【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
(業績等の概要)
(1)
業績当事業年度(2022年4月1日から2023年3月31日まで)の世界の経済情勢は、ロシアによるウクライナ侵攻後不確実性が高まり、資源価格の高騰を契機とするインフレ加速への懸念から欧米各国中央銀行は金融引締め政策を継続し、株式市場に大きく影響を与えています。2021年以降、バイオテック企業の株価指数は長らく低迷しており、ビッグファーマと言われる大手製薬企業の中には開発投資分野を見直す動きが現れ、バイオテック企業とのライセンス契約が打ち切られるケースも見られました。一方、我が国の経済は、底堅い力強さに欠けるものの一部産業では緩やかに回復傾向が見られました。国内バイオテック企業の株価指数は1年前とほぼ同水準ですが、企業別にみると、株価の浮沈は分かれている状況です。かかる環境下において、当社は、後述するとおりiPS細胞由来再生NKT細胞療法の研究開発環境を整え、事業化に向けて一歩前進しております。
細胞医薬〔iPS細胞由来再生NKT細胞療法:BP2201〕BP2201(iPS-NKT)は、iPS細胞から分化誘導したナチュラル・キラーT(NKT)細胞をがん治療に用いる新規の他家細胞医薬です。がん治療用細胞医薬として、がん抗原を認識するキメラ抗原受容体(CAR)を付加したCAR-T細胞療法の開発がグローバルで進められています。NKT細胞は、これらに多く用いられているT細胞やNK細胞、γδT細胞に対して、差別化された機能を有し、今後CAR-T細胞療法の土台となる免疫細胞として、大きな存在感をもって台頭してくることが想定されます。
当社は、本細胞療法の研究開発に、開発元の国立研究開発法人理化学研究所(以下「理研」)とともに取り組んでまいりましたが、2022年11月に導入オプション権を行使し、全世界で独占的に開発・製造・販売するライセンスを取得しました。
本ライセンスにより、1)iPS由来NKT細胞の他家細胞療法使用を広範かつ排他的に保護する「特許」(日米欧で登録済み)、2)現在進行中の治験によって臨床上の安全性と一定の有効性の示唆が期待される「マスターiPSセルバンク」、3)マスターiPSセルバンクからNKT細胞へ高純度で大量に分化誘導させる「製造法」の3つで構成されるプラットフォームを構築できました。このプラットフォームは、いろいろながん種のがん抗原に対するCAR遺伝子を導入した、新たな遺伝子改変iPS-NKT細胞医薬へ展開する土台となり、幅広いがん種と世界の幅広い地域への展開を可能にします。
2022年11月には、世界で初めてiPS-NKTプラットフォームで作製したプロトタイプのCAR-iPSNKTを2022年度米国癌免疫療法学会(Society for Immunotherapy of Cancer、以下「SITC2022」)年次会議で発表し、in vitro での抗腫瘍効果を示しました。2023年5月には、米国Artisan Bio社から遺伝子編集技術を導入する契約を締結し、固形がんを含む様々な適応症に対して高度な遺伝子組み換え型CAR-iPSNKTを利用した細胞療法プログラムを創出することが可能となりました。
また、2020年6月より国立大学法人千葉大学において頭頸部がんを対象とするiPS-NKTの臨床第Ⅰ相医師主導治験(以下「本治験」)が行われています。本治験は順調に進んでおり、臨床上の安全性における問題も報告されていません。
〔HER2 CAR-T細胞療法:BP2301〕BP2301は、様々な固形がんで高発現するHER2を標的抗原とするCAR-T細胞療法です。HER2を発現する固形がんが対象となり、2022年5月より国立大学法人信州大学においてHER2陽性の再発・進行骨・軟部肉腫及び婦人科悪性腫瘍を対象とする遺伝子改変HER2 CAR-T細胞の臨床第Ⅰ相医師主導治験が行われています。
これまで血液がんを標的とするCAR-T細胞療法は、優れた臨床効果が臨床試験で示され、グローバルで承認されてきました。しかし、より多くの方が罹患される固形がんへの展開においては、投与されたCAR-T細胞が、免疫抑制的な腫瘍微小環境において疲弊して機能を喪失し、十分に臨床効果を発揮できないという課題が明らかになってきました。この課題を解決するために、BP2301 では、体内での優れた複製能と長期生存能を特徴とし、それによって腫瘍微小環境における疲弊抵抗性と持続的抗腫瘍効果が期待される幹細胞様免疫記憶型(ステムセル・メモリー・フェノタイプ)細胞を多く含むCAR-T細胞を用います。これは、信州大学の中沢洋三教授の非ウイルス遺伝子導入法に基づき、中沢教授及び同大学柳生茂希教授と新規の細胞培養法を共同開発したことによって可能になりました。
