【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
当第3四半期累計期間における事業環境は、新型コロナウイルス感染症の流行やロシア・ウクライナの政情不安などにより、引き続き、グローバル規模で経済活動に制約を伴う状況が続いております。新型コロナウイルス感染症の流行については、一部地域では沈静化の兆しが見られるものの、直近の国内においては、新型コロナウイルス感染者数が大幅に増加する傾向にあり、依然として先行きが不透明な状況が継続しております。当社が属する医療業界においても、国内における新型コロナウイルス感染症の再拡大により、移動制限や患者の受診抑制などにより、治験などの研究開発活動に制約を伴う状況が継続しております。このような業界動向は、当社が現在実施中のパイプライン開発のための研究開発活動やライセンス活動の進捗に、少なからず影響を与えております。 上記事業環境の下、当社は、医療現場の課題を解決するための多様なモダリティ(医薬品、医療機器、人工知能(AI)ソリューション)を、医師と共に医療現場で研究開発し、医療イノベーション創出に貢献し続けるべく、事業活動を行っております。
当第3四半期の経営成績、財政状態の状況及び研究開発活動は以下のとおりです。なお、文中の将来に関する事項は、当四半期会計期間の末日現在において当社が判断したものです。
(1) 経営成績の状況当第3四半期累計期間における事業収益は、RSAI02慢性透析システム支援における契約一時金の受領及びRS5614COVID-19に係るオプション料受領により30,000千円(前年同四半期66,061千円)となりました。また、営業損失は、RS8001月経前症候群(PMS)及び月経前不快気分障害(PMDD)治療薬やRS5614慢性骨髄性白血病(CML)治療薬などに係る研究開発費102,009千円を含む事業費用254,912千円を計上したことにより225,162千円(前年同四半期営業損失133,666千円)、経常損失は受取利息9千円などを計上したことにより225,148千円(前年同四半期経常損失164,606千円)、四半期純損失は、法人税、住民税及び事業税1,466千円を計上したことにより226,615千円(前年同四半期純損失164,825千円)となりました。なお、当社の事業は単一セグメントであるため、セグメント別の記載を省略しております。
(2) 財政状態の状況(資産)当第3四半期会計期間末の流動資産は、前事業年度末の2,428,148千円と比べて67,846千円減少し、2,360,301千円となりました。これは主として研究開発費や人件費などの支払いにより、現金及び預金が99,478千円減少した一方、研究開発費等の前払費用が30,392千円増加したことなどによるものです。また、当第3四半期会計期間末の固定資産は、前事業年度末の9,880千円と比べて1,040千円減少し、8,839千円となりました。これは主として有形固定資産に係る減価償却費の計上によるものです。この結果、資産合計は、前事業年度末の2,438,028千円と比べて68,886千円減少し、2,369,141千円となりました。
(負債) 当第3四半期会計期間末の流動負債は、前事業年度末の37,942千円と比べて47,357千円増加し、85,299千円となりました。これは主として、RS5614慢性骨髄性白血病(CML)治療薬、RS5614悪性黒色腫(メラノーマ)治療薬及びRSAI03糖尿病治療支援システムに係るAMEDからの研究資金の受領により、前受金が38,566千円増加したことなどによるものです。また、当第3四半期会計期間末の固定負債は、前事業年度末の199,228千円と比べて110,371千円増加し、309,600千円となりました。これは、RS8001月経前症候群(PMS)及び月経前不快気分障害(PMDD)治療薬に係るAMEDからの長期借入金の増加によるものです。この結果、負債合計は、前事業年度末の237,171千円と比べて157,728千円増加し、394,899千円となりました。
(純資産) 当第3四半期会計期間末の純資産は、前事業年度末の2,200,857千円と比べて226,615千円減少し、1,974,241千円となりました。これは四半期純損失226,615千円を計上したことによるものです。
