 財政状態の状況当第3四半期連結会計期間末の総資産は、営業債権及びその他の債権の増加などにより前連結会計年度末に比べて968億8百万円増加し、1兆1,188億3千9百万円となりました。負債は、社債及び借入金の増加などにより前連結会計年度末に比べて730億4千5百万円増加し、6,752億2千万円となりました。資本は、親会社の所有者に帰属する四半期利益の積み上げ及びその他の資本の構成要素の増加などにより前連結会計年度末に比べて237億6千2百万円増加し、4,436億1千9百万円となりました。なお、1株当たり親会社所有者帰属持分は前連結会計年度の1,744.42円から1,841.93円に増加し、親会社所有者帰属持分比率は前連結会計年度の38.7%から37.4%となりました。
(2) 経営成績の状況当第3四半期連結累計期間の我が国経済は、コロナ禍からの社会経済活動の正常化が進んだことから、個人消費が持ち直したことに加え、社会のデジタル化や脱炭素化に関連する設備投資が増加するなど、緩やかな回復基調で推移しました。一方で、エネルギー価格の高騰や為替の変動に伴う物価上昇が、実体経済へ大きな影響を及ぼしており、足下の景気回復の動きは急速に鈍化しました。また、インフレ抑制を目的とした諸外国の利上げに伴い、世界経済の減速感は一段と強まっており、今後の先行きは極めて不透明な状況が続いております。このような経営環境の下、当社グループは、「地球環境」と「ウェルネス(健やかな暮らし)」という2つの成長軸に沿って事業活動を通じた社会課題の解決に貢献し、持続的な成長と企業価値の向上を目指す2030年に向けた長期ビジョン「terrAWell(テラウェル)30」を定めるとともに、2024年度までの3ヵ年を実行期間とする中期経営計画「terrAWell30 1st stage」を策定しました。この基本方針と経営戦略に基づき、当社グループの経営資源である「多様な事業、人材、技術」から創出されるシナジーの最大化を図るため、「ユニット制」を軸とした当社本社組織とグループ会社群が一体となった経営体制を構築し、成長領域の拡大とともに収益力の強化や新事業育成を図っております。当第3四半期連結累計期間においては、成長領域と位置付けているエレクトロニクス関連事業とインドをはじめとした産業ガス供給事業が、積極的な設備投資を通じて供給インフラを拡充することで旺盛な需要を取り込み、順調に拡大いたしました。また、コロナ禍における事業環境の変化に対応し、グループシナジーを高めた「ヘルス&セーフティー」が総じて順調に推移し、全社業績を牽引しました。一方、エネルギーや原材料価格が一段と高騰し、今後もさらなるコスト上昇が見込まれる中、当社グループは、コスト上昇に対応した収益改善を最優先課題とし、生産・物流面の効率化をはじめとしたコスト削減を推し進めました。同時に、自助努力で補いきれないコスト上昇分について、徹底した価格是正に取り組んだことにより、販売価格が上昇したことなどから、すべての事業セグメントで増収となりました。しかしながら、電力事業において、発電燃料となる木質バイオマスや石炭の価格に加え、海上輸送をはじめとした、その調達に係るコストが急激に上昇しました。FIT(再生可能エネルギーの固定価格買取)制度により電力の販売価格が固定化されている事業構造であるため、コスト上昇分を価格転嫁できず、その影響を大きく受けることとなりました。また、一部の事業分野において価格是正が適用されるまでの期間影響が残ったほか、「エネルギーソリューション」において炭酸ガスの原料不足による影響などがありました。
以上の結果、当第3四半期連結累計期間における当社グループの売上収益は7,247億6千9百万円(前年同期比112.0%)、営業利益は414億2千9百万円(同83.6%)、親会社の所有者に帰属する四半期利益は、264億9千2百万円(同82.4%)となりました。
