【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
文中の将来に関する事項は、当四半期会計期間の末日現在において判断したものであります。
(1) 業績の状況当第2四半期累計期間(2023年1月1日~2023年6月30日)における日本経済は、日経平均株価はバブル後高値を更新し、7月に発表された6月日銀短観では幅広い会社で原料費の価格転嫁が進み、円安による訪日外国人向けビジネスへの追い風や輸出ビジネスの営業利益増益などにより、大企業を中心に景況感の急改善が見られています。一方で、世界経済においては、米連邦準備委員会(FRB)は金利据え置きを決定したものの、英国イングランド銀行はインフレ対策として利上げを継続するなど主要国中央銀行の金融引き締めによる世界景気の減速リスクは続き、先行き不透明感は継続しています。
このような状況下、当社は「未来のがん治療に新たな選択肢を与え、がん治療の歴史に私たちの足跡を残してゆくこと」をビジョンとし、経営の効率化及び積極的な研究・開発・ライセンス活動を展開いたしました。特に、がんのウイルス療法テロメライシン(OBP-301)や新型コロナウイルス感染症治療薬OBP-2011を中心に、「がんのウイルス療法」と「重症ウイルス感染症治療薬」を事業領域とした「ウイルス創薬」を目指し、研究・開発・ビジネス活動を推進させています。また、核酸系逆転写酵素阻害剤OBP-601(censavudine)は、Transposon Therapeutics, Inc.(以下「Transposon社」)とのライセンス契約の下、同社の全額費用負担により欧米で複数の臨床試験が進められています。当社活動の詳細に関しては、「2 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (7) 研究開発活動」をご確認ください。
当第2四半期の業績は、売上高63,038千円(前年同四半期は売上高426,152千円)、営業損失900,989千円(前年同四半期は営業損失658,898千円)となりました。また、営業外収益として、受取利息533千円、為替差益35,051千円等を、営業外費用として支払利息1,781千円、譲渡制限付株式報酬償却435千円を計上した結果、経常損失867,441千円(前年同四半期は経常損失590,514千円)になり、四半期純損失868,762千円(前年同四半期は四半期純損失570,569千円)となりました。
(2) 財政状態の分析当第2四半期会計期間末における資産は、現金及び預金の減少等により1,866,628千円(前事業年度末比29.6%減)となりました。負債は、未払金の増加等により576,121千円(前事業年度末比17.2%増)となりました。純資産は、四半期純損失等により1,290,506千円(前事業年度末比40.2%減)となりました。
(3) キャッシュ・フローの状況当第2四半期累計期間における現金及び現金同等物は、前事業年度の1,466,201千円から1,090,340千円へと375,860千円減少しました。当第2四半期累計期間における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。(営業活動によるキャッシュ・フロー)営業活動によるキャッシュ・フローは451,552千円の支出(前年同四半期は722,482千円の支出)となりました。これは主として、税引前四半期純損失867,305千円、前払金の減少192,523千円、為替差益34,696千円、未収入金の減少149,396千円、未収消費税等の減少54,519千円、未払金の増加31,576千円、株式報酬費用5,488千円等によるものであります。(投資活動によるキャッシュ・フロー)投資活動によるキャッシュ・フローは748千円の支出(前年同四半期は20,841千円の収入)となりました。これは主として、有形固定資産の取得による支出951千円、有形固定資産の売却による収入136千円等によるものであります。(財務活動によるキャッシュ・フロー)財務活動によるキャッシュ・フローは45,445千円の収入(前年同四半期は29,599千円の収入)となりました。これは主として、長期借入による収入100,000千円、長期借入金の返済による支出52,774千円等によるものであります。
(4) 会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定当第2四半期累計期間において、前事業年度の有価証券報告書に記載した「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」中の会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定の記載について、重要な変更はありません。