(3) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題当第3四半期累計期間において、当社が優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題について重要な変更はありません。
(4) 研究開発活動当社は、医薬品・医療機器・人工知能(AI)を活用した医療ソリューション等、多様なモダリティ(治療様式)にわたる複数パイプラインの研究開発を進めており、当第3四半期会計期間における主要パイプライン開発の進捗及びこれまでの開発実績は以下のとおりです。なお、当第3四半期累計期間における研究開発費は102,009千円であり、当第3四半期累計期間末日の当社研究開発従事者人員は4名(臨時雇用者を含む)です。
a.RS5614(PAI-1阻害薬)(a) 慢性骨髄性白血病(CML)治療薬慢性CML患者を対象とした後期第Ⅱ相医師主導治験において、チロシンキナーゼ阻害薬(tyrosine kinase inhibitor、TKI)とRS5614を併用し、RS5614投与開始後48週における累積の深い分子遺伝学的奏効(deep molecular response、DMR:がんの原因遺伝子が検出されない状態)の達成率(※1)は33.3%(33例中11例でDMRを達成)であり、TKI単独でのヒストリカルコントロール(8-12%)に比べて有意に上昇していることを確認しました(2021年3月治験総括報告書完成、POC取得)。特に、TKI治療期間が3年以上5年以下の患者での累積DMR達成率は50.0%に達しました。また、RS5614の1年間の長期投与でも治療薬と因果関係のある重篤な有害事象は認められませんでした。本試験結果は、科学誌「Cancer Medicine」(2022年)に掲載されました。後期第Ⅱ相試験の成績に基づいて、東北大学、東海大学、秋田大学等12の大学等の医療機関と共同で慢性期CML患者を対象にTKIとRS5614の併用効果を検証するプラセボ対照二重盲検(※2)の第Ⅲ相医師主導治験を実施中です。本試験は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の令和4年度「革新的がん医療実用化研究事業(東北大学が研究代表機関であり、当社も分担研究機関として参画)」に採択されました。独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)と2021年11月及び同年12月に対面助言を行い、2022年5月にPMDAに治験計画届を提出し、多施設共同の第Ⅲ相試験を開始しました。TKI治療期間が3年以上の慢性期CML患者60名を対象とし、TKI単独投与群よりも治験薬RS5614の併用群が2年間以上のDMR維持率を有意に上昇させることを検証します。
(※1) DMR達成率:現在の慢性期CML治療では高額なTKIを生涯服用する必要がありますが、最も深い治療効果であるDMRを達成し、一定期間維持した一部の患者では、TKIを中止しても再発がないこと(無治療寛解維持;TFR)が近年明らかとなっています。これまでに既存TKIで公表されている1年間(48週)の累積DMR達成率は8-12%(ヒストリカルコントロール)です。なお、DMR維持とは、DMRを達成した状態が一定期間継続することです。(※2) 二重盲検:対象患者を無作為に、治験薬(今回はRS5614)を投与する群と対照薬(今回は効果がないプラセボ)を投与する群に分け、医師も患者もどちらが投与されるかを知らない条件で、両群同時に薬を投与する臨床試験方法。医師が効果の期待される患者に対して被験薬を投与する等の故意が生じたり、効果があるはずといった先入観が評価に反映される可能性や、患者が知った場合もその処置への反応や評価に影響が生じることを避けるための試験方法です。それぞれの群で出た結果を比較評価することで、治験薬の効果があるかを判断します。
