【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
文中の将来に関する事項は、当四半期連結会計期間の末日現在において帝人グループが判断したものです。
(1) 財政状態及び経営成績の状況
1) 経営成績
帝人グループの当第3四半期連結累計期間の経営成績は、売上高が前年同期対比で11.4%増の7,651億円となり、営業利益は同61.1%減の148億円となりました。経常利益は前年同期対比57.8%減の175億円、減損損失の計上や税効果が認識できない海外子会社の赤字幅拡大等に伴う税負担率の上昇により、親会社株主に帰属する四半期純損失は71億円(前年同期は258億円の親会社株主に帰属する四半期純利益)となりました。営業利益に関して、マテリアル事業領域では、堅調な需要を背景とした自動車用途・航空機用途の販売量の増加や為替影響が収益に貢献したものの、米国拠点での設備故障による一時的な生産性悪化、欧州拠点での労働需給の逼迫に伴う労働力不足による生産性悪化や工場火災による生産量低下、中国ロックダウンおよびその後の中国経済減速、原燃料価格高騰および物流費増等の影響により減益となりました。ヘルスケア事業領域においても、痛風・高尿酸血症治療剤「フェブリク」の後発品参入により販売数量が減少したことや、薬価改定影響等により減益となりました。繊維・製品事業は、販売が堅調に推移し前年同期対比増益となりましたが、IT事業は、電子コミックサービスにおける広告費増等により、減益となりました。
当第3四半期連結累計期間におけるセグメントごとの経営成績は次のとおりです。
なお、第1四半期連結会計期間より、帝人ナカシマメディカル㈱および帝人メディカルテクノロジー㈱を中心に展開している埋込型医療機器事業については、全社的・長期的視点で育成・強化を図る新規事業と位置づけ、「ヘルスケア」セグメントから「その他」セグメントへ変更しています。前年同期比較については、前年同期の数値を変更後のセグメント区分に組み替えた数値で実施しています。
◆マテリアル事業領域:堅調な需要を背景とし自動車用途・航空機用途を中心に販売量の増加や為替影響による収益押し上げ効果はあったものの、米国拠点での設備故障による一時的な生産性悪化、欧州拠点での労働需給逼迫による生産性悪化や工場火災による生産量低下、中国でのロックダウンおよびその後の中国経済減速による工場稼働率の低下、原燃料価格高騰および物流費増等が利益に影響
売上高は3,465億円と前年同期対比619億円の増収(21.8%増)、営業損失は120億円と前年同期対比72億円の損失の増加となりました。
アラミド事業分野では、主力のパラアラミド繊維「トワロン」において、旺盛な需要が継続しましたが、労働需給の引き締まりによる労働力不足に伴う生産性悪化および第3四半期に発生した原料工場の火災による生産ラインの休止等により生産量が低下し、販売量が減少しました。また、欧州の天然ガス価格高騰を背景とした燃料コストの上昇を受けて、販売価格の改定を進めましたが、採算性は悪化しました。一方で、前年同期の大型定修の反動による操業度改善や為替影響が利益に貢献しました。結果、前年同期対比増収・増益となりました。
樹脂事業分野では、主力のポリカーボネート樹脂において、中国ロックダウンおよびその後の中国経済減速の影響を受けて、工場の稼働率が低下し、販売量が減少しました。また、主原料であるBPAの価格は下落しましたが、その他の原燃料価格が上昇しました。結果、前年同期対比減収・減益となりました。
炭素繊維事業分野では、用途全般において炭素繊維「テナックス」の需要が堅調に推移する中、航空機向けの販売量が増加したことにより、販売構成が改善しました。また、主原料であるANの価格高騰を受けて、販売価格の改定を進めました。結果、前年同期対比増収・増益となりました。
電池部材分野では、リチウムイオンバッテリー用セパレータ「リエルソート」が前年同期に引き続き、スマートフォン向けの販売量を伸ばしました。結果、前年同期対比増収・増益となりました。