抗体医薬抗体医薬では、腫瘍組織においてがん細胞を排除する免疫の働きを抑制する免疫チェックポイント分子もしくは免疫調整分子に結合し、その機能を阻害する抗体の開発を進めています。がん免疫を抑制するアデノシン産生に介入するCD73とCD39をそれぞれ標的とするBP1200とBP1202、免疫細胞に発現し、その抑制に関わるTIM-3を標的とするBP1210のほかに、CD39とTIM-3を共発現する免疫細胞において同時に阻害する抗CD39×抗TIM-3二重特異性抗体BP1212を開発パイプラインとして有します。
BP1202に関しては、腫瘍組織でがん免疫に強力な抑制をかける制御性T細胞(Treg)でのCD39の高発現を確認していることから、Tregを選択的に排除する機能を加える改変を施しました。BP1212の標的の組み合わせは、ファースト・イン・クラス(同じカテゴリーの中で最初に認可された新薬のこと)を狙うものとなります。こちらも2022年11月開催のSITC2022で研究報告しています。今後はこれらの非臨床試験を進めるとともに、まだ非臨床コンセプト証明に至っていない抗体についてはその段階へ到達させます。
がんワクチン〔免疫チェックポイント抗体連結個別化ネオアンチゲン・ワクチン:BP1209〕BP1209は、がん細胞由来の遺伝子変異に由来しヒトの免疫システムが高い反応性を示すネオアンチゲンを標的とするがん免疫を、患者1人ひとりに対応して誘導するのに最適化された、完全個別化ネオアンチゲン・ワクチン・プラットフォームです。ワクチンとなるネオアンチゲン・ペプチドを、T細胞へ標的情報を伝える樹状細胞へ送達するのに免疫チェックポイント抗体を用います。同抗体への結合が可能となるよう当社オリジナルのリンカー技術が組み込まれています。抗腫瘍免疫を指令する樹状細胞に効率よくワクチン抗原を送達することによって、ネオアンチゲンを目印にがん細胞を殺傷するT細胞をペプチド単体よりもはるかに多く誘導することを、担がんマウスモデルで証明しました。
〔がんペプチドワクチンGRN-1201〕GRN-1201は、欧米人に多いHLA-A2型の共通抗原ペプチド4種で構成される、米国や欧州を始めとするグローバル展開を想定したがんペプチドワクチンです。2022年5月に米国で実施してきたGRN-1201の非小細胞肺がんを対象とする免疫チェックポイント抗PD-1抗体併用第Ⅱ相臨床試験の早期中止を決定し、現在は当初の治験対象と試験プロトコルを見直し、開発パートナーと新しく臨床試験を開始する道を模索しています。
これらの結果、当事業年度につきましては、売上高は5,280千円(前年同期の売上高は15,408千円)、営業損失は1,467,059千円(前年同期の営業損失は1,476,033千円)、経常損失は1,473,774千円(前年同期の経常損失は1,481,945千円)、当期純損失は1,485,633千円(前年同期の当期純損失は1,484,192千円)となりました。
(2) 財政状態の状況 ① 流動資産当事業年度末における流動資産は前事業年度末より1,044,839千円減少し1,651,210千円となりました。これは、現金及び預金が株式の発行による収入があったものの、研究開発に関連する支出等で減少したことにより774,056千円減少したことが主な要因であります。
② 固定資産当事業年度末における固定資産は前事業年度末より24,917千円減少し50,234千円となりました。これは、研究機器の減価償却等により工具、器具及び備品が24,917千円減少したことが主な要因であります。
③ 流動負債当事業年度末における流動負債は前事業年度末より108,097千円減少し76,558千円となりました。これは、1年内償還予定の社債87,500千円を償還したこと、未払法人税等が28,408千円減少したことが主な要因であります。
④ 固定負債当事業年度末における固定負債は前事業年度末より2,274千円増加し57,345千円となりました。これは、退職給付引当金が2,183千円増加したことが主な要因であります。
⑤ 純資産当事業年度末における純資産は前事業年度末より963,934千円減少し、1,567,541千円となりました。これは、新株予約権の行使により資本金及び資本剰余金の合計が524,371千円増加し、当期純損失により利益剰余金が1,485,633千円減少したことが主な要因であります。以上の結果、自己資本比率は前事業年度末の90.5%から90.9%となりました。