(b) 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に伴う肺傷害治療薬当社は、RS5614の肺微小血栓、線維化、肺気腫改善作用及び肺(上皮)保護作用に着目し、COVID-19に伴う肺傷害治療薬(経口薬)を開発しています。2020年秋から前期第Ⅱ相医師主導治験(非盲検)を実施し、2021年6月に治験総括報告書が完成しました。特筆すべき副作用は無く、肺傷害で入院し本治験薬を投与された26名全員が無事退院されました。前期第Ⅱ相医師主導治験の成績に基づき、東北大学、京都大学、東京医科歯科大学、東海大学等国内20の大学等の医療機関と共同で、COVID-19肺傷害患者(中等症、入院患者)を対象とするプラセボ対照の後期第Ⅱ相医師主導治験を実施しました。本試験は、2021年3月にAMEDの「新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(研究代表機関は東北大学、当社は分担研究機関)」に採択され、2021年4月のPMDA事前面談に基づき実施計画書を確定して2021年6月から開始しました。感染者数が激減した時期やオミクロン株の出現により対象となるCOVID-19肺傷害患者(中等症、入院患者)が減少したために、2022年10月末まで治験を延長し(登録症例数75例)、2023年3月に治験総括報告書を纏める予定です。2020年12月25日、COVID-19肺炎及びその他肺傷害等の肺疾患治療用途について第一三共株式会社とオプション権付優先交渉権に関する契約を締結しました。本契約締結時はオプション期間を1年後の2021年12月31日としていましたが、後期第Ⅱ相医師主導治験の期間に合わせてオプション期間を2022年12月まで延長しました。さらに、2022年11月には、COVID-19だけではなく、抗がん剤治療等から生じる間質性肺炎に対するRS5614の有効性を確認する臨床試験も視野に入れ、オプション期間を2025年3月まで延長する覚書を締結し、オプション期間延長の対価を受領しました。
(c) 悪性黒色腫(メラノーマ)治療薬国内のメラノーマ患者では、海外とは異なるサブタイプのメラノーマが多いことから、抗PD-1抗体(ニボルマブ)単剤療法による治療が奏効しづらいとされています。RS5614が免疫チェックポイント分子を制御しがん免疫系を活性化する作用に基づき、NPO法人「Japan Skin Cancer Network(JSCaN)」を立ち上げてメラノーマの治療成績向上のために連携している東北大学、筑波大学、都立駒込病院、近畿大学、名古屋市立大学、熊本大学の6大学と共同で、メラノーマ治療薬としてのRS5614の有効性と安全性を確認するための第Ⅱ相医師主導治験を2021年7月に開始しました(2024年3月終了予定)。本試験は、2021年5月にAMED「橋渡し研究プログラムシーズC(研究代表機関は東北大学、当社は分担研究機関)」の助成金を得て実施しています。本医師主導治験は、進行性悪性黒色腫(メラノーマ)患者40例を対象とする多施設共同、非盲検試験です。ニボルマブ併用のもと、RS5614を1日1回120-180mgで投与し、8週間投与後に有効性と安全性の評価を行います。2022年6月までに症例登録が順調に進み、目標の半数である20例に達したため、中間解析を行いました。現在、ニボルマブ無効群を優先して被験者登録を順調に進めております。
(d) 間質性肺疾患治療薬RS5614が間質性肺疾患(間質性肺炎・肺線維症)を改善することを示唆する非臨床試験の成績に基づき、特発性間質性肺炎の急性憎悪を対象としたRS5614の臨床試験実施を視野に入れて、2022年12月に京都大学と共同研究契約を締結しました。また、抗がん剤の副作用である間質性肺疾患に対するRS5614の効果についても京都大学と共同で研究する予定です。
(e) FGF23関連性低リン血症性くる病治療薬過剰産生された線維芽細胞増殖因子23(fibroblast growth factor23, FGF23)により尿中のリン排泄が亢進し、低リン血症から骨変形や成長障害等生じる希少疾患です。RS5614によりFGF23の分解が促進されることが報告され、FGF23関連性低リン血症性くる病の病態を改善できる可能性が示唆され、2022年3月に東京医科歯科大学と共同研究契約を締結しました。
(f) RS5441(PAI-1阻害薬)脱毛症治療薬導出先のEirion Therapeutics Inc(米国)で、脱毛症の第Ⅰ相試験を準備中です(2023年度実施予定)。