各セグメントの概況は次のとおりであります。当社は、将来にわたり持続的な企業成長を果たすため、気候変動や超高齢化の進展など今後の世界的な社会課題を踏まえ、「地球環境」と「ウェルネス」の2つの成長軸を設定するとともに、2022年4月、この2つの成長軸に沿って、当社グループの多様な事業領域を4つの事業グループに再編する組織改革を実施しました。これに伴い、第1四半期連結会計期間より、報告セグメントを従来の「産業ガス関連事業」「ケミカル関連事業」「医療関連事業」「エネルギー関連事業」「農業・食品関連事業」「物流関連事業」「海水関連事業」「その他の事業」の8区分から「デジタル&インダストリー」「エネルギーソリューション」「ヘルス&セーフティー」「アグリ&フーズ」「その他の事業」の5区分に見直しました。また、事業環境の変化が激しい木質バイオマスによる電力事業について事業推進の最適化を図るため、マネジメント体制を変更しました。これに伴い、当第3四半期連結会計期間より、従来「エネルギーソリューション」に区分していた木質バイオマスによる電力事業を「その他の事業」に移しました。なお、前第3四半期連結累計期間のセグメント情報は、変更後の報告セグメントの区分に基づき作成したものを開示しております。
<デジタル&インダストリー>当セグメントの売上収益は2,479億9千万円(前年同期比117.7%)、営業利益は200億1千3百万円(同97.8%)となりました。事業全体では、第3四半期以降、減速感はあるものの、半導体製造関連向けの機器・材料等の販売が好調に推移するとともに、インドでの産業ガス供給事業が順調に推移し、業績を牽引しました。一方、電力料金等の上昇に対して、徹底的な価格是正に取り組みましたが、その価格が適用されるまでの期間影響が一部に残りました。
エレクトロニクス事業は、大手半導体メーカー向けのオンサイトガス供給が順調に推移しました。また、第3四半期以降、減速感はあるものの、半導体製造関連向けの特殊ケミカル材料やその供給機器、周辺領域であるガス精製装置や半導体製造装置向け熱制御機器の販売が総じて好調に推移しました。さらに、情報電子材料分野でも半導体材料や電子部品の販売が国内外ともに好調に推移しました。機能材料事業は、第3四半期以降、半導体サプライチェーンにおいて在庫調整の動きが進んだことにより、精密研磨パッドや電子材料などの需要が減少した影響を受けましたが、受注残を抱えていた半導体製造装置向けのOリング(シール材)や産業用ロボット向け高機能回路製品の販売は一定水準を維持しました。また、石化市況に連動する基礎化学品の価格上昇が増収に寄与するとともに、利益面では、食品向け日持ち向上剤や透析液の原料である酢酸ナトリウムや、電磁鋼板用マグネシアなどの高シェア製品の販売が増加したことが下支えし、事業全体では堅調に推移しました。インダストリアルガス事業は、半導体不足を背景とする自動車生産の回復遅れや、鋼材需要の減少などの影響を受け、ガスの販売数量は前年同期をわずかに下回りました。また、各種ガスの製造コストの過半を占める電力料金の上昇が続いたため、これを転嫁するための価格是正を実施したことにより売上収益が増加しました。しかしながら、利益面では、価格是正が適用されるまでの期間影響が一部に残りました。海外・エンジニアリング事業は、インドにおいて、鉄鋼向けオンサイトガス供給が旺盛な粗鋼生産に連動し高稼働を継続したほか、プラント操業の効率化に取り組み、順調に推移しました。また、ローリー・シリンダーによるガス供給においても自動車向けなどの需要が高まり、販売数量が増加しました。
<エネルギーソリューション>当セグメントの売上収益は630億4千3百万円(前年同期比109.5%)、営業利益は35億2千3百万円(同79.7%)となりました。事業全体では、輸入価格に連動してLPガスの販売単価が上昇したことにより増収となったものの、炭酸ガス供給分野において原料ガスの不足等による影響を受け、大幅な減益となりました。