(5) 経営方針・経営戦略等当第2四半期累計期間において、当社が定めている経営方針・経営戦略等について重要な変更はありません。
(6) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題当第2四半期累計期間において、新たな事業上及び財務上の対処すべき課題の発生、又は、前事業年度の有価証券報告書に記載した事業上及び財務上の対処すべき課題について、重要な変更はありません。
(7) 研究開発活動当社の当第2四半期累計期間における創薬事業の研究開発費は、636,952千円となりました。なお、当第2四半期累計期間における研究開発活動の状況は以下のとおりです。
1) 研究開発体制について 2023年6月30日現在、研究開発部門は20名在籍しており、これは総従業員数の50.0%に当たります。
2) 研究開発並びにビジネス活動について当社は、以下のプロジェクトを中心に研究開発並びにビジネス活動を進めました。
①がんのウイルス療法テロメライシン(OBP-301,国際一般名称:suratadenoturev)に関する活動テロメライシンは現在、日本国内で厚生労働省より再生医療等製品の「先駆け審査指定」を受けて「放射線併用による食道がんPhase2臨床試験」を実施し、すでに症例組み入れを完了して全症例の予後を追跡調査する段階になっており、2024年に国内での新薬承認申請を行う計画です。また、商用スケールのウイルス製造開発を進め、PMDAとの事前相談を行っています。さらに、当社独自の製造販売体制の整備を開始し、販売提携候補企業とアライアンスに向けたデューデリジェンスや条件交渉を進めています。一方、海外展開に関しては、米国でのテロメライシンの共同開発体制の構築に向けて、免疫チェックポイント阻害剤を販売する海外大手製薬企業に対して臨床試験プロトコールを提示し、その合意が得られている段階です。
現在、テロメライシンは、組入れが終了した臨床試験も含めて、以下の3つの臨床試験が国内外で進められています。
i) 放射線併用食道がんPhase2臨床試験ii) 抗PD-1抗体ペムブロリズマブ併用胃がん・胃食道接合部がんPhase2医師主導治験iii)放射線化学療法併用食道がんPhase1医師主導治験
上記i)の「放射線併用食道がんPhase2臨床試験」は、2019年4月の「先駆け審査制度」の指定に基づき全国17か所の治験実施施設で進められ、2022年12月に本治験の目標症例に到達したことを確認しました。現在、症例の予後の追跡調査を進めており、2023年6月にはPhase2臨床試験の専門委員会を開催し、治験の進行状況を確認し、今後の方針などについて報告しました。本治験の結果は、2023年10月に取得できる見通しです。なお、現時点までに本治験を中断するような安全性上の問題は発生しておりません。当社は本治験と並行して、PMDAと承認申請に向けた非臨床試験・臨床試験・製造等に関する事前相談を開始しています。
当社はテロメライシンの新薬承認申請に向けて、Henogen社(ベルギー)で商用製品製造の開発を進めています。2023年11月にはプロセスバリデーションを開始し、承認申請を行う2024年には商用製造を開始する計画です。また、Henogen社でテロメライシンを製剤化した後、日本国内へ輸入して医療機関までGMP体制を維持したまま円滑に移送できるよう、国内製造所の役割を担う企業と提携して物流体制を構築する準備を進め、2023年9月の契約締結を計画しています。2023年6月にはユーロフィン分析科学研究所と契約を締結し、テロメライシンの最終出荷判定に必要な品質試験のバリデーションを開始しています。さらに、国内での効率的な販売を行うために、製薬会社との販売提携交渉を進め、2023年中の契約締結を目指しています。
上記ii)の「抗PD-1抗体ペムブロリズマブ併用胃がん・胃食道接合部がんPhase2医師主導治験」は、米国コーネル大学を中心に、過去に治療歴のある最も重症度が高い患者を対象に、テロメライシンと抗PD-1抗体ペムブロリズマブを併用した場合の有効性及び安全性の評価を行うことを目的として、2019年5月から開始されました。これまでに組入れた16例のうち3例で長期生存が確認され、この結果は本試験の有効性を示す基準を満たす結果と判断され、目標とされていた18例までの組入れを待たず、2022年末で本治験の症例組入れを前倒しで終了することを決定しました。また、本治験の中間解析結果は、米国コーネル大学のマニッシュ・シャー医師により米国臨床腫瘍学会(ASCO2023年6月)で発表されました。なお、現在当社は、本試験の結果をもとに米国コーネル大学と次ステップの臨床試験を計画しており、免疫チェックポイント阻害剤を販売する海外製薬会社を含めた共同開発体制を2023年9月に構築する計画です。