(g) RS5614(PAI-1阻害薬)の新規適応RS5614が、がん免疫系を活性化する知見に基づいて、メラノーマ以外でのがん免疫療法の新たな適応についての検討を開始しました。具体的には、2022年10月に広島大学と共同研究契約を締結し、共同で非小細胞性肺がん(※1)についての検討を行う予定です。また、東北大学と共同で希少疾患の血管肉腫(※2)及び全身性強皮症(※3)に伴う間質性肺疾患についても取り組む予定です。
(※1) 非小細胞性肺がん:肺がんは、小細胞肺がんと非小細胞肺がん(NSCLC)の2種類に分類され、NSCLCは肺がんの80~85%を占めています。肺がんは、日本では年間約13.8万人(世界全体で約220万人)が新たに診断され、肺がんによる死亡者数は、日本では年間約8.2万人(世界全体で約179万人)と推定されており、いずれもがんによる死亡原因の第1位となっています。NSCLCでは、ⅠA期からⅢA期で手術が可能であれば、手術による外科切除が考慮されますが、手術を行った場合でも、NSCLCの患者の30-55%が再発し、この疾患で亡くなっています。ⅢB期、ⅢC期、Ⅳ期では、化学療法、がん免疫療法、分子標的療法が行われています。(※2) 血管肉腫:皮膚がんの一種で、とりわけ頭皮の血管肉腫は100万人当たり2.5人程度とまれですが、極めて悪性度が高く、急速に進行し、5年の無病生存率は20%以下と報告され、標準的な治療法は確立されていません。がん免疫療法の新たな治療法の可能性が示唆されています。(※3) 全身性強皮症:全身性強皮症は、皮膚の硬化に加えて多臓器の線維化が生じる原因不明の難治性の疾患で、国内の患者数は3万人以上といわれ、自己抗体陽性等の免疫の異常を伴います。その最も多い死因は、間質性肺疾患(間質性肺炎・肺線維症)で、患者の50~60%で認められ、生命予後に大きく影響することが分かっています。
b.RS8001(ピリドキサミン)(a) RS8001(月経前症候群(PMS)及び月経前不快気分障害(PMDD)治療薬)PMS/PMDDに対するRS8001の第Ⅱ相医師主導治験を、近畿大学、東北大学、東京医科歯科大学、東京女子医科大学と共同で進めています(プラセボリードイン方式プラセボ対照二重盲検3群比較試験、目標症例数105例、2023年12月終了予定)。本治験は、2019年度にAMEDの「医療研究開発革新基盤創生事業(CiCLE)(当社が研究代表機関)」に採択されました。当初予定の2021年2月より早い2020年11月から治験を開始できましたが、COVID-19拡大の影響により患者来院数が減少したため、症例登録促進を目的として、2021年度に新たに2施設を追加したほか、院内ポスターや啓発用の冊子の作成、治験調整医師による薬剤師対象Webセミナーを実施しました。2021年9月にはAMEDによる中間評価の結果、本治験助成の継続が承認されました。また2022年7月には、AMEDによる第2回中間評価が行われ、治験継続の判断ともに、症例登録加速のための支援を受けられることが決定しました。これを受けて、更なる治験実施施設を2022年11月に3施設追加するとともに、ボランティアパネル(※)の活用、治験責任医師等による公開講座の開催等対応しています。2019年12月、RS8001のPMS/PMDD治療薬の日本における開発及び商業化の独占的実施許諾(ライセンス)に関する優先交渉権をあすか製薬株式会社に許諾しました。
(※)
ボランティアパネル:治験支援企業・団体が運営する治験参加希望者の登録システムです。
(b) RS8001(更年期障害)2021年12月に東京医科歯科大学と共同研究契約を締結し、更年期障害の2大症状(ホットフラッシュ(※)とうつ)の治療薬としてRS8001の臨床研究を準備しています。
(※)
ホットフラッシュ:更年期障害の代表的な症状として上半身ののぼせ、ほてり、発汗等が起こります。