(3) キャッシュ・フローの状況当事業年度末における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、前事業年度末と比べて774,056千円減少し、1,530,969千円となりました。当事業年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)営業活動の結果使用した資金は1,204,401千円(前事業年度は1,512,022千円の支出)となりました。これは主に税引前当期純損失1,483,733千円を計上したことによるものであります。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)投資活動の結果使用した資金は1,760千円(前事業年度は17,566千円の支出)となりました。これは、会計システムの切替えに備えた、過年度データ閲覧のためのサーバーの取得による支出1,005千円によるものであります。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)財務活動の結果得られた資金は432,104千円(前事業年度は569,226千円の収入)となりました。これは、主に新株予約権の行使による株式の発行による収入519,604千円によるものであります。
(生産、受注及び販売の状況)
(1)
生産実績当事業年度における生産実績をセグメントごとに示すと、以下のとおりであります。
セグメントの名称
生産高(千円)
前年同期比(%)
医薬品開発事業
-
-
合計
-
-
(注)前事業年度及び当事業年度ともに生産実績がありませんでした。
(2)
受注実績当事業年度における受注実績をセグメントごとに示すと、以下のとおりであります。
セグメントの名称
受注高(千円)
前年同期比(%)
受注残高(千円)
前年同期比(%)
医薬品開発事業
-
-
-
-
合計
-
-
-
-
(注)前事業年度及び当事業年度ともに受注実績がありませんでした。
(3) 販売実績当事業年度における販売実績をセグメントごとに示すと、以下のとおりであります。
セグメントの名称
販売高(千円)
前年同期比(%)
医薬品開発事業
5,280
△65.7
合計
5,280
△65.7
(注)最近事業年度の主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は、以下のとおりであります。
相手先
前事業年度(自
2021年4月1日至
2022年3月31日)
当事業年度(自
2022年4月1日至
2023年3月31日)
販売高(千円)
割合(%)
販売高(千円)
割合(%)
学校法人順天堂 順天堂大学
15,000
97.3
5,000
94.7
(経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容)当事業年度における当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析は下記のとおりであります。なお、当社は、医薬品開発事業の単一事業であるため、セグメント別の業績に関する記載を省略しております。また、文中の将来に関する事項は、当事業年度末現在において当社が判断したものであります。
(経営指標について)当社は、創薬ベンチャーであり、研究開発活動という投資期間が長く、その研究開発活動の成果として、ライセンスアウトによる契約一時金やマイルストン収入等などを獲得するビジネスモデルであります。中長期的視点からの経営の安定化、企業価値の向上を目指して、また著しい技術革新がなされ、大きな期待を受けているがん免疫治療薬分野における大きな事業機会を逃さないために、既存のパイプラインの推進のみならず、新規のパイプラインを積極的に導入していく方針であります。従いまして、売上高や当期純損益の推移やROE、ROAといった経営指標を目的とすることはせずに、現預金残高の推移、研究開発活動の効率化、パイプライン数の拡大・充実について、財務状況を勘案しながら、早期のライセンスアウト及び黒字化の実現に向けて、事業を進めてまいります。
(1) 重要な会計方針及び見積り当社の財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して作成されております。この財務諸表の作成にあたり、見積りが必要な事項につきましては合理的な基準に基づき、会計上の見積りを行っております。この見積りに関しては、過去の実績や適切と判断する仮定に基づいて合理的に算出しておりますが、実際の結果はこれらの見積りと相違する可能性があります。
(2) 当事業年度末の財政状態の分析
①
