【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
文中における将来に関する事項は、当四半期連結会計期間の末日現在において当社グループ(当社及び連結子会社)が判断したものであります。
(1)財政状態及び経営成績の状況
(経営成績)
医薬品業界は、国内外において研究開発のスピードアップと費用の効率化ならびに規制当局への対応簡素化を期待してCRO(Contract Research Organization:医薬品開発業務受託機関)へのアウトソーシング(外部委託)の動きが引き続き活発化しております。加えて、核酸医薬、次世代抗体医薬、ペプチド医薬、遺伝子治療、細胞治療、再生医療などの新規創薬モダリティ(治療手段)の研究開発が本格化してきています。このようなトレンドを受け、CRO事業を主力事業とする当社は、“ダントツのCRO”としてクライアントから第一に指名される存在になることを目指しており、顧客ニーズを満たす迅速な対応とサービスの向上ならびに継続的な品質の向上に注力しております。
当社は、2022年7月20日にCRO事業(非臨床事業)を主力事業とする株式会社イナリサーチ(以下、イナリサーチ)の公開買付け(TOB)を実施しました。第2四半期よりイナリサーチは当社の連結子会社となり、イナリサーチの2022年7月以降の業績である売上高2,121百万円、営業利益279百万円が当社グループの業績に加わっております。
CRO事業(非臨床事業)の大型受注に対応できる体制構築を主目的として、2022年12月に鹿児島本店の敷地内に新社屋・研究棟の建設に着手しました。新築する建物は、RC(鉄筋コンクリート)造地上8階建・2棟・延床面積13,022㎡で、バイオアナリシス研究部門、分析研究部門、IT部門、研究スタッフエリア、会議室、役員室などを配置します。総工費は付帯設備を含めて約54億円を予定しており、2024年6月の完成を目指しております。
加えて、アメリカでの海外事業を強化していく目的で、昨年からSNBL USA(米国ワシントン州エベレット市)が保有する敷地(約6万坪)の開発を進めております。その一環として、2023年1月にGlobal Services and Communications Division(GSC 統括部)を新設しました。GSC 統括部は、鹿児島と米国の2拠点に事業所を設置して活動します。欧米のGlobalクライアントからの受注増加に伴い、きめ細やかで迅速且つ確実な顧客対応を行うために、現地に Study Director (SD) クラスの経験豊富なスタッフを常駐させ、海外顧客へのサービスを強化してまいります
こうした状況の中、当第3四半期連結累計期間における売上高は16,371百万円と前第3四半期連結累計期間に比べて3,425百万円(26.5%)の増加となりました。営業利益は3,783百万円と前第3四半期連結累計期間に比べて483百万円(14.6%)の増加、経常利益は、6,880百万円と前第3四半期連結累計期間に比べて2,196百万円(46.9%)の増加となりました。なお、経常利益には為替差益1,185百万円(前第3四半期連結累計期間は為替差益490百万円)を計上しております。親会社株主に帰属する四半期純利益は、当社の重要投資先である米国Satsuma Pharmaceuticals社(以下、Satsuma社)の株式評価損1,198百万円を特別損失に計上したこと等から4,351百万円と前第3四半期連結累計期間に比べ896百万円(17.1%)減少となりました。なお、前第3四半期連結累計期間には、中国にて実験動物の繁殖事業を行っている肇慶創薬生物科技有限公司の持分譲渡と第三者割当増資の実施を康龍化成(北京)新薬技術股份有限公司(Pharmaron Group)に対して実行したこと等により特別利益1,419百万円を計上しております。
当社グループの従業員数(連結ベース/時間給・非常勤を除く)は、2022年12月31日現在で1,219名(2022年3月末比225人増)です。なお、当社の女性従業員比率は53.1%(2022年3月末は51.2%)となっております。
当社グループのセグメント別の経営成績及びSDGs/ESGへの取組みは次のとおりです。
① CRO事業
CRO事業は、細胞・実験動物等を用いる非臨床試験(または前臨床試験)を受託する非臨床事業と、臨床試験を受託する臨床事業から構成されます。非臨床事業は、当第3四半期連結累計期間も順調に推移しました。当社がこれまで実施してきた以下の取組みが成果を表してきております。
・CROとして世界で唯一構築できている「自社グループ内における実験用NHP(Non-Human Primates)繁殖・供給体制」が新たな創薬モダリティの研究開発の本格化等により重要性を増し、海外顧客からの受注増に繋がっております。