エネルギー事業は、LPガス供給において、輸入価格に連動し販売単価が上昇したことで増収となりました。また、LPWA(低消費電力広域無線通信)の導入などによる配送効率化を進めるとともに、積極的な商権買収を実施し、顧客基盤の拡充と直販比率の向上を図りました。一方、家庭用LPガスの販売数量は、設備費等のコスト増加に対する価格是正を実施しましたが、巣ごもり需要の減少に加え、価格上昇による使い控えの影響から前年同期を下回りました。資源循環事業は、炭酸ガス供給において、原料ガスの不足等による影響から、夏場の需要期にドライアイスの販売が減少し、前年同期を大きく下回る状況となりました。一方、水素ガスは、半導体・非鉄業界向けのオンサイト供給を中心に順調に推移しました。また、小型CO2回収装置「ReCO2
STATION」やLNG代替燃料として利用可能な「液化バイオメタン」を開発し、CO2回収・利活用や新エネルギーのビジネスモデル構築を進めました。
<ヘルス&セーフティー>当セグメントの売上収益は1,689億5千4百万円(前年同期比107.8%)、営業利益は97億円(同113.8%)となりました。 事業全体では、「ウィズコロナ」への政策移行を踏まえ、医療提供体制の安定化に寄与する製品やサービスの提案に注力した結果、自宅療養者に対する酸素濃縮装置の提供、病院設備のリニューアル工事、SPD(病院物品物流管理)による病院経営の効率化といった需要を着実に取り込みました。また、生活者により近い事業を展開する在宅医療や歯科分野に加え、衛生材料をはじめとした「コンシューマーヘルス」分野が伸長し、総じて順調に推移しました。
メディカルプロダクツ事業は、医療ガス分野において、各種製品の価格是正を実施したことに加え、医療用酸素や心臓カテーテル治療での需要増を背景に亜酸化窒素の販売数量が増加しました。在宅医療事業は、酸素濃縮装置の自治体向けリース契約が継続したほか、病院向けのレンタル数が増加しました。医療機器分野は、一酸化窒素吸入療法の症例数が増加し、順調に推移しました。歯科分野は、2022年4月よりCAD/CAM冠用材料が虫歯治療のインレー(詰め物)として保険適用が開始されたことにより、順調に推移しました。防災事業は、病院設備工事分野において、院内感染対策の高まりを背景としたリニューアル工事が増加したことに加え、コロナ禍で延期されていた設備等の保守点検業務が回復しました。シンガポールの病院設備工事は、行動制限の緩和により工事の進捗が改善し、堅調に推移しました。消火設備分野は、発電設備やデータセンター向けの需要が拡大し、順調に推移しました。サービス事業は、病院の経営効率を高める施策の提案を通じて、新規顧客の獲得に取り組んだ結果、医薬品SPD等の新規案件を獲得したことで順調に推移しました。また、受託滅菌サービスは、受託件数の増加と収益性の改善が進みました。コンシューマーヘルス事業は、注射針分野において、ワクチン接種用注射針に加え、海外向けのデンタル針や美容針の販売が回復したことにより、順調に推移しました。衛生材料分野は、マスクや手指消毒剤など感染対策製品の販売が堅調に推移するとともに、子会社の川本産業㈱においてM&Aに伴う、負ののれん発生益の計上がありました。エアゾール分野は、UVカットスプレーや化粧品の製造受託が増加傾向にあるものの、原材料コストの上昇による影響が一部に残りました。
<アグリ&フーズ>当セグメントの売上収益は1,154億8千6百万円(前年同期比106.9%)、営業利益は52億2千1百万円(同90.2%)となりました。事業全体では、ハム・デリカ製品の販路拡大や業務用食品需要の回復に加え、原材料・エネルギーコストの高騰に対応した価格是正が進展しましたが、その一方で、物価上昇による消費者マインドの低下により、スイーツや青果小売分野の販売が低調に推移しました。また、前年度に実施したM&Aによる新規連結効果が寄与しましたが、営業利益の前年対比においては、土地売却益を前年同期に計上した影響がありました。
フーズ事業は、ハム・デリカ分野において、ホテルや外食向けなどの業務用需要が回復したことに加え、新たな販路開拓と新商品の投入により市販用のハム・デリカ製品や家庭用冷凍食品の販売も順調に推移しました。一方、スイーツ分野は、物価上昇による消費マインドの冷え込みを受けて、主力のコンビニエンスストア向けを中心に販売が低調に推移しました。野菜・果実系飲料などの受託製造を行うナチュラルフーズ事業は、前年同期に好調だった野菜系飲料の需要減少と工場動力にかかるエネルギーコストが増加した影響を受けました。アグリ事業は、2021年11月より新規連結した㈱プラスが関西地区で展開する農産物直売事業が好調に推移しましたが、青果卸・加工分野において、北海道における農産物の一部が不作だった影響を受けたほか、百貨店等で店舗展開する青果小売分野においても、野菜・果物ともに高値相場で推移した影響から販売が伸び悩みました。
