【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
1.経営成績等の状況の概要
当連結会計年度における当社グループの経営成績及びキャッシュ・フローの状況の概要は以下のとおりです。
(1)経営成績の状況
(単位:億円)
前連結会計年度
当連結会計年度
増減額
増減率
売上高
22,807
26,160
3,352
14.7%
売上原価
18,273
21,059
2,785
15.2%
販売費及び一般管理費
1,844
2,137
293
15.9%
営業利益
2,689
2,963
274
10.2%
経常利益
10,031
11,097
1,066
10.6%
親会社株主に帰属する当期純利益
10,091
10,125
34
0.3%
平均為替レート
112.06円/US$
135.07円/US$
23.01円 円安
平均消費燃料油価格
US$531.19/MT
US$760.72/MT
US$229.53 高
(概況)
当連結会計年度の業績は、売上高2兆6,160億円、営業利益2,963億円、経常利益1兆1,097億円、親会社株主に帰属する当期純利益1兆125億円となりました。なお、営業外収益で持分法による投資利益として8,119億円を計上し、うち、当社持分法適用会社であるOCEAN NETWORK EXPRESS PTE. LTD.(“ONE社”)からの持分法による投資利益計上額は当連結会計年度において7,703億円となりました。
<セグメント別概況>
当連結会計年度のセグメント別概況は以下のとおりです。
(単位:億円)
売上高
経常利益
前連結
会計年度
当連結
会計年度
増減額
増減率
前連結
会計年度
当連結
会計年度
増減額
ロラ
ジイ
スナ
テ|
ィ&
ク
ス
事
業
定期船事業
1,905
2,007
101
5.3%
7,342
7,913
571
航空運送事業
1,887
2,180
293
15.6%
740
618
△122
物流事業
8,474
8,624
149
1.8%
587
543
△44
不定期専用船事業
9,745
12,408
2,662
27.3%
1,391
2,121
730
そ
の
他
事
業
不動産業
42
33
△8
△20.3%
21
13
△7
その他の事業
1,704
2,345
641
37.6%
△12
△22
△9
<定期船事業>
コンテナ船市況は、第2四半期の半ばまでは旺盛な輸送需要及び港湾混雑によるサプライチェーンの混乱により需給がひっ迫する状況が続いたものの、夏場以降は北米等での在庫積み上がりやインフレ等の複合要因により輸送需要の減退が見られ、また世界的な港湾混雑の解消により船腹供給量が増加し、その結果、スポット運賃が下落しました。ONE社においては、上期が好調だったことにより前連結会計年度に引き続き高い利益水準となりました。
ターミナル関連部門では、北米のターミナルを一部売却した影響で取扱量は前連結会計年度比で減少しましたが、一部ターミナルでのコンテナ滞留に伴う付帯収入が増加し、収支に貢献しました。
以上の結果、定期船事業全体では前連結会計年度比で増収増益となりました。
<航空運送事業>
航空運送事業では、第3四半期以降に世界的な景気の減速や海上貨物の一部が航空輸送に切り替わる動きが弱まったこと等も影響し、輸送重量は前連結会計年度比で減少しました。運賃は、半導体製造装置等の好調な輸送需要や好況下に締結した輸送契約により、高い水準を維持しました。費用面では、燃料費等が増加しました。
以上の結果、航空運送事業全体では前連結会計年度比で増収減益となりました。
<物流事業>
航空貨物取扱事業では、スポット案件の獲得や機動的な購買の見直しによるコスト削減により、一定の利益水準を確保しましたが、荷動きが低迷する中、取扱量及び利益水準は前連結会計年度を下回りました。
海上貨物取扱事業では、取扱量は前連結会計年度比で減少しましたが、長期契約や付帯サービスの拡販により一定の利益水準を確保しました。
ロジスティクス事業では、欧米を中心に人件費・光熱費等の高騰に伴う価格改定を進めるとともに、需要の底堅い一般消費財の取扱いが事業を牽引し、堅調に推移しました。
内航輸送事業では、フィーダー貨物運賃高騰による好影響を受けました。
以上の結果、物流事業全体では前連結会計年度比で増収減益となりました。
<不定期専用船事業>
自動車輸送部門では、世界的な半導体不足や新型コロナウイルス感染症による完成車生産への影響が徐々に緩和され、前連結会計年度比で輸送台数は増加しました。港湾の混雑や航海中の荒天影響による運航スケジュールの乱れが一部見られたものの、最適な配船計画と本船運航により船舶の稼働率を向上させ、顧客の輸送要請に柔軟に対応しました。自動車物流でも、完成車荷動きの回復に伴い各国において取扱台数を伸ばしました。また、新規ビジネス獲得と事業投資を進めて収益性向上に取り組みました。