・新たな創薬モダリティの有効性・安全性評価に必要な最新鋭装置を導入し、評価系を早い時期から構築してきたことが、上記「自社グループ内における実験用NHP繁殖・供給体制」構築と相乗効果を発揮し、新たな創薬モダリティに関連した受注に繋がっております。
・大手製薬企業との創薬段階における包括的研究受託契約も順調に推移し、既に複数の企業から創薬段階の研究を受注しております。
上記取組みの結果、当第3四半期連結累計期間における非臨床事業の受注高は19,278百万円となり、高水準であった前第3四半期連結累計期間から1,418百万円(7.9%)の増加となりました。前第3四半期連結累計期間は、世界的な実験用NHPの枯渇による、実験用NHP確保を目的とした海外大手クライアントの早期委託と新型コロナウイルス関連の試験がありましたが、今期はこれらの要因による試験委託は一段落しつつあり、これらの特殊要因を除くと受注は堅調に伸長しております。2022年12月末の受注残高は32,585百万円と過去最高額を示しています。また、海外からの受注額は前第3四半期連結累計期間に比べて2,730百万円(52.7%)増加の7,910百万円と大幅に伸長しました。総受注額に占める海外受注比率は41.0%(前第3四半期連結累計期間は29.0%)となりました。イナリサーチのCRO事業(非臨床事業)業績は、当社グループとなった2022年7月からの6ヶ月間で売上高2,059百万円、営業利益283百万円、受注高は2,354百万円となっております。
このように、当社主力の非臨床事業は、海外市場からの受注が成長ドライバーとの認識で引き続き好環境が継続すると見込んでおります。
一方、臨床事業は、米国に本拠を置くグローバル臨床CROであるPPD,Inc.(以下、PPD社)との合弁会社である株式会社新日本科学PPD(以下 新日本科学PPD)において、主に国際共同治験(グローバル・スタディ)の受託事業を展開しております。新日本科学PPDは、PPD社が受託した国際共同治験の日本国内部分の実施を主力事業としており、外資系グローバル企業でありながら、当社が培ってきた調和を大切にする日本型経営要素を取り入れた職場環境を実現することで高い社員定着率を実現し、事業を順調に伸ばしています。なお、新日本科学PPDは持分法適用関連会社(現在の当社持分は40%)であることから、連結損益計算書に及ぼす影響額については、営業外収益の項目に「持分法による投資利益」として計上されています。新日本科学PPDの当第3四半期連結累計期間の「持分法による投資利益」は1,611百万円(前第3四半期連結累計期間は864百万円)と大幅に増加しております。2021年12月にPPD社は、世界的な大手医療機器企業であるThermo Fisher Scientific Inc.(以下、TF社)によって株式買収され、現在はTF社の100%子会社となっております。
CRO事業の当第3四半期連結累計期間の売上高は、15,515百万円と前第3四半期連結累計期間に比べ3,109百万円(25.1%)の増加となりました。同事業の営業利益は4,453百万円と前第3四半期連結累計期間に比べ599百万円(15.5%)の増加となり、売上高営業利益率は28.7%になっております。
② トランスレーショナル リサーチ事業(TR事業)
トランスレーショナル リサーチ事業(TR:Translational Research、以下、TR事業)とは、自社研究開発のほか、国内外の大学、バイオベンチャー、研究機関などにおいて基礎研究から生まれる有望なシーズや新技術を発掘し、付加価値を高めて事業化または株式上場、あるいはM&Aにつなげる研究開発型の事業で、創薬を指向しています。
1997年以来、TR事業として探求してきた経鼻投与基盤技術は、独自に発見した担体をベースにした粉体製剤技術と独自設計の投与デバイス(医療用具)を組み合わせたプラットフォーム技術であり、鼻粘膜からの速やかな薬物吸収に基づく即効性を特徴としており、加えて注射に比べて投与が簡易で製剤の室温保存も可能という強みがあります。
事業化については、Satsuma社が偏頭痛経鼻治療薬(開発コード:STS101)に関する経鼻技術を当社からライセンス導入し開発しています。Satsuma社は米国における臨床第3相試験において、2022年9月に長期安全性試験(試験名:ASCEND試験)の結果と、2022年11月に有効性確認試験(試験名:SUMMIT試験)の結果をそれぞれ発表しています。ASCEND試験では忍容性と安全性とが確認され、かつSUMMIT試験では主要評価項目の結果達成には至らなかったものの痛みの消失と煩わしい随伴症状の抑制(MBS Free)が投与後3時間から48時間まで継続してプラセボを統計学的有意に上回る結果が得られ、FDAへの承認申請に向けて準備中です。