c.RS9001(ディスポーザブル極細内視鏡)腹膜透析(※1)は透析液を注入するチューブを常に腹膜に挿入されていますが、当社は、この細いチューブを通して挿入し、開腹手術にも腹腔鏡にもよらず非侵襲的に腹腔内を観察する極細内視鏡(径1mm程度)を東北大学等複数の大学と共同開発しました。2022年8月にはファイバースコープ(※2)がPMDAに承認申請され、同年12月に厚生労働省から薬事承認されました。本製品の詳細は、以下のとおりです。・承認番号:30400BZX00294000・一般的名称:軟性腹腔鏡・販売名:経カテーテル腹腔鏡 PD VIEW・類別コード:器 252020年5月に米国Baxter Healthcare Corporationと共同開発及び事業化に関する契約(ライセンス契約)を締結しており、今後、同社が販売いたします。付属品であるガイドカテーテル(※3)は2023年度に薬事申請予定です。ガイドカテーテル作成を含めた医療機器開発のために、2022年9月に株式会社ハイレックスコーポレーション及びその子会社である株式会社ハイレックスメディカルと共同研究契約を締結しました。
(※1)
腹膜透析:透析の装置として、自分の体の腹膜(胃や腸等の臓器を覆っている薄い膜)を使う方法です。腹腔内に管(カテーテル)を通して透析液を入れておくと血液中の老廃物や不要な尿毒素、電解質、余分な水分等が透析液の中に移動し血液がきれいに浄化されます。(※2)
ファイバースコープ(使い捨て):ディスポーザブル極細内視鏡の本体です。先端部は径1mm程度で、腹部に留置されているチューブの中を通ります。(※3)
ガイドカテーテル(使い捨て):ファイバースコープと組み合わせて使用することでファイバースコープの先端部分を自由に動かすことができます。ガイドカテーテルを使用しなくても、ファイバースコープのみで腹膜の状態を観察することが可能ですが、使用することで操作性が向上します。
d.人工知能(AI)を活用した医療ソリューションの開発(a) RSAI01(呼吸機能検査診断システム)呼吸器疾患や呼吸機能の検査の中でスパイロメトリー(※)が最も重要ですが、その普及は進んでいません。被験者(患者)の協力(努力呼吸)が必要である点に加えて、正しく検査が行えたかどうかを判定し、かつ出力された結果(フローボリューム曲線)を解釈することが非専門医には難しいためです。非専門医でも簡便に結果を解釈できるシステムの開発は、呼吸器疾患を診断し、早期治療を行う上で重要な医療課題と考えられます。フローボリューム曲線を解釈するAIを、京都大学及びNECソリューションイノベータ株式会社(NES)と共同で開発しています。約1,000症例(2,500データ)の医療データを取得、実用化へ向けた開発を進めております。2020年7月にチェスト株式会社と共同開発及び事業化に関する契約(ライセンス契約)を締結しました。
(※)
スパイロメトリー:呼吸機能生理検査で、被験者が吐き出す息の量と吐き出す時間を測定します。慢性閉塞性肺疾患(COPD)及びその他の肺の病気の診断に重要な検査です。
(b) RSAI02(慢性透析システム支援)慢性腎不全患者は、廃絶した腎臓の代わりに除水と老廃物の除去を行うために週3回、生涯にわたって血液透析を受けます。除水不足は心不全、高血圧等心肺機能に障害を与える一方、過度な除水は透析中の低血圧を生じ、気分不良、意識消失といった有害事象をもたらします。不適切な除水量の設定により除水不足や過除水が生じ有害事象が発生すると医療従事者は患者対応に追われ、大きな負担となります。安全安心な血液透析を実現するために、適切な目標総除水量を予測するAI(Dual-Channel Combiner Network、DCCN)を、東北大学及び日本電気株式会社(NEC)と共同で開発しています。聖路加国際病院や民間透析医療施設から取得した透析回数72.5万件の透析記録(患者情報、透析情報、検査情報)を学習させ、患者の過去の5回の透析記録及び透析当日の透析前データから、医師が経験的に設定した目標総除水量と7-8%度の平均絶対誤差率(mean absolute percentage error、MAPE)で目標総除水量を予測するAIが開発できています。2022年12月にはPMDAとの事前面談を完了し、実用化に向け開発を進めています。2021年5月に、本AIの開発に関してニプロ株式会社と共同研究契約を締結しました。
