【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
(1) 経営成績等の状況の概要
① 経営成績の状況当期における当社グループの経営成績の状況の概要は、本報告書「4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容 ①当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容」に記載しています。
② 当期末の資産、負債、資本及び当期のキャッシュ・フロー当連結会計年度末における資産、負債、資本については、下記のとおりです。
連結総資産は9兆5,670億円と、前連結会計年度に比べて8,147億円増加しました。負債は4兆9,206億円と、前連結会計年度に比べて653億円増加しました。資本は4兆6,464億円と、前連結会計年度に比べて7,494億円増加しました。なお、当期末の親会社の所有者に帰属する持分は4兆1,811億円となり、有利子負債は当期末2兆6,993億円となりました。この結果、親会社の所有者に帰属する持分に対する有利子負債の比率(D/Eレシオ)は0.65倍(劣後ローン・劣後債資本性調整後0.51倍)となりました。
(総資産)現金及び現金同等物は、前期末(5,510億円)から1,193億円増加し、当期末6,704億円となりました。これは、高水準の事業利益による営業活動キャッシュ・フローの収入等によるものです。
棚卸資産は、前期末(1兆7,565億円)から3,293億円増加し、当期末2兆859億円となりました。これは、原料価格上昇等によるものです。
有形固定資産は、前期末(3兆526億円)から1,309億円増加し、当期末3兆1,836億円となりました。これは、設備の新鋭化を図るべく、名古屋製鉄所における第3高炉改修や瀬戸内製鉄所広畑地区における電気炉の新設等を実行したこと、注文構成を高度化すべく、九州製鉄所八幡地区や瀬戸内製鉄所広畑地区における電磁鋼板製造設備の増強、名古屋製鉄所における次世代型熱延ライン新設工事を実行したこと等によるものです。
持分法で会計処理されている投資は、前期末(1兆790億円)から1,314億円増加し、当期末1兆2,105億円となりました。これは、持分法による投資利益(1,029億円)等によるものです。
(負債)有利子負債は前期末(2兆6,533億円)から460億円増加し、当期末2兆6,993億円となりました。これは、次期以降の経済情勢・調達環境見通し等を勘案した借入金の調達、社債の発行等による増加があった一方で、長期借入金の返済を実行したこと等による減少があったことによるものです。
営業債務及びその他の債務は、前期末(1兆5,267億円)から654億円増加し、当期末1兆5,921億円となりました。これは、主に未払金の増加によるものです。
未払法人所得税等は、前期末(1,099億円)から580億円減少し、当期末519億円となりました。これは、主に未払法人税等の減少によるものです。
(資本) 利益剰余金は、前期末(2兆5,147億円)から5,643億円増加し、当期末3兆791億円となりました。これは、親会社の所有者に帰属する当期利益(6,940億円)等による増加があった一方で、配当金の支払いによる減少(1,659億円)があったことによるものです。
その他の資本の構成要素は、前期末(1,969億円)から1,442億円増加し、当期末3,411億円となりました。これは、為替相場の変動による、在外営業活動体の換算差額の増加(939億円)、金利の変動等による、キャッシュ・フロー・ヘッジの公正価値の純変動(338億円)等によるものです。
当連結会計年度におけるキャッシュ・フローについては、下記のとおりです。
営業活動によるキャッシュ・フローは6,612億円の収入となりました(前期は6,156億円の収入)。投資活動によるキャッシュ・フローは3,665億円の支出となりました(前期は3,788億円の支出)。この結果、フリーキャッシュ・フローは2,946億円の収入となりました(前期は2,367億円の収入)。財務活動によるキャッシュ・フローは1,976億円の支出となりました(前期は613億円の支出)。以上により、当期末における現金及び現金同等物は6,704億円(前期は5,510億円)となっています。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)税引前利益8,668億円に、減価償却費及び償却費(3,401億円)の加算等による収入があった一方、棚卸資産の増加(3,095億円)、法人所得税の支払(2,144億円)、持分法による投資損益(1,029億円)の控除の調整等による支出がありました。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)投資有価証券の売却による収入(886億円)等があった一方、設備の新鋭化を図るべく、名古屋製鉄所における第3高炉改修や瀬戸内製鉄所広畑地区における電気炉の新設等を実行したことに加え、注文構成を高度化すべく、九州製鉄所八幡地区や瀬戸内製鉄所広畑地区における電磁鋼板製造設備の増強、名古屋製鉄所における次世代型熱延ライン新設工事を実行したこと等による有形固定資産及び無形資産の取得による支出(4,700億円)等がありました。
