【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりです。なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日(2023年6月23日)現在において当社グループが判断したものです。
(1) 重要な会計方針及び見積り当社グループの連結財務諸表は、連結財務諸表規則第93条の規定によりIFRSに準拠して作成しています。連結財務諸表の作成にあたって、決算日における資産・負債の報告金額及び偶発資産・負債の開示、並びに報告期間における収益・費用の報告金額に影響を与えるような見積り・予測を必要とします。結果として、このような見積りと実績が異なる場合があります。なお、連結財務諸表作成にあたっての重要な会計方針及び見積り等については、「第5[経理の状況] 1[連結財務諸表等] (1) [連結財務諸表] [連結財務諸表注記] 2.作成の基礎 (6) 見積り及び判断の利用、3.重要な会計方針の要約」に記載のとおりです。
(2) 財政状態及び経営成績の状況
①事業全体の概況当社グループは、“『変わる 超える』で新しい姿の1兆円企業へ”を目指す姿として、2022年度から2026年度までの5ヵ年を『中期経営計画2026』と位置づけ、様々な取り組みを推進しています。「安全・品質・環境・コンプライアンス」の当社コアバリューを、経営の意思決定や行動において最優先される共通の価値基準とし「収益を伴う成長」「経営資源の強化」「ESG経営」の3つの経営課題に取り組んでいます。当連結会計年度の世界経済を概観すると、景気は一部の地域において弱さがみられるものの、緩やかな持ち直しが続いています。一方で、ウクライナ情勢の緊迫化を契機としたエネルギー価格の高騰などによるインフレ進行、長期化する半導体等部材のサプライチェーン問題、加えて各国中央銀行の金融引き締めに伴う景気後退懸念など、経済の先行きは未だ不透明な状況にあります。地域別にみると、日本は海外経済の減速に伴う輸出環境の悪化や消費者心理を冷やす物価高など持ち直しの動きに足踏みがみられました。米国では長引くインフレや金融引き締めによる下押し圧力が強まるなど景気は減速しました。欧州はインフレの高止まりや国際的な金融システム不安が景況感の悪化につながり停滞しました。中国では第1四半期に新型コロナウイルス感染封じ込めを狙うゼロコロナ政策で経済活動が滞り、規制解除後に製造業の設備投資は伸び悩むなど持ち直しの動きに弱さがみられました。このような経済環境において当社グループの業績は、材料・エネルギー・物流のインフレが一段と進行した影響を受けたものの、為替が円安に推移したことに加え、インフレ影響に対して売価転嫁を推し進めた結果、当連結会計年度の売上高は9,380億98百万円と前期に比べて8.4%の増収となりました。営業利益は329億36百万円(前期比+11.9%)、税引前利益は319億26百万円(前期比+8.2%)、親会社の所有者に帰属する当期利益は184億12百万円(前期比+11.0%)となりました。
②セグメントごとの業績
(産業機械事業)当期前半は半導体市場と電動化及び自動化関連を中心とした設備投資が堅調に推移しました。足元では先行き不透明感を受けて需要が低迷したものの、売価転嫁の推進と為替影響もあり、当連結累計期間は対前期比で増収となりました。地域別では、日本及び米州はアフターマーケットや半導体製造装置向けを中心に需要が増加しました。欧州ではアフターマーケットや工作機械向けの販売が増加し増収となりました。中国はゼロコロナ政策に伴う厳格な活動規制により生産活動が停滞した影響を受けたものの、工作機械向けなどの増加や為替影響により増収となりました。この結果、産業機械事業の売上高は3,851億3百万円(前期比+9.3%)、営業利益は355億41百万円(前期比+17.1%)となりました。
当事業では、成長が期待できる電動化、自動化、デジタル化、環境市場での需要増加を取り込むため、供給力の強化と技術サービス体制の強化を進めています。さらに、状態監視システムやアクチュエータなど新たな高付加価値商品の開発と市場投入も推進することで、産業機械事業のビジネス拡大を目指していきます。
(自動車事業)半導体不足や部品供給停滞で減産が拡大した前期からの回復が想定より遅れたものの、売価転嫁の推進と為替影響もあり、当連結累計期間は対前期比で増収となりました。地域別では、日本は当期前半に中国からの部品調達が滞るなど自動車の生産調整が続いた影響を受けて減収となりました。米州及び欧州では前期に半導体等部材の供給不足による生産制約の影響を受けて落ち込んだ反動により増収となりました。中国はゼロコロナ政策に伴う厳格な活動規制により生産が停滞した影響や規制解除後の販売が伸び悩み減収となりました。この結果、自動車事業の売上高は5,207億11百万円(前期比+7.9%)、営業損失は39億51百万円(前期は137億62百万円の損失)となりました。当事業では、自動車の電動化に対し、低トルク・高速回転・軽量化といった当社グループの技術力を活かすことで競争力を強化し、さらには電動油圧ブレーキシステム用ボールねじなど将来に向けた新商品の拡大を図ることで事業の成長を目指していきます。また、ステアリング事業は新会社のもと、収益性改善に向けた更なる構造改革の推進と戦略的パートナーとのアライアンスの検討を進めます。
