【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
文中における将来に関する事項は、当四半期連結会計期間の末日現在において当社グループが判断したものであります。
(1)財政状態及び経営成績の状況
医薬品業界は、国内外において研究開発のスピードアップと費用の効率化ならびに規制当局への対応簡素化を期待してCRO(Contract Research Organization:医薬品開発業務受託機関)へのアウトソーシング(外部委託)の動きが引き続き活発化しております。加えて核酸医薬、次世代抗体医薬、ペプチド医薬、遺伝子治療、細胞治療、再生医療などの新規創薬モダリティ(治療手段)の研究開発が本格化してきています。このようなトレンドを受け、CRO事業を主力事業とする当社は、“ダントツのCRO”としてクライアントから第一に指名される存在になることを目指しており、顧客ニーズを満たす迅速な対応とサービスの向上ならびに継続的な品質の向上に注力しております。
こうした状況の中、当第1四半期連結累計期間(2023年4月1日から2023年6月30日)における売上高は主力のCRO事業がけん引し、5,804百万円と第1四半期として過去最高となり、前第1四半期連結累計期間に比べて1,758百万円(43.5%)の増加となりました。営業利益は、2023年4月に149名の新入社員(前年比109名増)が加わったことによる人件費増や試験材料費の上昇によるコストアップ等がありましたが、これらを吸収し1,227百万円と前第1四半期連結累計期間に比べて513百万円(71.9%)の増加となり、第1四半期として過去最高益となりました。一方、経常利益については1,877百万円と前第1四半期連結累計期間に比べて895百万円(32.3%)の減少となりました。これは当第1四半期累計期間の為替差益が288百万円と、前第1四半期連結累計期間の為替差益(1,686百万円)と比べて1,398百万円減少したことが主因です。親会社株主に帰属する四半期純利益は1,373百万円と前第1四半期連結累計期間に比べて571百万円(29.4%)の減少となりました。
当社グループの従業員数(連結ベース/時間給・非常勤を除く)は、2023年6月30日現在で1,360名(2023年3月末比152人増)です。なお、当社の女性従業員比率は52.5%(2023年3月末は53.5%)となっております。
当社グループは2023年6月30日現在において、当社、連結子会社24社及び持分法適用関連会社4社で構成されています。セグメント別の経営成績及びSDGs/ESGへの取組みは次のとおりです。
①CRO事業
CRO事業は、細胞・実験動物等を用いる非臨床試験(または前臨床試験)を受託する非臨床事業と、臨床試験を受託する臨床事業から構成されます。
非臨床事業は、当第1四半期連結累計期間も順調に推移しました。当社がこれまで実施してきた以下の取組みが成果を表してきております。
・CROとして世界で唯一構築できている「自社グループ内における実験用NHP(Non-human Primates)繁殖・供給体制」が新たな創薬モダリティの研究開発の本格化等により重要性を増し、世界的な実験用NHPの枯渇により受注増に繋がっております。本取組みを評価いただき、国内外顧客からの要望に応えて顧客専用NHPコロニーを顧客ごとに群編成して飼育しております。本専用コロニーは将来のNHP試験受注へ繋がります。また、国内でのNHP生産体制を強化し、輸入リスクの軽減と品質向上を目指しております。
・新たな創薬モダリティの有効性・安全性評価に必要な最新鋭装置を導入し、評価系を早い時期から構築してきたことが、上記「自社グループ内における実験用NHP繁殖・供給体制」構築と相乗効果を発揮し、新たな創薬モダリティに関連した受注に繋がっております。2023年3月期には、これらの取組みを評価いただき国内製薬企業と新たなプリファード契約を締結し受注増に繋がっております。また、現在複数の海外大手製薬企業とプリファード契約締結へ向けたデューデリジェンスが本格化しております。
・大手製薬企業との創薬段階における包括的研究受託契約も順調に推移し、既に複数の企業から創薬段階の研究を受注しております。
・若手研究員を中心にサイエンスレベルの知的向上に注力し、業界に関連した資格や学位取得、学会・論文発表を会社として奨励・支援し、クライアントに対してより効果的で効率的な試験を提案できるCROを目指しております。