(財務活動によるキャッシュ・フロー) 前期末及び当第2四半期末の配当(1,659億円)等による支出がありました。
③ 生産、受注及び販売の状況
a. 生産実績当連結会計年度における生産実績をセグメント毎に示すと、次のとおりです。
セグメントの名称
前連結会計年度
金額(百万円)
当連結会計年度
金額(百万円)
製鉄
6,413,794
7,602,584
エンジニアリング
239,873
306,542
ケミカル&マテリアル
232,481
259,892
システムソリューション
271,643
293,573
合計
7,157,794
8,462,593
(注)
1
金額は製造原価による。2
上記の金額には、グループ向生産分を含む。
b. 受注状況当連結会計年度における受注状況をセグメント毎に示すと、次のとおりです。
セグメントの名称
前連結会計年度受注高(百万円)
当連結会計年度受注高(百万円)
前連結会計年度受注残高(百万円)
当連結会計年度受注残高(百万円)
エンジニアリング
356,865
404,251
430,895
527,942
システムソリューション
202,434
236,866
90,329
105,380
合計
559,300
641,118
521,224
633,323
(注)1 上記の金額には、グループ内受注分を含まない。
2 「製鉄」、「ケミカル&マテリアル」は、多種多様な製品毎に継続的かつ反復的に注文を受けて生産・出荷する形態を主としており、その受注動向は、生産実績や販売実績に概ね連動していく傾向にあり、また、需要動向等についても、本報告書「4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容 ①当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容」において記載していることから、金額又は数量についての記載を省略している。
c. 販売実績当連結会計年度における外部顧客に対する販売実績をセグメント毎に示すと、次のとおりです。
セグメントの名称
前連結会計年度
金額(百万円)
当連結会計年度
金額(百万円)
製鉄
6,105,157
7,176,756
エンジニアリング
253,415
319,365
ケミカル&マテリアル
245,083
257,648
システムソリューション
205,233
221,815
合計
6,808,890
7,975,586
(注) 1
前連結会計年度及び当連結会計年度における輸出販売高及び輸出割合は、次のとおりである。
前連結会計年度
当連結会計年度
輸出販売高(百万円)
輸出割合(%)
輸出販売高(百万円)
輸出割合(%)
2,707,068
39.8
3,239,876
40.6
(注)
輸出販売高には、在外子会社の現地販売高を含む。2
主な輸出先及び輸出販売高に対する割合は、次のとおりである。
輸出先
前連結会計年度(%)
当連結会計年度(%)
アジア
57.4
57.9
中近東
4.7
5.1
欧州
12.4
12.6
北米
12.8
12.3
中南米
10.0
9.7
アフリカ
2.4
1.9
大洋州
0.4
0.4
合計
100.0
100.0
(注)
輸出販売高には、在外子会社の現地販売高を含む。3
前連結会計年度及び当連結会計年度における主な相手先別の販売実績及び総販売実績に対する割合は、次のとおりである。
相手先
前連結会計年度
当連結会計年度
金額(百万円)
割合(%)
金額(百万円)
割合(%)
日鉄物産㈱
1,434,515
21.1
1,555,353
19.5
住友商事㈱
685,136
10.1
-
-
(注) 総売上収益に対する割合が10%未満の場合は、当該連結会計年度の記載を省略し、「-」表示している。