加えて、当社連結子会社である株式会社SNLD(以下、SNLD社)では、パーキンソン病のオフ症状治療のための経鼻レスキュー薬(開発コード:TR-012001)の臨床第1相試験を実施しました。現在、合計21例の健常人を対象にTR-012001の安全性、忍容性及び薬物動態の評価を最終報告書にまとめています。現在、臨床開発体制を強化しており、次のステップに踏み出しております。このほか、TR事業別プロジェクトでは、粘膜免疫作用を期待した経鼻ワクチン研究組織を構築中で、新規ポートフォリオの重層化を目指しております。
上記の薬物の経鼻投与基盤技術を応用した自社創薬を行う一方、経鼻投与によって薬物の脳移行性を高める独自の送達技術(Nose-to-Brain技術)の応用を期待する問合せが増えております。
子会社の株式会社Gemsekiは、創薬シーズ・技術に関するライセンス仲介事業をグローバルベースで展開するとともに、同社を無限責任組合員としたファンドを組成し、ベンチャー企業への投資事業を行っております。
こうした中、TR事業の当第3四半期連結累計期間の売上高は、12百万円(前第3四半期連結累計期間:12百万円)、営業損失は518百万円(前第3四半期連結累計期間:営業損失496百万円)となりました。
③ メディポリス事業(社会的利益創出事業)
当社は、鹿児島県指宿市の高台に103万坪(3,400,000㎡)の広大な敷地(メディポリス指宿)を保有しており、この自然資本(約9割が森林)を活用した環境に配慮した社会的利益創出事業を行っています。具体的には、再生可能エネルギーを活用した発電事業、人々の健康の実現(ウェルビーイング)をメインコンセプトとしたホテル宿泊施設の運営(ホスピタリティ事業)などを行っております。
発電事業は、2015年2月に地熱発電所が稼働以来、順調に発電を継続しており、2022年3月期は過去最高発電量(1,075万kWh)を記録しました。当第3四半期連結累計期間は、新規発電プロジェクトとして、ホテルで浴用や床暖房に使用している泉源の余剰蒸気を活用した温泉発電所(年間発電量は400万kWh)の建設が2022年6月に完工しました。また、系統接続も2022年10月に完了しております。現在、発電設備の調整段階に入っており、完了次第、FIT(固定価格買取)制度による売電を開始してまいります。
ホスピタリティ事業は、お客様のニーズに合わせる形でホテル施設(宿泊部屋総数74室)を宿泊棟と機能ごとに3つに区分しており、ヒーリングリゾートホテル「別邸 天降る丘」、研修滞在型施設「指宿ベイヒルズHOTEL & SPA」、メディポリス国際陽子線治療センターの患者専用宿泊施設「HOTELフリージア」がそれぞれ稼働しております。
メディポリス事業の当第3四半期連結累計期間の売上高は、ホテル宿泊施設の稼働率が回復傾向にあることなどから492百万円と前第3四半期連結累計期間に比べ78百万円(18.8%)の増加となりました。営業損益は、発電事業において8年後定期点検を2022年8月に実施し約1か月間の発電を停止するとともに点検費用として約1億円の費用がかかったことなどから営業損失167百万円(前第3四半期連結累計期間:営業利益11百万円)となりました。8年後定期点検とは発電を開始して8年後に実施することが法的に定められているものです。
④ SDGs/ESGへの取組み
2015年9月の国連総会で採択された「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」は、2030年までの達成を目指す世界中の人々が幸せに暮らせるように定められた世界共通の目標です。これは、当社創業以来の企業理念「環境・生命・人材を大切にする会社であり続ける」と、当社スローガン「わたしも幸せ、あなたも幸せ、みんな幸せ」そのものであり、当社はSDGs/ESGの取組みについて業界のリーディングカンパニーであると自覚しております。
現在、2021年8月に取締役会の諮問機関として設置した「SDGs委員会」(委員長は独立社外取締役の戸谷圭子氏)において毎月活発な議論を行っており、その成果として作成したサステナビリティレポート及び各種ESGポリシー、TCFD提言に基づく情報開示等を自社WEBサイト上の専用ページ(https://www.snbl.co.jp/esg/)に開示しております。