(c) RSAI03(糖尿病治療支援システム)糖尿病の血糖値を厳格にコントロールし、糖尿病合併症を予防するためにはインスリン注射治療が必要です。しかし、インスリンの安全な用量域は狭く、過剰投与で低血糖を生じるために、患者ごとに最適な種類と投与量を選定する必要があります。一方、糖尿病専門医は医師全体の2%もおらず、地理的にも偏在しているため、現状では糖尿病患者の主治医が糖尿病専門医であるとは限らず、むしろ非専門医に受診することが多いです。非糖尿病専門医にも専門医レベルのインスリン治療を実行できるよう支援するAI(Skill Acquisition Learning、SAiL: スキル獲得学習AIアルゴリズム)を、東北大学及びNECと共同で開発しています。東北大学病院に入院する約1,000名(約1,080,000臨床パラメータ)の患者データに基づく分析作業が終了し、専門医の処方するインスリンの投与量から2単位程度の誤差で予測するAIを開発出来ています。NESと共同で、本AIを医療機関で活用するためのシステム開発にも着手しました。2022年4月にAMEDの「医工連携イノベーション推進事業(開発・事業化事業)(当社が研究代表機関)」に採択されました。2022年7月にはPMDAとの事前面談を完了し、同年10月に本相談を実施し、実用化に向け開発を進めています。
(d) RSAI04(発音・発語及び嚥下機能診断)加齢に伴い口腔機能が低下しますが、その状態(オーラルフレイル)を放置すると摂食障害や構音(発話)障害等多くの身体的、社会的障害、さらには全身性の筋肉虚弱(フレイル)につながるため、早期の診断と適切な処置が重要です。高齢社会において口腔機能低下のひとつである摂食嚥下障害は増加し、死因とされる肺炎の約7割が誤嚥によるとの報告もあります。誤嚥性肺炎の予防には嚥下機能低下の早期発見とリハビリテーション等の治療介入が重要ですが、現在では、嚥下内視鏡検査、嚥下透視検査方法等患者負担の大きい嚥下評価法しかありません。嚥下と会話で使用する器官は舌や口腔・咽頭等共通部分が多く、会話から嚥下機能を評価できる可能性に着目し、嚥下機能障害を会話時の音声データから評価可能なAIを開発しています。東北大学の複数の診療科(耳鼻咽喉科、歯科、医工学部リハビリテーション科)及びNECと共同で、東北大学病院嚥下治療センターに受診する患者の話す音の全周波数を時系列データの分析に特化したAIエンジン(時系列モデルフリー分析)で解析することで、健常者の音声のベースライン(性差、年齢差、個人差等)を確認し、健常者の発音と患者の発音の違いを検出し、嚥下機能の低下を診断するAIが開発出来ています。今後、嚥下機能低下を有する高齢者データで学習させることで、実用化に向け開発を進めます。
(e) AIを活用した医療ソリューション開発に関する新規適応重点領域の一つである女性の疾患に関する取組みとして、乳がんの病理画像から病変等を検出するAIを東北大学と共同で開発しています。病理画像を用いた検証では、検出モデルを3クラス(良性、非浸潤がん、浸潤がん)または2クラス(良性、悪性)で分類し、それぞれ88.3%と90.5%での診断精度を達成しました。本研究成果は科学誌「Journal of Pathology Informatics」(2022年)に掲載されました。今後、乳がん領域では「術中迅速病理検体」を用いたAI診断にも取り組む予定です。また、老化関連疾患に関する取組みとして、心臓植込み型デバイスの情報を用いて、不整脈・心不全の発生予測をするAIを東北大学と共同で開発しています。
e.診断薬:血中フェニルアラニン測定キットフェニルケトン尿症は、適切な治療を行わないと知能発達遅延等の重篤な症状が出現します。1977年に生後マス・スクリーニング検査が実施され、ほぼ全ての患児が早期に発見されるようになりました。フェニルケトン尿症の治療には、フェニルアラニンを制限するための食事療法を正しく行う必要があり、定期的な医療機関での検査が必要ですが、数か月に1度の採血では、きめ細やかな食事管理ができません。自宅で簡便かつ正確に血中フェニルアラニン濃度を測定するシステムを、東北大学と共同で開発しています。糖尿病患者での自己血糖管理のように、家庭でいつでも自己測定が可能になれば、フェニルケトン尿症を有する患者のきめ細やかな食事管理が実現できます。2021年5月には診断薬に関する特許を東北大学と共同で出願し、同年6月にはPMDA相談を行いました。