当連結会計年度において、生産及び販売の実績金額が著しく増加しています。なお、生産、受注及び販売等に関する特記事項については、本報告書「4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容 ①当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容」等に記載しています。
(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容①当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容(経営成績の分析)当期の世界経済は、ウクライナ情勢によるインフレの進行や欧米の金融引締め等の影響による下押し圧力があったものの、全体的に底堅い動きとなりました。日本経済については、緩やかに持ち直したものの、円安等の影響により、大幅にインフレが進行しました。鉄鋼需要については、上期は中国においてロックダウン解除後もサプライチェーン正常化に時間を要し需要回復が遅れました。また、米国・欧州ではインフレが進行し、新興国では通貨安で景気が悪化するなど、鋼材市況は急速に減速しました。下期は、中国においてはゼロコロナ政策終了により経済が回復基調にあったものの、米国では金利政策により景気が後退し、欧州・新興国では景気悪化が継続するなど、世界的な鋼材需要は低迷しました。こうした状況において、世界粗鋼生産量は過去に例を見ない長期間かつ大規模な減少が継続し、当社単独粗鋼生産量も2012年の経営統合後ピークの4,900万トンレベルから、当期は3,425万トンに著しく減少しました。当期の連結業績については、極めて厳しい事業環境が継続するなかにおいても、従来からの抜本的な収益構造対策等の継続により収益の最大化に取り組むことで、通期の売上収益は7兆9,755億円(前期は6兆8,088億円)、事業利益は9,164億円(前期は9,381億円)、親会社の所有者に帰属する当期利益は6,940億円(前期は6,373億円)となりました。セグメント別の業績は以下のとおりです。当社グループは、製鉄事業を中核として、エンジニアリング、ケミカル&マテリアル、システムソリューションの4つのセグメントで事業を推進しており、製鉄セグメントが連結売上収益の約9割を占めています。
(当期のセグメント別の業績の概況)
製鉄
エンジニアリング
ケミカル&マテリアル
システムソリューション
合計
調整額
連結財務諸表計上額
売上収益
当期
72,455
3,522
2,745
2,925
81,648
△1,892
79,755
(億円)
前期
61,536
2,792
2,498
2,713
69,540
△1,451
68,088
セグメント利益
当期
8,614
116
161
321
9,214
△49
9,164
(億円)
前期
8,710
63
253
308
9,335
45
9,381
<製鉄>製鉄セグメントの売上収益は7兆2,455億円(前期は6兆1,536億円)、セグメント利益は8,614億円(前期は8,710億円)となりました。製鉄セグメント利益の前期に対する増減△96億円の主な要因は次のとおりです。
生産・出荷数量
△1,350億円
マージン(為替影響含む)
600億円
コスト改善
500億円
本体海外事業
△400億円
原料事業
230億円
鉄グループ会社
760億円
在庫評価差(グループ会社込み)
△350億円
その他
△86億円
合計
△96億円
極めて厳しい事業環境が継続するなかにおいても、当社は従来からの抜本的な収益構造対策等の継続により収益の最大化に取り組むことで、生産・出荷数量の減少により1,350億円の減益となったものの、マージン改善による600億円の増益、コスト改善効果による500億円の増益等により、前期並みのセグメント利益となりました。
<エンジニアリング>日鉄エンジニアリング㈱においては、カーボンニュートラル社会への貢献と災害に強いレジリエントな街づくりに関連する事業の成長に向けて、廃棄物発電・洋上風力発電事業等及び免制震デバイスや橋梁商品の開発・販売等の拡大に取り組んでいます。また、安定収益事業の強化・拡大のため、M&Aにより廃棄物処理O&M(運転・維持管理)事業やガス導管事業を取得し、洋上風力発電施設のO&M事業に関しては、専門企業や作業船保有企業との協業を開始しました。当期は環境・エネルギーセクターを中心に各セクターとも、前期までに積み上がった受注プロジェクトを着実に遂行したことにより、売上収益、事業利益とも増加しました。エンジニアリングセグメントの売上収益は3,522億円(前期は2,792億円)、セグメント利益は116億円(前期は63億円)となりました。事業別の売上収益(連結調整前)は以下のとおりです。
(当期の事業別の売上収益の概況)