複合成形材料事業分野では、Teijin Automotive Technologies*(米)(TAT-US社)で、主要顧客であるOEMで半導体などの部品不足影響が軽減したほか、新大型プログラムの販売本格化もあり、販売量が増加しました。また、原材料価格の高騰が継続しており、引き続き販売価格の改定交渉を行い、複数のOEMとの妥結が進みました。一方で、米国一部工場で発生した成形工程の設備故障により、一時的な生産性悪化や追加費用が発生したほか、米国の労働市場参加率は徐々に改善傾向にあるものの、労働需給逼迫による労働力不足が継続しました。結果、前年同期対比、増収・減益となりました。
* 自動車向け複合成形材料事業のグローバル事業ブランド
◆ヘルスケア事業領域:糖尿病治療剤の販売や在宅医療機器のレンタルは堅調。一方で、医薬品「フェブリク」
は、後発品参入により販売量が減少し収益に影響
売上高は1,153億円と前年同期対比183億円の減収(13.7%減)、営業利益は198億円と前年同期対比177億円の減益(47.2%減)となりました。
医薬品分野では、「フェブリク」の後発品が2022年6月より参入したことにより、販売量が減少しました。さらに、長期収載品を中心に2022年4月の薬価改定影響を受け、前年同期にライセンス対価収入の計上があった影響もあり減収要因となりました。一方で、前年度に武田薬品工業(株)より承継した糖尿病治療剤の販売は堅調に推移したほか、先端巨大症・下垂体性巨人症/神経内分泌腫瘍治療剤「ソマチュリン*1」や上下肢痙縮治療剤「ゼオマイン*2」が順調に販売量を拡大しました。2023月1月には、骨粗鬆症治療剤「オスタバロ1.5mg」を上市しました。
*1 ソマチュリン®/Somatuline®は、Ipsen Pharma(仏)の登録商標です。
*2 ゼオマイン®/Xeomin®は、Merz Pharma GmbH &Co, KGaA(独)の登録商標です。
在宅医療分野では、在宅酸素療法(HOT)市場において、医療機関におけるCOVID-19向け病床確保のための入院抑制・在宅療養へのシフトが継続しているものの、COVID-19による酸素濃縮器の導入は落ち着いてきており、レンタル台数は前年度並みの水準となりました。また、在宅持続陽圧呼吸療法(CPAP)市場では、COVID-19 第8波等の影響により検査数の回復はやや鈍化しているものの、レンタル台数の増加が継続しました。
◆繊維・製品事業:
売上高は2,405億円と前年同期対比336億円の増収(16.3%増)、営業利益は82億円と前年同期対比37億円の増益(80.7%増)となりました。
衣料繊維は、欧米や中国向けのテキスタイル・衣料品の販売が好調に推移しました。産業資材では、水処理フィルター向けのポリエステル短繊維、自動車関連部材、人工皮革の販売が堅調に推移しました。原燃料価格や物流費の高騰、円安影響による仕入れコストの上昇が業績に影響しましたが、繊維原料・テキスタイルの販売価格改定を進めました。
◆IT事業:
売上高は416億円と前年同期対比17億円の増収(4.3%増)、営業利益は54億円と前年同期対比14億円の減益(20.8%減)となりました。
ネットビジネス分野では、電子コミックサービスにおいて広告宣伝活動の強化を継続し販売は好調に推移しました。ITサービス分野では、企業向けは堅調に推移した一方で、ヘルスケア事業がCOVID-19の影響を受けました。
◆その他(エンジニアリング事業、埋込型医療機器事業、再生医療事業等):
売上高は212億円と前年同期対比9億円の減収(4.1%減)、営業損失は23億円と前年同期対比9億円の損失の増加となりました。
人工関節・吸収性骨接合材等の埋込型医療機器事業は、2022年2月のKiSCO株式会社からの外傷・脊椎事業買収と人工関節の販売好調により、前年同期対比増収となりました。
再生医療事業の㈱ジャパン・ティッシュエンジニアリングにおいては、自家培養軟骨「ジャック」及び自家培養口腔粘膜上皮「オキュラル」の売上が拡大した一方、自家培養表皮「ジェイス」の売上が減少した影響等により、前年同期対比減収となりました。
2) 財政状態