ドライバルク事業部門では、ケープサイズの市況は、4月下旬以降に季節外れの高騰が見られましたが、その後は景気後退懸念が顕在化して下落しました。パナマックスサイズの市況は、5月までは前年同期を上回る水準を保ったものの、その後はケープサイズの不調に合わせて下落しました。ハンディマックス及びハンディサイズの市況もパナマックスサイズに同調する形で低迷し、全船型で通期での市況は前連結会計年度を下回りました。このような環境下、時機を捉え好市況下で獲得した輸送契約に加え、先物取引を用いた市況変動リスク低減の取組みが業績を下支えしました。また、効率的な運航によるコスト削減に努めました。
エネルギー事業部門では、VLCC(大型原油タンカー)の市況は、長らく低迷していたものの7月頃から急回復し、11月下旬にピークに達した後、変動の大きい状況が続きましたが、夏場以降は総じて堅調に推移しました。石油製品タンカーの市況は、ロシア・ウクライナ情勢の影響によりトレードパターンが変化し、輸送距離が延びたことで船腹需給が引き締まりました。VLGC(大型LPGタンカー)は、米国からアジア地域への長距離輸送が増加し、中東出し輸出も堅調の中、年末には揚地やパナマ運河での滞船も影響して船腹需給が引き締まりました。通期でのタンカー市況は総じて前連結会計年度の水準を大きく上回りました。LNG船は、安定的な収益を生む長期契約に支えられて順調に推移しました。また海洋事業は、FPSO(浮体式海洋石油・ガス生産貯蔵積出設備)、ドリルシップ、シャトルタンカーが概ね想定どおりに順調に稼働しました。
以上の結果、不定期専用船事業全体では前連結会計年度比で増収増益となりました。
なお、エネルギー事業部門において、ロシア・ウクライナ情勢への対応により、サハリンⅡプロジェクト等のLNG輸送に関連して特別損失を計上しました。
<不動産業、その他の事業>
不動産業は、前連結会計年度における子会社株式の一部譲渡に伴い、前連結会計年度比で減収減益となりました。
その他の事業は、燃料油販売事業が好調であったことに加え、船用品・舶用資材販売事業も堅調に推移しました。客船事業は、電気関係機器不具合への対応や乗組員の新型コロナウイルス感染の影響等により限られたクルーズ催行となりました。その結果、その他の事業では前連結会計年度比で増収となりましたが、損失を計上しました。
(2)キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度末における現金及び現金同等物の残高は、前連結会計年度末と比べて304億円減の1,962億円となりました。
営業活動によるキャッシュ・フローは、税金等調整前当期純利益1兆834億円、減価償却費1,216億円、持分法による投資損益△8,119億円、利息及び配当金の受取額4,572億円などにより8,248億円(前年同期5,077億円)となりました。
投資活動によるキャッシュ・フローは、船舶を中心とする固定資産の取得及び売却などにより△2,529億円(前年同期△1,485億円)となりました。
財務活動によるキャッシュ・フローは、借入金やリース債務の返済、社債の償還や配当金の支払い等により△5,812億円(前年同期△2,375億円)となりました。
(3)生産、受注及び販売の実績
当社グループは国際的な海上貨物運送業を中核として多角的事業を展開しているため、生産、受注の各実績を求めることが実務的に困難であり、セグメントごとに生産規模及び受注規模を金額あるいは数量で示していません。
当連結会計年度における売上高をセグメントごとに示すと、次のとおりです。
セグメントの名称
金額(百万円)
前年同期比(%)
定期船事業
200,705
105.3
航空運送事業
218,095
115.6
物流事業
862,446
101.8
不定期専用船事業
1,240,816
127.3
不動産業
3,352
79.7
その他の事業
234,512
137.6
計
2,759,929
116.2
消去
(143,863)
151.2
合計
2,616,066
114.7
(注) 売上高に対する割合が10%以上の顧客はいません。
2.経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者の視点による当社グループの財政状態及び経営成績等の状況に関する分析・検討の内容は以下のとおりです。
なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。
(1)財政状態及び経営成績等の分析