<その他の事業>当セグメントの売上収益は1,292億9千4百万円(前年同期比113.5%)、営業利益は12億3千6百万円(同16.5%)となりました。
物流事業は、自社物流ネットワークの拡充により、主に北海道と東日本を結ぶ幹線輸送の荷扱量が増加しました。食品物流を中心とする3PL事業は、スーパーマーケット向けの荷扱量が増加するとともに、受託料金の適正化に取り組みました。トラック・ボディの設計・架装を行う車体事業が車両の納入遅れによる影響を受けましたが、産業・医療系廃棄物の収集運搬において取扱量が増加したことで、その影響を補い、事業全体としては順調に推移しました。㈱日本海水は、製塩工程におけるボイラー燃料として使用している石炭やLNGの価格高騰に対し、業務用塩を中心に二度にわたる価格是正を実施した結果、売上収益が拡大するとともに、利益面でもその影響を最小限に留めました。しかしながら、FIT制度を利用した電力分野において、発電燃料であるPKS(パーム椰子殻)の海上輸送コストなどが高騰した影響を受け、厳しい状況となりました。北米産業ガス事業は、脱炭素関連需要の高まりを受けて、液化水素タンクなどの受注が堅調に推移したものの、部材の調達遅れなどによる影響から生産の停滞が発生し、厳しい状況となりました。高出力UPS(無停電電源装置)事業は、欧米では、顧客の投資計画延期により大型プロジェクトの完工が少なかったことや、資材価格の上昇などによる影響を受けましたが、東南アジアでは、行動制限の緩和により工事案件の進捗遅れが改善したことで、回復基調で推移しました。電力事業は、発電燃料であるPKSや石炭の価格及び海上輸送コストの高騰が続いたことに加え、荷揚げ港湾施設の混雑に起因する滞船コストの発生や設備トラブルによる影響を大きく受けました。そのような中、木質バイオマスを発電燃料とした電力の販売価格がFIT制度により固定化されているため、非常に厳しい状況となりました。
(3) キャッシュ・フローの状況の分析当第3四半期連結累計期間の営業活動によるキャッシュ・フローは、税引前四半期利益及び減価償却費などから法人所得税の支払などを差し引いた結果、前第3四半期連結累計期間に比べ106億5千5百万円減少し、359億5千9百万円の収入となりました。当第3四半期連結累計期間の投資活動によるキャッシュ・フローは、有形固定資産の取得による支出が増加したことなどにより、前第3四半期連結累計期間に比べ185億3千4百万円支出額が増加し、546億6百万円の支出となりました。当第3四半期連結累計期間の財務活動によるキャッシュ・フローは、借入れによる収入が増加したことなどにより、前第3四半期連結累計期間に比べ306億1千4百万円増加し、252億3千3百万円の収入となりました。以上の結果、現金及び現金同等物の当第3四半期連結会計期間末残高は、前第3四半期連結会計期間末残高に比べ145億5千7百万円増加し、672億1百万円となりました。 (4) 研究開発活動当第3四半期連結累計期間の研究開発費の総額は40億5千5百万円であります。
(5) 主要な設備前連結会計年度末において計画中であった重要な設備の新設について、重要な変更はありません。当第3四半期連結累計期間において、新たに確定した重要な設備の新設計画は次のとおりであります。
会社名
事業所名(所在地)
セグメントの名称
設備の内容
投資予定額(百万円)
完成予定年月
エア・ウォーター㈱
鹿島工場(茨城県鹿嶋市)
デジタル&インダストリー
アルゴン精製設備
1,350
2023年8月
東日本エア・ウォーター物流㈱
千葉物流センター(千葉市稲毛区)
その他の事業
冷凍冷蔵倉庫
4,163
2024年12月