当社はSDGs/ESGに関する継続的な取組みにより、各評価機関から高い評価を受けております。2022年6月にグローバルインデックスプロバイダーであるFTSE Russellにより構築されたFTSE Blossom Japan Sector Relative Indexの構成銘柄に選定されました。2022年8月には株式会社JPX総研及び株式会社日本経済新聞社が共同で算出を行っているJPX日経中小型株指数の構成銘柄に選定されました。
なお、2022年10月6日に「統合報告書2022」を発行しております。当社が創造していきたい未来として、2028Vision「ステークホルダーに寄り添い、幸せの連鎖を創造する」を掲げました。経営戦略では2028年度の財務目標として「売上高500億円、経常利益200億円、売上高経常利益率40%」を目指すと掲載しています。
生物多様性の保全への取組みとして、レッドリストに登録されているニホンウナギの稚魚であるシラスウナギの人工種苗研究を行っております。現在、養鰻業は、天然のシラスウナギに100%依存しており、シラスウナギが不漁の年はその価格が高騰することが問題となっています。また、近年はシラスウナギ漁獲量の減少から資源の枯渇も危惧されています。一方、人工的にシラスウナギの大量生産が実現すれば、ニホンウナギの完全養殖による商業化が可能になり、市場安定と共に天然資源の乱獲防止、日本の食文化と海洋資源の保全に貢献できます。併せて、地元鹿児島県における新たな地場産業として地域貢献できると考えています。
(資産、負債、純資産の状況)
当第3四半期連結累計期間における前連結会計年度末からの財政状態の変動は、以下のとおりです。
当第3四半期連結会計期間末の総資産は、前連結会計年度末に比べ19,372百万円(49.3%)増加し、58,685百万円となりました。流動資産は、現金及び預金が増加したことや棚卸資産が増加したことなどにより前連結会計年度末に比べ6,807百万円(42.2%)増加して22,941百万円となりました。固定資産は、設備投資の増加や投資有価証券が増加したことなどにより、前連結会計年度末に比べ12,565百万円(54.2%)増加して35,743百万円となりました。
負債は、前連結会計年度末に比べ10,754百万円(54.9%)増加し、30,344百万円となりました。流動負債は、受注拡大に伴い前受金が増加したことや短期借入金が増加したことなどにより、前連結会計年度末に比べ4,679百万円(35.0%)増加して18,053百万円となりました。固定負債は、長期借入金が増加したことなどにより、前連結会計年度末に比べ6,075百万円(97.7%)増加して12,291百万円となりました。
純資産は、親会社株主に帰属する四半期純利益を4,351百万円計上したことや、その他有価証券評価差額金が増加したこと、円安により為替換算調整勘定のマイナスが減少したことなどにより、前連結会計年度末に比べ8,617百万円(43.7%)増加し、28,340百万円となりました。
(2)会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当第3四半期連結累計期間において会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定について重要な変更はありません。
(3)経営方針・経営戦略等
当社は、当第3四半期連結累計期間において、当社が創造していきたい未来として「2028Vision」を新たに掲げました。当社の使命である「創薬と医療技術の向上を支援し、人類を苦痛から解放すること」を念頭に、多様なステークホルダーに寄り添い、事業を通してステークホルダーと共に経済的価値と社会的価値を一体的に創出することで、世の中に「幸せの連鎖を創造する」ことを目指してまいります。このビジョンの実現に向けては、「成長投資の強化」、「DX推進」、「人的資本の向上」の3つの取組みを重点的に推進していきます。経営戦略では「売上高500億円、経常利益200億円、売上高経常利益率40%」を2028年度の財務目標としております。
(2028Vision)
ステークホルダーに寄り添い、幸せの連鎖を創造する
(財務目標)
2028年度 売上高500億円、経常利益200億円、売上高経常利益率40%
(4)優先的に対処すべき事業上及び財務上の対処すべき課題
当第3四半期連結累計期間において新たに発生した優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題はありません。
(5)研究開発活動
当第3四半期連結累計期間におけるグループ全体の研究開発活動の金額は、378百万円であります。
なお、当第3四半期連結累計期間において、当社グループの研究開発活動の状況に重要な変更はありません。
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