当連結会計年度末の総資産は、船舶を中心とする有形固定資産の増加や、ONE社をはじめとする持分法適用会社の利益計上に伴う投資有価証券の増加等により、前連結会計年度末に比べ6,967億円増加し、3兆7,767億円となりました。有利子負債は社債や借入金等の減少により前連結会計年度末に比べ1,142億円減少して6,940億円となり、負債合計額は前連結会計年度末に比べ691億円減少し1兆2,518億円となりました。純資産の部では、利益剰余金が6,226億円増加し、株主資本とその他の包括利益累計額の合計である自己資本が2兆4,786億円となり、これに非支配株主持分463億円を加えた純資産の合計は、2兆5,249億円となりました。これらにより、有利子負債自己資本比率(D/Eレシオ)は0.28に、また自己資本比率は65.6%となりました。なお、D/Eレシオ算定上の有利子負債は連結貸借対照表上に計上されている負債のうち、借入金、社債及びリース債務を対象としています。経営成績については「1.経営成績等の状況の概要(1)経営成績の状況」をご参照ください。
(2)経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等の達成・進捗状況
当社グループは、2018年4月から開始する5カ年の中期経営計画として“Staying Ahead 2022 with Digitalization and Green”を策定しました。“Staying Ahead 2022 with Digitalization and Green”の利益・財務目標並びに2022年度実績については、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (2)中長期的なグループ経営戦略及び目標とする経営指標及び(3)中長期的なグループ経営戦略と優先的に対処すべき課題」をご参照ください。
また当社グループは、2023年4月から開始する4カ年の中期経営計画として“Sail Green, Drive Transformations 2026 – A Passion for Planetary Wellbeing -”を策定しました。“Sail Green, Drive Transformations 2026 – A Passion for Planetary Wellbeing -”の利益・財務目標については、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (2)中長期的なグループ経営戦略及び目標とする経営指標及び(3)中長期的なグループ経営戦略と優先的に対処すべき課題」をご参照ください。
(3)キャッシュ・フローの状況の分析並びに資本の財源及び資金の流動性
① キャッシュ・フローの状況
「1.経営成績等の状況の概要 (2)キャッシュ・フローの状況」をご参照ください。
② 資金需要
当社グループの運転資金需要のうち主なものは、当社グループの不定期専用船事業運営に関する海運業費用です。この中には燃料費・港費・貨物費等の運航費、船員費・船舶修繕費等の船費及び借船料などが含まれます。このほか物流事業や航空運送事業等の運営に関する労務費等の役務原価、各事業についての人件費・情報処理費用・その他物件費等の一般管理費があります。一方、設備資金需要としては、中期経営計画における船舶脱炭素化投資など既存事業への投資、新規事業やM&A投資を予定しています。当連結会計年度中には1,988億円の設備投資を行いました。
③ 財務政策
当社グループの事業活動の維持拡大に必要な資金については、財務の健全性を損なうことなく、また、過度に特定の市場リスクに晒されることなく安定的に確保するために、金融機関からの借入や社債、コマーシャル・ペーパーの発行による調達を行うこととしているほか、船舶に関してはリース等を活用しています。
当社グループの主要な設備である船舶投資については、営業活動によって個々の船舶が将来収受する運賃もしくは貸船料収入の通貨や期間にあわせた長期の借入のほか、社債発行により調達した資金や内部留保した資金も投入しています。運転資金については、主に期間が1年以内の短期借入並びにコマーシャル・ペーパーの発行により調達することとしていますが、一部長期の借入によっても調達しています。2023年3月31日現在の短期及び長期借入金の残高は4,962億円で、通貨は円のみならず米ドル等の外貨建借入金を含んでおり、金利は変動及び固定です。また、資本市場から調達した社債の残高は、2023年3月31日現在970億円となっています。
当社グループは、資金の流動性確保に努めており、2023年3月31日現在1,000億円のコマーシャル・ペーパー発行枠に加え、予備的借入枠として円建て及び米ドル建てコミットメントライン(借入枠)を有しているほか、キャッシュマネージメントシステム等を活用しグループ内金融による資金効率向上にも取組んでいます。
なお、当社は国内2社、海外1社の格付機関から格付を取得しています。2023年3月31日現在の負債格付(長期)は、日本格付研究所(JCR):「A+」、格付投資情報センター(R&I):「A」、ムーディーズ・インベスターズ・サービス:「Ba1」となっています。