上記iii)の「放射線化学療法併用食道がんPhase1医師主導治験」は、米国の権威あるがん研究組織NRGオンコロジーグループにより、テロメライシンと放射線化学療法を併用した際の安全性と有効性の検討を目的として2021年12月から開始されました。現在アメリカ国内6施設で実施されており、第一段階の全6例の組み入れが完了しています。これまでに問題となるような副作用は報告されていません。テロメライシンは米国において食道がんのオーファンドラッグ指定を受けており、同指定の下、本治験は実施されています。そのため、補助金の支給や臨床研究費用の税額控除の優遇を受けることができ、さらに、米国においてテロメライシン承認後の7年間は先発権保護が与えられ、その期間中は市場独占権が得られることになっています。
②核酸系逆転写酵素阻害剤OBP-601(censavudine)に関する活動2006年にYale大学から導入したOBP-601は、2010年から2014年にかけてBristol-Myers Squibb Co.(以下「BMS社」)へライセンスし、抗HIV薬としてPhase2b臨床試験が実施された結果、OBP-601の既存薬との非劣性が示されました。同時期にはBMS社によって、OBP-601の長期毒性試験、がん原性試験や多くの臨床データが得られましたが、BMS社のHIV領域撤退という戦略変更によってライセンス契約は終了しました。その後、ブラウン大学(米国)の研究成果から、HIVの核酸系逆転写酵素阻害剤(NRTI)がレトロトランスポゾンの異所性発現を抑制することが確認され、同作用を持つOBP-601の脳内移行性が高く、LINE-1というレトロトランスポゾンの産生を強力に抑制することが確認されました。このようなメカニズムに着目してOBP-601を神経難病に応用しようと計画していたTransposon 社との間で、当社は2020年6月に全世界を対象とした総額3億ドル超の新規ライセンス契約を締結し、同年11月にTransposon社は第1回マイルストーンを達成しています。現在、Transposon社によって「進行性核上性麻痺(PSP: Progressive Supranuclear Palsy)」とC9 ORFという酵素の異常発現を伴った「筋萎縮性側索硬化症(ALS: Amyotrophic Lateral Sclerosis)及び前頭側頭型認知症(FTD: Frontotemporal Degeneration)」を対象としたプラセボを用いた二重盲検法による2つのPhase2a臨床試験が欧米の多施設で進められています。また、2023年7月にアイカルディ・ゴーティエ症候群(AGS: Aicardi-Goutières Syndrome)を対象にした欧州での単群によるPhase2a臨床試験の投与を開始しました。PSPを対象とした臨床試験は2021年11月に1例目への投与が開始され、2022年8月に目標症例数の組入れが完了しました。当社はTransposon社から中間解析結果の報告を受けましたが、その内容の詳細に関してはTransposon社の意向により現段階では非開示としています。なお、現在までに、本臨床試験で試験を中止するような安全性上の問題は報告されていません。また、C9 ALS/FTDを対象とした臨床試験も2022年1月に投与が開始され、2023年3月に目標症例数の組入れが完了し、組み入れ患者の長期フォローアップをしています。現在までに、本臨床試験で試験を中止するような安全性上の問題は報告されていません。さらに、Transposon社は、AGSという小頭症や高度な精神発達遅滞等を呈する遺伝性疾患を対象に、欧州で規制当局の承認を得て、2023年7月に新たなPhase2a臨床試験の投与を開始しました。これらのOBP-601に関する臨床試験は、全額Transposon社の費用負担で進められています。なお、Transposon社はOBP-601の開発を目的に設立された企業であり、当社は、Transposon社が戦略変更を理由にOBP-601の開発を中断するリスクは低いと考えています。