上記取組みの結果、当第1四半期連結累計期間における非臨床事業の受注高は国内製薬企業、ベンチャー企業からのNHP試験を中心とした大型案件の受注増により8,411百万円と第1四半期として過去最高を更新し、前第1四半期連結累計期間に比べて1,191百万円(16.5%)の増加となりました。2023年6月末の受注残高は33,344百万円と過去最高額を示しています。また、海外からの受注額は前年並みの問い合わせはあるものの、契約締結時期が第2四半期以降にずれ込んだこともあり、前第1四半期連結累計期間に比べて1,142百万円(34.3%)減少の2,189百万円となりました。総受注額に占める海外受注比率は26.0%(前第1四半期連結累計期間は46.2%)となりました。なお、2022年7月に連結子会社となった株式会社イナリサーチ(以下、イナリサーチ)の当第1四半期連結累計期間の受注高は戦略的に取組んでいる農薬関係も加わり、1,360百万円となっております。
一方、臨床事業は、米国に本拠を置くグローバル臨床CROであるPPD, Inc.(以下、PPD社)との合弁会社である株式会社新日本科学PPD(以下、新日本科学PPD)において、主に国際共同治験(グローバル・スタディ)の受託事業を展開しております。新日本科学PPDは、PPD社が受託した国際共同治験の日本国内部分の実施を主力事業としており、外資系グローバル企業でありながら、当社が培ってきた調和を大切にする日本型経営要素を取り入れた職場環境を整えることで高い社員定着率を実現し、事業を伸ばしています。なお、新日本科学PPDは持分法適用関連会社(現在の当社持分は40%)であることから、連結損益計算書に及ぼす影響額については、営業外収益の項目に「持分法による投資利益」として計上されています。新日本科学PPDの当第1四半期連結累計期間の「持分法による投資利益」は548百万円(前第1四半期連結累計期間は348百万円)と大幅に増加しており、第1四半期として過去最高となりました。CRO事業においては、非臨床事業という収益エンジンのほかに、臨床事業という収益エンジンが加わり、成長を続けています。なお、PPD社は、2021年12月に世界的な大手医療機器企業であるThermo Fisher Scientific Inc.によって株式買収されました。グループ規模拡大によるシナジー効果が受注体制強化に繋がっております。
CRO事業の当第1四半期連結累計期間の売上高は、5,616百万円と前第1四半期連結累計期間に比べ1,937百万円(52.6%)の増加となりました。同事業の営業利益は、1,456百万円と前第1四半期連結累計期間に比べ591百万円(68.5%)の増加となり、売上高営業利益率は25.9%になっております。なお、イナリサーチの売上高は1,074百万円、営業利益は利益率の低い大型試験が売上計上されたという一時的要因等により5百万円となっております。
②トランスレーショナル リサーチ事業(TR事業)
トランスレーショナル リサーチ事業(TR:Translational Research、以下TR事業)とは、自社研究開発のほか、国内外の大学、バイオベンチャー、研究機関などにおいて基礎研究から生まれる有望なシーズや新技術を発掘し、付加価値を高めて事業化または株式上場、あるいはM&Aにつなげる研究開発型の事業です。
1997年以来、TR事業の主軸として探求してきた当社経鼻投与基盤技術は、独自に発見した担体をベースにした粉体製剤技術と独自設計の投与デバイス(医療用具)を組み合わせたプラットフォーム技術であり、鼻粘膜からの速やかな薬物吸収に基づく即効性を特徴としており、加えて注射に比べて投与が簡易で製剤の室温保存も可能という強みがあります。
経鼻投与の事業化については、プロジェクトを数種に絞り込んでおります。当社連結子会社である株式会社SNLD(以下、SNLD社)では、国内でパーキンソン病のオフ症状治療のための経鼻on-demand therapy(要求に応じた治療)薬(開発コード:TR-012001)の臨床第1相試験を実施しました。同試験では、合計21例の健常人を対象にTR-012001を経鼻投与し、その安全性および忍容性、ならびに薬物動態の評価を行い、2023年1月に終了しています。現在、臨床開発体制を強化しており、次相での薬効を的確に把握するための臨床試験の実施準備を進めています。
米国においては事業化に向けて大きな進展がありました。当社は経鼻偏頭痛治療薬(開発コード:STS101)の開発を進める米国Satsuma Pharmaceuticals,Inc.(以下、Satsuma社)に経鼻投与技術のライセンス供与をしていましたが、当社は2023年4月16日にSatsuma社の買収に関する契約を締結、公開買付けを実施し、2023年6月8日に同社は完全子会社となりました。Satsuma社は、臨床第3相試験において有効性と安全性を確認しており、2023年3月にFDA(米国食品医薬品局)に新薬承認申請書(NDA)を提出、5月に受理されたことを発表しております。なお、FDAが指定したSTS101の審査終了目標日は2024年1月17日となっております。