資産の状況当事業年度末における資産合計は、前事業年度末より1,069,757千円減少し1,701,444千円となりました。これは、現金及び預金が、財務活動による収入があったものの研究開発に関連する支出が大きかったこと等により774,056千円減少したことが、主な理由であります。また、当事業年度末における資産の内訳としましては、現金及び預金が1,530,969千円と、資産の合計の90.0%を占めており、研究開発を推進していくにあたり、当面の資金は確保している状況にあります。今後の現金及び預金の残高推移については、株式市場等からの資金調達やライセンスアウトによる契約一時金収入・マイルストン収入の獲得が実施されるまでの期間において、主に研究開発費用及び研究機器等の購入に伴う支出により減少する傾向にあります。現金及び預金の残高推移を注視しつつ、がん免疫治療薬分野の最先端の研究開発を積極的に推進してまいります。
②
負債の状況当事業年度末における負債合計は、前事業年度末より105,823千円減少し133,903千円となりました。これは、1年内償還予定の社債87,500千円を償還したこと、未払法人税等が28,408千円減少したことが主な理由であります。当事業年度末における総資産に占める負債の割合は7.9%であります。当社の有するパイプライン開発の推進に伴い、未払金は増加する傾向にあります。当事業年度末における現金及び預金の残高に対する負債の割合は非常に小さいと考えており、引き続き効率的な研究開発活動を推進してまいります。
③
純資産の状況当事業年度末における純資産は、前事業年度末より963,934千円減少し1,567,541千円となりました。これは、新株予約権の行使により資本金及び資本剰余金の合計が524,371千円増加し、当期純損失により利益剰余金が1,485,633千円減少したことが主な理由であります。自己資本比率は前事業年度末の90.5%から90.9%となりました。
(3) 当事業年度の経営成績の分析
①
売上高の状況当事業年度の売上高につきましては、前事業年度と比べ10,128千円減少(65.7%減)し、5,280千円となりました。
②
営業損益の状況当事業年度における営業損失は、前事業年度と比べ8,973千円損失が減少し1,467,059千円となりました。当社は新規のがん免疫治療薬に開発領域を特化し、細胞医薬、抗体医薬、がんワクチンモダリティに関する探索から早期臨床試験段階にある複数のパイプラインの開発を同時並行で進めておりますが、当事業年度の研究開発費は前事業年度と比べ2.9%増加し1,168,473千円となりました。当社の販管費に占める研究開発費の割合は79.5%となり、研究開発費の推移が営業損益に直接影響を与える構造となっております。各パイプラインの推進に加え、日進月歩でサイエンスが進む環境に迅速に適合していくためにも、新規シーズの導入は今後も引き続き積極的に行っていく方針であるとともに、川崎創薬研究所において創出している新規医薬品候補の開発を順次進めてまいります。
③
当期純損益の状況当事業年度における当期純損益は、前事業年度と比べ1,441千円損失が増加し1,485,633千円となりました。当事業年度の売上総利益が前事業年度と比べ8,707千円減少した一方、販売費及び一般管理費が前事業年度と比べ17,680千円減少したこと、また特別損益では、新株予約権戻入益が前事業年度と比べ5,899千円減少し、減損損失が前事業年度と比べ4,257千円増加したことが主な要因であります。
(4) 当事業年度のキャッシュ・フローの分析当事業年度のキャッシュ・フローの分析については、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 業績等の概要 (3) キャッシュ・フローの状況」をご参照ください。
(5) 経営成績に重要な影響を与える要因について経営成績に重要な影響を与える要因は、当社が推進する研究開発を遅延又は中止させる事象でありますが、詳細については「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」をご参照ください。
(6) 資金の財源及び資金の流動性についての分析当社の資金需要は、研究開発にかかる人件費、試薬等材料費、消耗品費、外部委託費及び研究機器の購入等及び事業運営・上場維持にかかる人件費、外部委託費及び特許関連費用等であります。これらの費用及び研究機器の購入等については、自己資金により支出していく予定であります。自己資金については、すべて銀行預金としておりますので、すべての支出について迅速かつ確実に対応できるよう資金の流動性を確保しております。
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