(4)重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して作成されています。その作成にあたっては経営者による会計方針の選択・適用、資産・負債及び収益・費用の報告金額及び開示に影響を与える見積りが必要となります。経営者は、これらの見積りについて過去の実績等を勘案して合理的に判断していますが、実際の結果は、これらの見積りと異なる場合があります。
当社は、特に以下の重要な会計方針が、当社の連結財務諸表の作成における重要な見積りの判断に影響を及ぼすと考えています。
① 収益の認識
当社グループの収益の認識は、主に一定の期間にわたり充足される履行義務として、航海期間及び輸送期間における日数等に基づき進捗度を見積り、当該進捗度に基づき収益を一定の期間にわたり認識しています。
② 貸倒引当金
当社グループは、売上債権等の貸倒損失に備えて回収不能となる見積額を貸倒引当金として計上しています。将来、債務者の財政状況の悪化等の事情によってその支払能力が低下した場合には、引当金の追加計上又は貸倒損失が発生する可能性があります。
③ 投資の評価について
当社グループは、金融機関や取引先等の株式を保有しています。これらの株式は、市場価格が存在する株式等に関して原則として市場価格にて評価を行い、市場価格の存在しない株式等に関しては投資先の財政状態等を勘案し、価値の下落が一時的でないと判断する場合には減損処理を行います。
④ 減価償却資産の償却
当社グループは、有形及び無形の減価償却資産を保有しています。これらの減価償却資産は、合理的と判断される償却方法及び償却期間で償却されていますが、実際の資産価値の減価は会計上の減価償却による貸借対照表価額の減少とは異なる場合があります。
⑤ 退職給付
従業員の退職給付債務及び費用は、数理計算上で設定される前提条件に基づいて算出されています。これらの前提条件には、割引率、昇給率、退職率及び年金資産の長期期待運用収益率等が含まれます。当社グループは毎年数理計算の基礎となる前提条件を見直しており、必要に応じて、その時々の市場環境等をもとに調整を行っています。実際の結果が前提条件と異なる場合、又は前提条件が変更された場合、退職給付債務及び費用に影響を及ぼす可能性があります。
⑥ 繰延税金資産
当社グループは、繰延税金資産の回収可能性を評価するに際して、将来の課税所得を合理的に見積っています。繰延税金資産の回収可能性は将来の課税所得の見積りに依存しますので、その見積額が減少し繰延税金資産の一部又は全部を将来実現できないと判断した場合、あるいは税率変動等を含む各国税制の変更等があった場合、その判断を行った期間に繰延税金資産が減額され税金費用が計上されます。
⑦ 固定資産の減損
当社グループは、原則として事業用資産においては投資の意思決定を行う事業ごとにグルーピングを行い、賃貸不動産、売却予定資産及び遊休資産等においては個別物件ごとにグルーピングを行っています。資産グループの回収可能価額が帳簿価額を下回った場合は、帳簿価額を回収可能価額まで減額しています。なお、資産グループの回収可能価額は正味売却価額と使用価値のいずれか高い価額としています。正味売却価額は第三者により合理的に算定された評価額等により、使用価値は将来キャッシュ・フローに基づき算定しています。
(5)今後の見通し
定期船事業について、コンテナ船部門では、市況の高騰が落ち着く中、スポット運賃及び年間契約の運賃水準を考慮し、また世界経済の動向や消費地での過剰在庫の解消等が輸送需要に与える影響を注視して見通しを策定しています。
航空運送事業では、2023年3月7日に、当社とANAホールディングス株式会社(以下、「ANAHD」という。)との間で、当社連結子会社である日本貨物航空株式会社の全株式をANAHDに対して譲渡することに関する基本合意書を締結しており、その内容もふまえて見通しを策定しています。
物流事業では、航空貨物取扱事業及び海上貨物取扱事業において、取扱量は当連結会計年度(2023年3月期)と比較して増加するものの、利益水準は低下することを見込みます。ロジスティクス事業では、欧州での取扱量の減少を見込むものの、これまで進めてきた価格改定の推進や北米地域での事業が安定して推移する見通しであることから、利益水準の低下は限定的であると想定しています。
不定期専用船事業について、自動車事業部門では、世界的な半導体不足による完成車生産への影響は解消に向かい、輸送台数は当連結会計年度並みとなる見通しです。
ドライバルク事業部門では、当連結会計年度に好調だったハンディマックス以下の小型船型における市況が落ち着く見込みです。
エネルギー事業部門では、VLCC(大型タンカー)の市況は底堅く推移し、VLGC(大型LPGタンカー)の市況は船腹供給量の増加により当連結会計年度と比較して軟化する見通しです。また、LNG船や海洋事業の収益は、中長期の安定契約に支えられ、堅調に推移する見通しです。
以上を踏まえ、翌連結会計年度 (2024年3月期)は減収減益を見込んでいます。
(注)2024年3月期より、「自動車輸送部門」は「自動車事業部門」へ名称を変更しています。