製鉄プラント
環境・エネルギー
都市インフラ
その他調整等
連結財務諸表計上額
売上収益
当期
538
2,374
690
△80
3,522
(億円)
前期
415
1,823
603
△49
2,792
製鉄プラントセクターは、高炉改修の大型案件が完工したこと等により、538億円と前期(415億円)に対して増加しました。環境・エネルギーセクターは、廃棄物発電、バイオマス発電、洋上風力発電、海外海洋等の事業で大型案件の工事が進捗し、2,374億円と前期(1,823億円)に対して増加しました。都市インフラセクターは、免制震デバイスや橋梁商品、大型物流施設の建設等において堅調な売上を計上し、690億円と前期(603億円)に対して増加しました。
<ケミカル&マテリアル>日鉄ケミカル&マテリアル㈱においては、原燃料価格の高騰や年央からの半導体等の需要減少等により、前期比で減益となりました。ケミカル&マテリアルセグメントの売上収益は2,745億円(前期は2,498億円)、セグメント利益は161億円(前期は253億円)となりました。事業別の売上収益(連結調整前)は以下のとおりです。
(当期の事業別の売上収益の概況)
コールケミカル
化学品
機能材料/複合材料
その他調整等
連結財務諸表計上額
売上収益
当期
620
1,250
880
△5
2,745
(億円)
前期
390
1,200
910
△2
2,498
コールケミカル事業では、タイヤ向けカーボンブラックの販売は好調に推移しましたが、黒鉛電極用ニードルコークスは需要の低迷が継続し、620億円(前期は390億円)となりました。化学品事業では、ベンゼン市況は概ね安定的に推移しましたが、スチレンモノマーやビスフェノールAは中国での生産設備の新増設が進む一方、需要低迷が続き、1,250億円(前期は1,200億円)となりました。機能材料事業では、半導体関連材料、ディスプレイ関連材料の急速な需要減が進み、販売数量が減少しました。複合材料事業では、インフラ更新の需要は継続する見通しながら、着工の遅れから、主力の土木・建築向け補強材料の販売数量は減少しました。一方、スポーツ分野向けを中心に炭素繊維の販売は好調を継続し、機能材料と複合材料をあわせて880億円(前期910億円)となりました。
<システムソリューション>日鉄ソリューションズ㈱においては、今後の日本企業のDX本格展開を見据え、お客様との関係性を深化させながら、全社を挙げてDXニーズを最大限に捕捉し、事業拡大に取り組んでいます。注力領域の一つであるデジタル製造業領域では、無線IoTセンサ活用プラットフォーム「NS-IoT」や統合データプラットフォーム「NS-Lib」を構築し、当社のDX推進に取り組むとともに、製薬企業と共同で統合データ利活用基盤を構築するなど製造業のDX推進支援に取り組みました。また、AI領域、業務プロセスのデジタル化支援、データ利活用領域、豊富なDX人材リソース等、それぞれ強みを有する各企業との資本業務提携や戦略的パートナーシップ契約の締結に加え、電力業界、金融業界及び食品業界向けの新規ソリューション開発を行うなど、DXニーズへの対応力の強化に取り組みました。システムソリューションセグメントの売上収益は2,925億円(前期は2,713億円)、セグメント利益は321億円(前期は308億円)となりました。事業別の売上収益(連結調整前)は以下のとおりです。
(当期の事業別の売上収益の概況)
業務ソリューション
サービスソリューション
その他調整等
連結財務諸表計上額
売上収益
当期
1,898
1,019
8
2,925
(億円)
前期
1,757
947
10
2,713
業務ソリューションは、産業、流通・サービス分野におけるプラットフォーマー向けの増加に加えて、公共公益分野での官公庁向け大型基盤構築案件により、1,898億円と前期(1,757億円)に対して増加しました。サービスソリューションは、ITインフラ分野におけるクラウド事業を中心とした増加に加えて、鉄鋼分野における当社及び当社グループ向けの増加により、1,019億円と前期(947億円)に対して増加しました。
(経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等)2021年3月に策定した「日本製鉄グループ中長期経営計画」に掲げた収益・財務体質目標、株主還元とそれに対する当期の状況は以下のとおりです。2022年度の連結業績につきましては、従来からの抜本的な収益構造対策等の継続により収益の最大化に取り組み、通期の売上収益は7兆9,755億円(うち上期3兆8,744億円、下期4兆1,011億円)、事業利益は9,164億円(うち上期5,417億円、下期3,747億円)、ROSは11.5%(うち上期14.0%、下期9.1%)となりました。