もう1つの経鼻製剤開発プロジェクトとして、経鼻粘膜免疫作用を期待した経鼻ワクチンの研究に着手しています。多くのワクチンの目的は発症阻止または重症化予防ですが、当社が目指す経鼻ワクチンは、感染そのものを起こさせないこと(これを「遮断免疫」と言います)を狙って開発しています。2023年1月に近畿大学生物理工学部との間で、呼吸器感染症の流行を抑制しうる新規経鼻ワクチンを世界に先駆けて開発することを目的として、共同研究開発契約を締結しております。4月には社内に経鼻粘膜ワクチン研究開発センターを開設し、非臨床社内インフラを有効活用した研究を開始しております。
上記の薬物の経鼻投与基盤技術を応用した創薬研究開発を行う一方、経鼻投与によって薬物の脳移行性を高める独自の送達技術(Nose-to-Brain送達技術:N2B-system)の研究も実施しています。鼻腔内の最も脳に近い場所(嗅部領域)に、選択的に粉末製剤を投与できる特殊な投与デバイスを開発し、ヒトに似た鼻腔構造を持つカニクイザルを用いて、経鼻投与した薬物がPETイメージングにより脳内の受容体に結合する様子を画像で評価できたという浜松医科大学との共同研究成果は2023年6月にドラッグデリバリー研究に関して権威のある科学雑誌Journal of Controlled Release,359(2023),pp384-399(インパクトファクター:11.4)に掲載されました。
子会社の株式会社Gemsekiは、創薬シーズ・技術に関するライセンス仲介事業をグローバルベースで展開するとともに、同社を無限責任組合員としたファンドを組成し、ベンチャー企業への投資事業を行っております。
そうした中、TR事業の当第1四半期連結累計期間の売上高は、1百万円(前第1四半期連結累計期間:11百万円)、営業損失は研究開発費の増加等により245百万円(前第1四半期連結累計期間:営業損失123百万円)となりました。
③メディポリス事業(社会的利益創出事業)
当社は、鹿児島県指宿市の高台に103万坪(3,400,000㎡)の広大な敷地(メディポリス指宿)を保有しており、この自然資本(約9割が森林)を活用した環境に配慮した社会的利益創出事業を行っています。具体的には、再生可能エネルギーを活用した発電事業、人々の健康の実現(Wellbeing:ウェルビーイング)をメインコンセプトとしたホテル宿泊施設の運営(ホスピタリティ事業)、メディポリス国際陽子線治療センターの運営支援を行うとともに、沖永良部島においてシラスウナギの人工生産などを行っております。
発電事業は、2015年2月に地熱発電所が稼働以来、順調に発電を継続しております。新規発電プロジェクトとして、ホテルで浴用や床暖房に使用している泉源の余剰蒸気を活用した温泉発電所(年間発電量は400万kWh)の建設が2022年6月に完工しました。また、系統接続も2022年10月に完了しており現在、発電設備の調整段階に入っております。完了次第、FIT(固定価格買取)制度による売電を開始してまいります。当第1四半期連結累計期間の発電所稼働率は、99.6%と高稼働を維持しております。
ホスピタリティ事業は、お客様のニーズに合わせる形でホテル施設(宿泊部屋総数74室)を宿泊棟と機能ごとに3つに区分しており、ヒーリングリゾートホテル「別邸 天降る丘」、研修滞在型施設「指宿ベイヒルズHOTEL & SPA」、メディポリス国際陽子線治療センターの患者専用宿泊施設「HOTELフリージア」がそれぞれ稼働しております。なお、メディポリス国際陽子線治療センターは2011年1月に治療を開始して以来、5,700件を超えるがん患者さんの陽子線治療の実績を積み重ねています。
当社は生物多様性の保全への取組みとして、レッドリストに登録されているニホンウナギの稚魚であるシラスウナギの人工生産研究を行っております。2019年に鹿児島県沖永良部島和泊町に研究施設を移し、天然海水による人工シラスウナギの生産を行っており、2023年5月に沖永良部島において和泊町長および漁協組合長などを招いて人工生産したウナギの試食会を開催しました。2024年3月期は1万尾の人工シラスウナギの生産を目指しています。
メディポリス事業の当第1四半期連結累計期間の売上高は、ホテル宿泊施設の稼働率が回復傾向にあることなどから196百万円と前第1四半期連結累計期間に比べ21百万円(12.1%)の増加となりました。営業損益は、発電事業における発電設備の経年劣化に対する修繕費の増加等から6百万円の営業損失と前第1四半期連結累計期間(営業利益:19百万円)に比べて26百万円の減益となりました。
④SDGs/ESGへの取組み
2015年9月の国連総会で採択された「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」は、2030年までの達成を目指す世界中の人々が幸せに暮らせるように定められた世界共通の目標です。これは、当社創業以来の企業理念「環境・生命・人材を大切にする会社であり続ける」と、当社スローガン「わたしも幸せ、あなたも幸せ、みんな幸せ」そのものであり、当社はSDGs/ESGの取組みについて業界のリーディングカンパニーであると自覚しております。