③財政状態の分析当連結会計年度において、資産合計は前連結会計年度末に比べて12億94百万円減少した1兆2,332億56百万円となり、負債合計は14億40百万円増加した5,985億32百万円となりました。資本合計は、親会社の所有者に帰属する当期利益があったものの、剰余金の配当による減少、その他の資本の構成要素の減少等により、前連結会計年度末に比べて27億35百万円減少した6,347億24百万円となりました。
④キャッシュ・フローの状況当連結会計年度末の現金及び現金同等物の残高は、前連結会計年度末に比べて226億4百万円増加した1,601億9百万円となりました。
当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況は、次のとおりです。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)営業活動により得られたキャッシュ・フローは、税引前利益319億26百万円、減価償却費及び償却費583億76百万円、法人所得税の支払額204億49百万円に加えて運転資本等の加減算を行った結果、641億63百万円の収入となりました(前連結会計年度は227億33百万円の収入)。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)投資活動に使用されたキャッシュ・フローは、保有株式の縮減を進めたことに伴うその他の金融資産の売却による収入33億48百万円、有形固定資産の取得による支出442億92百万円、IoT関連及びDX推進に伴う無形資産の取得による支出74億57百万円等により、487億78百万円の支出となりました(前連結会計年度は199億73百万円の支出)。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)財務活動により得られたキャッシュ・フローは、社債の発行による収入430億円、社債の償還による支出100億円、配当金の支払額153億86百万円、短期借入金の純減額80億65百万円等により、44億17百万円の収入となりました(前連結会計年度は482億24百万円の支出)。
⑤目標とする経営指標の達成状況等当連結会計年度は、『中期経営計画2026』(2023年3月期から2027年3月期)の初年度であり、当計画に基づき「収益を伴う成長」「経営資源の強化」「ESG経営」の3つの経営課題に取り組んできました。当社グループを取り巻く環境は、先行き不透明感を受けて需要が低迷しましたが、インフレ影響に対する売価転嫁が進んだことに加えて為替影響もあり、産業機械事業及び自動車事業は前期に比べて増収となりました。この結果、当連結会計年度における当社が経営上の目標として掲げる指標と実績は、次のとおりです。
経営指標
中期経営計画2026目標
2022年3月期実績
2023年3月期実績
①売上高年平均成長率
5%
8,652億円
9,381億円/対前期比+8.4%
②営業利益率
10%
3.4%
3.5%
③ROE
10%
2.8%
3.0%
④ROIC
8%
1.9%
2.1%
⑤ネットD/Eレシオ
0.4倍以下
0.27倍
0.29倍
2024年3月期の事業環境につきましては、世界的な金融引き締めに伴う影響や物価上昇等による下振れリスクはあるものの、グローバルで緩やかな持ち直しが続くことを想定しています。このような環境下においても、当社グループは企業理念のもと、トライボロジーとデジタルの融合による価値創出で、持続可能な社会の発展に貢献し、社会から必要とされ、信頼され、選ばれ続ける企業を目指していきます。
(3) 資本の財源及び資金の流動性
①財務戦略の基本方針『中期経営計画2026』では、持続可能な社会への貢献と不断の企業価値の向上を目指すために、安定した財務体質のもと、収益を伴う成長を遂げてキャッシュを創出することにより、当社の持続的成長のために必要な投資と株主の皆様への安定的な利益還元に資金配分を継続することを、財務戦略の基本方針としています。
(a) 財務安定性の維持当社グループの持続的な成長を支え、景気変動の影響にも耐え得るには、「財務安定性の維持」が前提となります。自己資本比率、ネットD/Eレシオ、手元流動性など、当社グループの財務健全性を示す指標は健全性を保って推移しています。『中期経営計画2026』では、ネットD/Eレシオの目標を0.4倍以下とすることで、安定的な財務基盤を確保しつつ機動的かつ効果的な有利子負債の活用も図っていきます。