2022年度(実績)
2025年度経営計画
売上収益事業利益率(ROS)
11.5%
10%程度
親会社所有者帰属持分当期利益率(ROE)
18.1%
10%程度
D/Eレシオ(*)
0.51
0.7以下
連結配当性向
23.9%
30%程度を目安
(*) 劣後ローン・劣後債資本性調整後
②キャッシュ・フローの状況の分析・検討並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報 キャッシュ・フローの状況の分析については、本報告書「4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1) 経営成績等の状況の概要 ②当期末の資産、負債、資本及び当期のキャッシュ・フロー」 に記載しています。文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。
(資本政策) 一定水準の財務健全性が維持されることを前提として、当社グループは投下資本の運用効率を重視し、投資先への資本の投入(資本的支出、R&D、M&A含む)によって企業価値を最大化する資本政策を推進しています。それは、資本コストを超過する収益の創出が期待され、持続的な成長を可能にすると同時に、株主への利益還元によって株主の要求を満たすものです。 当社グループは、上記資本政策の達成に必要な資金を、主として「稼ぐ力」の維持と向上によって生み出される営業キャッシュ・フローから獲得することに加え、必要に応じて銀行借入や社債の発行等、外部からの資金調達も実施しています。 また当社グループは、ROS、ROE及びD/Eレシオを中長期的な収益の成長と財務体質の健全性を達成する上での主要な経営管理指標としています。 剰余金の配当等につきましては、本報告書「第4 提出会社の状況 3配当政策」に記載しています。 また、自己株式の取得については、機動性を確保する観点から、定款第33条の規定に基づき取締役会の決議によることとします。取締役会においては、機動的な資本政策等の遂行の必要性、財務体質への影響等を考慮したうえで、総合的に判断することとしています。
(資金需要の動向に関する経営者の認識と資金調達の方法) 1)中長期経営計画の実行状況 2021年3月に公表した「日本製鉄グループ中長期経営計画」では、成長の実現に向けた経営資源投入として、5年間で2兆4,000億円規模の設備投資と6,000億円規模の事業投資に加え、カーボンニュートラル生産の実現に向けた研究開発や設備投資の実行、デジタルトランスフォーメーション戦略への資金投入を計画しています。これら経営計画に必要な投資を実行する前提で、2025年度断面では、D/Eレシオ(※)0.7以下を実現することを目標としています。(※)劣後ローン・劣後債資本性調整後
上記方針のもと、設備投資については、強靭な国内生産体制を再構築するための投資や戦略商品の対応力強化に資する投資等を積極的に進めてきました。具体的には、自動車業界において一層高まっていくと想定される車体の軽量化・高強度化ニーズに応えるべく、超ハイテン鋼板等の高級薄板の生産体制を抜本的に強化するため、戦略的な投資として約2,700億円を投入し、自動車鋼板製造の中核拠点である名古屋製鉄所に次世代熱延ラインを新設することを2022年5月に決定しました。また、電磁鋼板についても、カーボンニュートラルに向けた社会的ニーズを踏まえ、既決定投資に加え、新たに約900億円を投入し、瀬戸内製鉄所阪神地区(堺)・九州製鉄所八幡地区においてハイグレード無方向性電磁鋼板の能力対策を実施することを2023年5月に決定しました。
また、事業投資については、将来的なグローバル粗鋼1億トン体制及び外部環境に左右されない厚みを持った事業構造への進化に向けた施策を推進しています。2022年度においては、2022年9月に、ArcelorMittal Nippon Steel India Limitedのハジラ製鉄所での鉄源拡張、及び、港湾・電力等重要インフラの買収を通じた、同社における製鉄事業基盤強化施策の実施を決定しました。2022年12月には、鉄鋼製造サプライチェーンの下流にあたる流通分野へ事業領域を拡大するため、持分法適用関連会社であった日鉄物産株式会社に対する公開買付け及び子会社化を決定し、2023年4月に公開買付けが完了・成立しました。