現在、2021年8月に取締役会の諮問機関として設置した「SDGs委員会」(委員長は独立社外取締役の戸谷圭子氏)において毎月活発な議論を行っており、その成果として作成したサステナビリティレポート及び各種ESGポリシー、TCFD提言に基づく情報開示等を自社WEBサイト上の専用ページ(https://www.snbl.co.jp/esg/)に開示しております。
2022年10月6日には「統合報告書2022」を発行しております。当社が創造していきたい未来として、2028Vision「ステークホルダーに寄り添い、幸せの連鎖を創造する」を掲げました。経営戦略では2028年度の財務目標として「売上高500億円、経常利益200億円、売上高経常利益率40%」を目指すとしています。当第1四半期連結累計期間は2023年6月にコーポレートガバナンス報告書を更新しました。当社は、2021年6月の改訂後のコーポレートガバナンス・コードの各原則(プライム市場向けの内容含む)のすべてを実施しています。
当社は、SDGs/ESGに関する継続的な取組みにより、各評価機関から高い評価を受けております。2022年6月にグローバルインデックスプロバイダーである英国FTSE Russellにより構築されたFTSE Blossom Japan Sector Relative Indexの構成銘柄に選定されました。2023年6月に採用根拠となるESGスコアが更新され、昨年の2.5から3.1に上昇しています。
MSCI ESGレーティングにおいては、2023年4月にHealth Care Equipment & Supplies(ヘルスケア機器・用品)の分野の企業として「A」評価を獲得しています。また、2023年3月に経済産業省から健康経営優良法人「ホワイト500」に7年連続で選定されております。
当第1四半期連結累計期間における株主/投資家との対話実績は、6月27日に株主総会を開催するとともに、機関投資家ミーティングを100件(前年同期は84件)実施しました。また、個人投資家向け会社説明会を鹿児島市において代表取締役社長を発表者として実施しております。
当第1四半期連結累計期間における前連結会計年度末からの財政状態の変動は、以下のとおりとなりました。
当第1四半期連結会計期間末の総資産は、前連結会計年度末に比べ5,372百万円(9.4%)増加し、62,615百万円となりました。流動資産は、現金及び預金が増加したことや有価証券並びに棚卸資産が増加したことなどにより前連結会計年度末に比べ4,889百万円(20.5%)増加して28,788百万円となりました。固定資産は、無形固定資産(のれん)が増加したことなどにより前連結会計年度末に比べ483百万円(1.5%)増加して33,826百万円となりました。
負債は、前連結会計年度末に比べ4,994百万円(16.2%)増加し、35,877百万円となりました。流動負債は、前受金が増加したことや短期借入金や未払法人税等が減少したことなどにより前連結会計年度末に比べ1,191百万円(5.7%)減少して19,819百万円となりました。固定負債は、長期借入金が増加したことなどにより、前連結会計年度末に比べ6,186百万円(62.7%)増加して16,057百万円となりました。
純資産は、親会社株主に帰属する四半期純利益を1,373百万円計上しましたが、為替換算調整勘定のマイナスが減少したこと、並びにその他有価証券評価差額金が減少したことで、前連結会計年度末に比べ378百万円(1.4%)増加し、26,737百万円となりました。
(2)会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当第1四半期連結累計期間において会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定について重要な変更はありません。
(3)経営方針・経営戦略等
当第1四半期連結累計期間において当社グループが定めている経営方針・経営戦略等について重要な変更はありません。
(4)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当第1四半期連結累計期間において新たに発生した優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題はありません。
(5)研究開発活動
当第1四半期連結累計期間におけるグループ全体の研究開発活動の金額は、294,957千円であります。
なお、当第1四半期連結累計期間において、当社グループの研究開発活動の状況に重要な変更はありません。
#C2395JP #新日本科学 #サービス業セクター