当第3四半期連結会計期間末の総資産は、主要通貨に対する円安の進行に加え、現預金の増加や原燃料価格高騰による棚卸資産の増加等により、前期末対比314億円増加の12,390億円となりました。
負債は、主要通貨に対する円安の進行に加え、借入金の増加等により、前期末対比435億円増加の7,863億円となりました。
純資産は、主要通貨に対する円安の進行による為替換算調整勘定の増加の一方、親会社株主に帰属する四半期純損失の計上等により、前期末対比121億円減少の4,527億円となりました。
なお、当第3四半期末のBS換算レートは、133円/米ドル、141円/ユーロ、1.07米ドル/ユーロ(前期末122円/米ドル、137円/ユーロ、1.12米ドル/ユーロ)となっています。
(帝人グループの資本の財源及び資金の流動性について)
帝人グループの資金需要の主なものは、製品製造のための原材料等の購入、製造費、販売費やサービス提供費用等の運転資金需要に加え、設備投資や研究開発活動費等の「将来の成長に向けての投資」があります。中期経営計画2020-2022『ALWAYS EVOLVING』の3年累計では、設備投資及びM&A枠として当初3,500億円の資源投入規模を設定していましたが、大型投資である糖尿病治療薬の国内販売承継により早期のキャッシュ創出が見込めるため、成長基盤確立のための積極投資を継続すべく、投資枠を4,500億円に拡大しました。現時点では3年累計で約4,000億円の見通しです。研究開発費については、マテリアル事業領域の複合成形材料分野やヘルスケア事業領域を中心に同中期経営計画の3年累計で1,100億円の資源投入を計画していましたが、現時点では3年累計で約1,000億円の見通しです。
帝人グループの事業活動の維持拡大に必要な資金を安定的に確保するため、内部資金の活用、金融機関からの借入及び社債の発行等により資金調達を行っており、財務体質の健全性を維持(D/Eレシオ0.9が目安)しながら資本効率の維持・向上を図るべく、最適な選択を実施していきます。また、日米欧中の各拠点においては、グループ内余剰資金を活用するためにキャッシュ・マネジメント・システムを導入し、資金効率の向上に努めています。帝人グループは、国内格付機関である格付投資情報センターから格付を取得しており、本報告書提出時点においてはAマイナス(安定的)となっています。金融機関には十分な借入枠を有しており、帝人グループの事業運営に必要な運転資金や将来の成長に向けた投資資金の調達に関しては問題なく実施可能と認識するとともに、高水準で維持している現預金も含め、緊急時の流動性を確保しています。
なお、当第3四半期連結会計期間末の有利子負債残高は5,236億円となりました。資金調達コストの低減に努める一方、設備投資に対応する借入の大部分については、長期調達するとともに過度に金利変動リスクに晒されないよう金利スワップ等の手段を活用し、固定化しています。
(2) 経営方針、経営戦略及び対処すべき課題等
当第3四半期連結累計期間において、帝人グループの経営方針、経営戦略及び対処すべき課題等について重要な変更はありません。
(3) 会社の支配に関する基本方針
当第3四半期連結累計期間において、帝人グループの財務及び事業の方針の決定を支配する者の在り方に関する基本方針について重要な変更はありません。
(4) 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当第3四半期連結累計期間において、Teijin Automotive Technologies(米)ののれんの評価に用いた主要な仮定について見直しを行い、半導体を含む原材料や部品の不足等によるOEMの生産減、原材料価格の高騰、一部工場での設備故障に伴う生産性悪化と追加費用の発生、労働力不足の継続による生産性改善の遅延等を織込んでいます。
(5) 研究開発活動
当第3四半期連結累計期間における当社及び連結子会社の研究開発活動の金額は234億円です。
なお、当第3四半期連結累計期間において、研究開発活動の状況に重要な変更はありません。