③新型コロナウイルス感染症治療薬OBP-2011に関する活動当社は、OBP-2011がヌクレオカプシド形成を阻害する新規メカニズムを有する化合物であることを実験結果から推定していますが、現段階ではその詳細なメカニズムは解明されていません。OBP-2011はすでに承認されているコロナ治療薬の主なメカニズムであるポリメラーゼ阻害やプロテアーゼ阻害とは異なるメカニズムであることが推察されており、コロナウイルスの様々な変異株に対して効果が左右されないというデータが得られています。しかし、新型コロナ治療薬の承認ハードルが上昇していること、並びに新型コロナ治療薬の複数上市による緊急性の低下などの外部環境の変化や、2024年に承認申請を目指すテロメライシンへの経営リソース集中により、開発方針を見直す必要性が生じました。今後は、鹿児島大学や国立感染症研究所と共同研究体制による詳細なメカニズム解明を行った上でコロナウイルス以外のRNAウイルスに対する新規適応を検討し、新たなパンデミックに対応できる体制を維持していく考えです。
④次世代テロメライシンOBP-702に関する活動OBP-702は、強力ながん抑制遺伝子p53をベクター内に搭載する「がん遺伝子治療」と、テロメライシンの持つ「腫瘍溶解作用」を組み合わせた2つの抗腫瘍効果を持つ第二世代のウイルス療法です。国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の助成金事業を活用して、岡山大学消化器腫瘍外科学・藤原俊義教授の研究グループにより非臨床試験が進められています。特に、ゲムシタビン耐性すい臓癌細胞株のマウスモデルを用いた実験においては、PD-L1抗体を併用することでより強い抗腫瘍効果が確認されています。また、がん治療で問題となっているがん組織の間質系細胞(CAF : Cancer Associated Fibroblast)に対しても殺傷効果を示すことが示されており、今後、間質系細胞によって治療が困難と考えられているすい臓がんなどの難治性がんに対する新しい治療法として開発してゆくことが期待されます。なお、2024年に承認申請を目指すテロメライシンへ経営リソースを集中させるために、OBP-702の開発は助成金の範囲内で継続してゆく予定です。
⑤がん検査薬テロメスキャン(OBP-401)に関する活動テロメスキャンは、がん患者の血液中を循環している生きたがん細胞(CTC:Circulating Tumor Cells)の検査自動化プラットフォームの確立を目的に、順天堂大学と共同研究講座「低侵襲テロメスキャン次世代がん診断学講座」を2021年6月に開設いたしました。しかし、AIによる画像学習のためには多くの画像取得が必要であり、当初計画と比較して画像取得に時間を要しているため、順天堂大学との開発進捗は遅延しています。
⑥HDAC阻害剤OBP-801に関する活動2009年にアステラス製薬株式会社から導入したヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤であるOBP-801は、各種固形がんを対象とした米国でのPhase1臨床試験で用量制限毒性(DLT:Dose Limiting Toxicity)が発生し、推定有効量までの投与量の増量が不可能となったため、がん領域での開発を中断しました。一方、新規適応領域である眼科領域では、京都府立医科大学眼科学教室の実験において、緑内障手術を行った際に形成される濾過胞形成の線維化抑制作用が認められ、2023年4月の日本眼科学会や2023年4月に米国ルイジアナ州ニューオーリンズで開催されたARVO(視覚と眼科学研究協会学会)で研究結果が発表されました。今後は点眼剤での開発が期待されています。
主なパイプラインの開発状況は、以下のとおりです。
開発品
適応疾患
併用療法
開発地域
開発ステージ
テロメライシン(OBP-301)(suratadenoturev)
食道がん
放射線療法
日本
Phase2(組入れ終了)
放射線化学療法
米国
Phase1
抗PD-1抗体ペムブロリズマブ
日本
Phase1(組入れ終了)
胃がん・胃食道接合部がん
抗PD-1抗体ペムブロリズマブ
米国
Phase2(組入れ終了)
肝細胞がん
抗PD-L1抗体アテゾリズマブ及び分子標的薬
日本
Phase1(終了)
単独療法
韓国・台湾
Phase1(終了)
OBP-601(censavudine)
進行性核上性麻痺(PSP)
単独療法
米国
Phase2a(組入れ終了)
筋萎縮性側索硬化症(C9-ALS)/前頭側頭型認知症(FTD)
単独療法
米国・欧州
Phase2a(組入れ終了)
アイカルディ・ゴーティエ症候群(AGS)
単独療法
欧州
Phase2a
OBP-2011
新型コロナウイルス感染症
未定
日本
前臨床
OBP-702
固形がん
抗PD-(L)1抗体を想定
日本
前臨床
テロメスキャン(OBP-401)
固形がん
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日本
臨床研究
OBP-801
緑内障手術後の濾過胞線維化抑制
単独療法
日本
前臨床
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