環境面では、カーボンニュートラルの実現に向けて、2021年4月に専任プロジェクトを設置し、3つの超革新技術(高炉水素還元、100%水素直接還元プロセス、大型電炉での高級鋼製造)を他国に先駆けて開発・実機化するための取組みを推進しています。国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から公募された「グリーンイノベーション基金事業/製鉄プロセスにおける水素活用プロジェクト」に、当社を含む4社による共同提案を行い、2021年12月に採択されました(支援規模:1,935 億円)。
2)資金調達 上記経営計画に関して多額の資金所要が見込まれるなか、調達コストを抑制しながら成長投資資金を確保し財務基盤を強化することを目的として、2021年10月に転換社債型新株予約権付社債3,000億円を発行しました。2023年3月には、脱炭素社会に向けた取組みを推進していくための所要資金を調達する手段として、グリーンボンド(無担保社債)500億円を発行しました。 また、フリーキャッシュ・フローの状況に応じて、調達環境、金利条件等を勘案して、最適なタイミングで資金調達面での対応を図ります。
2023年3月末における劣後ローン・劣後債資本性調整後のD/Eレシオは0.51倍となり、2025年中長期経営計画の目標である0.7倍以下を維持しています。中長期的に機動的かつ確実な成長戦略の遂行を継続するため、財務規律を重視した キャッシュ・マネジメントを引き続き実行していきます。
(流動性管理及び資金調達の方針について)当社グループの円滑な事業活動に必要な資金を確保するため、手許資金及び外部借入を有効に活用しています。手許資金については、実需に見合った最低限の現預金を保有する方針としており、過去及び将来の資金繰りを勘案し、最適な保有残高を志向しています。外部借入については、安全性・安定性・柔軟性を担保する観点から基本的な調達の枠組みを決定しています。具体的には、不測の事態発生時における、当社の支払余力を確保すべく、適正な長期固定適合比率を維持するとともに、安全性の補完のためにコミットメントライン(当社連結:6,109億円)契約を締結しています。また短期資金と長期資金のバランスを踏まえた有利子負債残高の設計により自由度を確保しており、当該枠組みの範囲内で、最適な資金調達の実現を志向しています。
③会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定当社の連結財務諸表は、国際会計基準に基づき作成されています。重要な会計方針については、本報告書「第一部企業情報 第5 経理の状況」に記載しています。連結財務諸表の作成にあたっては、会計上の見積りを行う必要があり、引当金の計上、非金融資産の減損、繰延税金資産の回収可能性の判断等につきましては、過去の実績や他の合理的な方法により見積りを行っています。ただし、見積り特有の不確実性が存在するため、実際の結果はこれら見積りと異なる場合があります。
当社が特に重要と判断している会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定は以下です。
a.非金融資産の減損当社グループは、資産が減損している可能性を示す兆候のいずれかが存在する場合、資産又は資金生成単位の処分コスト控除後の公正価値と使用価値のいずれか高い金額を回収可能価額として見積り、回収可能価額が資産又は資金生成単位の帳簿価額を下回る場合、当該資産の帳簿価額を回収可能価額まで減額し、減損損失として認識しており、使用価値は見積将来キャッシュ・フローを現在価値に割り引くことにより算出しています。当該キャッシュ・フローは中長期経営計画及び最新の事業計画を基礎としており、これらの計画には鋼材需給の予測及び製造コスト改善等を主要な仮定として織り込んでいます。鋼材需給及び製造コスト改善の予測には高い不確実性を伴い、これらの経営者による判断が将来キャッシュ・フローに重要な影響を及ぼすと予想されます。なお、当期末における有形固定資産の残高は3兆1,836億円、無形資産の残高は1,574億円となっています。
b.繰延税金資産の回収可能性当社グループは、鋼材需給の予測及び製造コスト削減等の仮定に基づいて算定された将来における課税所得の見積り等の予想など、現状入手可能な全ての将来情報を用いて、繰延税金資産の回収可能性を判断しています。当社グループは、税務上の便益が実現する可能性が高いと判断した範囲内でのみ繰延税金資産を認識していますが、経営環境悪化に伴う中長期経営計画及び事業計画の目標未達等による将来における課税所得の見積りの変更や、法定税率の変更を含む税制改正などにより回収可能額が変動する可能性があります。なお、当期末における繰延税金資産(繰延税金負債との相殺前)の残高は3,032億円です。