(b) 収益を伴う成長キャッシュを創出して、持続的な成長を達成するための設備投資や研究開発投資、さらにはESG経営に必要な人的資本、知的資本、IoT関連・DX推進への投資を実施し、株主の皆様に安定的な利益還元を継続するためには「収益を伴う成長」を持続的に達成することが必要です。株主・投資家の皆様が期待する資本コストを上回る収益率をあげることは、株式上場会社の使命と言えます。当社グループは、過去の株価動向と事業特性、及び株式市場の現況から推計した当社の株主資本コスト(概ね8%~9%)を上回る「ROE 10%」を『中期経営計画2026』の経営目標とします。また、経営目標の1つに「ROIC 8%」を掲げ、低収益資産の縮減を進め、資産効率の向上を図っていきます。これらの目標を中期的に達成し続けることが、株主価値の向上につながると考えています。
(c) 安定的な利益還元当社グループは株主の皆様に対する「安定的な利益還元」を重要な経営方針の一つとしています。『中期経営計画2026』においては、配当性向30%~50%を目標に掲げて、株主の皆様へ安定的・継続的な配当を実施する方針です。また、機動的な資本政策の手法として、自己株式の取得も選択肢の一つと認識しています。自己株式の取得は、キャッシュ・ポジションや株式市場の動向等を勘案して適切かつ機動的に実施したいと考えており、配当と自己株式取得を合わせた総還元性向は、『中期経営計画2026』の期間累計で50%とすることを目安としています。なお、これらの実行にあたっては、財務状況等を勘案して適切に決定していきます。
②財務状況当連結会計年度の財政状態は次のとおりです。
財務戦略の基本方針
経営指標
中期経営計画2026目標
2023年3月期実績
評価・コメント
財務安定性の維持
ネットD/Eレシオ
0.4倍以下
0.29倍
健全な財務体質を維持
収益を伴う成長
ROE
10%
3.0%
ROE 10%とROIC 8%の達成にこだわった運営を継続
ROIC
8%
2.1%
安定的な利益還元
配当性向
30%~50%
83.6%
配当金 30円/株安定的な利益還元を継続
総還元性向
50%
83.6%
③財務活動の振り返り当連結会計年度は、材料・エネルギー・物流のインフレが一段と進行した影響を受けたものの、為替が円安となったことに加えて、インフレに対する売価転嫁を推し進めたことにより、売上高、利益が前連結会計年度に比べて増加しました。その結果、営業活動によるキャッシュ・フロー、フリー・キャッシュ・フロー共に大きく増加し、当連結会計年度のフリー・キャッシュ・フローは153億84百万円の収入となりました(前連結会計年度は27億59百万円の収入)。財務活動では、各国中央銀行の金融引き締めに伴う景気後退懸念が存在することから、今後の資金需要を見越して低金利かつ安定的な資金を確保する目的で社債を2回発行し、合計430億円を調達しました。また、緊急時の手元流動性確保を目的としたコミットメントライン契約金額は700億円有していますが、コミットメントライン契約による借入残高はありません。当社グループは、経営資源を有効活用するため資産効率の向上にも取り組んでいます。当連結会計年度においては、政策保有株式の縮減を進めたことに伴うその他の金融資産の売却により33億48百万円の収入がありました。利益還元については、増収増益となったことや今後の事業環境等を総合的に勘案した結果、当連結会計年度の1株当たり配当金は、前連結会計年度の25円から5円増配した30円としました。配当性向と総還元性向は共に83.6%となり、『中期経営計画2026』の目標である50%を上回っています。
④資金調達の方針当社グループは現在、自己資金及び金融機関の借入れ等により資金調達を行っています。運転資金について借入れによる資金調達を行う場合、期限が一年以内の短期借入金で各連結会社がその現地通貨で調達することが一般的で、生産設備などの長期資金は、主として長期借入金及び社債で調達しています。 本報告書提出時点において、格付投資情報センターから「A」、日本格付研究所から「A+」の格付を取得しており、外部からの資金調達に関しては問題なく実施可能と認識しています。当社グループは、その健全な財務状況、営業活動によりキャッシュ・フローを生み出す能力、金融機関のコミットメントライン契約700億円や、コマーシャルペーパー発行枠500億円などにより必要資金の確保と緊急時の流動性を確保しています。
(4) 生産、受注及び販売の実績当社グループの販売・生産品目は極めて広範囲かつ多種多様であり、また見込み生産を行う製品もあるため、生産規模及び受注規模を金額あるいは数量で示していません。このため、販売及び生産の状況については、「(2)財政状態及び経営成績の状況」に関連づけて記載しています。
(5) 経営成績に重要な影響を与える要因当社グループの事業展開、経営成績及び財務状況等に重要な影響を与えるリスク要因については、「3[事業等のリスク]」に記載のとおりです。